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第五部
いざ孤児院へ
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「楓ちゃんがいるのはここね?」
俺たちがやってきたのは商都コメッツの北東にある孤児院だ。どこが運営しているかは知らないけど、貧民街の中に建っていることからもわかるようにあまり経営はよろしくなさそうだ。
「みたいだな」
あのあと念話で連絡を取ったらみんなで行こうということになり、お昼を食べた後に孤児院へとやってきた。
「髪の色が変わってちゃ気づかねぇよなぁ」
「むしろどうやって変えたのかは気になるな」
ぼやくイヴァンと興味津々なエルである。フォニアはなんだかソワソワしているようだけど、そういえば孤児院と言えばフォニアくらいの子どもがたくさんいるんだろうか。
ちなみにリフレシアには金貨と、日本の百均でも売ってそうな道具をいくつか手渡してきた。こんなにもらっていいのかと驚かれたけど、最近自分の金銭感覚がおかしくなってるのでよくわからなくなっている。
「さてと、じゃあ行きますか」
みんなで連れ立って孤児院の中へと入っていく。貧民街にある孤児院ではあるが、外観はそれなりに小奇麗にしているようである。
「どちら様でしょうか?」
開け放たれたままになっている玄関から、一人の女性が現れる。年のころは四十を超えているだろうか。皺の刻まれたその表情は、あからさまに警戒した様子を見せている。
「冒険者をやっている柊です。依頼を受けて来ました」
「冒険者の方……ですか」
俺たちが順に名乗ったところで幾分か警戒の色が薄くなったようだ。
「孤児院長をやっているミラベルです。冒険者の方がなんでまた……」
「ここに楓さんがいると聞いてきたんですが、いらっしゃいますか?」
楓さんの名前を出したところでミラベルさんの表情が硬くなる。
「……あの子にどのような御用でしょうか」
微妙に警戒されているような気がしないでもないけど、話は聞いてくれそうだ。
それにしても用とな……? 探し人が見つかったとして、ひとまず連れ出せればそれでいいのかな。
「ご家族の方が行方不明になった楓さんを探しているんですけど、その楓さんと同一人物なのか確認させて欲しいです」
万が一別人だったら目も当てられない。仁平さんをぬか喜びさせることになりかねないし、まずは本人確認からだ。
「家族……ですか? 故郷は遠すぎて帰れないところにあると聞いていますが……」
緩んだ警戒が少しだけ引き締まったミラベルさんだが、なるほど。楓さんからそう聞いていれば俺たちは胡散臭く見えてもしょうがないか?
「これでもSランク冒険者をやっていますからね。遠いくらいなんでもありません」
「はぁ……。それで、もし、あなた方が探している人物と同じだったら……、どうするのですか?」
ランクが効いたのかよくわからない答えだったけど、とりあえず納得はしてくれたのか。いまいちよくわからないけど、何にしろそれを判断するのは俺たちじゃない。
「家族と会わせたいと思っていますが、決めるのはご本人次第かと思っています」
「……そうですか」
俺の回答にしばらく考え込むと、大きく息を吐いて肩の力を抜くミラベルさん。
「初対面なのに疑ってしまって申し訳ありません。どうぞおあがりください」
表情を苦笑いに変えると、一転して俺たちを招き入れてくれた。
「あ、はい。ありがとうございます」
何か事情がありそうだけどなんだろうな。莉緒たちと顔を見合わせると招きに応じてミラベルさんのあとをついて行く。
通されたのは客間である。それほど広くない部屋だがしっかりと清掃が行き届いており、リフレシアの屋敷のように生活苦といった印象はない。途中の廊下では、曲がり角の向こうからこちらを覗き込む小さい子どもが見えたが、好奇心いっぱいに目を輝かせていた。
「どうぞ、お掛けになってお待ちください。カエデを呼んできます」
六人掛けのテーブルを指し示すとミラベルさんが部屋の外へと出て行く。
真ん中に座ると左側に莉緒が座り、その上にフォニアが座る。エルは相変わらず後ろに直立不動で立つので右側にはイヴァンが腰かけた。
ニルは俺と莉緒の間に伏せると大きく欠伸をしている。
「お待たせいたしました」
そう言葉にして戻ってきたミラベルさんの後ろに、一人の少女が現れる。
暗い青い髪を胸元まで伸ばした日本人顔の少女だ。莉緒と同じくらいの身長で、歳は俺たちとそう変わらないように見える。意思の強そうな黒い瞳は少しだけ困惑する様子を見せていたが、なんとなく仁平さんにもらった写真の面影があるような気がする。
「はじめまして。楓です」
お茶を淹れてきてくれたらしく、全員分のカップがテーブルに並べられるとミラベルさんと楓さんも席に着いた。
こちらも順に自己紹介をしていくと、孤児院を訪問した理由を伝える。
「黒髪黒目の柳原楓という人物を探していて、ここにたどり着いたんです。リフレシアという方からこちらにいると聞いたのですが……、青い髪をされてますね」
俺の言葉に顔を見合わせるミラベルさんと楓さん。お互いに頷き合うと、まず最初にミラベルさんが口を開いた。
「リフレシア殿から話を聞いてきたというのであれば、あなた方はアークライト王国の人間というわけではないのでしょうか?」
経緯を考えれば、王国からの追手を警戒してるってことだろうか。
「いえ、違いますので安心してください。どちらかと言えばあの王国は滅べばいいと思ってますので」
「そ、そうですか……」
思わず漏れた本音にミラベルさんの顔がちょっとだけ引きつっている。
「ふふ、髪が青いのは院長先生が作ってくれる薬品で色を変えているからです」
楓さんは少しだけ緊張がほぐれたのか笑みを見せる。
にしてもそんな薬品があるんだ。髪用の染料とかだろうか。
「それで、私はお探しの柳原楓で合ってましたか?」
本音を冗談と受け取ったのか、くすりと笑いながら尋ねる楓さんではあったが。
「それをこれから確認させてください。……柳原十四郎と、柳原仁平と言う名前に聞き覚えはありませんか?」
「――えっ?」
俺の言葉を聞いたその瞬間、楓さんの瞳が大きく揺れはじめた。
俺たちがやってきたのは商都コメッツの北東にある孤児院だ。どこが運営しているかは知らないけど、貧民街の中に建っていることからもわかるようにあまり経営はよろしくなさそうだ。
「みたいだな」
あのあと念話で連絡を取ったらみんなで行こうということになり、お昼を食べた後に孤児院へとやってきた。
「髪の色が変わってちゃ気づかねぇよなぁ」
「むしろどうやって変えたのかは気になるな」
ぼやくイヴァンと興味津々なエルである。フォニアはなんだかソワソワしているようだけど、そういえば孤児院と言えばフォニアくらいの子どもがたくさんいるんだろうか。
ちなみにリフレシアには金貨と、日本の百均でも売ってそうな道具をいくつか手渡してきた。こんなにもらっていいのかと驚かれたけど、最近自分の金銭感覚がおかしくなってるのでよくわからなくなっている。
「さてと、じゃあ行きますか」
みんなで連れ立って孤児院の中へと入っていく。貧民街にある孤児院ではあるが、外観はそれなりに小奇麗にしているようである。
「どちら様でしょうか?」
開け放たれたままになっている玄関から、一人の女性が現れる。年のころは四十を超えているだろうか。皺の刻まれたその表情は、あからさまに警戒した様子を見せている。
「冒険者をやっている柊です。依頼を受けて来ました」
「冒険者の方……ですか」
俺たちが順に名乗ったところで幾分か警戒の色が薄くなったようだ。
「孤児院長をやっているミラベルです。冒険者の方がなんでまた……」
「ここに楓さんがいると聞いてきたんですが、いらっしゃいますか?」
楓さんの名前を出したところでミラベルさんの表情が硬くなる。
「……あの子にどのような御用でしょうか」
微妙に警戒されているような気がしないでもないけど、話は聞いてくれそうだ。
それにしても用とな……? 探し人が見つかったとして、ひとまず連れ出せればそれでいいのかな。
「ご家族の方が行方不明になった楓さんを探しているんですけど、その楓さんと同一人物なのか確認させて欲しいです」
万が一別人だったら目も当てられない。仁平さんをぬか喜びさせることになりかねないし、まずは本人確認からだ。
「家族……ですか? 故郷は遠すぎて帰れないところにあると聞いていますが……」
緩んだ警戒が少しだけ引き締まったミラベルさんだが、なるほど。楓さんからそう聞いていれば俺たちは胡散臭く見えてもしょうがないか?
「これでもSランク冒険者をやっていますからね。遠いくらいなんでもありません」
「はぁ……。それで、もし、あなた方が探している人物と同じだったら……、どうするのですか?」
ランクが効いたのかよくわからない答えだったけど、とりあえず納得はしてくれたのか。いまいちよくわからないけど、何にしろそれを判断するのは俺たちじゃない。
「家族と会わせたいと思っていますが、決めるのはご本人次第かと思っています」
「……そうですか」
俺の回答にしばらく考え込むと、大きく息を吐いて肩の力を抜くミラベルさん。
「初対面なのに疑ってしまって申し訳ありません。どうぞおあがりください」
表情を苦笑いに変えると、一転して俺たちを招き入れてくれた。
「あ、はい。ありがとうございます」
何か事情がありそうだけどなんだろうな。莉緒たちと顔を見合わせると招きに応じてミラベルさんのあとをついて行く。
通されたのは客間である。それほど広くない部屋だがしっかりと清掃が行き届いており、リフレシアの屋敷のように生活苦といった印象はない。途中の廊下では、曲がり角の向こうからこちらを覗き込む小さい子どもが見えたが、好奇心いっぱいに目を輝かせていた。
「どうぞ、お掛けになってお待ちください。カエデを呼んできます」
六人掛けのテーブルを指し示すとミラベルさんが部屋の外へと出て行く。
真ん中に座ると左側に莉緒が座り、その上にフォニアが座る。エルは相変わらず後ろに直立不動で立つので右側にはイヴァンが腰かけた。
ニルは俺と莉緒の間に伏せると大きく欠伸をしている。
「お待たせいたしました」
そう言葉にして戻ってきたミラベルさんの後ろに、一人の少女が現れる。
暗い青い髪を胸元まで伸ばした日本人顔の少女だ。莉緒と同じくらいの身長で、歳は俺たちとそう変わらないように見える。意思の強そうな黒い瞳は少しだけ困惑する様子を見せていたが、なんとなく仁平さんにもらった写真の面影があるような気がする。
「はじめまして。楓です」
お茶を淹れてきてくれたらしく、全員分のカップがテーブルに並べられるとミラベルさんと楓さんも席に着いた。
こちらも順に自己紹介をしていくと、孤児院を訪問した理由を伝える。
「黒髪黒目の柳原楓という人物を探していて、ここにたどり着いたんです。リフレシアという方からこちらにいると聞いたのですが……、青い髪をされてますね」
俺の言葉に顔を見合わせるミラベルさんと楓さん。お互いに頷き合うと、まず最初にミラベルさんが口を開いた。
「リフレシア殿から話を聞いてきたというのであれば、あなた方はアークライト王国の人間というわけではないのでしょうか?」
経緯を考えれば、王国からの追手を警戒してるってことだろうか。
「いえ、違いますので安心してください。どちらかと言えばあの王国は滅べばいいと思ってますので」
「そ、そうですか……」
思わず漏れた本音にミラベルさんの顔がちょっとだけ引きつっている。
「ふふ、髪が青いのは院長先生が作ってくれる薬品で色を変えているからです」
楓さんは少しだけ緊張がほぐれたのか笑みを見せる。
にしてもそんな薬品があるんだ。髪用の染料とかだろうか。
「それで、私はお探しの柳原楓で合ってましたか?」
本音を冗談と受け取ったのか、くすりと笑いながら尋ねる楓さんではあったが。
「それをこれから確認させてください。……柳原十四郎と、柳原仁平と言う名前に聞き覚えはありませんか?」
「――えっ?」
俺の言葉を聞いたその瞬間、楓さんの瞳が大きく揺れはじめた。
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