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王都の怪人
2話 冤罪の可能性
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その日の夜、チャーリーと飲んでいた。
今日は小雨が降っていたのでいつものビアガーデンではなく、近くの村に一軒だけある宿屋兼酒場のカウンターで飲んでいた。
農夫や職人たちの騒ぐ声を聞きながらというのも悪くない。
チャーリーはゴツい体を丸めながらブランデーをのグラスを傾けている。
何だかんだいってこいつと一緒にいるのは楽しい。
禁句もわかりやすいし、気兼ねなく話せるのもある。
話題が変わる。
「それにしても……やっとあのお嬢様も、しばらくいなくなるな」
「俺は別にベアトリクス様がいても構わんが」
「お前はそうだろうな。やたら気に入られてる」
……端から見てそう見えるのか。
これは貴重な情報かもしれない。
「この一週間、俺ら料理番は大変だったぜ。ベアトリクス様はわがままだからな」
「へえ、どんな?」
「あのお嬢様は肉が好きでな。でも脂身は取ってくれとか、いろいろ面倒くさいことを言いやがる」
「そういえば食卓には茹でた鳥肉がよく上がってるな」
喋りながら気づいた。
初日ベアトリクス様は肉や魚をまったく食べなかった。
しかし今はむしろ多めに食べてる。
もしかしたらあの日は女性特有の、月に一度の食欲がない日だったのかもしれない。
「それにしても貴族の夏休みも終わりか。結局新しい雇い主様は一度も顔を見せないなあ」
「ヘザー男爵か。多分あの方は狩猟の休暇を頻発には取らなそうだ」
「だろうな。学園の冬休みはベアトリクス様はまた館に来るそうだけどな。それまで俺たち何してりゃいいんだろな」
わりと深刻な問題だ。
我々の務める館の使用人は全員で十人。
伯爵家ならいざしらず、男爵家がたかだか年数回訪れるためにそれをいつまでも維持するだろうか?
不安になる。
近いうちに解雇されるかもしれない。
「チャーリー。そういえば今回はどうするんだ?」
「というと?」
「ほら、去年まではお前は夏の終わりはクルック伯爵について王都に行ってたろ」
「ああ」
「お前はある意味クルック伯爵の一番のお気に入りだったからな」
気になる事を聞いてみた。
クルック元伯爵の使用人時代も今も、一応私のほうが立場が上だ。
しかし元伯爵はチャーリーの料理を気に入っていた。
本来は彼はクルック家本館の使用人だだったのだ。
「伯爵様の本館は別の貴族が買い取ったんだよ」
「らしいな」
「だから今回は王都に行く理由がないな」
「やっぱりか、俺も暇になるかなあ。森や馬の管理とかは他の奴らの仕事だし」
そうなのだ。
しばらく暇になる。
私たちの勤める館はあくまでも貴族の別荘。
主がいない間は維持に必要な人数は二~三人でよい。
もっとも、今年はあのケイト様の世話という新しい仕事もあるが……。
「俺はしばらく料理の修業の旅にでも出るよ。給金が出て旅行がてら料理の腕を磨けるなんて最高だ」
「ある意味真面目だねえ」
「イーモン、お前は?」
「うーん」
すぐにやりたい事は浮かんだ。
あのお転婆かつ可愛らしいケイト様を落として秘かに肉体関係を結びたい。
主とベアトリクス様が不在の暇なとき、やるとしたらそれしかない。
もちろんそんな事はチャーリーに言えないが。
「ヘザー男爵の元なら数年で解雇される可能性が高いしな。何か新しい食い扶持のネタでも探すかな」
ごまかした。
しかしあながち嘘でもない。
言葉通りの事も考えている。
「あー、待て待て」
「……?」
急に話を遮られた。
チャーリーは毛深い腕で内緒話のジェスチャーを取る。
「お前にだけ言う。他の奴らには言うなよ」
「な、何だよ?」
「クルック伯爵様、横領の罪は冤罪の可能性が出てきたらしい」
「……!?」
これは驚いた。
現在投獄中のクルック元伯爵が無実?
ならそのご息女のケイト様はどうなるのか。
†††††
新しい客が入ってくるのが見えた。
どうも観光客っぽい。
宿屋の女将はこの地方の地酒が飲めるかと聞かれている。
さて、そんな事より……。
クルック元伯爵の件だ。
「先に言っとくが、これは確定な情報ではない」
「ああ」
「しかし出所は信用できる。何しろクルック伯爵様の部下の一人からだ」
「……へえ」
チャーリーは本館に出入りしていた。
いろいろとコネがあったのか。
ブランデーのグラスをコトリと置く音が響く。
「正直な、あの館の使用人としてお前の代わりを探すのは難しいというのが伯爵様の考えらしい」
「それはそれは、光栄だな」
「だから転職は待て。今のところ一応安定してるんだし、いいだろ?」
「そう言われると、そう思えてくるな」
「それにヘザー男爵様もそれはわかってるらしい。どうも伯爵様に頼まれてケイト様と館の一時保護をしているようだし」
そうか、そういう事か。
ならば我々の雇い主はまたクルック伯爵に戻る可能性があるわけだ。
「……」
しかし腑に落ちない点もある。
「なぜベアトリクス様はケイト様に嫌がらせをしているんだろな?」
「ん?」
そこだ。
彼女の行動がよくわからない。
「今の話の通りになれば、またすぐに彼女たちの立場は逆転するはずだ」
「それもそうだな。もしかしたらベアトリクス様は父親であるヘザー男爵にその件を聞いてないのかも」
「それか」
それでその件は一応は納得できる。
しかしもう一つ大きな疑問が残る。
「なぜ伯爵夫人はあの館で自殺したんだろう」
これも……本人が夫が冤罪である可能性を知らなかったオチかな?
今日は小雨が降っていたのでいつものビアガーデンではなく、近くの村に一軒だけある宿屋兼酒場のカウンターで飲んでいた。
農夫や職人たちの騒ぐ声を聞きながらというのも悪くない。
チャーリーはゴツい体を丸めながらブランデーをのグラスを傾けている。
何だかんだいってこいつと一緒にいるのは楽しい。
禁句もわかりやすいし、気兼ねなく話せるのもある。
話題が変わる。
「それにしても……やっとあのお嬢様も、しばらくいなくなるな」
「俺は別にベアトリクス様がいても構わんが」
「お前はそうだろうな。やたら気に入られてる」
……端から見てそう見えるのか。
これは貴重な情報かもしれない。
「この一週間、俺ら料理番は大変だったぜ。ベアトリクス様はわがままだからな」
「へえ、どんな?」
「あのお嬢様は肉が好きでな。でも脂身は取ってくれとか、いろいろ面倒くさいことを言いやがる」
「そういえば食卓には茹でた鳥肉がよく上がってるな」
喋りながら気づいた。
初日ベアトリクス様は肉や魚をまったく食べなかった。
しかし今はむしろ多めに食べてる。
もしかしたらあの日は女性特有の、月に一度の食欲がない日だったのかもしれない。
「それにしても貴族の夏休みも終わりか。結局新しい雇い主様は一度も顔を見せないなあ」
「ヘザー男爵か。多分あの方は狩猟の休暇を頻発には取らなそうだ」
「だろうな。学園の冬休みはベアトリクス様はまた館に来るそうだけどな。それまで俺たち何してりゃいいんだろな」
わりと深刻な問題だ。
我々の務める館の使用人は全員で十人。
伯爵家ならいざしらず、男爵家がたかだか年数回訪れるためにそれをいつまでも維持するだろうか?
不安になる。
近いうちに解雇されるかもしれない。
「チャーリー。そういえば今回はどうするんだ?」
「というと?」
「ほら、去年まではお前は夏の終わりはクルック伯爵について王都に行ってたろ」
「ああ」
「お前はある意味クルック伯爵の一番のお気に入りだったからな」
気になる事を聞いてみた。
クルック元伯爵の使用人時代も今も、一応私のほうが立場が上だ。
しかし元伯爵はチャーリーの料理を気に入っていた。
本来は彼はクルック家本館の使用人だだったのだ。
「伯爵様の本館は別の貴族が買い取ったんだよ」
「らしいな」
「だから今回は王都に行く理由がないな」
「やっぱりか、俺も暇になるかなあ。森や馬の管理とかは他の奴らの仕事だし」
そうなのだ。
しばらく暇になる。
私たちの勤める館はあくまでも貴族の別荘。
主がいない間は維持に必要な人数は二~三人でよい。
もっとも、今年はあのケイト様の世話という新しい仕事もあるが……。
「俺はしばらく料理の修業の旅にでも出るよ。給金が出て旅行がてら料理の腕を磨けるなんて最高だ」
「ある意味真面目だねえ」
「イーモン、お前は?」
「うーん」
すぐにやりたい事は浮かんだ。
あのお転婆かつ可愛らしいケイト様を落として秘かに肉体関係を結びたい。
主とベアトリクス様が不在の暇なとき、やるとしたらそれしかない。
もちろんそんな事はチャーリーに言えないが。
「ヘザー男爵の元なら数年で解雇される可能性が高いしな。何か新しい食い扶持のネタでも探すかな」
ごまかした。
しかしあながち嘘でもない。
言葉通りの事も考えている。
「あー、待て待て」
「……?」
急に話を遮られた。
チャーリーは毛深い腕で内緒話のジェスチャーを取る。
「お前にだけ言う。他の奴らには言うなよ」
「な、何だよ?」
「クルック伯爵様、横領の罪は冤罪の可能性が出てきたらしい」
「……!?」
これは驚いた。
現在投獄中のクルック元伯爵が無実?
ならそのご息女のケイト様はどうなるのか。
†††††
新しい客が入ってくるのが見えた。
どうも観光客っぽい。
宿屋の女将はこの地方の地酒が飲めるかと聞かれている。
さて、そんな事より……。
クルック元伯爵の件だ。
「先に言っとくが、これは確定な情報ではない」
「ああ」
「しかし出所は信用できる。何しろクルック伯爵様の部下の一人からだ」
「……へえ」
チャーリーは本館に出入りしていた。
いろいろとコネがあったのか。
ブランデーのグラスをコトリと置く音が響く。
「正直な、あの館の使用人としてお前の代わりを探すのは難しいというのが伯爵様の考えらしい」
「それはそれは、光栄だな」
「だから転職は待て。今のところ一応安定してるんだし、いいだろ?」
「そう言われると、そう思えてくるな」
「それにヘザー男爵様もそれはわかってるらしい。どうも伯爵様に頼まれてケイト様と館の一時保護をしているようだし」
そうか、そういう事か。
ならば我々の雇い主はまたクルック伯爵に戻る可能性があるわけだ。
「……」
しかし腑に落ちない点もある。
「なぜベアトリクス様はケイト様に嫌がらせをしているんだろな?」
「ん?」
そこだ。
彼女の行動がよくわからない。
「今の話の通りになれば、またすぐに彼女たちの立場は逆転するはずだ」
「それもそうだな。もしかしたらベアトリクス様は父親であるヘザー男爵にその件を聞いてないのかも」
「それか」
それでその件は一応は納得できる。
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