悪役令嬢と薄幸の元伯爵令嬢のかけて欲しい言葉と聞きたくない言葉

なめ沢蟹

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悪役令嬢と薄幸の美少女

11話 悪役令嬢の手当て

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 早歩きで館に入り、ベアトリクス様の私室を目指す。
 途中数人のメイドとすれ違ったが、誰もベアトリクス様の怪我を心配しているものはいないか。
 アレンの取り越し苦労ならいいのだが……。
 たどり着いた。
 少し強めにノックする。
「ベアトリクス様、少しお話があるのですがよろしいですか?」
 大きめの声で伝えた。 
 返事はマリンが返してきた。
「イーモン? ダメよ後にして、すぐ終わるわ」
「わかった」
 感じからすると、ベアトリクス様の体を洗っているのか?
 とりあえず出直す事にした。
 ……しかし、呼び止められる。
「いえ、マリン。調度良いですわ、鍵を開けて来てください」
「べ、ベアトリクス様!?」
「彼は応急処置の心得があるのでしょう?」
「で、ですが」
 なんだろう。
 もめてる。
 使用人のマリンが雇い主のご息女に意見する状況がよくわからない。
 しばらく待つと、目の前ドアの鍵が中から開けられる音が聞こえた。
 顔を出してきたのはマリンだ。
「イーモン、すぐに入って鍵を閉めて」
「ん? ああ」
 何事かと思いつつも、部屋の奥を見た。
 そこには装飾された大きな桶が見えた。
 湯気が立っているからお湯が張られている。
 やはり先ほどまでベアトリクス様は体を洗っていたか。
 そんな推測をしていると、ベッドのほうから少し苦しそうな声がした。
「イーモン、あなたに診断して欲しいですの」
「……!?」
 ギョッとした。
 ベッドに腰掛けるベアトリクス様は半裸だった。
 下は柔らかい布を巻いているが、上半身は何も身につけていない。
 腕で乳房を隠してはいるが、なまめかしい少女の体のラインが露わになっている。
「……」
 ベアトリクス様の体。
 ドレスを着ていてもなんとなくわかっていたが、予想以上に引き締まっている。
 透き通るような白い肌の弾力性を残しつつ、一切無駄な贅肉がない。
 そして普通の少女よりは大きめの胸。
 乳頭が見れないのが残念だが……。 
「先ほどケイトに殴られた所です」
「……!」
 我に返った。
 いやらしい目を向けてなかったか心配になってしまう。
「……」
 マリンの冷めたような視線を感じた。
 これはやってしまったかもしれない。
 誤魔化すように、大きな声をだした。
「ベアトリクス様、この館の執事が習う医術の心得は応急処置程度の知識しかございません」
「らしいですわね」
「具合が悪いなら、町医者を呼びますので」
 実際私は簡単な手当てや弱い効果の飲み薬の扱いしか知らない。
 それを聞いて、ベアトリクス様は困ったような顔になる。
「あー、お医者様はまずいですわ」
「え?」 
「私が怪我をしたことがお父様にバレてしまいます」
「……しかし」
「どうせ大した怪我じゃありませんわ。あなたが診てください」
「……」
 これは、自分が狩猟小屋を燃やした一件をヘザー男爵様に知られたくないのか。
 それとも……。

†††††

 とりあえず言われた通りにベアトリクス様を診断する事にした。
「骨が折れていたら、有無を言わさず医者に連絡いたしますので」 
「……」  
「さあ、こちらの椅子に座ってください」
 ベッドに座られていては診断しにくい。
 マリン用の簡易な椅子に移動してもらった。
「……」
 まあ大丈夫だろう。
 呼吸を楽にしている時点で、あばら骨にヒビなど入ってないはず。
 そう思えてきた。
 そうして、座ったベアトリクス様の後ろに立つ。
「……」
 しかし、この後ろ姿は……。
 亜麻色の髪はまだしっとりと濡れ、束ねれていて。
 長身とはいえ、少女特有の未発達な肩幅。
 もちろんその背中には何も身に付けていない。
 正直興奮してしまう。
 いや、いかんいかん。
「殴られたのは左側ですね。左腕を上げられますか?」
 マニュアル通りの言葉をかける。
 このお嬢様は好きにはできないとすでに諦めているのだ。
 執事の仕事に徹さなければ。
「こうですか?」
 数秒間ほど間が空いた。
 ベアトリクス様は左腕をあげた。
 今は片腕で乳房を隠している。
「腕をあげた事で痛みはございますか?」
「ありませんわ」 
「わかりました。そのまま腕を上げていて下さい」
 そうして、そのまま殴られた場所を見る。
 アザが出来ていた。
 色はかなり薄い。
 これは大丈夫だろう。
 内出血も軽い。
「おそらくただの打撲でしょう」 
「そ、そう。良かった」
「しかし私は医者ではありませんからね、誤診もありえます。痛み止めは飲まないで湿布だけしましょう」
「どうしてですの?」
「痛みが引かないならやはり医者を呼びます。痛み止めを飲むとその判定があいまいになりますので」
 そうして、マリンと二人でベアトリクス様のアザの部分の手当てをした。
 この処置でいいはずだ。 

††††† 

 とりあえず手当ては終わった。
 名残り惜しいが、服を着ていただく。
「あら? 湿布を貼ってもらったらだんだん痛みが引いてきましたわ」
 下着を身に付け、ドレスに袖を通す頃にはベアトリクス様の顔色は大分良くなっていた。
「大げさにしてしまいましたわ。これならイーモンに見て貰う必要もなかったかも」
 そうして、スッと立ち上がる。
「とにかく二人とも、助かりましたわ」
「え、ええ」
 ちゃんとお礼は言えるのか。
 その辺だけ見ると、むしろ性格も良いお嬢様に見えるのだが……。
「ただイーモン。少しあなたの鼻意が荒かった気がするのですが」
「え?」
「まさかドサクサに紛れて私の裸に興奮していました?」
 突然のジットリとした視線と疑いの言葉に心臓を握られた錯覚を味わう。
「め、めっそうもございません」
 図星だったが、言葉上は否定する。
「アハハ。冗談ですわ」
「……」
 やはり性格が悪い。
 ……ベアトリクス様がこの館に来てまだ初日。
 まだまだ何か事件が起きるんじゃないか?
 不安になってくる。
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