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第二章 始まりの街アンファン

第42話 フォレストテイルとの夜営

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「ところで、どこに向かってるんですか?」

 スノウの背中に跨りながら気になったことを順番に聞いていく。

「アンファンって街に向かってる」

 前を歩く赤髪のクレイブが答えてくれる。

「街……」

 そうか。人に会えたんだもんな。次に向かうってなれば街に決まっている。

「スノウ、街だって。楽しみだね」

 私を乗せて歩いてくれているスノウに話しかけると、首元をもふもふする。

「その大きい虎の魔物はスノウって言うのね」

 緑髪のマリンに言われて初めて、スノウを紹介していないことに気付く。

「あ、そうです。この子はスノウって言います」

 首元をぽんぽんと撫でると、四人からも「よろしく」と言った声がかかる。

「じゃあさっき、『シュネー』って言っていたのは誰かしら?」

 銀髪のティリィから声がかかると、さっき自分の中で完結した話を思い出した。そういえば名前を口に出してたっけ。

「シュネーはスノウのお母さんです。森にいる間ずっと見守ってくれてたんです」

「……母親?」

「じゃあもしかして、この虎は子どもなの?」

 頭までの高さなら赤髪のクレイブと大して変わりがない。他に虎の魔物って見たことないけど、成体の大きさってどれくらいなんだろうか?

「そうですね。シュネーはスノウの二倍くらい大きいですよ」

「……」

 私の言葉に無言になる四人。
 しばらく誰も言葉を発さずに街へと歩く時間が続いていく。

「あの、街まであとどれくらいですか?」

 そろそろ日が暮れようとしてきたとき、ちょっと気になって聞いてみた。このまま進めば日暮れ前に着くのか、夜営が必要なのかよくわからない。

「ん? ああ、そうだな。……今日中は無理そうだし、この先の広場で夜営にするか」

 聞けば街までは一日で着くそうだが、途中に休憩所が設けられているらしい。探索者くらいしか通る人間はいないが、自然と整備されていったそうだ。

「よし、じゃあ準備するから待っててくれ」

 すぐに広場に着いたあと、クレイブが声を掛けて四人でテキパキと準備を進めていく。背負っていた荷物を下ろして簡易テントを建て、女性陣は調理器具を出して夕飯の準備のようだ。
 私もスノウの背中から降りると鞄を地面に下ろし、準備をしようと鞄の口を開く。

「ああ、アイリスちゃんは何もしなくていい。まだ疲れてるだろ? 全部やるから俺たちにまかせておけ」

「あ、はい」

 クレイブに言われたので好意に甘えることにする。王宮時代も含めて、外で誰かに準備をしてもらうのは久しぶりだ。
 鞄の口を締めて地面へ座り込むと、スノウが寄ってきて一緒に座り込む。

「……そういえばスノウの分までご飯出してくれるのかな?」

 なんとなく出てこない気がして呟くと、スノウの表情が悲しみでいっぱいになった。

「獲りに行く? これだけ広い草原だと、なにかいそうじゃない?」

 そう声を掛けるとスノウは立ち上がり、きょろきょろと見回して耳をそばだてる。と、そのまま駆け出していった。

「うおっ、……どっか行ったけど、いいのか?」

 その様子を見ていたクレイブが声を掛けてくるけど、特に問題ない。

「うん。大丈夫」

「そうか」

 テキパキと簡易テントが二つ建てられ、薪に火が付けられて調理が進んで行く。てっきり干し肉とか齧るだけで済ますのかと思ってたけどそうでもないらしい。
 しばらくするとスノウが獲物を咥えて帰ってきた。

「まじか……」

 小ぶりの猪が一匹だ。それでも私の身長くらいの高さがあるけど、森で見た猪と比べれば小さかった。
 クレイブの前まで持って行くと地面に置いて、私のところまで戻ってくる。

「よかったらみんなで食べませんか。もちろんスノウも」

「いいのか?」

「はい。助けてもらったお礼とでも思ってもらえれば」

「そういうことなら……」

 ティリィが土魔術で地面に穴を掘ると、猪の首を穴に垂らして首を切る。
 血抜きはキースにも教えてもらったので知っている。そうしないと肉はおいしくならないのだ。

「本当は冷やすといいんだがなぁ」

 あごに手を当ててクレイブが唸っている。

「そうなんですか?」

「ん? ああ、狩った肉を高く売るにはいろいろとやることがあるんだ」

 そう言いながらテキパキと猪の処理を進めていくと、私も全然知らなかったことがたくさんあった。キースからバカにした言葉が聞こえそうな気がするけど、そもそもキースにそこまで教えてもらっていない。

 こうして日が落ちる頃に夕飯の時間となる。
 メニューは猪のステーキと野菜スープだ。

「いやぁ、おかげで豪勢なメニューになったな」

「ホント、アイリスちゃんとスノウにはびっくりしたわね」

 食器も借りてステーキを口に入れる。

「おいしい……」

 今まで自分で焼いてきた肉とは全然味が違うことに愕然とする。これがステーキという料理だったのだ。今までのはただの焼いただけの肉だ。いや料理という言葉を使うのもおこがましい。野菜スープも旨味がにじみ出ていて口の中に広がっていく。
 夢中で食べていると自然と涙が出てきた。でも自分の料理レベルは1だったし、仕方がないんだと言い聞かせると少しだけ悔しさが緩和された。でも逆に、がんばればこんなに美味しい料理になるんだと知らされた。キースに言われた通り、もうちょっとがんばってもよかったかもしれない。

「どうだ、美味いか」

 微笑ましいものをみる視線を投げかけられているけど、とりあえず頷くことしかできない。

「そうかそうか。よかったなぁ」

「うんうん。アタシがもっと美味いもの食べさせてあげるからね」

 そうして食事が終わると就寝の時間だ。

「アイリスちゃんおいで」

 マリンに誘われてテントに来ると、すでにティリィがいて中に毛皮の毛布を敷いていた。

「今日は疲れたでしょう。見張りは男どもがするから、安心して寝ていいわよ」

 毛布を敷き終えたティリィがそういうと横になり、自分の隣をポンポンと叩いて私を誘ってくる。

「え? いや、あたしはスノウと一緒に寝るから……」

 クレイブたちと一緒ならともかく、なんで男の私が彼女たちと一緒に寝るのかわからない。

「遠慮なんていらないわよ。ほら」

 そう言葉にするマリンに抱えられてテントの中に連れ込まれると、マリンとティリィの間に寝かしつけられて毛布をかけられた。

「いや、そうじゃなくて、あたしは男だから」

「それくらい知ってるわよ。だけどかわいい顔してるから女の子みたいよね」

 なんとか彼女たちと寝るのを回避しようとしたけれど、あっさりと躱されてしまった。アイリスって名前だけど、私のことはちゃんと男に見えているらしい。
 幼児化してしまった私には、彼女たちを見て思うところもない。まぁいいかと思ったその瞬間、眠りに落ちるのだった。
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