回避と麻痺のスキルを極めたタンクの俺、いい会社に就職するために夏休み中はVRゲームを頑張る。

なめ沢蟹

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憑依魔法習得

6話 休憩

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 魔女役の人が語り始める。
「よくぞ我がしもべガーゴイルを倒した。ほ、ほめてやるぞ」
 棒読みかつ慣れてない。
 バイト始めたばかりの人かな?
「ほ、ほ、褒美に我がすごい秘伝を」
「所々字幕と微妙に違うけど?」 
「うっ」
「あっ・・・・・・いや、続けてください」
 余計な発言だった。
 俺の一言で進行がさらに遅くなる。
 マリモに肘で小突かれた。
「あの、あなたたちプレイ動画公開してるの?」
「えっ?」
 魔女が突然メタ的な発言を始めた。
 雰囲気ぶち壊し。
「今日はしてないわよ。そのうちするかもしれないけど」
「よ、よかった。今日バイト初日なんだよね」
「そ、そう」
「・・・・・・」
 いいのだろうかそれで。
 とにかくテンポ悪いからメニューに出てる魔女の台詞の字幕のほうを見ることを重視することにした。
「えっと、魔女の館の地下にある広大な空間からで試練を果たすと『憑依魔法』が習得できると」
「憑依魔法・・・・・・日本語だといまいちわかりづらいけど。他プレーヤーをジャックとかではないみたいな」
「ゲーム内の何かの精霊を自分に憑依させて特殊なスキル使えるようになるって感じみたいね」
「あなたたち高校生かな? 夢がない表現しますね」
「・・・・・・」
 もうファンタジーな空気は微塵も無くなってきてる。
「他の人のプレイ動画のこの場面。いかにもなゴツイ鎧姿の人といかにもな白人の老婆だったけど?」
「外国は外国、日本は日本ですよ。とにかく動画公開しないならイベントとっととスキップして地下に行ってみては?」
「えぇ」
 なんかだんだん適当になってきてる。 
「とりあえず、そこの階段から行けますよ」
 魔女役の人は古びた木造の階段を指さす。
「あ、どうも」
「ごめんなさいね。今度会うときはもっとマシな演技してると思います」 
「は、はあ」
 どうでもいいと思ったが、なるべく顔にでないように気を付けた。
 そのままマリモと一緒に地下への階段を降りる。
「変な人だったね」
 マリモが相変わらず俺の前を歩きながら話しかけてきた。
「まあバイト初日ならあんなもんじゃないの? 美人だったし、容姿で採用されたんだろ」
「ふーん」
 なんだかそっけなくなった。
 何なのか。
「ん? 行き止まり?」
「どうせ魔方陣があるでしょ」
 その通りだった。
 石造りの壁、所々に掲げられた松明の灯りの先に、よく見る星型のマークが見える。
「魔方陣がここにか。ログアウトしとく?」
「んー、どうしよっかな。シュトーは休憩したい?」
「本腰入れて攻略するなら飯食ってからのほうがいいかもな」
「ん、そうしよっか。じゃあ8時にまた集合ね」
「了解」
 メニューのログアウトのパネルをタッチした。
 一度ログアウトすることにした。
 このゲームは魔方陣のある場所でログアウトすると、再開時にその場所から始められる。 
「じゃあねえ」
「おう」
 目の前のマリモの姿が徐々に半透明になっていく。  
「・・・・・・」
 俺の視界は真っ暗になっていた。

†††††

 とりあえずメットを外した。
 そのまま立ち上がる。 
「腹減ったな」
 ここは自分の部屋だ。
 勉強机に壁に張った好きなアーティストのポスター、目に付くのはそんな感じ。 
 極力ものは置かないようにしてる。
「ご飯よ-!」
「・・・・・・!」
 1階から母さんの声がした。
 ちょうどいいタイミングだった。
「6時半か」
 机の上の時計を見た。
 マリモとの待ち合わせまではけっこう時間がある。
 カレーの匂いが充満してる。
 トイレに入ってから台所に行った。
 珍しい、家族全員揃ってる。
「あ、おかえり」
「おう」
「お前、寝癖すげえな」
「寝癖じゃなくてメットのせいだよ」
 食卓には頭が薄くなってきた小柄な中年と、相変わらず真面目そうな雰囲気の優男が。 
 父と兄が珍しく先に来ていた。
「お前、相変わらず部屋でゲームか?」
「そうなのよ。夏休みなんだからどこかに出かければいいのに。あ、お皿運ぶの手伝って」
「・・・・・・」
 両親は今の俺のやってることにあまり理解がない。
 邪魔をしてこないだけマシだが。
「いや、応援してやれよ。こいつが本当に免許皆伝になったら一生安泰なんだぞ」
「それ本当なの?」 
「本当。次郎、なんか必要なものあるか? 兄ちゃん後でコンビニ行くけど」
「んー、今日はいいや」
 兄のほうは理解がある。
 まあ命尾グループの子会社に勤めてるんだから、事情は知ってて当然か。
 あ、次郎って俺の名前。
 次男だから次郎、そのまんま。
「いただきます」
 とりあえず腹ごしらえだ。
 今日の晩飯はカレーにサラダ。
 好物だしどんどん腹に詰め込む。
「しかし次郎はガールフレンドとかいないのか。たしか一郎がお前くらいのときには家に女の子連れてきてたろ」
「・・・・・・いない」
「そうか」
 マリモは一応ガールフレンドなんだろうか?
 夏休み一緒に行動してるが、そういや本名も未だに知らない。
「ご馳走さま」
 後片付けを手伝って、しばらく居間でテレビを見ながらコーヒーを飲んだ。
 今日はまだまだ寝る気はない。
「・・・・・・」
待ち合わせ時間が近づいてきた。
「俺、またゲームするから。よほどの事ないかぎり呼ばないでね」
「はいはい」
 マグカップを持って二階に上がる。
「ん? 兄貴」
 階段でバッタリ兄貴と出くわす。 
 狭いからお互い半歩ずつどける。
「頑張れよ。お前が本当に免許皆伝になつたらな、俺も社内で鼻が高いからな」
「はいはい」
「ま、でも無理はすんなよ。ダメならダメで何とでもなるからな」
 すれ違いざまにポンと肩を叩かれた。
 これは、期待されてるのか?
 とにかく頑張ろう。
「さてと」
 部屋に入ってまた座禅を組んでメットをかぶる。 
 こんな姿勢でゲームやってる奴は多分俺くらいだろう。
「・・・・・・」
 ログインした。
 体の感覚が徐々にゲームの世界に馴染んでいく

 
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