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お食事会
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「どうしてこうなった」
俺は今、ウェルネスと一対一で夕飯を食べている。二人きりで部屋に入ったときの背中の鳥肌は筆舌に尽くしがたいものがあったが、多少は慣れてきた気はする。
よくよく考えると俺も昔は男だったわけで、こういう人種がいることも知っていたはずだ。今は女になったとはいえホムンクルスだからか、性的な欲求はまったく存在しない。だけどそれが自分に向けられるというのは、女になったからこそ実感できるものか。
「アフィシアちゃん、美味しいかい?」
「あ、はい」
しかしここで怯んでいては仕事にならない。これも訓練と思うことにしよう。諜報部じゃそういう仕事もあるって言ってたし……。そう、これは仕事、仕事なんだ……。うっ、頭が……。
「アフィシアちゃん?」
「え? あ……、すみません」
「ボーっとしてたみたいだけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
ちょっと意識が飛んでたみたいだ。気を付けないと。
もうこうなったら料理を楽しむしかない。あんまり味がしないけど気にするな。
「僕もアフィシアちゃんと食べるご飯は美味しいって感じるよ」
ウェルネスの言葉をスルーして、こうなってしまった経緯を思い出す。
地下室を発見したはいいが、時間のなかった俺はしばらく普通に仕事をしていたのだ。居間と居間の間にあたる屋敷の外の壁に、隠し扉があるところまでは判明していた。今日の仕事が終わってからゆっくりと探る予定だったのだ。
それが夕飯の仕込みの手伝いをしている時だ。アデリーが厨房に入ってきたかと思うと、ウェルネスの私室へ向かえと指示があったのだ。もうちょっと仲良くなってからと言ってたアレはいったい何だったのか。
「ウェルネス様に聞きたいことがあるんですけど、よろしいですか?」
「うん? どうしたんだい?」
どうせならいなくなったという前任者のことも聞いてしまえ。ここには他に人はいないんだから。
「私の前にいた人ってどういう人だったんですか?」
ただしストレートには聞かない。あくまでも俺は交代要員だから。
「あぁ、ココルちゃんね。彼女も小さくてかわいかったけど、アフィシアちゃんほどじゃないね」
そういえば小さいって言ってたな……。余計なお世話だけど。
「でもなぜかいなくなっちゃったんだよね。ホント、どこ行ったんだろう……」
ふむ……。どうやら本当に行方は知らないのか。二人きりのこの部屋で、俺をまだどうこうする気がないからなのか。それはよくわからんが。しかし俺を狙ってくれるというのであればそれはそれで手間が省けていいかもしれない。気は抜かないでおこうか。
レオンに引き続き、ボルドルとも鬼ごっこをした日々が思い出される。それに訓練と称して日常生活で不意打ちを食らい、何度毒を盛られたことか。おかげでプライベートで気の休まった時がなかった。
諜報部に来てからのほうが過酷じゃね? と思ったことは何度もある。しかしそれ以上に風呂とご飯に勝るものはなかったのだ。
「そうなんですね。私の仕事ぶりはどうでしょうか? ココルさんの代わりはできていますか?」
よし、ちょっと踏み込んでみるか。何かいい反応を引き出せればいいんだが。
「もちろんだよ。可愛さも仕事ぶりもアフィシアちゃんのほうが上だし、眺めてるだけでも癒されるんだから」
うーむ。癒される云々はともかく、普通の受け応えだな。
「あはは、ありがとうございます」
よしよし。二人きりの部屋で会話してるとだんだん慣れてきたぞ。しかしウェルネスは太ってるとはいえ、ねっとりとした視線以外は割とまともだな。行儀作法は言うまでもなし、一応は跡取りとしてしっかり教育はされているようだ。
口汚く平民を罵ってくっちゃくっちゃと物を食べる貴族像というのは、小説や漫画の読みすぎだったかもしれない。
「では残念だけど、今日はここまでとしよう。楽しかったよアフィシアちゃん。またよろしくね」
結局何事もなく終わってしまった。何かあると身構えていたが、肩透かしを食らったようだ。とりあえずアデリーさんに報告だと思い、彼女の私室へと向かう。メイド長だけあって一人部屋が割り当てられているのだ。
「ご苦労様でした」
ノックをして部屋に入ると、さっそく労いの言葉をいただいた。
「慣れないことをして疲れたでしょう。今日はもう休んでいただいてよいですよ」
「あ、はい」
「しっかりお風呂に入って疲れを取ってらっしゃい」
「ありがとうございます」
うん。なんだかアデリーさんが優しい気がする。夕飯が終わった後の時間帯で、メイドの仕事はまだ残っているはずだ。しかしメイド長に言われたんであれば遠慮も不要だろう。
そして風呂に入り、自室へと向かっている時だった。
「あー、これは……」
少しだけふらつきを感じた俺は、この感覚に懐かしさを覚えていた。
――どうやら一服盛られていたらしい。
これは遅延型の睡眠薬かな。ちょっと予想はしていたけど、調査をしにきた俺が狙われるなんてな。とりあえず部屋に戻って寝たふりでもするか。
……ホムンクルスだからか、俺に毒はほとんど効果がないのだ。
俺は今、ウェルネスと一対一で夕飯を食べている。二人きりで部屋に入ったときの背中の鳥肌は筆舌に尽くしがたいものがあったが、多少は慣れてきた気はする。
よくよく考えると俺も昔は男だったわけで、こういう人種がいることも知っていたはずだ。今は女になったとはいえホムンクルスだからか、性的な欲求はまったく存在しない。だけどそれが自分に向けられるというのは、女になったからこそ実感できるものか。
「アフィシアちゃん、美味しいかい?」
「あ、はい」
しかしここで怯んでいては仕事にならない。これも訓練と思うことにしよう。諜報部じゃそういう仕事もあるって言ってたし……。そう、これは仕事、仕事なんだ……。うっ、頭が……。
「アフィシアちゃん?」
「え? あ……、すみません」
「ボーっとしてたみたいだけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
ちょっと意識が飛んでたみたいだ。気を付けないと。
もうこうなったら料理を楽しむしかない。あんまり味がしないけど気にするな。
「僕もアフィシアちゃんと食べるご飯は美味しいって感じるよ」
ウェルネスの言葉をスルーして、こうなってしまった経緯を思い出す。
地下室を発見したはいいが、時間のなかった俺はしばらく普通に仕事をしていたのだ。居間と居間の間にあたる屋敷の外の壁に、隠し扉があるところまでは判明していた。今日の仕事が終わってからゆっくりと探る予定だったのだ。
それが夕飯の仕込みの手伝いをしている時だ。アデリーが厨房に入ってきたかと思うと、ウェルネスの私室へ向かえと指示があったのだ。もうちょっと仲良くなってからと言ってたアレはいったい何だったのか。
「ウェルネス様に聞きたいことがあるんですけど、よろしいですか?」
「うん? どうしたんだい?」
どうせならいなくなったという前任者のことも聞いてしまえ。ここには他に人はいないんだから。
「私の前にいた人ってどういう人だったんですか?」
ただしストレートには聞かない。あくまでも俺は交代要員だから。
「あぁ、ココルちゃんね。彼女も小さくてかわいかったけど、アフィシアちゃんほどじゃないね」
そういえば小さいって言ってたな……。余計なお世話だけど。
「でもなぜかいなくなっちゃったんだよね。ホント、どこ行ったんだろう……」
ふむ……。どうやら本当に行方は知らないのか。二人きりのこの部屋で、俺をまだどうこうする気がないからなのか。それはよくわからんが。しかし俺を狙ってくれるというのであればそれはそれで手間が省けていいかもしれない。気は抜かないでおこうか。
レオンに引き続き、ボルドルとも鬼ごっこをした日々が思い出される。それに訓練と称して日常生活で不意打ちを食らい、何度毒を盛られたことか。おかげでプライベートで気の休まった時がなかった。
諜報部に来てからのほうが過酷じゃね? と思ったことは何度もある。しかしそれ以上に風呂とご飯に勝るものはなかったのだ。
「そうなんですね。私の仕事ぶりはどうでしょうか? ココルさんの代わりはできていますか?」
よし、ちょっと踏み込んでみるか。何かいい反応を引き出せればいいんだが。
「もちろんだよ。可愛さも仕事ぶりもアフィシアちゃんのほうが上だし、眺めてるだけでも癒されるんだから」
うーむ。癒される云々はともかく、普通の受け応えだな。
「あはは、ありがとうございます」
よしよし。二人きりの部屋で会話してるとだんだん慣れてきたぞ。しかしウェルネスは太ってるとはいえ、ねっとりとした視線以外は割とまともだな。行儀作法は言うまでもなし、一応は跡取りとしてしっかり教育はされているようだ。
口汚く平民を罵ってくっちゃくっちゃと物を食べる貴族像というのは、小説や漫画の読みすぎだったかもしれない。
「では残念だけど、今日はここまでとしよう。楽しかったよアフィシアちゃん。またよろしくね」
結局何事もなく終わってしまった。何かあると身構えていたが、肩透かしを食らったようだ。とりあえずアデリーさんに報告だと思い、彼女の私室へと向かう。メイド長だけあって一人部屋が割り当てられているのだ。
「ご苦労様でした」
ノックをして部屋に入ると、さっそく労いの言葉をいただいた。
「慣れないことをして疲れたでしょう。今日はもう休んでいただいてよいですよ」
「あ、はい」
「しっかりお風呂に入って疲れを取ってらっしゃい」
「ありがとうございます」
うん。なんだかアデリーさんが優しい気がする。夕飯が終わった後の時間帯で、メイドの仕事はまだ残っているはずだ。しかしメイド長に言われたんであれば遠慮も不要だろう。
そして風呂に入り、自室へと向かっている時だった。
「あー、これは……」
少しだけふらつきを感じた俺は、この感覚に懐かしさを覚えていた。
――どうやら一服盛られていたらしい。
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