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出会い
第十三話 記憶に無いシーツ
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意識が浮上する感覚は、マキナにとって常に整然としたデータの読み出しに似ていた。
しかし、覚醒の瞬間に肌を撫でた感触は、彼の記憶にあるどの記録とも一致しなかった。
記憶にある自身の寝床のシーツは、もっと硬く、糊のきいた清潔な張りのある布の感触のはずだ。だが、今背中を包んでいるのは、吸い付くように滑らかで、どこか淫らな柔らかさを持つ艶布の感触。
微かな戦慄とともに瞼を持ち上げると、そこには至近距離で、この世のものとは思えぬほど美しい微笑みを湛えた男がいた。
「おはよう、マキナ。よく眠れた?」
すぐ隣で、あどけないほど無垢な、それでいて底知れぬ色気を孕んだ笑みを浮かべるヨクが、当然のように横たわっていた。
「ひっ……!? わあああああッ!!」
心臓が跳ね上がり、マキナは裏返った悲鳴を上げて飛び起きた。そのまま本能的にその場を離れようと身をよじったが、次の瞬間、自身の肌に何の遮りもなく空気が触れていることに気づき、さらに甲高い悲鳴を重ねる。
「なっ……な、ななな、何故、俺は……ッ!!」
真っ白な肌を、乱れたシーツごとひっ掴むようにして抱え込み、必死にその身を隠す。赤銅色の髪を振り乱し、顔を真っ赤に染めて震える様は、高潔な神の面影など微塵もなく、無残に散らされた直後の生娘のようであった。
マキナは必死に記憶を検索する。だが、整然としていたはずの書庫は、あの熱い口づけと、執務机の上で無造作に暴かれた衝撃、そして奥深くまで貫かれ、内側をかき乱された凄まじい熱の奔流を最後に、ぷつりと途切れていた。
「……ここは、どこですか。……答えなさい!」
「オレの家だよ?」
ヨクは、何の罪悪感もない声で告げた。
「キミが、抱いてる途中で気絶しちゃったからね。記憶の間にそのまま放置するわけにもいかないし、どうせなら寝心地のいい場所がいいだろ? 連れてきちゃった」
「……ッ、最低です……!」
「はは、よく言われるよ。ほら、服。そんなにシーツにくるまってたら、着替えられないよ?」
ヨクはクスクスと喉を鳴らして笑いながら、傍らにまとめられていたマキナの重厚なローブと眼鏡を差し出した。マキナはそれをひったくるように奪い取ると、震える手で、しかし驚異的な速度で身に纏っていく。合わせが逆になっていることも厭わず、ただ一刻も早く、この欲の毒気に当てられた空間から逃れたい一心で。
「っ……二度と、俺の前に現れないでください!!」
捨て台詞を残し、マキナは神殿の出口へと走り出した。それは逃走という他ない、無様な敗走であった。
遠ざかる背中を眺めながら、ヨクはふかふかの枕に頭を沈め、満足げに目を細める。
「ふふ。いい感じに、虚飾の神の件は忘れてくれたみたいだね」
ヨクの狙い通り、マキナの脳内は今、ルクシスの不可解な行動を追及する余地など微塵も残っていない。ただ、刻みつけられた生々しい屈辱と快楽の記憶に、嵐のようにかき乱されているだけだ。
「さーて、次は何しようかな」
彼は無邪気な欲の神へと戻り、今日の予定を考え始めた。
一方、マキナは、道すがら何度も自分のローブの裾を掴み、胸の内で怒りに打ち震えていた。
歩を進めるたび、衣服と擦れる肌の感覚が、昨夜の執拗な愛撫の記憶を鮮烈に呼び覚ます。
忘れなければならない「記録」が、熱を持ったまま、マキナの脳裏にこびりついて離れようとしなかった。
しかし、覚醒の瞬間に肌を撫でた感触は、彼の記憶にあるどの記録とも一致しなかった。
記憶にある自身の寝床のシーツは、もっと硬く、糊のきいた清潔な張りのある布の感触のはずだ。だが、今背中を包んでいるのは、吸い付くように滑らかで、どこか淫らな柔らかさを持つ艶布の感触。
微かな戦慄とともに瞼を持ち上げると、そこには至近距離で、この世のものとは思えぬほど美しい微笑みを湛えた男がいた。
「おはよう、マキナ。よく眠れた?」
すぐ隣で、あどけないほど無垢な、それでいて底知れぬ色気を孕んだ笑みを浮かべるヨクが、当然のように横たわっていた。
「ひっ……!? わあああああッ!!」
心臓が跳ね上がり、マキナは裏返った悲鳴を上げて飛び起きた。そのまま本能的にその場を離れようと身をよじったが、次の瞬間、自身の肌に何の遮りもなく空気が触れていることに気づき、さらに甲高い悲鳴を重ねる。
「なっ……な、ななな、何故、俺は……ッ!!」
真っ白な肌を、乱れたシーツごとひっ掴むようにして抱え込み、必死にその身を隠す。赤銅色の髪を振り乱し、顔を真っ赤に染めて震える様は、高潔な神の面影など微塵もなく、無残に散らされた直後の生娘のようであった。
マキナは必死に記憶を検索する。だが、整然としていたはずの書庫は、あの熱い口づけと、執務机の上で無造作に暴かれた衝撃、そして奥深くまで貫かれ、内側をかき乱された凄まじい熱の奔流を最後に、ぷつりと途切れていた。
「……ここは、どこですか。……答えなさい!」
「オレの家だよ?」
ヨクは、何の罪悪感もない声で告げた。
「キミが、抱いてる途中で気絶しちゃったからね。記憶の間にそのまま放置するわけにもいかないし、どうせなら寝心地のいい場所がいいだろ? 連れてきちゃった」
「……ッ、最低です……!」
「はは、よく言われるよ。ほら、服。そんなにシーツにくるまってたら、着替えられないよ?」
ヨクはクスクスと喉を鳴らして笑いながら、傍らにまとめられていたマキナの重厚なローブと眼鏡を差し出した。マキナはそれをひったくるように奪い取ると、震える手で、しかし驚異的な速度で身に纏っていく。合わせが逆になっていることも厭わず、ただ一刻も早く、この欲の毒気に当てられた空間から逃れたい一心で。
「っ……二度と、俺の前に現れないでください!!」
捨て台詞を残し、マキナは神殿の出口へと走り出した。それは逃走という他ない、無様な敗走であった。
遠ざかる背中を眺めながら、ヨクはふかふかの枕に頭を沈め、満足げに目を細める。
「ふふ。いい感じに、虚飾の神の件は忘れてくれたみたいだね」
ヨクの狙い通り、マキナの脳内は今、ルクシスの不可解な行動を追及する余地など微塵も残っていない。ただ、刻みつけられた生々しい屈辱と快楽の記憶に、嵐のようにかき乱されているだけだ。
「さーて、次は何しようかな」
彼は無邪気な欲の神へと戻り、今日の予定を考え始めた。
一方、マキナは、道すがら何度も自分のローブの裾を掴み、胸の内で怒りに打ち震えていた。
歩を進めるたび、衣服と擦れる肌の感覚が、昨夜の執拗な愛撫の記憶を鮮烈に呼び覚ます。
忘れなければならない「記録」が、熱を持ったまま、マキナの脳裏にこびりついて離れようとしなかった。
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