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出会い
第二話 堕落の始まり
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「……ふざ、けるな……ッ!」
ルクシスは唸るように吐き捨てた。しかしすでに、先ほどまでの罪人を震え上がらせた刃のような鋭さは消え失せ、代わりに熱に浮かされたような湿り気を帯びている。
氷のような冷たさを帯びていた瞳は、焦点が定まらないまま危うげにグラグラと揺れ動く。
視界の端で暁光の赤がちらつく度に、心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
「おお、すごいね。 あれだけ抱えてたのにまだ立っていられるなんて」
ヨクはプライドだけで立っているであろうルクシスの肩を軽くポン、と叩いた。
「ひ……ッ…!」
ただの軽い接触。それなのに、ルクシスの身体は大袈裟なまでにびくりと激しく跳ねた。ルクシスは自分の口から飛び出した甘さを含んだような声に戦慄し、羞恥で顔を真っ赤に染める。
「あはは、感度が良いね。オレも仕事が楽しめそうだよ」
「は…ッ、…仕事、だと……?」
「そう。オレの仕事は、過剰になって害を及ぼしそうな欲を整えること。だから──」
勿体をつけるように言葉を止め、懐に滑り込んできたヨクに、ルクシスは拒むこともできず接近を許してしまう。
耳元に当たるヨクの柔らかな髪がルクシスから甘い吐息を引き出し、じわじわと蝕む毒のように意識を支配していく。
「性欲に変えたんだ。 キミの、溢れそうだった秩序欲と支配欲を」
ルクシスは言われた意味を咄嗟には理解ができなかった。支配欲?秩序欲?それを──性欲、に?
「そんな、馬鹿な……あり得ない……! 俺が、そのような……下劣な欲求に……ッ!」
「下劣じゃないよ。とっても素直で可愛いし、何より発散しやすいから、過剰な欲の変換先に最適」
ヨクの夕焼け色の瞳が、至近距離でルクシスを射抜く。その瞳には、抗いがたい引力があった。底なしの沼のように、見る者を引きずり込む、甘美な罠。
「抗わなくていいんだよ。 ほら、キミの身体、こんなに正直に反応してる」
「ちが、う……俺は……認めん、断じて……っ!」
否定の言葉とは裏腹に、ルクシスの身体はヨクの体温を求めていた。触れられている部分から火がついたように熱くなり、もっと強く、もっと深く触れてほしいと、本能が叫び声を上げている。
ヨクはその矛盾した態度を楽しそうに眺めると、不意にルクシスの身体を反転させ、近くの壁へと押し付けた。
「ぐ、ぁっ……!?」
冷たい石壁の感触が背中に走る。逃げ場を失ったルクシスの目の前には、小さく舌なめずりをするヨクの顔があった。
「往生際が悪いなあ。……ま、そういうのも嫌いじゃないけど」
ヨクの手が、ルクシスの太腿に這う。
「や、めろ……触るな、汚らわしい……ッ!」
「脚開きながら言うセリフじゃないかもね」
「なっ……!?」
指摘されて初めて、ルクシスは自分の足が自らヨクを迎え入れるように少し開いていることに気づき、愕然とした。
羞恥で視界が真っ白になる。真理の神としての矜持が、音を立てて崩れ去っていく。
「ほーら、力抜いて。……大丈夫、すぐに気持ちよくしてあげるから」
抵抗する間もなかった。
ヨクの手が、ルクシスの片足を軽々と持ち上げる。バランスを崩したルクシスは、ヨクの首にしがみつくしかなかった。
それは、決定的な敗北の姿勢だった。
「あ、…っ!待て、やめ……!」
「んー、もう待てないな。いただきます」
ルクシスの悲痛な抗議は、ヨクの唇によって甘やかに封じられた。
思考を焼き尽くすような熱い口づけ。
それが、高潔な神の堕落の始まりだった。
ルクシスは唸るように吐き捨てた。しかしすでに、先ほどまでの罪人を震え上がらせた刃のような鋭さは消え失せ、代わりに熱に浮かされたような湿り気を帯びている。
氷のような冷たさを帯びていた瞳は、焦点が定まらないまま危うげにグラグラと揺れ動く。
視界の端で暁光の赤がちらつく度に、心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
「おお、すごいね。 あれだけ抱えてたのにまだ立っていられるなんて」
ヨクはプライドだけで立っているであろうルクシスの肩を軽くポン、と叩いた。
「ひ……ッ…!」
ただの軽い接触。それなのに、ルクシスの身体は大袈裟なまでにびくりと激しく跳ねた。ルクシスは自分の口から飛び出した甘さを含んだような声に戦慄し、羞恥で顔を真っ赤に染める。
「あはは、感度が良いね。オレも仕事が楽しめそうだよ」
「は…ッ、…仕事、だと……?」
「そう。オレの仕事は、過剰になって害を及ぼしそうな欲を整えること。だから──」
勿体をつけるように言葉を止め、懐に滑り込んできたヨクに、ルクシスは拒むこともできず接近を許してしまう。
耳元に当たるヨクの柔らかな髪がルクシスから甘い吐息を引き出し、じわじわと蝕む毒のように意識を支配していく。
「性欲に変えたんだ。 キミの、溢れそうだった秩序欲と支配欲を」
ルクシスは言われた意味を咄嗟には理解ができなかった。支配欲?秩序欲?それを──性欲、に?
「そんな、馬鹿な……あり得ない……! 俺が、そのような……下劣な欲求に……ッ!」
「下劣じゃないよ。とっても素直で可愛いし、何より発散しやすいから、過剰な欲の変換先に最適」
ヨクの夕焼け色の瞳が、至近距離でルクシスを射抜く。その瞳には、抗いがたい引力があった。底なしの沼のように、見る者を引きずり込む、甘美な罠。
「抗わなくていいんだよ。 ほら、キミの身体、こんなに正直に反応してる」
「ちが、う……俺は……認めん、断じて……っ!」
否定の言葉とは裏腹に、ルクシスの身体はヨクの体温を求めていた。触れられている部分から火がついたように熱くなり、もっと強く、もっと深く触れてほしいと、本能が叫び声を上げている。
ヨクはその矛盾した態度を楽しそうに眺めると、不意にルクシスの身体を反転させ、近くの壁へと押し付けた。
「ぐ、ぁっ……!?」
冷たい石壁の感触が背中に走る。逃げ場を失ったルクシスの目の前には、小さく舌なめずりをするヨクの顔があった。
「往生際が悪いなあ。……ま、そういうのも嫌いじゃないけど」
ヨクの手が、ルクシスの太腿に這う。
「や、めろ……触るな、汚らわしい……ッ!」
「脚開きながら言うセリフじゃないかもね」
「なっ……!?」
指摘されて初めて、ルクシスは自分の足が自らヨクを迎え入れるように少し開いていることに気づき、愕然とした。
羞恥で視界が真っ白になる。真理の神としての矜持が、音を立てて崩れ去っていく。
「ほーら、力抜いて。……大丈夫、すぐに気持ちよくしてあげるから」
抵抗する間もなかった。
ヨクの手が、ルクシスの片足を軽々と持ち上げる。バランスを崩したルクシスは、ヨクの首にしがみつくしかなかった。
それは、決定的な敗北の姿勢だった。
「あ、…っ!待て、やめ……!」
「んー、もう待てないな。いただきます」
ルクシスの悲痛な抗議は、ヨクの唇によって甘やかに封じられた。
思考を焼き尽くすような熱い口づけ。
それが、高潔な神の堕落の始まりだった。
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