回避と麻痺のスキルを極めたタンクの俺、いい会社に就職するために夏休み中はVRゲームを頑張る。

なめ沢蟹

文字の大きさ
5 / 13
憑依魔法習得

5話 どう見ても日本人の魔女

しおりを挟む
 まだこのゲームに登録してから十日目くらいだ。
 でも初心者でもだいたいわかることもある。
 さっきのガーゴイルは言わばボスキャラ。
 ああいうのを倒すと、しばらく雑魚敵は寄らなくなる演出が施される。
「しかしあんたも九右衛門の弟子だなんてね」
 マリモは気が抜けまくってる。
 弓も背中に背負った状態で話しかけてきた。
「お前もなんだな。偶然だな」
 深く考えずに返した。
「・・・・・・」
 考え事か?
 しばらく場が静まり返る。
 さっきまで森で聞いてたのとは違う鳥の声。
 高原の草木をざわめかす強めの風。
 やたら明るく感じる日光。
 なんだか意図的に解放感を演出されてる気がする。
 俺たちはしばらく無言のまま、高原を魔女の館めざして歩いていた。
 また会話が始まる。
「うーん。私たちがパーティーを組んだのは完全な偶然でもないわね」
「え?」
「同時期に同地区で初めてアクセスして、お互い初心者なのに初日からメキメキのゲーム内で成果をあげたってとこでしょ?」
「ん、まあな」
 そういう事になるか。
「確かに登録してからしばらくは、マリモとよく鉢合わせしてたな」
「そうそう。そしてお互い初心者まるだしなのに高得点を叩き出してたから、興味を示したって感じだったわよね」
 歩きながら雑談が続く。
「あんたも免許皆伝狙ってるくち?」
 少し前を歩いてたマリモが急に振り向く。  
 やたら好奇心旺盛な表情だ。
「そうだけど、お前も?」
「もちろん」
「え? もしかして俺ら敵同士? ほら、どっちかにしか資格与えないみたいな」
「あはは、まさか。あんたあんまり命尾グループのお家事情知らないのね」
「・・・・・・」
 なんかツボに入ったらしい。
 マリモはしばらく歩くのをやめて腹を抱えて笑う。
「あんたと私は同じ流派の古武術を習ってても、カテゴリが違うのよ」 
「へえ」
 説明を始めた。
 やっぱりマリモはサービス精神旺盛。
「あんたはおそらく『護身術』、私は『弓術』、命尾流は他にもいくつか系統に別れてる」
「そういや九右衛門、そんなこと言ってたかな?」
「どっちにしろ、どの系統も免許皆伝が出るのは十年に一度くらいかな? 私たちって命尾グループからみたらそうとうレアよ」
 身振り手振りを加えてレアってとこを強調されて語られた。
 しかしどんな形であれ、あの命尾グループから見てレアな存在か。
 ・・・・・・これは本当に就職活動に役に立つネタかな。
「例えば命尾流の免許皆伝になればさ、あの命尾グループのどっかに就職できたりすると思う?」
 ストレートに聞いてみた。
 学生のマリモの発言が必ずしも信憑性があるとは限らない。  
 でも命尾グループの御曹司の関係者であるっぽいこいつの言葉は判断材料にはなる。
「当たり前でしょ。鳴り物入りで入れるわよ」
「マジで?」
「うん。命尾グループは社の象徴として古武術を取り入れてるからね」
「それは知ってる」
「ほら、専門チャンネルで空手とか剣道の世界大会とか中継すると、命尾グループのCMガンガン流れたりするでしょ?」
「え? そうなの? 知らなかった」
 とにかく、やはり免許皆伝なら就職できるのか。
「まあ悪い言い方をすれば、マフィアがボクサーの世界チャンピオンを用心棒に置いとくみたいな?」
「んん?」
 なんだかよくわからない例えを出された。
「とにかくね。命尾グループ側としては、総帥や幹部に格闘技や射撃競技の有名人を付けとくと箔が付くってわけ」
「ああ、なんとなくわかってきた」
「だから・・・・・・私たちにはこの世界中でヒットしてるゲームで実名晒して目立って欲しいのかもねえ」
「ふーん」
 とにかく、俄然やる気出てきた。
 どうせ就職するならいいとこ入りたい。  
「おしゃべりは終わりね。着いたわ」
「お、おう」
 いつの間にか、魔女の館に着いていた。
 目の前にはなんだか絵本に出てきそうな小さな家が。

†††††

 改めて、魔女の館を眺める。
 レンガ作りの一階建ての家。
 壁中に這ってる植物。 
 四角い煙突。
 漂ってくる何か不思議な香り。   
「いかにもねえ」
「これ、どうせシンボルで中は広大なんだろうなあ」 
「でしょうねえ」
 今までもそんな感じだった。  
 地下空間に通じる階段を下りたらあり得ない広さの空間が広がってたり。
 こじんまりとした外観の店の中がデパート状態だったり。
「とにかく入るわよ」
「あ、だからなんで後衛のお前が」
 どうもマリモは先陣を切って歩きたいタイプらしい。
 タンカーの俺を差し置いて、古びたドアに手をかける。
「・・・・・・・」
「ん?」
 すごいよく通る女生の声が聞こえてきた。
 何語かわからない。
「あ、字幕出てる」
「本当?」
 俺とマリモの前には日本語で通訳文が出ていた。
 魔女の館にようこそ。
 そう表示されていた。
 目の前には誰もいない。
「んー?」 
 辺りを見回す。
 ゲームにありがちな、中がやたら広い感じじゃなかった。
 レンガ作りの壁にそって所狭しと置かれた古びた棚。
 その棚には・・・・・・人面の植物とか、フラスコみたいのや羊皮紙やら。
 とにかく『いかにも』な内装だ。 
「誰もいないわね? この声なんだろ」
「だなあ」
 俺たちの雑談に構わず、何の言語かわからない言葉が館内に響き続ける。
 西洋な感じがするのは間違いないが・・・・・・。
「これ、もしかして雰囲気だすための実在しない言語かな?」
「さあ? 俺の場合英語で話しかけられても区別つかないぞ」
「え? もしかしてシュトーって偏差値低い」
「恥ずかしながら30台」
 そうなのだ。
 もし免許皆伝をつぶしに命尾グループに就職できないなら・・・・・・いまいちな社会人スタートを切ることになる。
「まあ私も似たようなもんかな? 65とかそんな?」
「県内のかなり上のほうじゃん? 俺の倍じゃん?」
「でも命尾学園の中じゃ学業の成績は下のほうだよ」 
「あ、お前もさっきの奴もあの命尾学園か」
「とにかく、確実に進学とか就職できる感じじゃないわねえ」
 話がそれてきた。
「・・・・・・!?」
 そんな俺らを制するように、薄暗い館の中心に突然何かが出現した。
 黒いとんがり帽子だ。
 ほら、魔女がよく被ってるイメージのあれ。
「な、なに?」
「演出じゃね?」
 その通りだった。
 その帽子の下に、ボワンという音ともに突然人が現れる。
 そして先に出現していた。帽子を被る。
「ふん、日本と言う国の者たちか。仕方ない、その言葉で話してやろう」
「・・・・・・」
 棒読みだ。
 現れたのは、けっこう露出度の高い服を着たコスプレ魔女だった。
 どう見ても25くらいの日本人女性だ。 
 長身のマリモに比べて、20センチほど小さい。
「あ、オペレーターの方ですか? 案内よろしくお願いします」
 とりあえず挨拶した。
「・・・・・・」
 魔女の人は固まる。
「シュトー。アドリブ必要そうな発言やめなよ」
「あ、うん。でもAクラスのイベントって本当に人が案内するんだな」
「だねえ。今まではゲームキャラだったし」
「・・・・・・」
 なんだか魔女役の人がフリーズしたままだ。
 案内のバイトに慣れてない人かもしれない。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...