139 / 153
第四章
転生者は異世界で何を見る? -倉科瑞樹3-
しおりを挟む
以前を思い出して尻込みしていたのだが、実際にこの世界の魔法を使って魔物を倒してみると、なんてことはなかった。
何せ倒した魔物は血を吹き出すこともなく、消えてしまうのだ。ドロップアイテムを残して。
それにしても王女様に魔物を釣ってくる役割を任せるなんて、誠さんは何を考えているんだろうか。
まぁ本人がやりたいと言って楽しそうにしてるし、最初の街周辺なんて雑魚しかいないから問題はないんだろうけど。
何事もなくある程度レベルが上がったところで、翌日からようやく魔工都市エキドナへ出発だ。
意気込んでいたものの、エキドナへ出発する乗合馬車は週一の運航で、次は明日の午前中になるとのことだった。
旅の前のワクワク感がちょっと減ってしまったのは言うまでもない。
事前に聞いていたとしても、明日出発は変わらなかっただろうけども。
時間もあったので、ギルド職員さんの忠告を聞いてとりあえず防具を揃えることになった。
おれは金属製の鎧とかを想像したんだけど、体力のない今の状態でそんなものを着たら満足に動けそうにない。
どうやら誠さんも似たようなことを考えていたらしく、お勧めされた寂れた防具屋で動きやすさ重視の服を店主にお願いしていた。
誠さんから予算を聞いて驚いてはいたが。
今のおれと大差ない身長だが横幅は倍以上あるドワーフっぽい店主が、カートに何やら防具を積んでカウンターの奥からやってきた。
フィアさんは嬉々としながらあれこれと防具を選んでいる。そんな様子を誠さんは緩んだ表情で眺めている。
おれもじっと見ているわけにはいかないので、目の前の防具を手に取って広げてみるんだけど……。
なかなかサイズの合いそうなものがない。
ようやく見つけたのは地味なグレーのローブだった。他にも探してみたけど残念ながらサイズが合わず、これしかないようだった。
「……むぅ」
だというのに、おれが選んだ物が不満なのかフィアさんがふくれっ面をしている。
そんなかわいい表情をされても他にサイズがないんだからしょうがない。
日本でフィアさんに着せ替え人形にされたことを思い出しながら、心の中で「我慢してください」と呟くのだった。
ことが起こったのはその後だ。
ちょっと店内が狭かったので、外へ出て動きを確かめている時だった。
「ぐっ!」
急に何かが視界に入ったと思った瞬間に体を衝撃が襲い、気づけば自分の顔は地面を向いていた。そしてどうも地に足が付いていようだ。
痛みに眉を顰めながらも何があったのかと周囲を見ると、誰かの足が側にあることに気付いた。
これは……、誰かに小脇に抱えられている感じなのか。
「ふん。騒ぐんじゃねぇぞ小娘」
頭上から恫喝の声が聞こえてくると同時に、じわじわと恐怖が心の奥底から湧き上がってきた。
まだ多少混乱は残るものの、状況はなんとなく理解できてしまった。
おれは今……、男に襲われて……、連れ去られているんだろうか。
小脇に抱えられて走る男の振動がするが、そんなことはどうでもいい。
ただただ自分の心が恐怖に塗りつぶされていく。体がカタカタと震えているのが自分でもわかる。
男が二人で何やら頭上で会話が行われているのだがまったく耳に入ってこない。
なんとなく自分を呼ぶフィアさんの声がしたような気がしたけど、きっと空耳だ。
――怖い怖いこわいこわいコワイ。
人が怖い。
以前にギルドで素材換金時に脅された時も怖かったけど、その時はここまで恐怖を感じる対象だとは思ったこともなかった。
心の奥底のどこかできっと、『人』とは会話が成立するのだから、問答無用で襲われることなんてないと思い込んでいたのかもしれない。
確かに普段、日本の街を歩くときに周囲に気を配るなんてことは考えたこともない。やっぱり日本は安全なのだ。
ひたすら恐怖に震えていると、どこかの建物の中に入ったのか視界が暗くなった。
自分がこの先どうなるんだろうかと思うと恐ろしくてしょうがない。具体的にどうなるか想像はできなかったけど、ただただ恐怖だけがあった。
「よいせっ」
建物の奥の部屋へとたどり着いたとき、抱えられた男に掛け声とともに放り投げられた。
「――っ!?」
後頭部を地面に打ち付けて蹲っていると、おれに近づいてくる男の足音がしたかと思えば、伏せていた顎を掴んで持ち上げられた。
見事なアゴクイではあるが、今の瑞樹にはツッコミを入れる余裕などない。
涙で滲んだ視界のせいで相手の顔はよくわからなかったが、なんとなく気持ち悪いニヤついた表情っぽいことだけはわかった。
「はっ、改めて近くで見りゃ上玉じゃねーか。
――チッ! しっかしこんな上等な装備しやがって」
そう呟くと男の手がおれの着ていたローブを掴み、脱がそうとしてきた。
「……やっ!」
やめろと叫びたかったがうまく声が出ない。抵抗しようにも体も恐怖に縛られたのかうまく動かせない。
どうやって腕を動かすんだったっけ。
いやそもそも、どうやったらこの恐怖から逃れられるのか。
どうすればいいのかわからない。
誠さんとフィアさんと魔法の訓練をしたことなど、今この時には綺麗さっぱり思い出されなかった。
思い出したとしても今の恐怖に塗りつぶされて動揺しまくりの精神状態で、魔法が撃てるかどうか定かではなかったが。
何せ倒した魔物は血を吹き出すこともなく、消えてしまうのだ。ドロップアイテムを残して。
それにしても王女様に魔物を釣ってくる役割を任せるなんて、誠さんは何を考えているんだろうか。
まぁ本人がやりたいと言って楽しそうにしてるし、最初の街周辺なんて雑魚しかいないから問題はないんだろうけど。
何事もなくある程度レベルが上がったところで、翌日からようやく魔工都市エキドナへ出発だ。
意気込んでいたものの、エキドナへ出発する乗合馬車は週一の運航で、次は明日の午前中になるとのことだった。
旅の前のワクワク感がちょっと減ってしまったのは言うまでもない。
事前に聞いていたとしても、明日出発は変わらなかっただろうけども。
時間もあったので、ギルド職員さんの忠告を聞いてとりあえず防具を揃えることになった。
おれは金属製の鎧とかを想像したんだけど、体力のない今の状態でそんなものを着たら満足に動けそうにない。
どうやら誠さんも似たようなことを考えていたらしく、お勧めされた寂れた防具屋で動きやすさ重視の服を店主にお願いしていた。
誠さんから予算を聞いて驚いてはいたが。
今のおれと大差ない身長だが横幅は倍以上あるドワーフっぽい店主が、カートに何やら防具を積んでカウンターの奥からやってきた。
フィアさんは嬉々としながらあれこれと防具を選んでいる。そんな様子を誠さんは緩んだ表情で眺めている。
おれもじっと見ているわけにはいかないので、目の前の防具を手に取って広げてみるんだけど……。
なかなかサイズの合いそうなものがない。
ようやく見つけたのは地味なグレーのローブだった。他にも探してみたけど残念ながらサイズが合わず、これしかないようだった。
「……むぅ」
だというのに、おれが選んだ物が不満なのかフィアさんがふくれっ面をしている。
そんなかわいい表情をされても他にサイズがないんだからしょうがない。
日本でフィアさんに着せ替え人形にされたことを思い出しながら、心の中で「我慢してください」と呟くのだった。
ことが起こったのはその後だ。
ちょっと店内が狭かったので、外へ出て動きを確かめている時だった。
「ぐっ!」
急に何かが視界に入ったと思った瞬間に体を衝撃が襲い、気づけば自分の顔は地面を向いていた。そしてどうも地に足が付いていようだ。
痛みに眉を顰めながらも何があったのかと周囲を見ると、誰かの足が側にあることに気付いた。
これは……、誰かに小脇に抱えられている感じなのか。
「ふん。騒ぐんじゃねぇぞ小娘」
頭上から恫喝の声が聞こえてくると同時に、じわじわと恐怖が心の奥底から湧き上がってきた。
まだ多少混乱は残るものの、状況はなんとなく理解できてしまった。
おれは今……、男に襲われて……、連れ去られているんだろうか。
小脇に抱えられて走る男の振動がするが、そんなことはどうでもいい。
ただただ自分の心が恐怖に塗りつぶされていく。体がカタカタと震えているのが自分でもわかる。
男が二人で何やら頭上で会話が行われているのだがまったく耳に入ってこない。
なんとなく自分を呼ぶフィアさんの声がしたような気がしたけど、きっと空耳だ。
――怖い怖いこわいこわいコワイ。
人が怖い。
以前にギルドで素材換金時に脅された時も怖かったけど、その時はここまで恐怖を感じる対象だとは思ったこともなかった。
心の奥底のどこかできっと、『人』とは会話が成立するのだから、問答無用で襲われることなんてないと思い込んでいたのかもしれない。
確かに普段、日本の街を歩くときに周囲に気を配るなんてことは考えたこともない。やっぱり日本は安全なのだ。
ひたすら恐怖に震えていると、どこかの建物の中に入ったのか視界が暗くなった。
自分がこの先どうなるんだろうかと思うと恐ろしくてしょうがない。具体的にどうなるか想像はできなかったけど、ただただ恐怖だけがあった。
「よいせっ」
建物の奥の部屋へとたどり着いたとき、抱えられた男に掛け声とともに放り投げられた。
「――っ!?」
後頭部を地面に打ち付けて蹲っていると、おれに近づいてくる男の足音がしたかと思えば、伏せていた顎を掴んで持ち上げられた。
見事なアゴクイではあるが、今の瑞樹にはツッコミを入れる余裕などない。
涙で滲んだ視界のせいで相手の顔はよくわからなかったが、なんとなく気持ち悪いニヤついた表情っぽいことだけはわかった。
「はっ、改めて近くで見りゃ上玉じゃねーか。
――チッ! しっかしこんな上等な装備しやがって」
そう呟くと男の手がおれの着ていたローブを掴み、脱がそうとしてきた。
「……やっ!」
やめろと叫びたかったがうまく声が出ない。抵抗しようにも体も恐怖に縛られたのかうまく動かせない。
どうやって腕を動かすんだったっけ。
いやそもそも、どうやったらこの恐怖から逃れられるのか。
どうすればいいのかわからない。
誠さんとフィアさんと魔法の訓練をしたことなど、今この時には綺麗さっぱり思い出されなかった。
思い出したとしても今の恐怖に塗りつぶされて動揺しまくりの精神状態で、魔法が撃てるかどうか定かではなかったが。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました
チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。
完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。
【捕食】
それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。
ゴブリンを食べれば腕力を獲得。
魔物を食べれば新スキルを習得。
レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。
森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。
やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。
これは――
最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに
試運転中
ファンタジー
山を割るほどに剣を極めたおとん「ケン」と、ケガなど何でも治してしまうおかん「セイ」。
そんな二人に山で育てられた息子「ケイ」は、15歳の大人の仲間入りを機に、王都の学園へと入学する。
両親の素性すらも知らず、その血を受け継いだ自分が、どれほど常軌を逸しているかもわからず。
気心の知れた仲間と、困ったり楽しんだりする学園生活のはずが……
主人公最強だけど、何かがおかしい!? ちょっぴり異色な異世界学園ファンタジー。
ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる
ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
半世紀の契約
篠原皐月
恋愛
それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。
一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる