ヨクに溺れる

新月ポルカ

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出会い

第八話 真理、再び

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「じゃ、行ってくるね」

「……問題、起こさないように」

リューエに家の門まで見送られ、ヨクはいつものように風に身を任せた。朱と桃色の髪が朝の光に透ける。特に目的もなく、ただ天界の空気の中をフラフラと歩いていた。

「なにか面白いこと……おっ?」

焦点をずらし、世界の欲を見渡していたヨクの瞳に、昨日とよく似た、しかし幾分か収まりのついた秩序欲の光が映った。依然として正常値を超え、主を苛んでいることが一目でわかる。

ヨクは軽い足取りでその光を追い、視線の先に、昨日の主を見つけてニンマリと笑みを浮かべる。

真理の神の表情は、昨日の出来事はまるで幻だとでもいうかのように冷ややかに整っていたが、その全身から発せられる空気は、静謐さとは程遠い、苛立ちと怒りに満ちている。
しかし歩き方はその溢れんばかりの秩序欲とは裏腹に、ほんの少し──そう、昨日の事を知っているヨクにしかわからない程度の、さりげなく腰を庇うような不自然さがあった。
肉体に刻まれた快楽の残滓と、それに伴う屈辱の記憶が、彼の高潔な歩行を妨げている。

ヨクは、何の他意もなく、純粋な労りの気持ちから声をかけた。

「ルクシスじゃん。おはよう。随分とイライラしてるねぇ」

ルクシスは、その声を聞いた瞬間、全身の血液が逆流したかのように硬直した。彼がゆっくりと振り向いた顔は、感情領域の神であるヨクですらなかなかお目にかかれない程怒りに満ち──否、もはや怒りという単なる感情の域すら超えていた。

水色の瞳は、憎悪と羞恥によって冷たく凍りつき、まるで殺意すら内包しているかのような形相で、ヨクを真正面から睨みつける。

ヨクは、その恐ろしい形相にも関わらず、表情を変えずに言葉を続けた。

「もしかして、昨日オレがしすぎちゃった?腰、痛んでる?冷やすもの貰ってこようか?」

ヨクは、あくまで親切心から、軽い口調で尋ねる。その無邪気な優しさが、ルクシスの内に渦巻く怒りの炎に油を注いだ。

「貴ッ様ァアッ!!この下劣なるッピンク頭ッ!!!」

真理の神はそのよく通る声で、血を吐くような激しい罵倒を吐き出した。その声には、断じて許さないという、呪いにも似た強い意志が込められている。

「この俺を、汚らわしい欲に溺れさせ、恥辱に晒しておいて、よくもぬけぬけと俺の前に現れたな!! 法が許すのであれば俺は貴様など、今すぐ存在の根源から切り裂いてやるのに!!!」

「あはは、それは良かった。法律があって」

「殺すぞッ!!!」

怒りに喘ぎながら、ルクシスは激情を吐き出す。

「貴様の勝手な行いの所為で、俺は職務を放棄させられた!虚飾の神だ!あれほどの嘘を積み上げた罪人を取り逃がして……貴様はどれほど迷惑をかけたかわかっているのか!」

その糾弾を聞き、ようやくヨクの橙色の瞳に、真剣な光が宿った。

「ああ……それは、悪いことをしちゃったね。 じゃあ、一緒に探すの手伝うよ」

「断るッ!!貴様と行動するくらいなら、落雷に撃たれた方がマシだ!!二度と俺に触れるな!歩く猥褻汚物が!」

「まあまあ、そう怒んないで。だって、キミ、今、腰が悲鳴あげてるでしょ。一人じゃ無理だよ」

ヨクは、ルクシスの屈辱を意図せず突きながら、にこにこと笑顔で煽る。ルクシスは自身の血管がぶちりと切れる音が聞こえた気がした。

「それに、仕事とはいえ原因を作ったのはオレだしね。心配しなくても、人探しにはそこそこ役に立つよ?」

「貴様のような強姦魔が何に役立つというのだ!!──おい、やめろ!触るな!殺すぞ!!」

「法が許してたら、でしょ?ふふふっ、今日も楽しくなりそうだな」

ルクシスの刺すような拒絶の意思を完全に無力なものとして扱い、ヨクは楽しそうにルクシスの腕を引き、腰を支えながら歩き出した。

静謐な天界を、怒りを含んだ声と、楽しげに弾む笑い声が遠慮なく踏み荒らしていく。澄んだ空気は割れることもなく、ただ薄く波打ちながら、その不調和を受け入れていた。
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