1 / 13
ホムンクルス誕生
しおりを挟む
「せ、成功か……!?」
微睡んでいるとどこからともなく興奮した声が聞こえてくる。何が成功したかどうかはわからないが、そんなことはどうでもいい。確か俺は一人で会社に残って仕事をしてたはずなんだが……。誰か会社に戻ってきたのかな。
ってか俺も寝てる場合じゃなかった。今日中にこのバグ修正しないと。ちょっとだけ休憩のつもりが寝てしまうとか。徐々に覚醒してきた意識とともに目を開ける。ぼんやりと視界に入るその景色は、まったく見覚えのないものだった。
「……えっ?」
冷たい台に寝かせられているようだが、どこなんだここは。仕事中にめまいがして、机に突っ伏してちょっと休憩しようとしたところまで記憶はある。
パソコンが置いてある職場とは違い、周囲にはよくわからない実験器具のようなものから、人形の手足のようなパーツが散らばっているのが見える。
「お、おおぉぉ……」
戸惑っていると、横からよくわからない感極まった声が聞こえてくる。顔をそちらに向けると、涙を流して感動する爺さんがいた。
「アフィーや……、ワシがわかるかい……?」
恐る恐る俺に向かって話しかけてくるが、アフィーって何のことだ。後ろを振り返ってみても壁があるだけだ。もしかしなくても俺のことなんだろうか。
「えーっと」
何と答えていいかわからずに言葉を濁してみるが、なんだか自分の声もおかしい。すげー甲高い子供っぽい声なんだが。
だが俺が発した声に、爺さんの表情がピクリと反応する。
「ほら……、ワシじゃよ。アフィーのおじいちゃんじゃよ」
俺のじいさんは十年以上前に亡くなってるんだが。というか俺はさっきまで会社で仕事をしていたはずなんだ。それがどうしてこうなった。全く身に覚えがないぞ。
不安そうに俺を伺う爺さんに、俺も不安になってくる。事情を聞きたいところだが嫌な予感しかしないのだ。しかしずっとこのままというわけにもいかない。俺にはこの爺さんに見覚えはないんだから。
「……どちら様でしょうか?」
意を決して言葉を発すると、案の定爺さんの表情が固まった。察するに、孫か何かに話しかけているような雰囲気だったからだ。事情が分からず孫の振りをするわけにもいかんし、変に期待をかけるのもダメだろう。
「……ほ、本当に覚えがないのかい?」
長い沈黙の後にかけられた言葉に、俺はゆっくりと頷く。爺さんは諦めた表情になり盛大な溜息を大きくつくと俺に向き直った。
「ははは……、そううまくはいかんか……。まぁ予想はしとったがの」
沈黙する爺さんに、今度は改めて自分の体を観察してみることにする。
「のわあっ!?」
なんじゃこりゃーーー!?
裸だった。それはもうすべてが丸見えだ。……いやそれはどうでもいい。全裸なんぞどうでもいい衝撃の事実が判明したのだ。爺さんからアフィーと呼ばれた名前からも分かる通り、この体の性別は女だったのだ。
微妙に膨らんだ胸に、息子のいない股間。何とも落ち着かない。息子がいないだけでこんなにも落ち着かないもんなのか。いや実際に俺に子供はいないので間違ってはいないが……。
「ふむ……。凶悪な人間じゃなくて安心したわい……」
慌てふためく俺の様子に、安堵の言葉を漏らす爺さん。凶悪ってなんだよ。まさか悪魔召喚をやって俺が現れたとか言うんじゃねぇだろうな。
「何が……どうなって……」
戸惑う俺に、正気に戻った爺さんが説明をしてくれた。
「まずはわしの名前はハワード・イグリス。お前さんはわしの孫娘じゃったアフィシアじゃ」
「だった……?」
過去形で話す爺さんに疑問を投げかけると、眉間にしわを寄せながらうなずいた。
「一年前にのぅ、娘が盗賊に襲われて殺されたんじゃ。一緒におったアフィーはそのまま攫われてしもうての……」
しばらく行方不明だった孫娘を探して二か月。ようやく見つけた盗賊のアジトで発見した孫娘は、酷い状態の遺体で発見されたらしい。それを国のホムンクルス研究所で働いていた爺さんが、体を修復してホムンクルスとして復活させたとのことだ。
「マジかよ……」
本来ホムンクルスはしゃべったりしないらしい。それを魂召喚の儀式でなんとか孫娘を生き返らせられないかと実験を行った結果が現在だということだ。
「じゃがもう安心してよいぞ。わしがアフィーの魔術領域をできうる限り拡張して、魔術も焼き込んでおいたからのぅ。じゃから盗賊なんぞに襲われても軽く返り討ちにできるわい」
爺さんの言葉にはマジでドン引きである。ラノベはよく読むほうだったが、爺さんから『魔術』という言葉を聞いてもまったくワクワクしてこない。自分の体をさらに見てみると継ぎはぎしたような跡があるし、そうすると周囲に転がってる人形のパーツと思ってたものはもしかすると……。
いやいや、変な想像するのはやめよう。なんか頭がくらくらしてきたし、怖すぎるから詳しく聞くのもやめておこう。それにあれだ……、きっとこれは夢なんだ。もうすぐしたら会社で目が覚めるはずだ。んで不具合修正の続きをやるんだ……。
こうして俺は爺さんのサイコパス具合に、少しだけ現実逃避するのだった。
微睡んでいるとどこからともなく興奮した声が聞こえてくる。何が成功したかどうかはわからないが、そんなことはどうでもいい。確か俺は一人で会社に残って仕事をしてたはずなんだが……。誰か会社に戻ってきたのかな。
ってか俺も寝てる場合じゃなかった。今日中にこのバグ修正しないと。ちょっとだけ休憩のつもりが寝てしまうとか。徐々に覚醒してきた意識とともに目を開ける。ぼんやりと視界に入るその景色は、まったく見覚えのないものだった。
「……えっ?」
冷たい台に寝かせられているようだが、どこなんだここは。仕事中にめまいがして、机に突っ伏してちょっと休憩しようとしたところまで記憶はある。
パソコンが置いてある職場とは違い、周囲にはよくわからない実験器具のようなものから、人形の手足のようなパーツが散らばっているのが見える。
「お、おおぉぉ……」
戸惑っていると、横からよくわからない感極まった声が聞こえてくる。顔をそちらに向けると、涙を流して感動する爺さんがいた。
「アフィーや……、ワシがわかるかい……?」
恐る恐る俺に向かって話しかけてくるが、アフィーって何のことだ。後ろを振り返ってみても壁があるだけだ。もしかしなくても俺のことなんだろうか。
「えーっと」
何と答えていいかわからずに言葉を濁してみるが、なんだか自分の声もおかしい。すげー甲高い子供っぽい声なんだが。
だが俺が発した声に、爺さんの表情がピクリと反応する。
「ほら……、ワシじゃよ。アフィーのおじいちゃんじゃよ」
俺のじいさんは十年以上前に亡くなってるんだが。というか俺はさっきまで会社で仕事をしていたはずなんだ。それがどうしてこうなった。全く身に覚えがないぞ。
不安そうに俺を伺う爺さんに、俺も不安になってくる。事情を聞きたいところだが嫌な予感しかしないのだ。しかしずっとこのままというわけにもいかない。俺にはこの爺さんに見覚えはないんだから。
「……どちら様でしょうか?」
意を決して言葉を発すると、案の定爺さんの表情が固まった。察するに、孫か何かに話しかけているような雰囲気だったからだ。事情が分からず孫の振りをするわけにもいかんし、変に期待をかけるのもダメだろう。
「……ほ、本当に覚えがないのかい?」
長い沈黙の後にかけられた言葉に、俺はゆっくりと頷く。爺さんは諦めた表情になり盛大な溜息を大きくつくと俺に向き直った。
「ははは……、そううまくはいかんか……。まぁ予想はしとったがの」
沈黙する爺さんに、今度は改めて自分の体を観察してみることにする。
「のわあっ!?」
なんじゃこりゃーーー!?
裸だった。それはもうすべてが丸見えだ。……いやそれはどうでもいい。全裸なんぞどうでもいい衝撃の事実が判明したのだ。爺さんからアフィーと呼ばれた名前からも分かる通り、この体の性別は女だったのだ。
微妙に膨らんだ胸に、息子のいない股間。何とも落ち着かない。息子がいないだけでこんなにも落ち着かないもんなのか。いや実際に俺に子供はいないので間違ってはいないが……。
「ふむ……。凶悪な人間じゃなくて安心したわい……」
慌てふためく俺の様子に、安堵の言葉を漏らす爺さん。凶悪ってなんだよ。まさか悪魔召喚をやって俺が現れたとか言うんじゃねぇだろうな。
「何が……どうなって……」
戸惑う俺に、正気に戻った爺さんが説明をしてくれた。
「まずはわしの名前はハワード・イグリス。お前さんはわしの孫娘じゃったアフィシアじゃ」
「だった……?」
過去形で話す爺さんに疑問を投げかけると、眉間にしわを寄せながらうなずいた。
「一年前にのぅ、娘が盗賊に襲われて殺されたんじゃ。一緒におったアフィーはそのまま攫われてしもうての……」
しばらく行方不明だった孫娘を探して二か月。ようやく見つけた盗賊のアジトで発見した孫娘は、酷い状態の遺体で発見されたらしい。それを国のホムンクルス研究所で働いていた爺さんが、体を修復してホムンクルスとして復活させたとのことだ。
「マジかよ……」
本来ホムンクルスはしゃべったりしないらしい。それを魂召喚の儀式でなんとか孫娘を生き返らせられないかと実験を行った結果が現在だということだ。
「じゃがもう安心してよいぞ。わしがアフィーの魔術領域をできうる限り拡張して、魔術も焼き込んでおいたからのぅ。じゃから盗賊なんぞに襲われても軽く返り討ちにできるわい」
爺さんの言葉にはマジでドン引きである。ラノベはよく読むほうだったが、爺さんから『魔術』という言葉を聞いてもまったくワクワクしてこない。自分の体をさらに見てみると継ぎはぎしたような跡があるし、そうすると周囲に転がってる人形のパーツと思ってたものはもしかすると……。
いやいや、変な想像するのはやめよう。なんか頭がくらくらしてきたし、怖すぎるから詳しく聞くのもやめておこう。それにあれだ……、きっとこれは夢なんだ。もうすぐしたら会社で目が覚めるはずだ。んで不具合修正の続きをやるんだ……。
こうして俺は爺さんのサイコパス具合に、少しだけ現実逃避するのだった。
0
あなたにおすすめの小説
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
ハイエルフの幼女に転生しました。
レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは
神様に転生させてもらって新しい世界で
たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく
死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。
ゆっくり書いて行きます。
感想も待っています。
はげみになります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる