9 / 13
調査開始
しおりを挟む
行方不明になったメイドは十五歳の見習いだったらしい。屋敷では仕事を教えてもらう立場で、買い物などの一人で屋敷の外に出る仕事はまだ任されていなかった。それは他のメイドからも証言が取れており、屋敷内で何かがあったと考えられる。
「うーん……、監禁されてるにしても、怪しい部屋はなかったんだよなぁ」
調査結果を思い出しながら、一通り案内された屋敷を思い浮かべる。どこかに隠し扉とかあるんだろうか。
「アフィシアさんは厨房をお願いしますね」
「わかりました」
翌朝になり早速仕事にとりかかる。まずは厨房で朝食の用意の手伝いらしい。専属の料理人がいるので、俺はひたすら補助へと回る。
「なかなか筋がいいじゃねぇか」
と専属料理人からお褒めの言葉をいただいた。
作る朝食の量としては特におかしなところはない。一人分増減したところで誤差の範囲内だし、そう気づけるものでもないけど。
「お、おい、大丈夫かよ」
配膳のために左腕にお皿を三枚乗せた俺を見て、料理人が慌てている。
「大丈夫ですよ。慣れてますから」
多少皿が重いが身体強化を使えば問題ない。そのまま隣の食堂まで料理を運び、姿勢が崩れないように優雅さを意識してテーブルへと並べていく。例え誰も見ていないとしても気を緩めてはいけない。
配膳が終われば朝食の始まりだ。俺たちメイドは壁際に立って給仕を行う。ここに集まっている男爵家の家族は、当主と長男の二人だけだ。夫人や他の兄弟たちは領地で生活しているという。
「アフィシアちゃんの作ってくれたスープ美味しいなぁ」
そしてちらちらと長男から向けられる視線が苦しい。なんとか顔に出さずには済んでいるが、これも仕事だし慣れないとダメだろう。
「あ、そうだ」
そして何かを思いついたらしく、こちらを向いた長男の顔には笑顔が浮かんでいる。俺にはすげー嫌な予感しかしないが。
「今度アフィシアちゃんと二人でご飯が食べたいなぁ」
その言葉にまたもや背中がぞわぞわとしてくる。俺としては絶対にお断りだが、貴族の要望はそうそう断れるものでもない。
「はは、ウェルネスはよっぽどアフィシアくんが気に入ったみたいだね」
当主である男爵様が微笑ましいものを見るかのように話に入ってくる。
「だけどもうちょっと、この屋敷での仕事を覚えてもらってからにしようか」
「わかりました。お父様」
諫める父親に見えなくもないが、結局はただの先延ばしである。否定はしてくれていないのだ。他のメイドの顔色も窺ってみるが、まるで能面みたいに無表情だ。
男爵家の朝食が終わった後は使用人たちでの朝食である。
「ウェルネス様も相変わらずですねー」
「ホントもう、何でなのかしらね?」
「……ウェルネス様ってどういう方なんですか?」
二人から長男への愚痴が出たことにこれ幸いと聞いてみる。
「あーっと、そうだね……」
「うーんと、小さい子どもが好きですねー」
言いにくそうに言葉を濁すコーデリアにかぶせて、ジェシーが間延びした声でストレートに告げる。その言葉はもう、ウェルネスの言動からくる俺の予想と完全一致していた。
「そ、そうなんですか……」
「あ、でも大丈夫よ。ウェルネス様も立場はわかってらっしゃるから」
「そうですねー。手を出してくることはないと思いますよー」
ドン引きする俺をフォローする言葉が出てくるけど、ホントかよ……。例の事件を調べに来ただけあって、ちょっと信じられない。部隊から支給されたダガーは太ももの内側に装備してるけど、出番がないことを祈るよ。
「……」
そんな俺たち三人を無言で見つめるアデリーさん。もしかするとアデリーさんが止めてくれるかもしれないとぼんやりと考える。会って間もないけど、なんとなく信じたい気持ちになっていた。
「さぁさぁ、食べたらまたお仕事ですよ!」
そして食べ終わったころ、アデリーさんの掛け声でみんな仕事に散っていくのだった。
「さてと、まずは建物の構造を把握しますか」
昼過ぎの休憩に入ったころ、俺は使用人用の部屋で精神を統一していた。それはもちろん魔術を使うためだ。今回は物体の構造を把握する魔術を使用するんだが、魔術領域の広い俺にかかれば広範囲に渡って調査が可能なのだ。
何せ発動中は調査結果が魔術領域に蓄積される仕様なのだから。
本来は鉱石や薬草の成分を調べたりする魔術『マテリアルサーチ』だ。一般的な効果範囲は手のひらに収まる程度らしい。精度を荒くすれば魔術領域の使用量も削減可能だが、焼き込まれた魔術ではそんな調整はできない。なので力技で行くのだ。
頭の片隅が活性化され、魔術が発動する。と、活性化された範囲が広がるようにして周囲の情報が入ってくる。
「あれ……? 地下室があるのか……?」
そして、さっそく隠し部屋らしき場所を見つけた。
「うーん……、監禁されてるにしても、怪しい部屋はなかったんだよなぁ」
調査結果を思い出しながら、一通り案内された屋敷を思い浮かべる。どこかに隠し扉とかあるんだろうか。
「アフィシアさんは厨房をお願いしますね」
「わかりました」
翌朝になり早速仕事にとりかかる。まずは厨房で朝食の用意の手伝いらしい。専属の料理人がいるので、俺はひたすら補助へと回る。
「なかなか筋がいいじゃねぇか」
と専属料理人からお褒めの言葉をいただいた。
作る朝食の量としては特におかしなところはない。一人分増減したところで誤差の範囲内だし、そう気づけるものでもないけど。
「お、おい、大丈夫かよ」
配膳のために左腕にお皿を三枚乗せた俺を見て、料理人が慌てている。
「大丈夫ですよ。慣れてますから」
多少皿が重いが身体強化を使えば問題ない。そのまま隣の食堂まで料理を運び、姿勢が崩れないように優雅さを意識してテーブルへと並べていく。例え誰も見ていないとしても気を緩めてはいけない。
配膳が終われば朝食の始まりだ。俺たちメイドは壁際に立って給仕を行う。ここに集まっている男爵家の家族は、当主と長男の二人だけだ。夫人や他の兄弟たちは領地で生活しているという。
「アフィシアちゃんの作ってくれたスープ美味しいなぁ」
そしてちらちらと長男から向けられる視線が苦しい。なんとか顔に出さずには済んでいるが、これも仕事だし慣れないとダメだろう。
「あ、そうだ」
そして何かを思いついたらしく、こちらを向いた長男の顔には笑顔が浮かんでいる。俺にはすげー嫌な予感しかしないが。
「今度アフィシアちゃんと二人でご飯が食べたいなぁ」
その言葉にまたもや背中がぞわぞわとしてくる。俺としては絶対にお断りだが、貴族の要望はそうそう断れるものでもない。
「はは、ウェルネスはよっぽどアフィシアくんが気に入ったみたいだね」
当主である男爵様が微笑ましいものを見るかのように話に入ってくる。
「だけどもうちょっと、この屋敷での仕事を覚えてもらってからにしようか」
「わかりました。お父様」
諫める父親に見えなくもないが、結局はただの先延ばしである。否定はしてくれていないのだ。他のメイドの顔色も窺ってみるが、まるで能面みたいに無表情だ。
男爵家の朝食が終わった後は使用人たちでの朝食である。
「ウェルネス様も相変わらずですねー」
「ホントもう、何でなのかしらね?」
「……ウェルネス様ってどういう方なんですか?」
二人から長男への愚痴が出たことにこれ幸いと聞いてみる。
「あーっと、そうだね……」
「うーんと、小さい子どもが好きですねー」
言いにくそうに言葉を濁すコーデリアにかぶせて、ジェシーが間延びした声でストレートに告げる。その言葉はもう、ウェルネスの言動からくる俺の予想と完全一致していた。
「そ、そうなんですか……」
「あ、でも大丈夫よ。ウェルネス様も立場はわかってらっしゃるから」
「そうですねー。手を出してくることはないと思いますよー」
ドン引きする俺をフォローする言葉が出てくるけど、ホントかよ……。例の事件を調べに来ただけあって、ちょっと信じられない。部隊から支給されたダガーは太ももの内側に装備してるけど、出番がないことを祈るよ。
「……」
そんな俺たち三人を無言で見つめるアデリーさん。もしかするとアデリーさんが止めてくれるかもしれないとぼんやりと考える。会って間もないけど、なんとなく信じたい気持ちになっていた。
「さぁさぁ、食べたらまたお仕事ですよ!」
そして食べ終わったころ、アデリーさんの掛け声でみんな仕事に散っていくのだった。
「さてと、まずは建物の構造を把握しますか」
昼過ぎの休憩に入ったころ、俺は使用人用の部屋で精神を統一していた。それはもちろん魔術を使うためだ。今回は物体の構造を把握する魔術を使用するんだが、魔術領域の広い俺にかかれば広範囲に渡って調査が可能なのだ。
何せ発動中は調査結果が魔術領域に蓄積される仕様なのだから。
本来は鉱石や薬草の成分を調べたりする魔術『マテリアルサーチ』だ。一般的な効果範囲は手のひらに収まる程度らしい。精度を荒くすれば魔術領域の使用量も削減可能だが、焼き込まれた魔術ではそんな調整はできない。なので力技で行くのだ。
頭の片隅が活性化され、魔術が発動する。と、活性化された範囲が広がるようにして周囲の情報が入ってくる。
「あれ……? 地下室があるのか……?」
そして、さっそく隠し部屋らしき場所を見つけた。
0
あなたにおすすめの小説
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
ハイエルフの幼女に転生しました。
レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは
神様に転生させてもらって新しい世界で
たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく
死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。
ゆっくり書いて行きます。
感想も待っています。
はげみになります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる