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憑依魔法習得

5話 どう見ても日本人の魔女

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 まだこのゲームに登録してから十日目くらいだ。
 でも初心者でもだいたいわかることもある。
 さっきのガーゴイルは言わばボスキャラ。
 ああいうのを倒すと、しばらく雑魚敵は寄らなくなる演出が施される。
「しかしあんたも九右衛門の弟子だなんてね」
 マリモは気が抜けまくってる。
 弓も背中に背負った状態で話しかけてきた。
「お前もなんだな。偶然だな」
 深く考えずに返した。
「・・・・・・」
 考え事か?
 しばらく場が静まり返る。
 さっきまで森で聞いてたのとは違う鳥の声。
 高原の草木をざわめかす強めの風。
 やたら明るく感じる日光。
 なんだか意図的に解放感を演出されてる気がする。
 俺たちはしばらく無言のまま、高原を魔女の館めざして歩いていた。
 また会話が始まる。
「うーん。私たちがパーティーを組んだのは完全な偶然でもないわね」
「え?」
「同時期に同地区で初めてアクセスして、お互い初心者なのに初日からメキメキのゲーム内で成果をあげたってとこでしょ?」
「ん、まあな」
 そういう事になるか。
「確かに登録してからしばらくは、マリモとよく鉢合わせしてたな」
「そうそう。そしてお互い初心者まるだしなのに高得点を叩き出してたから、興味を示したって感じだったわよね」
 歩きながら雑談が続く。
「あんたも免許皆伝狙ってるくち?」
 少し前を歩いてたマリモが急に振り向く。  
 やたら好奇心旺盛な表情だ。
「そうだけど、お前も?」
「もちろん」
「え? もしかして俺ら敵同士? ほら、どっちかにしか資格与えないみたいな」
「あはは、まさか。あんたあんまり命尾グループのお家事情知らないのね」
「・・・・・・」
 なんかツボに入ったらしい。
 マリモはしばらく歩くのをやめて腹を抱えて笑う。
「あんたと私は同じ流派の古武術を習ってても、カテゴリが違うのよ」 
「へえ」
 説明を始めた。
 やっぱりマリモはサービス精神旺盛。
「あんたはおそらく『護身術』、私は『弓術』、命尾流は他にもいくつか系統に別れてる」
「そういや九右衛門、そんなこと言ってたかな?」
「どっちにしろ、どの系統も免許皆伝が出るのは十年に一度くらいかな? 私たちって命尾グループからみたらそうとうレアよ」
 身振り手振りを加えてレアってとこを強調されて語られた。
 しかしどんな形であれ、あの命尾グループから見てレアな存在か。
 ・・・・・・これは本当に就職活動に役に立つネタかな。
「例えば命尾流の免許皆伝になればさ、あの命尾グループのどっかに就職できたりすると思う?」
 ストレートに聞いてみた。
 学生のマリモの発言が必ずしも信憑性があるとは限らない。  
 でも命尾グループの御曹司の関係者であるっぽいこいつの言葉は判断材料にはなる。
「当たり前でしょ。鳴り物入りで入れるわよ」
「マジで?」
「うん。命尾グループは社の象徴として古武術を取り入れてるからね」
「それは知ってる」
「ほら、専門チャンネルで空手とか剣道の世界大会とか中継すると、命尾グループのCMガンガン流れたりするでしょ?」
「え? そうなの? 知らなかった」
 とにかく、やはり免許皆伝なら就職できるのか。
「まあ悪い言い方をすれば、マフィアがボクサーの世界チャンピオンを用心棒に置いとくみたいな?」
「んん?」
 なんだかよくわからない例えを出された。
「とにかくね。命尾グループ側としては、総帥や幹部に格闘技や射撃競技の有名人を付けとくと箔が付くってわけ」
「ああ、なんとなくわかってきた」
「だから・・・・・・私たちにはこの世界中でヒットしてるゲームで実名晒して目立って欲しいのかもねえ」
「ふーん」
 とにかく、俄然やる気出てきた。
 どうせ就職するならいいとこ入りたい。  
「おしゃべりは終わりね。着いたわ」
「お、おう」
 いつの間にか、魔女の館に着いていた。
 目の前にはなんだか絵本に出てきそうな小さな家が。

†††††

 改めて、魔女の館を眺める。
 レンガ作りの一階建ての家。
 壁中に這ってる植物。 
 四角い煙突。
 漂ってくる何か不思議な香り。   
「いかにもねえ」
「これ、どうせシンボルで中は広大なんだろうなあ」 
「でしょうねえ」
 今までもそんな感じだった。  
 地下空間に通じる階段を下りたらあり得ない広さの空間が広がってたり。
 こじんまりとした外観の店の中がデパート状態だったり。
「とにかく入るわよ」
「あ、だからなんで後衛のお前が」
 どうもマリモは先陣を切って歩きたいタイプらしい。
 タンカーの俺を差し置いて、古びたドアに手をかける。
「・・・・・・・」
「ん?」
 すごいよく通る女生の声が聞こえてきた。
 何語かわからない。
「あ、字幕出てる」
「本当?」
 俺とマリモの前には日本語で通訳文が出ていた。
 魔女の館にようこそ。
 そう表示されていた。
 目の前には誰もいない。
「んー?」 
 辺りを見回す。
 ゲームにありがちな、中がやたら広い感じじゃなかった。
 レンガ作りの壁にそって所狭しと置かれた古びた棚。
 その棚には・・・・・・人面の植物とか、フラスコみたいのや羊皮紙やら。
 とにかく『いかにも』な内装だ。 
「誰もいないわね? この声なんだろ」
「だなあ」
 俺たちの雑談に構わず、何の言語かわからない言葉が館内に響き続ける。
 西洋な感じがするのは間違いないが・・・・・・。
「これ、もしかして雰囲気だすための実在しない言語かな?」
「さあ? 俺の場合英語で話しかけられても区別つかないぞ」
「え? もしかしてシュトーって偏差値低い」
「恥ずかしながら30台」
 そうなのだ。
 もし免許皆伝をつぶしに命尾グループに就職できないなら・・・・・・いまいちな社会人スタートを切ることになる。
「まあ私も似たようなもんかな? 65とかそんな?」
「県内のかなり上のほうじゃん? 俺の倍じゃん?」
「でも命尾学園の中じゃ学業の成績は下のほうだよ」 
「あ、お前もさっきの奴もあの命尾学園か」
「とにかく、確実に進学とか就職できる感じじゃないわねえ」
 話がそれてきた。
「・・・・・・!?」
 そんな俺らを制するように、薄暗い館の中心に突然何かが出現した。
 黒いとんがり帽子だ。
 ほら、魔女がよく被ってるイメージのあれ。
「な、なに?」
「演出じゃね?」
 その通りだった。
 その帽子の下に、ボワンという音ともに突然人が現れる。
 そして先に出現していた。帽子を被る。
「ふん、日本と言う国の者たちか。仕方ない、その言葉で話してやろう」
「・・・・・・」
 棒読みだ。
 現れたのは、けっこう露出度の高い服を着たコスプレ魔女だった。
 どう見ても25くらいの日本人女性だ。 
 長身のマリモに比べて、20センチほど小さい。
「あ、オペレーターの方ですか? 案内よろしくお願いします」
 とりあえず挨拶した。
「・・・・・・」
 魔女の人は固まる。
「シュトー。アドリブ必要そうな発言やめなよ」
「あ、うん。でもAクラスのイベントって本当に人が案内するんだな」
「だねえ。今まではゲームキャラだったし」
「・・・・・・」
 なんだか魔女役の人がフリーズしたままだ。
 案内のバイトに慣れてない人かもしれない。
 
 
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