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出会い
第九話 追跡と逃走
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ルクシスが声を上げて抵抗し、殺意を込めた眼差しを突き刺す中、ヨクはまるで子猫を扱うかのように軽やかにリードした。
「そんな力まないで。歩きにくいでしょ?」
「余計なことするなッ!!その汚らわしい手で俺に触れるな!放せ!」
ルクシスは、穢れを避けるように罵倒しながら暴れるが、激しく動くたびに、昨日刻まれた肉体の屈辱的な記憶が、腰の奥で鋭い痛みとなって閃く。痛みで一瞬止まったのを、ヨクは見逃さない。
ヨクはその動きの詰まりを愉悦の色で受け止めると、顔を耳元へ寄せ囁き、腰の庇っている部分を優しく、そしてねっとりと撫でた。
「身体は正直なのにねぇ」
「ひ……ッ」
ルクシスはその撫で方に、昨日の淫靡な出来事がフラッシュバックし、怒りと羞恥で喉が詰まる。暴れるたびに動きを止められ、それをヨクに見破られて触れられるこの一連の行為は、ルクシスにとって、魂を削るような屈辱だった。
「オレの権能も、人探しには役に立つんだからさ。ほら、あっちの方とか、すごい……あれ?」
ヨクは立ち止まり、ルクシスの身体を撫でる手を止めて、遠くの空間に視線を向け橙色の目を細めた。
「なんか、よくわからない欲がある。なんだろあれ……何?」
「知るか!!この、手を、退けろ!! どうせ暗がりに連れ込んで、また淫らな事をするつもりなんだろうッ!!」
「想像力豊かだなぁ……そんなことしないから行ってみようよ」
「行かないッ!!引きずるな!!離せ、脳みそピンク!!!淫乱神!!!強姦魔!!!!」
ヨクは、ルクシスの腕を再度掴むと、腰を庇っているせいで抵抗できないルクシスを、強引に引き摺っていった。ルクシスは、憎悪を込めた罵倒と罵声を、ヨクの背中に浴びせ続ける。
二人が、一方的な罵り合いを続けながら、問題の欲の方向へ向かっていると、突然、ヨクが捉えていた欲の対象が、自分たちの方向とは逆の方向に全速力で走り出した。
「あ、逃げた?」
「何?」
ヨクは、純粋な疑問を口にする。
ルクシスはその言葉を聞いて、冷たい眼差しを鋭く研ぎ澄ませた。
「俺の声を聞いて逃げる奴は、大抵後ろめたいことがある奴だッ!」
ルクシスはそう断定すると、腰の痛みなどなかったかのように、白金の衣を翻して走り出した。
猛烈な勢いで先行するルクシスの背中を見て、ヨクはただ腕を組んでその場に立ち尽くす。
「自分の声が通る自覚あったんだなぁ」
***
ヨクが追いついた時、そこは既に、苛烈な裁きの場と化していた。
ルクシスは、激しく息を上げながらも、昨日逃した虚飾の神を、地の底に縫い付けるように押さえつけ、その首を激情と秩序欲を込めてギチギチに締め上げていた。
「嘘をつくなと言っている!この虚偽の塊め!貴様の罪は、昨日、俺の屈辱とともに逃げおおせたが、二度目はない!裁きを受けるがいい!」
ルクシスは、憎悪と職務意識に駆られ、激しい罵倒を浴びせ続ける。
「おお、もう捕まえてる。足が速いね」
ヨクは、その乱れた髪と、鬼気迫るルクシスの姿を眺め、感心したように褒めた。
ルクシスはそれを無視し、虚飾の神への詰問と罵倒を続ける。裁定から逸脱し、個人的な怒りも入り交じった激しすぎる詰問の様子に、ヨクは困ったように眉を下げる。その締め上げる手に込められた支配欲は、再び危険な領域に達しつつあった。
「あのさ、ルクシス」
ヨクは、その熱を静かに見つめ、声をかける。
「あんまり支配欲と秩序欲を上げすぎると、またオレが仕事しないといけなくなるから、程々にね」
その悪意のない、しかし最も屈辱的な、真理の言葉が、ルクシスの耳に届いた。
カッと、ルクシスの顔が赤くなる。それは怒りか、羞恥か、あるいは再び身体が反応する恐怖か。彼の水色の瞳は大きく見開かれ、ヨクの顔と、掴んでいる神とを、交互に見た。
「……ッ、煩い!!」
ルクシスはヨクを怒鳴りつけ、ギリギリと歯軋りをする。しかしその手は、虚飾の神の首から、わずかに、本当にわずかだが、力を緩めた。
ヨクの提案に屈したわけではない。ただ、あの「治療」を二度と受けたくないという、根源的な恐怖が、彼の理性の歯止めとなっていた。
「そんな力まないで。歩きにくいでしょ?」
「余計なことするなッ!!その汚らわしい手で俺に触れるな!放せ!」
ルクシスは、穢れを避けるように罵倒しながら暴れるが、激しく動くたびに、昨日刻まれた肉体の屈辱的な記憶が、腰の奥で鋭い痛みとなって閃く。痛みで一瞬止まったのを、ヨクは見逃さない。
ヨクはその動きの詰まりを愉悦の色で受け止めると、顔を耳元へ寄せ囁き、腰の庇っている部分を優しく、そしてねっとりと撫でた。
「身体は正直なのにねぇ」
「ひ……ッ」
ルクシスはその撫で方に、昨日の淫靡な出来事がフラッシュバックし、怒りと羞恥で喉が詰まる。暴れるたびに動きを止められ、それをヨクに見破られて触れられるこの一連の行為は、ルクシスにとって、魂を削るような屈辱だった。
「オレの権能も、人探しには役に立つんだからさ。ほら、あっちの方とか、すごい……あれ?」
ヨクは立ち止まり、ルクシスの身体を撫でる手を止めて、遠くの空間に視線を向け橙色の目を細めた。
「なんか、よくわからない欲がある。なんだろあれ……何?」
「知るか!!この、手を、退けろ!! どうせ暗がりに連れ込んで、また淫らな事をするつもりなんだろうッ!!」
「想像力豊かだなぁ……そんなことしないから行ってみようよ」
「行かないッ!!引きずるな!!離せ、脳みそピンク!!!淫乱神!!!強姦魔!!!!」
ヨクは、ルクシスの腕を再度掴むと、腰を庇っているせいで抵抗できないルクシスを、強引に引き摺っていった。ルクシスは、憎悪を込めた罵倒と罵声を、ヨクの背中に浴びせ続ける。
二人が、一方的な罵り合いを続けながら、問題の欲の方向へ向かっていると、突然、ヨクが捉えていた欲の対象が、自分たちの方向とは逆の方向に全速力で走り出した。
「あ、逃げた?」
「何?」
ヨクは、純粋な疑問を口にする。
ルクシスはその言葉を聞いて、冷たい眼差しを鋭く研ぎ澄ませた。
「俺の声を聞いて逃げる奴は、大抵後ろめたいことがある奴だッ!」
ルクシスはそう断定すると、腰の痛みなどなかったかのように、白金の衣を翻して走り出した。
猛烈な勢いで先行するルクシスの背中を見て、ヨクはただ腕を組んでその場に立ち尽くす。
「自分の声が通る自覚あったんだなぁ」
***
ヨクが追いついた時、そこは既に、苛烈な裁きの場と化していた。
ルクシスは、激しく息を上げながらも、昨日逃した虚飾の神を、地の底に縫い付けるように押さえつけ、その首を激情と秩序欲を込めてギチギチに締め上げていた。
「嘘をつくなと言っている!この虚偽の塊め!貴様の罪は、昨日、俺の屈辱とともに逃げおおせたが、二度目はない!裁きを受けるがいい!」
ルクシスは、憎悪と職務意識に駆られ、激しい罵倒を浴びせ続ける。
「おお、もう捕まえてる。足が速いね」
ヨクは、その乱れた髪と、鬼気迫るルクシスの姿を眺め、感心したように褒めた。
ルクシスはそれを無視し、虚飾の神への詰問と罵倒を続ける。裁定から逸脱し、個人的な怒りも入り交じった激しすぎる詰問の様子に、ヨクは困ったように眉を下げる。その締め上げる手に込められた支配欲は、再び危険な領域に達しつつあった。
「あのさ、ルクシス」
ヨクは、その熱を静かに見つめ、声をかける。
「あんまり支配欲と秩序欲を上げすぎると、またオレが仕事しないといけなくなるから、程々にね」
その悪意のない、しかし最も屈辱的な、真理の言葉が、ルクシスの耳に届いた。
カッと、ルクシスの顔が赤くなる。それは怒りか、羞恥か、あるいは再び身体が反応する恐怖か。彼の水色の瞳は大きく見開かれ、ヨクの顔と、掴んでいる神とを、交互に見た。
「……ッ、煩い!!」
ルクシスはヨクを怒鳴りつけ、ギリギリと歯軋りをする。しかしその手は、虚飾の神の首から、わずかに、本当にわずかだが、力を緩めた。
ヨクの提案に屈したわけではない。ただ、あの「治療」を二度と受けたくないという、根源的な恐怖が、彼の理性の歯止めとなっていた。
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