ヨクに溺れる

新月ポルカ

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出会い

第十八話 「雌にされる」

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 薄暗い路地裏の湿った空気が、二人の神の体温で熱を帯びて淀んでいる。
 ヨクの手つきは、まさに「開発」という言葉が相応しい、怜悧で残酷なまでの精度を誇っていた。

「運命を乱しに来たんだろ?ほら、望み通りめちゃくちゃにしてあげる」

「……ッ、ふ、ざけんな……。俺を……翻弄しようたって、そうはいかねぇ……ッ」

 ヨクの囁きは、慈愛に満ちた毒のようにアナンカリオの鼓膜を這う。
 再び力を振り絞り、肩を押し返そうとしたアナンカリオの厚い手のひらは、ヨクの白い指に優しく、けれど逃げ場を封じるように握り込まれる。指の節々を、手のひらを、皮膚が擦れ合う微かな熱で執拗に愛撫され、くすぐったいような、それでいて芯から疼くような刺激が伝播していく。

 同時に、口内ではヨクの舌が蛇のようにアナンカリオの舌を絡めとり、逃げ場のない快楽を喉の奥まで押し付けてきた。鼻を抜ける苦悶の混じった喘ぎが、ヨクの喉に直接伝わる。

 意識を混濁させる舌の絡み合いの傍らで、ヨクのもう片方の手は、既に限界まで猛り狂っていたアナンカリオの「雄」の象徴へと伸びていく。

「……あ、っ、ん、ンッ……!クソっ……!」

 服越しに与えられる、一定のリズムを持った執拗な摩擦。その直接的な刺激に、アナンカリオの脳は混線を起こし、正常な判断力を焼き切られていく。

 気持ち悪い、不快だ、そう叫んでいたはずの理性が、ヨクから与えられる刺激のたびに、塗りつぶされていく。これは、気持ちが良いことなのだと。これは、抗うべきではない快楽なのだと、脳の深奥へ、じわり、じわりと刷り込まれていった。

 必死に押し返そうとしていたアナンカリオの指先から、またしても力が抜けていく。ヨクに握られたままの手のひらは、今や快楽を受け入れるための窓口と化していた。
ヨクの舌が口内をかき回すたび、中心を愛でるたび、脳の芯が痺れ、与えられる刺激のすべてが「正解」であるかのように錯覚し始める。

 力が抜けたのを合図とするように、ヨクの指先はアナンカリオの胸元の、その逞しい肉体に不釣り合いなほど小さく突き立った突起へと滑らせた。

 男の胸など、弄られて快感などあるはずがない。そう信じていたアナンカリオの確信は、ジンジンと脈打つような熱に変わる。
 下腹部で水音を立てながら上下に擦り上げられる熱い刺激と、胸を執拗に転がされる感覚。それらが神経の中で一本の線に繋がった瞬間、アナンカリオは、乳首を弄られることに甘美な悦びがあるのだという、歪な真実の虜となった。

「……っ、ぁ、!ちが、……なん、で……ッ」

「ふふ、ちゃぁんと覚えて帰ってね。今日からここは、キミの『気持ちいいところ』になるんだ」

 片肩をはだけさせた服が、抵抗の拍子にずり落ち、浅黒い肌が闇の中で艶かしく光る。
 掠れた声で問いかけるアナンカリオの瞳は、既に快楽の毒に当てられ、潤んで虚空を泳いでいた。ヨクはそれを満足げに見つめ、さらに深く、その逞しい肉体へ欲を植え付けていく。

 甘やかだが、真綿で絞めるようにじわじわと侵食してくる快楽に、アナンカリオはとうとう限界を超え、昂ぶりを吐き出したいという本能に脳まで支配され始めていた。
だが、ヨクの手は肝心なところで力を緩め、絶頂の縁で彼を宙吊りにしたまま、執拗な愛撫を繰り返す。

「……あっ、お、い……もう、いいだろ……ッ!出させろ、早く……ッ」

 荒い呼吸を吐き出し、アナンカリオはもはやプライドをかなぐり捨ててヨクの腕に縋りついた。自分を攻め立てる快楽の主導権を、完全にヨクへ差し出すという敗北の宣言。

「ふふ、いいの?そんなに急かして。……キミ、これから女の子になっちゃうんだよ?」

「は、……ッ?どう、いう、……ぁ、あッ!?」

 ヨクは慈愛に満ちた、けれど残酷なまでに艶やかな笑みを浮かべた。誰にも触れさせたことのないアナンカリオの最奥の入り口へと指を滑らせる。

 初めての異物感に全身が強張り、一瞬の恐怖が背筋を駆け抜ける。運命の神としての自尊心が警鐘を鳴らす。
 しかし、その恐怖さえも、前を容赦なく擦り上げられる強烈な刺激と、後ろを拡げられる未知の感覚によって、甘美な霧へと溶かされていった。

 指が一心不乱に中を解し、二本、三本と増えていくたびに、ぬち、ぐちゅ、と卑猥な水音が路地に跳ねる。空気を含んだ粘膜の鳴る音が、アナンカリオのプライドを木っ端微塵に砕いていく。

「ぁ、あ……っ、ぅぐ……ゔ!」

 腰の力が完全に抜け、崩れ落ちるアナンカリオの肢体を、ヨクは優しく誘導して冷たい石畳へと寝そべらせた。
 ヨクは、恐怖に瞳を揺らすアナンカリオを宥めるように、慈愛に満ちたキスを何度も落とす。震える肌を大きな手でさすり、耳元で大丈夫だと囁きながら、焦らすようにその巨躯をアナンカリオの入り口へと宛がった。

「ま、……待て……ッ!だめ、だ……!」

「大丈夫、絶対気持ちいいよ。虜になっちゃうくらいにね」

 甘く低い囁きが毒のように回る中、ヨクの剛直がゆっくりと、割れ目の奥へと沈み込んでいった。アナンカリオの腹筋が反射でびくりと小さく痙攣する。

 けれど、ヨクは決して奥までは来なかった。入り口の狭い部分だけを浅く出し入れし、時折、前立腺の端をかすめるだけの、あまりにも残酷な生殺し。

 アナンカリオ自身は決して認めたくはないが、どんなものなのだろうと、この開発によって芽吹いていた期待が目の前でお預けされ、気が狂いそうになるほどに「ソレ」が欲しくてたまらなくなる。

「……あ、っ……ぁ!クソッ……もっと、奥、まで……ッ!奥、入れろよ……ッ!!」

「……あはは!良いよ、お望み通りに」

 ついにこらえきれず、アナンカリオが自ら望みを叫んだ。
 ヨクの瞳に、獲物を完全に仕留めた捕食者の色が宿る。
 にんまりと唇を吊り上げ舌なめずりをすると、容赦のない速度で最奥までを貫いた。

「あ゛っ、……あ、あ゛あああああッ!!!」

 それは、まさに「雌にされる」という言葉が相応しい、暴力的で容赦のない、徹底的な蹂躙だった。

 雄として優秀な、あまりに重く太い熱が、アナンカリオの胎を内側から無理やり押し広げていく。ヨクはアナンカリオの中にある未開発な膨らみを、逃さぬように、壊すように、しつこく、甘やかにこね回した。

 ここが快感を得るための器官であると、魂の最奥に分からせるために。

「お゛ッ、ま、……待゛てッ……イ゛、イくっ!イ、……や゛ッ、あ゛ぁっ、あああ゛ーーッ!!」

 奥まで貫かれるたびに、アナンカリオの意識は白濁し、自分が何を叫び、どんな無様な表情を浮かべていたのかさえも記憶の彼方へと吹き飛んでいった。
 ただ、己が「雌」へと堕とされていくという強烈な絶頂の感触だけが、永遠のように続いていた──







 絶頂の果てに、何回、何を喚き散らしたのかも覚えていない。
 ただ、激しく上下する胸板と、石畳に散った自身の吐息の熱さだけが、現実味を持っていた。

 手足を投げ出し、無様に痙攣するアナンカリオとは対照的に、ヨクは息一つ乱さぬ余裕で、暴力的なまでの色気を纏いながら見下ろしてくる。

「男に抱かれるのも、悪くないだろ?」

「……っ、ふざ、けんな……。こんなの、ぜってーに認めねぇ……っ。次は、俺が、抱く……ッ」

 絶頂の余韻に支配された身体は、指先一つ動かすことさえ叶わない。テンプレートのような捨て台詞を吐き捨てるのが精一杯のアナンカリオを見て、ヨクは可笑しそうに肩を揺らした。

「あはは、元気だねぇ。……ほら、立てる?」

 差し出された手。アナンカリオは屈辱に顔を歪めながらも、その手を取らざるを得なかった。だが、立ち上がろうとした瞬間に腰が砕け、再びヨクの胸元へと倒れ込む。結局、ヨクの肩に完全に体重を預け、寄り添うような形でしか歩くことができない。

「おっと。……無理しなくていいよ。このまま神殿まで送ってあげる」

「……っ、クソ!次は絶対、俺がテメェを抱くからな……!マジだからな……っ!」

 支えられ、縋るように歩きながらも、アナンカリオは必死に負け惜しみを並べ立てる。そのプライドを木っ端微塵にされながらも、離れられない体温が悔しくてたまらない。

「テメェ、じゃなくて、ヨク、ね。……改めてよろしく、アナンカリオ」

 初めてその口から紡がれた「ヨク」という名。
 運命の神は、その響きに掻きむしりたくなるようなむず痒さを感じながら、ただぶつぶつと再戦の誓いを呟き続けるしかなかった。
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