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番外編
《アナンカリオ》バレンタインに溶けるブラウン-後編-
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「アナンカリオって、熱いの平気?」
不意に投げかけられた問いは、静まり返ったキッチンから、湯気とともにふわりと漂ってきた。
放置された肉体が欲情に突き動かされ、行き場のない熱に苛まれているというのに、主の言葉はどこまでも平坦で無邪気だ。
「……あァ? そんなもん、どうだっていいだろ。完成したんならさっさと持ってきやがれ!」
投げやりな怒声は、半分以上が焦燥だ。どうせ下界の真似事をして、甘ったるい菓子でも食わせようという腹なのだろう。熱かろうが冷たかろうが、今の自分には、この煮えくり返るような欲のやり場こそが必要だった。
ヨクは「そっか」と短く応じると、ヘラの刺さった小さなボウルを片手に、リビングへと戻ってきた。その足取りは羽よりも軽く、唇には薄く、獲物を追い詰める悦びに満ちた笑みが刻まれている。
「じゃあ、遠慮なく。……ねえ、もっと楽にしてよ」
抗う間もなかった。ヨクは流れるような仕草で、ソファに座り込んでいたアナンカリオを押し倒す。馬乗りになるように腰の上に居座られ、逃げ場を塞がれた。
そしてアナンカリオの中着を容赦なく捲り上げ、斜めに掛かっていた羽織を肩から剥ぎ取る。
冷えた空気に、褐色の肌が晒された。
硬く、逞しく躍動する胸筋と、鋭い溝を刻む腹筋。その荒い呼吸に合わせて上下する無防備な裸身を、ヨクは「美味しそう」とでも言いたげな熱い視線で眺め回した。
「……っ、何……、何するつもりだ……」
問いかける声が震えたのは、恐怖からではない。ヨクがボウルの中のチョコレートを、見せつけるようにゆっくりとヘラで掬い上げたからだ。
先ほどまでの刺すようなビターの色味は消え、ミルクをたっぷりと含んだ柔らかな茶色が、緩やかな粘度を持ってヘラの先から滴っている。
「いくよ」
「……あ?」
返事をする間もなかった。粘度の低い、明るい茶色に変貌した液体が、アナンカリオの腹筋の溝へとひと垂らしされる。
「——ッッ!!」
声にならない悲鳴が喉の奥で跳ねた。
熱い。我慢できないほどではないが、不意打ちで押し付けられるにはあまりにも高熱を孕んだ粘液。
びくん、と全身の筋肉が硬直するように跳ね、呼吸が止まる。じんじんと、火傷のような熱が肌の表面から深部へと浸透していく感覚に、アナンカリオは奥歯を噛み締めて呻いた。
「熱い? ふふ、顔真っ赤」
「……熱いに……決まってんだろ……ッ! テメェ、何考えて……っ」
「大丈夫、すぐ気持ちよくなるから。ね?」
ヨクは楽しげに囁きながら、少しずつ冷えていくチョコレートを広げるように、指先で腹筋の隆起をなぞり始めた。
肌をじりじりと焼くような熱刺激が、指の動きに合わせてゆっくりと移動していく。熱が引くそばから指先の愛撫が追いかけてくる感覚は、痛みと快感の境界線を曖昧に溶かしていく。
「んなわけ……あるか……っ」
虚勢を張る声が、既に微かに震えていた。
アナンカリオは見た。ヨクが再びボウルのヘラを一混ぜし、重力に従って垂れ落ちる次の「熱」を準備しているのを。その攪拌される音、立ち昇る甘い霧、そしてヨクの瞳に宿る嗜虐的な光。
ヨクはボウルの中でヘラをゆっくりと一混ぜし、わざとらしく、粘り気のある茶色の液体をかき混ぜて見せた。カチャカチャという陶器の音が、処刑を待つ合図のように耳に届く。
「次はここをデコレーションしちゃおうかな~」
わざとらしく弾んだ、あまりに天真爛漫な声音。ヨクは首を傾け、蕩けるような視線をアナンカリオの胸元へと落とした。その視線の先にあるものを悟った瞬間、アナンカリオの背筋を、先ほどまでの熱とは異なる、鋭利な戦慄が駆け抜ける。
ヨクが狙っているのは、浅黒い肌の上で硬く尖り、今や恐怖と期待で震えている乳首だ。
「待て……やめろ、そこは、ッ……!」
拒絶の言葉は、熱を帯びた喉の奥でひどく湿って震えた。これから自分を襲うであろう、あの焼けるような熱。
その予感に総毛立ちながらも、アナンカリオの視線はボウルの中でとろりと糸を引くチョコレートに釘付けになっていた。恐怖しているはずなのに、身体の芯からは甘い疼きが競り上がり、裏腹な期待を全身に散らしている。
ヨクはこれ見よがしにヘラを持ち上げ、粘りつく茶色の液体を高く引き上げた。落ちるぞ、という無言の宣告。
アナンカリオの肺は酸素を拒み、浅い呼吸とともに「あ……ッ……はあ……ッ」と、情けないほどに蕩けた喘ぎが唇から溢れ出す。
直後、乳首の尖端にぽたんと一滴、重みのある熱が落とされた。
「ん゙……ッッ♡」
喉の奥を潰したような鳴き声とともに、アナンカリオは顎を跳ね上げ、無防備な喉を晒してのけぞった。
追撃するように、とろとろと乳首全体を覆い隠すチョコレートの奔流。乳輪の柔らかな肌が熱で炙られ、じわじわと痛みにも似た熱が奥底へ浸透していく。
それが苦痛であるはずなのに、麻痺した脳は強烈な快感としてそれを処理し、誤学習を繰り返していく。
「ふふ、さっきより全然美味しそう」
耳元で囁く吐息が、チョコレートよりも熱く鼓膜を震わせる。ヨクはそのまま顔を伏せ、じんじんと敏感に脈打つ乳首を、こそげとるように執拗に舌で舐めとった。
「ぁ゛ッ!、ひぃ♡ぁ、あ゛ッ♡」
ビクビクとのけぞったまま、腰が何度もソファの上で跳ねる。挿入さえされていないのに、あまりの過剰な刺激にアナンカリオは軽い絶頂を迎え、視界が白く濁る。
もはや抵抗の意志など塵ほども残っていない。
その隙を逃さず、ヨクはアナンカリオの乳首を執拗になぶりながら、空いた片手で器用に彼の下衣を剥ぎ取った。
途端に弾け出したそれは、行き場を失った欲の象徴のように反り上がり、ヨクのまだ服を着たままの腹を叩く。
乳首から顔を離したヨクは、満足げに微笑んで、その起立を指先で弾いた。
「次はここね」
宣言の意味を、アナンカリオは一瞬理解できなかった。白濁した意識の中で、呆然とヨクを見上げる。
「かけるよー」という軽い掛け声とともに、ボウルが勃ちあがったペニスの上へと運ばれ、ヘラがその先端を掠める。
そこでようやく、次に何が起こるかを理解したアナンカリオの顔に、羞恥と恐怖が混ざり合った色が広がった。
「や、……ッ、だめ、だ……そこは……!」
必死に首を振るが、ヨクと視線がぶつかった瞬間、逃げ場がないことを悟る。ヨクは容赦なく、怒張した茎の部分に一気にチョコレートを垂らしかけた。
「————~~~~ッッ!!♡゛♡゛♡゛」
声にならない絶叫。
熱による痛みは、一瞬でとてつもない快感へと昇華された。中枢神経が焼き切れるような感覚。アナンカリオは己の意志に関係なく、豪快に、無様に、その身を痙攣させて吐精した。
ちかちかとスパークする視界の中で、アナンカリオは一瞬、意識の糸が切れるのを感じた。しかし、ヨクはそれを許さない。幹にかけられたチョコレートを、自身の吐精物ごと無造作に先端へと塗り広げ、じくじくとした余熱で執拗に神経を焼き続ける。
「あ゛……ぁあ、っ、気が、狂う………ッ」
「美味しそうになったね」
ヨクが満足げに笑い、アナンカリオの足を高く持ち上げた。
視界に入る自分の姿は、あまりにも無残で、あまりにも淫らだった。唾液とチョコでてらてらと光る乳首。腹筋を汚す褐色の跡。
そして、自身の白濁と悪趣味なソースでデコレーションされたまま、なおも立ち尽くす自身の醜態。
自身の精とチョコレートが混ざり合い、滴り落ちて濡れる後穴。そこに、ヨクの熱い先端がぐぢゅりと卑猥な音を立てて押し当てられた。
自分はこれから、この男に食べ尽くされるのだ。
その運命を、心が、魂が、陶酔とともに受け入れていた。
***
意識が浮上したとき、視界に飛び込んできたのは見慣れたヨクの寝室の天蓋だった。アナンカリオは重い身体を引きずるようにして、無造作に放り出されていた四肢を動かし、むくりと上半身を起こす。
節々の気だるさと、下腹部に居座る鈍い熱。そして、後孔に刻まれたじくじくとした甘い痛みが、数刻前までここで繰り広げられていた暴虐なまでの悦楽を雄弁に物語っていた。
「くそ……。また、こんなはずじゃ……」
掠れた声で毒づく。あんな安物の、栄養補給用のチョコを餌に、今度こそこの欲の神を組み伏せてやるつもりだったのだ。
それがどうだ。
デコレーションなどという悪趣味な言葉で飾られ、熱に喘ぎ、最終的にはどろどろに蕩かされて記憶の断片すら朧げときている。
運命の神としての矜持は、あの時、溶けたチョコレートと一緒に全て舐めとられてしまったようだった。
ふと視線を落とせば、枕元にはいつものように、アナンカリオの衣服が律儀に畳まれて置かれていた。ヨクのこういう、事後の妙な丁寧さが、余計に飼い慣らされているようで腹立たしい。
衣服を手に取ると、繊維が擦れるだけで、酷使された乳首や腹筋が過敏に反応する。慎重に、だが苛立ちを隠せない手つきで薄い中着を羽織るが、中着越しでもはっきりと分かるほどに尖りきった己の先端を見て、深い溜息を吐いた。
「あいつ、どこにいやがる……」
気だるい腰を庇うようにしてリビングへと向かえば、甘い匂いが鼻腔を擽る。
ほぼ裸のような状態にエプロンを身に纏ったヨクが、機嫌よさそうにキッチンで立ち働いていた。
「あ、おはようアナンカリオ。ちょうど今出来たところ。そこ座って待ってて」
屈託のない笑顔。つい先刻まで、この男にどれほど蹂躙されていたかを忘れさせるような天真爛漫さだ。
アナンカリオは釈然としない思いを抱えつつ、食卓の椅子にどかっと腰を下ろした。腰の奥がズキリと疼いたが、唇を噛んで無視する。
「じゃーん。フォンダンショコラだよ。初めて作ったから、上手く出来たかわからないけど」
差し出されたのは、粉雪のようなシュガーを纏った小ぶりな焦茶色のケーキ。
ヨクが向かいの席で「いただきます」と手を合わせるのを横目に、アナンカリオも無言でフォークを突き立てた。
その瞬間、外側の生地が割れ、中から熱を帯びたチョコレートがとろりと溢れ出す。
「……ッ」
視覚的なフラッシュバック。自分の肌の上で蠢いていた、あの熱い「欲」の雫が重なる。
背筋をゾワゾワとした甘い痺れが駆け抜け、アナンカリオは喉の奥で、無意識に喘ぎを呑み込んだ。
震える手でそれを口へ運ぶ。
濃厚なカカオの香りが鼻腔を抜け、官能的な甘さが舌の上で溶けた。悔しいほどに計算され尽くした、完璧な温度と味。
「はーー……ぁ。ムカつくほど、うめぇ……」
吐き出したのは、敗北宣言に等しい感嘆だった。
運命を掻き乱し、再戦を挑むはずが、結局は胃袋も神核も、この欲の神の掌の上で弄ばれている。
アナンカリオは銀の髪を乱暴にかき乱しながら、皿に残った甘い残滓を、呪うように、そして愛おしむように、再びフォークで掬い上げて口に運んだ。
不意に投げかけられた問いは、静まり返ったキッチンから、湯気とともにふわりと漂ってきた。
放置された肉体が欲情に突き動かされ、行き場のない熱に苛まれているというのに、主の言葉はどこまでも平坦で無邪気だ。
「……あァ? そんなもん、どうだっていいだろ。完成したんならさっさと持ってきやがれ!」
投げやりな怒声は、半分以上が焦燥だ。どうせ下界の真似事をして、甘ったるい菓子でも食わせようという腹なのだろう。熱かろうが冷たかろうが、今の自分には、この煮えくり返るような欲のやり場こそが必要だった。
ヨクは「そっか」と短く応じると、ヘラの刺さった小さなボウルを片手に、リビングへと戻ってきた。その足取りは羽よりも軽く、唇には薄く、獲物を追い詰める悦びに満ちた笑みが刻まれている。
「じゃあ、遠慮なく。……ねえ、もっと楽にしてよ」
抗う間もなかった。ヨクは流れるような仕草で、ソファに座り込んでいたアナンカリオを押し倒す。馬乗りになるように腰の上に居座られ、逃げ場を塞がれた。
そしてアナンカリオの中着を容赦なく捲り上げ、斜めに掛かっていた羽織を肩から剥ぎ取る。
冷えた空気に、褐色の肌が晒された。
硬く、逞しく躍動する胸筋と、鋭い溝を刻む腹筋。その荒い呼吸に合わせて上下する無防備な裸身を、ヨクは「美味しそう」とでも言いたげな熱い視線で眺め回した。
「……っ、何……、何するつもりだ……」
問いかける声が震えたのは、恐怖からではない。ヨクがボウルの中のチョコレートを、見せつけるようにゆっくりとヘラで掬い上げたからだ。
先ほどまでの刺すようなビターの色味は消え、ミルクをたっぷりと含んだ柔らかな茶色が、緩やかな粘度を持ってヘラの先から滴っている。
「いくよ」
「……あ?」
返事をする間もなかった。粘度の低い、明るい茶色に変貌した液体が、アナンカリオの腹筋の溝へとひと垂らしされる。
「——ッッ!!」
声にならない悲鳴が喉の奥で跳ねた。
熱い。我慢できないほどではないが、不意打ちで押し付けられるにはあまりにも高熱を孕んだ粘液。
びくん、と全身の筋肉が硬直するように跳ね、呼吸が止まる。じんじんと、火傷のような熱が肌の表面から深部へと浸透していく感覚に、アナンカリオは奥歯を噛み締めて呻いた。
「熱い? ふふ、顔真っ赤」
「……熱いに……決まってんだろ……ッ! テメェ、何考えて……っ」
「大丈夫、すぐ気持ちよくなるから。ね?」
ヨクは楽しげに囁きながら、少しずつ冷えていくチョコレートを広げるように、指先で腹筋の隆起をなぞり始めた。
肌をじりじりと焼くような熱刺激が、指の動きに合わせてゆっくりと移動していく。熱が引くそばから指先の愛撫が追いかけてくる感覚は、痛みと快感の境界線を曖昧に溶かしていく。
「んなわけ……あるか……っ」
虚勢を張る声が、既に微かに震えていた。
アナンカリオは見た。ヨクが再びボウルのヘラを一混ぜし、重力に従って垂れ落ちる次の「熱」を準備しているのを。その攪拌される音、立ち昇る甘い霧、そしてヨクの瞳に宿る嗜虐的な光。
ヨクはボウルの中でヘラをゆっくりと一混ぜし、わざとらしく、粘り気のある茶色の液体をかき混ぜて見せた。カチャカチャという陶器の音が、処刑を待つ合図のように耳に届く。
「次はここをデコレーションしちゃおうかな~」
わざとらしく弾んだ、あまりに天真爛漫な声音。ヨクは首を傾け、蕩けるような視線をアナンカリオの胸元へと落とした。その視線の先にあるものを悟った瞬間、アナンカリオの背筋を、先ほどまでの熱とは異なる、鋭利な戦慄が駆け抜ける。
ヨクが狙っているのは、浅黒い肌の上で硬く尖り、今や恐怖と期待で震えている乳首だ。
「待て……やめろ、そこは、ッ……!」
拒絶の言葉は、熱を帯びた喉の奥でひどく湿って震えた。これから自分を襲うであろう、あの焼けるような熱。
その予感に総毛立ちながらも、アナンカリオの視線はボウルの中でとろりと糸を引くチョコレートに釘付けになっていた。恐怖しているはずなのに、身体の芯からは甘い疼きが競り上がり、裏腹な期待を全身に散らしている。
ヨクはこれ見よがしにヘラを持ち上げ、粘りつく茶色の液体を高く引き上げた。落ちるぞ、という無言の宣告。
アナンカリオの肺は酸素を拒み、浅い呼吸とともに「あ……ッ……はあ……ッ」と、情けないほどに蕩けた喘ぎが唇から溢れ出す。
直後、乳首の尖端にぽたんと一滴、重みのある熱が落とされた。
「ん゙……ッッ♡」
喉の奥を潰したような鳴き声とともに、アナンカリオは顎を跳ね上げ、無防備な喉を晒してのけぞった。
追撃するように、とろとろと乳首全体を覆い隠すチョコレートの奔流。乳輪の柔らかな肌が熱で炙られ、じわじわと痛みにも似た熱が奥底へ浸透していく。
それが苦痛であるはずなのに、麻痺した脳は強烈な快感としてそれを処理し、誤学習を繰り返していく。
「ふふ、さっきより全然美味しそう」
耳元で囁く吐息が、チョコレートよりも熱く鼓膜を震わせる。ヨクはそのまま顔を伏せ、じんじんと敏感に脈打つ乳首を、こそげとるように執拗に舌で舐めとった。
「ぁ゛ッ!、ひぃ♡ぁ、あ゛ッ♡」
ビクビクとのけぞったまま、腰が何度もソファの上で跳ねる。挿入さえされていないのに、あまりの過剰な刺激にアナンカリオは軽い絶頂を迎え、視界が白く濁る。
もはや抵抗の意志など塵ほども残っていない。
その隙を逃さず、ヨクはアナンカリオの乳首を執拗になぶりながら、空いた片手で器用に彼の下衣を剥ぎ取った。
途端に弾け出したそれは、行き場を失った欲の象徴のように反り上がり、ヨクのまだ服を着たままの腹を叩く。
乳首から顔を離したヨクは、満足げに微笑んで、その起立を指先で弾いた。
「次はここね」
宣言の意味を、アナンカリオは一瞬理解できなかった。白濁した意識の中で、呆然とヨクを見上げる。
「かけるよー」という軽い掛け声とともに、ボウルが勃ちあがったペニスの上へと運ばれ、ヘラがその先端を掠める。
そこでようやく、次に何が起こるかを理解したアナンカリオの顔に、羞恥と恐怖が混ざり合った色が広がった。
「や、……ッ、だめ、だ……そこは……!」
必死に首を振るが、ヨクと視線がぶつかった瞬間、逃げ場がないことを悟る。ヨクは容赦なく、怒張した茎の部分に一気にチョコレートを垂らしかけた。
「————~~~~ッッ!!♡゛♡゛♡゛」
声にならない絶叫。
熱による痛みは、一瞬でとてつもない快感へと昇華された。中枢神経が焼き切れるような感覚。アナンカリオは己の意志に関係なく、豪快に、無様に、その身を痙攣させて吐精した。
ちかちかとスパークする視界の中で、アナンカリオは一瞬、意識の糸が切れるのを感じた。しかし、ヨクはそれを許さない。幹にかけられたチョコレートを、自身の吐精物ごと無造作に先端へと塗り広げ、じくじくとした余熱で執拗に神経を焼き続ける。
「あ゛……ぁあ、っ、気が、狂う………ッ」
「美味しそうになったね」
ヨクが満足げに笑い、アナンカリオの足を高く持ち上げた。
視界に入る自分の姿は、あまりにも無残で、あまりにも淫らだった。唾液とチョコでてらてらと光る乳首。腹筋を汚す褐色の跡。
そして、自身の白濁と悪趣味なソースでデコレーションされたまま、なおも立ち尽くす自身の醜態。
自身の精とチョコレートが混ざり合い、滴り落ちて濡れる後穴。そこに、ヨクの熱い先端がぐぢゅりと卑猥な音を立てて押し当てられた。
自分はこれから、この男に食べ尽くされるのだ。
その運命を、心が、魂が、陶酔とともに受け入れていた。
***
意識が浮上したとき、視界に飛び込んできたのは見慣れたヨクの寝室の天蓋だった。アナンカリオは重い身体を引きずるようにして、無造作に放り出されていた四肢を動かし、むくりと上半身を起こす。
節々の気だるさと、下腹部に居座る鈍い熱。そして、後孔に刻まれたじくじくとした甘い痛みが、数刻前までここで繰り広げられていた暴虐なまでの悦楽を雄弁に物語っていた。
「くそ……。また、こんなはずじゃ……」
掠れた声で毒づく。あんな安物の、栄養補給用のチョコを餌に、今度こそこの欲の神を組み伏せてやるつもりだったのだ。
それがどうだ。
デコレーションなどという悪趣味な言葉で飾られ、熱に喘ぎ、最終的にはどろどろに蕩かされて記憶の断片すら朧げときている。
運命の神としての矜持は、あの時、溶けたチョコレートと一緒に全て舐めとられてしまったようだった。
ふと視線を落とせば、枕元にはいつものように、アナンカリオの衣服が律儀に畳まれて置かれていた。ヨクのこういう、事後の妙な丁寧さが、余計に飼い慣らされているようで腹立たしい。
衣服を手に取ると、繊維が擦れるだけで、酷使された乳首や腹筋が過敏に反応する。慎重に、だが苛立ちを隠せない手つきで薄い中着を羽織るが、中着越しでもはっきりと分かるほどに尖りきった己の先端を見て、深い溜息を吐いた。
「あいつ、どこにいやがる……」
気だるい腰を庇うようにしてリビングへと向かえば、甘い匂いが鼻腔を擽る。
ほぼ裸のような状態にエプロンを身に纏ったヨクが、機嫌よさそうにキッチンで立ち働いていた。
「あ、おはようアナンカリオ。ちょうど今出来たところ。そこ座って待ってて」
屈託のない笑顔。つい先刻まで、この男にどれほど蹂躙されていたかを忘れさせるような天真爛漫さだ。
アナンカリオは釈然としない思いを抱えつつ、食卓の椅子にどかっと腰を下ろした。腰の奥がズキリと疼いたが、唇を噛んで無視する。
「じゃーん。フォンダンショコラだよ。初めて作ったから、上手く出来たかわからないけど」
差し出されたのは、粉雪のようなシュガーを纏った小ぶりな焦茶色のケーキ。
ヨクが向かいの席で「いただきます」と手を合わせるのを横目に、アナンカリオも無言でフォークを突き立てた。
その瞬間、外側の生地が割れ、中から熱を帯びたチョコレートがとろりと溢れ出す。
「……ッ」
視覚的なフラッシュバック。自分の肌の上で蠢いていた、あの熱い「欲」の雫が重なる。
背筋をゾワゾワとした甘い痺れが駆け抜け、アナンカリオは喉の奥で、無意識に喘ぎを呑み込んだ。
震える手でそれを口へ運ぶ。
濃厚なカカオの香りが鼻腔を抜け、官能的な甘さが舌の上で溶けた。悔しいほどに計算され尽くした、完璧な温度と味。
「はーー……ぁ。ムカつくほど、うめぇ……」
吐き出したのは、敗北宣言に等しい感嘆だった。
運命を掻き乱し、再戦を挑むはずが、結局は胃袋も神核も、この欲の神の掌の上で弄ばれている。
アナンカリオは銀の髪を乱暴にかき乱しながら、皿に残った甘い残滓を、呪うように、そして愛おしむように、再びフォークで掬い上げて口に運んだ。
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