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第2章 あぶないラッキー
1話③
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ピーチバナナのビルを出た大輔と晃司は、すぐに署に戻ることにした。珍しく急ぎ足で前を行く晃司に、大輔が訊く。
「あの、小野寺さん。同じビルなんだから、そのまま行ってきてもよかったんじゃ⋯⋯」
「ダメダメ。そいつらがコピーしたDVDを販売してる証拠がないと、摘発はできないんだよ。それに、まだ証拠が揃ってないのに俺らがウロウロして、警察が嗅ぎつけたってバレたらあいつらすぐにドロン! だから、まずはしっかり内偵」
晃司はビルから少し離れると、辺りを気にしながらそばの細い路地に入って電話をかけ始めた。おそらく仕事の電話だろうが、その姿こそ――怪しい。
大輔は一人でどうしてよいかわからず、近くのビルの看板をなんとはなしに眺めた。一階の入り口で輝くピンクの看板は、『ANL 坂48』とある。どこかで聞いたような店名だが、ANLの略がわからず頭を捻る。
(Aで始まるから……荒間? じゃないよな……)
荒間――ならばARMだろうし、この歓楽街は「荒間」とは呼ばれない。「北荒間」と呼ばなければ、歓楽街ではなく市街地の荒間になってしまう。それならば――KAM?
大輔はきれいな眉をギューッと寄せて、看板とにらみ合った。通りすがりの者の目には、店に入るか悩んでいる、ただのスケベにしか映らなかったのだろう。
一人の薄汚れた男が、スススと大輔に近づいてくる。
「……アルヨ。お尻、アルヨ?」
背後から片言の日本語が聞こえ、ビクッと振り返る。すると大輔の後ろにピタリと貼りつくように、春だというのに黒のダウンを着た男が立っていた。
量産品のダウンジャケットにスウェット、そして足元はサンダルという身なりの怪しい男は、大輔の前にスッとA5サイズぐらいの小さな紙を差し出してきた。細かく印字されているのは――映画かドラマのタイトルのリストのようだった。
「おニイさんの好きソウな、お尻もアルヨ」
大輔はようやくピンときた。小さな紙の中に、大輔が最近ネット配信で視聴した邦画のタイトルがあったからだ。
この男はおそらく――違法DVDの売り子、だ。
コッソリ近くを窺うが、晃司の姿はない。まだ電話中なのだろう。大輔は深呼吸して、前歯が一本足りない男に訊いた。
「あ~……前に北荒間でDVD買って失敗したんだよね。おたくは大丈夫?」
「ダイジョーブ。前の店、潰れたノ。ウチはダイジョーブよ、新しくてモウカッテるから」
どうやら北荒間で商売を始めたばかりらしい。当然大輔の脳裏に、ピーチバナナの上に最近できたというDVDのコピー屋が浮かんだ。
もしかしたらこの男こそ、そこで違法にコピーされたDVDを販売している張本人、かもしれない。
大輔は、怪しまれない程度に慎重に訊いた。
「……無修正、とかもある?」
男がニーッと笑う。
「おニイさん、キレイな顔してチョースケベ。……ついてきて」
余計なお世話だ、と内心でムクれながらも、大輔は大人しく男に従った。
それを晃司が、路地裏で電話しながら見つけた。ちょうど晃司の前を通った大輔は、目を丸くしている晃司に目配せをした。
それから数時間後――。
荒間署生活安全課保安係は、最近北荒間でコピーDVDの違法販売で荒稼ぎしていた犯罪グループを、見事検挙した。
「あの、小野寺さん。同じビルなんだから、そのまま行ってきてもよかったんじゃ⋯⋯」
「ダメダメ。そいつらがコピーしたDVDを販売してる証拠がないと、摘発はできないんだよ。それに、まだ証拠が揃ってないのに俺らがウロウロして、警察が嗅ぎつけたってバレたらあいつらすぐにドロン! だから、まずはしっかり内偵」
晃司はビルから少し離れると、辺りを気にしながらそばの細い路地に入って電話をかけ始めた。おそらく仕事の電話だろうが、その姿こそ――怪しい。
大輔は一人でどうしてよいかわからず、近くのビルの看板をなんとはなしに眺めた。一階の入り口で輝くピンクの看板は、『ANL 坂48』とある。どこかで聞いたような店名だが、ANLの略がわからず頭を捻る。
(Aで始まるから……荒間? じゃないよな……)
荒間――ならばARMだろうし、この歓楽街は「荒間」とは呼ばれない。「北荒間」と呼ばなければ、歓楽街ではなく市街地の荒間になってしまう。それならば――KAM?
大輔はきれいな眉をギューッと寄せて、看板とにらみ合った。通りすがりの者の目には、店に入るか悩んでいる、ただのスケベにしか映らなかったのだろう。
一人の薄汚れた男が、スススと大輔に近づいてくる。
「……アルヨ。お尻、アルヨ?」
背後から片言の日本語が聞こえ、ビクッと振り返る。すると大輔の後ろにピタリと貼りつくように、春だというのに黒のダウンを着た男が立っていた。
量産品のダウンジャケットにスウェット、そして足元はサンダルという身なりの怪しい男は、大輔の前にスッとA5サイズぐらいの小さな紙を差し出してきた。細かく印字されているのは――映画かドラマのタイトルのリストのようだった。
「おニイさんの好きソウな、お尻もアルヨ」
大輔はようやくピンときた。小さな紙の中に、大輔が最近ネット配信で視聴した邦画のタイトルがあったからだ。
この男はおそらく――違法DVDの売り子、だ。
コッソリ近くを窺うが、晃司の姿はない。まだ電話中なのだろう。大輔は深呼吸して、前歯が一本足りない男に訊いた。
「あ~……前に北荒間でDVD買って失敗したんだよね。おたくは大丈夫?」
「ダイジョーブ。前の店、潰れたノ。ウチはダイジョーブよ、新しくてモウカッテるから」
どうやら北荒間で商売を始めたばかりらしい。当然大輔の脳裏に、ピーチバナナの上に最近できたというDVDのコピー屋が浮かんだ。
もしかしたらこの男こそ、そこで違法にコピーされたDVDを販売している張本人、かもしれない。
大輔は、怪しまれない程度に慎重に訊いた。
「……無修正、とかもある?」
男がニーッと笑う。
「おニイさん、キレイな顔してチョースケベ。……ついてきて」
余計なお世話だ、と内心でムクれながらも、大輔は大人しく男に従った。
それを晃司が、路地裏で電話しながら見つけた。ちょうど晃司の前を通った大輔は、目を丸くしている晃司に目配せをした。
それから数時間後――。
荒間署生活安全課保安係は、最近北荒間でコピーDVDの違法販売で荒稼ぎしていた犯罪グループを、見事検挙した。
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