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出会い
第四話 偽りの真理
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ルクシスが理性を飛ばす直前まで覚えていたのは、絶え間なく襲いかかる、熱く、甘く、それでいて暴君のような衝動だった。真理も、秩序も、彼の神格を支えるすべてが、根元から引き抜かれるような行為。
ヨクは、彼の中の過剰な『支配欲』と『秩序欲』が、完全に燃え尽きるまで容赦しなかった。
白亜の壁を背に、ルクシスはとうに絶叫する力も残っていない。全身から汗と熱が噴き出し、彼の高潔な白いローブは、乱れ、汚され、水浸しになって肌に張り付いている。
最後の荒々しい波が去った後、ヨクは満足げな吐息を漏らし、その体をルクシスから引き抜いた。
「はい…お仕事終わり。気持ちよかったね」
ヨクは、恍惚と絶望が入り混じった表情で項垂れるルクシスの首に巻き付いたままだった腕を、優しく、しかし有無を言わせぬ力で解いた。
「立てる?片足で無理させちゃったけど」
そう言いながら、ヨクはルクシスの脇腹に手を添え、身体を支えて立たせようとする。その手の温かさが、先ほどまでの熱を否応なく思い出させ、ルクシスの神経を逆撫でた。
「……触る、なッ」
声は掠れ、喉の奥から絞り出したような音だった。
彼はその震える膝に力を込め、自らのプライドだけで、ずるずると滑り落ちそうになる体を壁に押し付けながら、かろうじて立っている。
瞳は最早、周囲の状況を認識できていない。ただ、ヨクに対する激しい羞恥と怒り、そして──どうしようもない屈辱だけが、彼を支える唯一の杭となっていた。
ルクシスは、ヨクを殺すような鋭い視線を投げつける。だが、その視線は潤みすぎて、全く威嚇になっていない。
ヨクはそんなルクシスの姿を見て、くすくすと微笑んだ。その表情は、少しも悪びれていない。むしろ、純粋な好奇心と愛おしさすら滲ませている。
「そんなに怒らないでよ。キミの中の欲はこれで綺麗さっぱり発散したからさ、これで少しは穏やかに過ごせるんじゃない?」
ヨクは、ルクシスの乱れた髪を指先で一房だけ掬い上げ、そのまま空気に放った。
「じゃあ、オレはこれでお仕事終わり。またね、ルクシス」
彼が呼んだ、親しげな「ルクシス」という名。それは、ルクシスの耳には嘲笑のように響いた。
軽やかな足取りで、ヨクは現場を離れていく。その姿は、まるで何もなかったかのように、光の中へ溶けていった。
欲の神の気配が完全に消え失せ、彼の身体を支えていたプライドという薄氷が割れる。膝の関節から力が抜け、真理の神は、冷たい石壁を背にずるずるとその場に座り込む。その神聖なる審判を司るローブは石畳の上にだらしなく広がり、乱れた吐息だけが、ルクシスの屈辱を物語っていた。
光と静寂。再び戻った静謐な天界の空気は、余計に彼の屈辱を際立たせる。
「……ッ、許さ……ん」
震える拳を握りしめる。指先が、白い手のひらに食い込んだ。
その熱い怒りの奥底には、抗いがたい快楽で理性を失った己の醜態が焼き付いている。
彼は、自分の支配欲が過剰だったという真理も、ヨクの行為が職務だったという真理も、すべてを捻じ曲げて、ただ一つの感情だけを、内側にねっとりと焼き付けた。
──許さない、あのピンク頭……ッ、…絶対に!
純粋な憎悪と、混じり合った快楽の記憶。それは、真理の神の魂に、決して消えない大きな偽りを生み出した瞬間だった。
ヨクは、彼の中の過剰な『支配欲』と『秩序欲』が、完全に燃え尽きるまで容赦しなかった。
白亜の壁を背に、ルクシスはとうに絶叫する力も残っていない。全身から汗と熱が噴き出し、彼の高潔な白いローブは、乱れ、汚され、水浸しになって肌に張り付いている。
最後の荒々しい波が去った後、ヨクは満足げな吐息を漏らし、その体をルクシスから引き抜いた。
「はい…お仕事終わり。気持ちよかったね」
ヨクは、恍惚と絶望が入り混じった表情で項垂れるルクシスの首に巻き付いたままだった腕を、優しく、しかし有無を言わせぬ力で解いた。
「立てる?片足で無理させちゃったけど」
そう言いながら、ヨクはルクシスの脇腹に手を添え、身体を支えて立たせようとする。その手の温かさが、先ほどまでの熱を否応なく思い出させ、ルクシスの神経を逆撫でた。
「……触る、なッ」
声は掠れ、喉の奥から絞り出したような音だった。
彼はその震える膝に力を込め、自らのプライドだけで、ずるずると滑り落ちそうになる体を壁に押し付けながら、かろうじて立っている。
瞳は最早、周囲の状況を認識できていない。ただ、ヨクに対する激しい羞恥と怒り、そして──どうしようもない屈辱だけが、彼を支える唯一の杭となっていた。
ルクシスは、ヨクを殺すような鋭い視線を投げつける。だが、その視線は潤みすぎて、全く威嚇になっていない。
ヨクはそんなルクシスの姿を見て、くすくすと微笑んだ。その表情は、少しも悪びれていない。むしろ、純粋な好奇心と愛おしさすら滲ませている。
「そんなに怒らないでよ。キミの中の欲はこれで綺麗さっぱり発散したからさ、これで少しは穏やかに過ごせるんじゃない?」
ヨクは、ルクシスの乱れた髪を指先で一房だけ掬い上げ、そのまま空気に放った。
「じゃあ、オレはこれでお仕事終わり。またね、ルクシス」
彼が呼んだ、親しげな「ルクシス」という名。それは、ルクシスの耳には嘲笑のように響いた。
軽やかな足取りで、ヨクは現場を離れていく。その姿は、まるで何もなかったかのように、光の中へ溶けていった。
欲の神の気配が完全に消え失せ、彼の身体を支えていたプライドという薄氷が割れる。膝の関節から力が抜け、真理の神は、冷たい石壁を背にずるずるとその場に座り込む。その神聖なる審判を司るローブは石畳の上にだらしなく広がり、乱れた吐息だけが、ルクシスの屈辱を物語っていた。
光と静寂。再び戻った静謐な天界の空気は、余計に彼の屈辱を際立たせる。
「……ッ、許さ……ん」
震える拳を握りしめる。指先が、白い手のひらに食い込んだ。
その熱い怒りの奥底には、抗いがたい快楽で理性を失った己の醜態が焼き付いている。
彼は、自分の支配欲が過剰だったという真理も、ヨクの行為が職務だったという真理も、すべてを捻じ曲げて、ただ一つの感情だけを、内側にねっとりと焼き付けた。
──許さない、あのピンク頭……ッ、…絶対に!
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