ヨクに溺れる

新月ポルカ

文字の大きさ
3 / 36
出会い

第三話 欲にのまれる

しおりを挟む
 ルクシスが視界に捉えていた空の色は、すでに彼にとって意味を持たなかった。光と静寂に満ちた天界の一角、その真昼のような明るさの中で、身体だけが、剥き出しの感情と熱に喘いでいた。

 強引に押し開けられた唇が、彼の思考のすべてを飲み込んでいく。口内を這い回るヨクの舌は、有無を言わせぬ暴力性を持ちながら、同時にどうしようもないほどの甘美さを伴ってルクシスの理性を根こそぎ奪い取る。

「ん……ッ、は、ぁ……」

 嘘を嫌悪する己の喉が、今、嘘偽りなく快楽を求める声を上げているという事実が、ルクシスの真理の神としての矜持をズタズタに引き裂いていく。しかし抵抗の意思は、その情けない声と共に溶かされ、間の抜けた鼻声を止めることはできなかった。

 下腹部で蠢くヨクの手つきは、常であれば真理を司る神の不快感を最大限に煽るはずだった。しかし、ルクシスの内側は、不愉快の代わりにどろりとした期待を要求する。もっと強く、もっと深く、その指の先が魂の奥底まで探りを入れて欲しいと、本能が叫んでいた。

 ヨクは、目尻に涙を浮かべ、甘い声で喘ぐルクシスをただ満足げに見つめていた。その細められた瞳には、困惑する獲物への純粋な愉悦だけが揺れている。

「キミは、素質があるね」

 喉の奥で笑いを噛み殺したような声が、吐息混じりに耳を滑り抜けた。その言葉が、ルクシスにとってどれほどの屈辱であるか、ヨクはまるで理解していない。ただ、目の前の肉体の反応と、そこから溢れる「欲」の熱量だけを見ていた。

「さて、ここからが本番だよ。どこまで耐えられるかな?」

「ま、て……っ、この、ピンク頭……やめ、ろ……」

 必死の抵抗は、もはや蚊の鳴くような震える声にしかならない。
 ヨクはそれ以上、ルクシスの言葉を聞くつもりはなく、遠慮なくルクシスの内側へと突き入れる。それは、まるで皮膚の内側を撫でるように滑らかで、痛みはどこにもなかった。あるのは、ただ、ひたすらに脳を焼くような快楽の奔流。

「──アァ゛っッッッ!!!!」

 真理の神の口から、雷鳴のような絶叫が迸る。それはこの痛みを伴わない行為への、最後の抗議と抵抗の形であった。
 快楽だけを伴って胎を掻き回す異物に、なすすべもなく溺れていくという事実を否定するかのように。

 しかし、真理の神として、偽りなく己の感情を裁定するならば、この快楽は紛れもない真実だった。この男に、この欲望に、魂ごと呑み込まれている。

 ルクシスは、ヨクの背に回した指先に力を込めることしかできなかった。それは抵抗なのか、しがみついているだけなのか、自分自身にも判別がつかない。

 この男に、この『欲』に、自分のすべてが飲み込まれていく。その事実に打ちのめされながらも、ルクシスの身体は、彼自身の意思に反して、奥深くまで貫くヨクの熱情に、甘く、熱く、応え始めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。

うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!! 高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。 ムーン様にも投稿してます。

処理中です...