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出会い
第十六話 路地裏の邂逅
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先日の騒動が嘘のように、天界の空は澄み渡り、無機質な光が白磁の街並みを照らし出していた。しかし、その清涼な空気さえも、一度ヨクの口が開けば粘着質な湿り気を帯びて変質していく。
「──って感じでさぁ。もう、マキナもノゾミも凄まじい気迫で。結局抱くどころじゃなくなっちゃったんだよね」
まるで昨夜見た喜劇の感想でも語るかのような軽薄な調子。朱と桃色が混じり合う三編みの先を指で弄びながら、ヨクは隣で彫像のように硬直している男神──ルクシスへと、その「世間話」を垂れ流していた。
ルクシスの額には、隠しきれない青筋が鮮やかに浮かび上がっている。プラチナブロンドの長髪を揺らし、彼は抜き身の刃にも似た視線でヨクを射抜いた。
「……なぜ、それを俺に話す。貴様の、その……反吐が出るほど爛れた交友関係など、一文字たりとも耳に入れたくないと言ったはずだ。気軽に話しかけるな、ピンク頭」
「えー、だってルクシス、暇そうに突っ立ってたから。話し相手くらいにはなってくれるかなって」
「暇ではない……!張り込み中だと言っているだろう!貴様のその、虫唾が走るような乱れた交友関係など、これっぽっちも興味はない。二度と俺に、その不浄な口を開くなと何度も……ッ!」
睨みつける水色の瞳には、憎悪と、そして必死に抑え込んでいる羞恥の色が混ざり合っている。だが、ヨクはそんなルクシスの殺気など、心地よいそよ風程度にしか感じていない。
「そうは言ってもさ、元を辿ればマキナがオレを呼び出したのは、ルクシスが虚飾の神の件を黙秘したからなんだよ? 責任、感じてくれないかなぁ」
ヨクが唇を尖らせて揶揄うように言うと、ルクシスの顔は瞬時に、沸騰したかのような赤に染まった。
「貴様ッ……! 貴様が、あの日……あのような、淫らなことを、俺にしてきたから……っ! 取り逃がしたと言っているだろうが!!」
もはや張り込みという任務さえ忘れ、ルクシスは喉を震わせて怒鳴りつけた。あの日、己の理性を、神格を、文字通り中からかき乱し、溶かした「ピンク頭」への呪詛。
だが、ヨクはなおもヘラヘラと笑いながら、ルクシスの強張った肩に慣れなれしく腕を回した。
「それは悪かったと思ってるって。でもさ、オレも仕事しなきゃいけないくらい、あの時のキミの秩序欲、すごいことになってたから。……ね? 身体が欲しがってたんだし、仕方な──」
「気安く触るなッ!!」
次の瞬間、ヨクの視界が上下逆転した。
綺麗な一本背負い。受け身すら取らせぬ、怒りの込められた鮮やかな一撃だった。
石畳に鈍い音が響き、ヨクはなすすべもなく無様に地面に叩きつけられる。
「……い゛っ、てて……。本当に容赦ないなぁ」
仰向けに倒れた視界の先、真上から殺意と羞恥をないまぜにした冷徹な瞳が、ヨクを見下ろしていた。
このまま絡み続けても、これ以上は対話ではなく物理的な破壊が飛んでくるだけだろう。
ヨクはよろよろと立ち上がり、砂を払うと、苦笑いを浮かべて降参の意を示す。
「わかった、わかったよ。仕事の邪魔してごめんって。オレも大人しく自分の仕事に戻るよ……じゃあね、ルクシス」
逃げるようにその場を離れたヨクは、背中に刺さるルクシスの痛烈な視線をやり過ごしながら、肩を竦めて入り組んだ路地裏へと足を進めた。
天界の華やかな大通りとは打って変わり、湿った影が濃く落ちる石造りの道。
その突き当たりに、彼は立っていた。
くすんだ銀髪を雑にまとめ、服の片側を大きく着崩した男。
日焼けした浅黒い肌から放たれる圧倒的な生命感と、不敵な笑み。
「──見つけたぜ、欲の神」
男の瞳は、燃えるような赤。
節くれだった力強い指先が、獲物を見定めたようにゆっくりとヨクへ向けられた。
「……テメェの運命、今日ここで、俺が盛大に掻き乱してやるよ」
「──って感じでさぁ。もう、マキナもノゾミも凄まじい気迫で。結局抱くどころじゃなくなっちゃったんだよね」
まるで昨夜見た喜劇の感想でも語るかのような軽薄な調子。朱と桃色が混じり合う三編みの先を指で弄びながら、ヨクは隣で彫像のように硬直している男神──ルクシスへと、その「世間話」を垂れ流していた。
ルクシスの額には、隠しきれない青筋が鮮やかに浮かび上がっている。プラチナブロンドの長髪を揺らし、彼は抜き身の刃にも似た視線でヨクを射抜いた。
「……なぜ、それを俺に話す。貴様の、その……反吐が出るほど爛れた交友関係など、一文字たりとも耳に入れたくないと言ったはずだ。気軽に話しかけるな、ピンク頭」
「えー、だってルクシス、暇そうに突っ立ってたから。話し相手くらいにはなってくれるかなって」
「暇ではない……!張り込み中だと言っているだろう!貴様のその、虫唾が走るような乱れた交友関係など、これっぽっちも興味はない。二度と俺に、その不浄な口を開くなと何度も……ッ!」
睨みつける水色の瞳には、憎悪と、そして必死に抑え込んでいる羞恥の色が混ざり合っている。だが、ヨクはそんなルクシスの殺気など、心地よいそよ風程度にしか感じていない。
「そうは言ってもさ、元を辿ればマキナがオレを呼び出したのは、ルクシスが虚飾の神の件を黙秘したからなんだよ? 責任、感じてくれないかなぁ」
ヨクが唇を尖らせて揶揄うように言うと、ルクシスの顔は瞬時に、沸騰したかのような赤に染まった。
「貴様ッ……! 貴様が、あの日……あのような、淫らなことを、俺にしてきたから……っ! 取り逃がしたと言っているだろうが!!」
もはや張り込みという任務さえ忘れ、ルクシスは喉を震わせて怒鳴りつけた。あの日、己の理性を、神格を、文字通り中からかき乱し、溶かした「ピンク頭」への呪詛。
だが、ヨクはなおもヘラヘラと笑いながら、ルクシスの強張った肩に慣れなれしく腕を回した。
「それは悪かったと思ってるって。でもさ、オレも仕事しなきゃいけないくらい、あの時のキミの秩序欲、すごいことになってたから。……ね? 身体が欲しがってたんだし、仕方な──」
「気安く触るなッ!!」
次の瞬間、ヨクの視界が上下逆転した。
綺麗な一本背負い。受け身すら取らせぬ、怒りの込められた鮮やかな一撃だった。
石畳に鈍い音が響き、ヨクはなすすべもなく無様に地面に叩きつけられる。
「……い゛っ、てて……。本当に容赦ないなぁ」
仰向けに倒れた視界の先、真上から殺意と羞恥をないまぜにした冷徹な瞳が、ヨクを見下ろしていた。
このまま絡み続けても、これ以上は対話ではなく物理的な破壊が飛んでくるだけだろう。
ヨクはよろよろと立ち上がり、砂を払うと、苦笑いを浮かべて降参の意を示す。
「わかった、わかったよ。仕事の邪魔してごめんって。オレも大人しく自分の仕事に戻るよ……じゃあね、ルクシス」
逃げるようにその場を離れたヨクは、背中に刺さるルクシスの痛烈な視線をやり過ごしながら、肩を竦めて入り組んだ路地裏へと足を進めた。
天界の華やかな大通りとは打って変わり、湿った影が濃く落ちる石造りの道。
その突き当たりに、彼は立っていた。
くすんだ銀髪を雑にまとめ、服の片側を大きく着崩した男。
日焼けした浅黒い肌から放たれる圧倒的な生命感と、不敵な笑み。
「──見つけたぜ、欲の神」
男の瞳は、燃えるような赤。
節くれだった力強い指先が、獲物を見定めたようにゆっくりとヨクへ向けられた。
「……テメェの運命、今日ここで、俺が盛大に掻き乱してやるよ」
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