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悪役令嬢と薄幸の美少女
7話 燃えた狩猟小屋
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全員がメイド服姿のケイト様に注目する。
「この館の各個室にはね、地下へ繋がる緊急避難の隠し通路があるんだ」
「え?」
使用人の知らない情報か。
「そういえば、戦時中は貴族が館をそういう造りにしたと聞いてます」
「うん。お父様は実際に使うわけじゃなくてね、ロマンで作ったって言ってた。隠し通路はこの館のいろんな所にあるし、他にも……」
「ケイト!! やめなさい!」
ケイト様が隠し通路について語る途中、何者かが叱責した。
この館に元伯爵令嬢を呼び捨てにできる者はいないはずだが……。
全員が声のした方を振り返る。
「べ、ベアトリクス様!」
驚いた。
そこには服がボロボロになったベアトリクス様が立っていた。
よく見るとかなり息を切らしてる。
走ってきたのか。
全員唖然とする。
今まで何をしていたのか、なぜ誰にも言わずに館からいなくなったのか。
問い正したいところだ。
……しかし。
「何の騒ぎですの?」
逆に怪訝そうな表情で尋ねられた。
これは使用人全員の反感を買っただろう。
「何の騒ぎって、ベアトリクス様がいなくなられたから」
マリンが少し強めの口調で語る。
するとベアトリクス様はケタケタと笑う。
「ごめんなさいね。マリン、あなたをからかわせてもらいましたわ」
「なっ!」
「少し目を離した隙にいなくなったら、どんな顔をするかと思いましたの。たまたま寝室に地下への隠し通路を見つけて……いつかやってみたくて……アハハハ」
全員が口をアングリと開けている。
ベアトリクス様、何を考えておられるのか。
「ひ、酷い」
マリンが震えた声で語る。
彼女にすればそれでウソつき扱いされたのだ。
当然だろう。
「そんなことより、お腹ペコペコですわ。ランチの用意をお願いします」
「……か、かしこまりました」
少し間があったが、チャーリーを含めた料理番たちは渋々返事をして場を立ち去る。
「……」
場に沈黙と嫌な空気が漂う。
しかしなんだろう?
なんだか強い煙の臭いがする。
ベアトリクス様ほうから漂ってくるような。
「あ、そうそうケイト」
「何?」
突然、ベアトリクス様はケイト様に語りかける。
「イタズラついでにね、あなたの狩猟小屋を燃やしてきましたわ」
「……は?」
「……?」
狩猟小屋を燃やした?
一体何のために?
いや、この臭いはそういう事なのか?
ベアトリクス様は見下すような視線でケイト様を見下ろしている。
「私の狩猟小屋を……燃やした? ベアトリクス、どうしてそんな嘘をつくの?」
「嘘ではありませんわ。疑うなら確かめてくればいいではありませんか」
「……!」
「ケイト様!」
ケイト様は他のメイドが止めるの制止し、物凄い速さで館を出て行った。
「……」
視線がベアトリクス様に集まる。
それに気づいたのか、急に大声を上げた。
「何ですの? もうこの土地の物はすべてお父様の物ですのよ? 汚い小屋の一つや二つ、娘の私が燃やしても構わないでしょう?」
また全員が口を開けて驚く。
この小娘、相当嫌な奴だ。
「ふん! これでケイトの奴が自分が平民に成り下がった事を自覚してくれるといいんですが!」
「……!」
とんでもない捨て台詞まで吐いた。
まさか、そんなことのために館を抜け出して小屋に火を付けたのか。
「マリン、寝室で体を洗います。桶とお湯の用意をお願いしますわ」
「……はい」
今度はマリンに強い口調で指示を出す。
言葉自体は丁寧だが、目が完全に人を見下す目だ。
そうして、ベアトリクス様たちは大広間から去っていった。
†††††
所々で陰口が叩かれてる。
「ベアトリクス様、美貌とは裏腹にとんでもない性格みたいね」
「違いねえ。さっきのってケイト様が生意気だからやったんだよな?」
「……」
かなり評判が悪い。
「おい、ケイト様を誰か追ったのか?」
今気づいた。
ほっといていいのだろうか?
「イーモンさん、森の中であの子には誰も追いつけない、追っても無駄ですよ」
「そのうち帰ってくるさ」
「……」
そうだ忘れた。
ケイト様は平民に落ちる前からそういう方だった。
いなくなるどころか、この館に滞在するときはほとんど森で暮らしてる変わり者。
「とにかくみんな持ち場に戻ろう。我々は使用人だ。主のご息女の多少のワガママには目をつむらないと」
手を叩いてみんなを諭す。
いろいろ思う所はあるようだが、渋々と四方に散っていく。
「……」
なんとなく、馬番のアレンが視界に入る。
改めて、寡黙で真面目で馬番としては優秀な青年だ。
だからこそ、先ほどはミスを起こした妻を叱責したんだろうが……。
問題はミスうんぬんじゃない。
マリンをウソつき扱いしたことを今謝らないと大変な事になると思う。
「ま、私には関係ないがね」
誰にも聞こえないようにボソリと呟いた。
とりあえず、私に火の粉が飛んでこないならベアトリクス様がどんな性格だろうと構わない。
「この館の各個室にはね、地下へ繋がる緊急避難の隠し通路があるんだ」
「え?」
使用人の知らない情報か。
「そういえば、戦時中は貴族が館をそういう造りにしたと聞いてます」
「うん。お父様は実際に使うわけじゃなくてね、ロマンで作ったって言ってた。隠し通路はこの館のいろんな所にあるし、他にも……」
「ケイト!! やめなさい!」
ケイト様が隠し通路について語る途中、何者かが叱責した。
この館に元伯爵令嬢を呼び捨てにできる者はいないはずだが……。
全員が声のした方を振り返る。
「べ、ベアトリクス様!」
驚いた。
そこには服がボロボロになったベアトリクス様が立っていた。
よく見るとかなり息を切らしてる。
走ってきたのか。
全員唖然とする。
今まで何をしていたのか、なぜ誰にも言わずに館からいなくなったのか。
問い正したいところだ。
……しかし。
「何の騒ぎですの?」
逆に怪訝そうな表情で尋ねられた。
これは使用人全員の反感を買っただろう。
「何の騒ぎって、ベアトリクス様がいなくなられたから」
マリンが少し強めの口調で語る。
するとベアトリクス様はケタケタと笑う。
「ごめんなさいね。マリン、あなたをからかわせてもらいましたわ」
「なっ!」
「少し目を離した隙にいなくなったら、どんな顔をするかと思いましたの。たまたま寝室に地下への隠し通路を見つけて……いつかやってみたくて……アハハハ」
全員が口をアングリと開けている。
ベアトリクス様、何を考えておられるのか。
「ひ、酷い」
マリンが震えた声で語る。
彼女にすればそれでウソつき扱いされたのだ。
当然だろう。
「そんなことより、お腹ペコペコですわ。ランチの用意をお願いします」
「……か、かしこまりました」
少し間があったが、チャーリーを含めた料理番たちは渋々返事をして場を立ち去る。
「……」
場に沈黙と嫌な空気が漂う。
しかしなんだろう?
なんだか強い煙の臭いがする。
ベアトリクス様ほうから漂ってくるような。
「あ、そうそうケイト」
「何?」
突然、ベアトリクス様はケイト様に語りかける。
「イタズラついでにね、あなたの狩猟小屋を燃やしてきましたわ」
「……は?」
「……?」
狩猟小屋を燃やした?
一体何のために?
いや、この臭いはそういう事なのか?
ベアトリクス様は見下すような視線でケイト様を見下ろしている。
「私の狩猟小屋を……燃やした? ベアトリクス、どうしてそんな嘘をつくの?」
「嘘ではありませんわ。疑うなら確かめてくればいいではありませんか」
「……!」
「ケイト様!」
ケイト様は他のメイドが止めるの制止し、物凄い速さで館を出て行った。
「……」
視線がベアトリクス様に集まる。
それに気づいたのか、急に大声を上げた。
「何ですの? もうこの土地の物はすべてお父様の物ですのよ? 汚い小屋の一つや二つ、娘の私が燃やしても構わないでしょう?」
また全員が口を開けて驚く。
この小娘、相当嫌な奴だ。
「ふん! これでケイトの奴が自分が平民に成り下がった事を自覚してくれるといいんですが!」
「……!」
とんでもない捨て台詞まで吐いた。
まさか、そんなことのために館を抜け出して小屋に火を付けたのか。
「マリン、寝室で体を洗います。桶とお湯の用意をお願いしますわ」
「……はい」
今度はマリンに強い口調で指示を出す。
言葉自体は丁寧だが、目が完全に人を見下す目だ。
そうして、ベアトリクス様たちは大広間から去っていった。
†††††
所々で陰口が叩かれてる。
「ベアトリクス様、美貌とは裏腹にとんでもない性格みたいね」
「違いねえ。さっきのってケイト様が生意気だからやったんだよな?」
「……」
かなり評判が悪い。
「おい、ケイト様を誰か追ったのか?」
今気づいた。
ほっといていいのだろうか?
「イーモンさん、森の中であの子には誰も追いつけない、追っても無駄ですよ」
「そのうち帰ってくるさ」
「……」
そうだ忘れた。
ケイト様は平民に落ちる前からそういう方だった。
いなくなるどころか、この館に滞在するときはほとんど森で暮らしてる変わり者。
「とにかくみんな持ち場に戻ろう。我々は使用人だ。主のご息女の多少のワガママには目をつむらないと」
手を叩いてみんなを諭す。
いろいろ思う所はあるようだが、渋々と四方に散っていく。
「……」
なんとなく、馬番のアレンが視界に入る。
改めて、寡黙で真面目で馬番としては優秀な青年だ。
だからこそ、先ほどはミスを起こした妻を叱責したんだろうが……。
問題はミスうんぬんじゃない。
マリンをウソつき扱いしたことを今謝らないと大変な事になると思う。
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