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悪役令嬢との恋
5話 悪魔の森の噂
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そのまま無言で歩き続けた。
私は執事の身だ。
三歩ほどベアトリクス様の後方につく。
「ふーん」
器用な方だ。
ゴシップ誌を熟読しながら、人々や障害物にぶつからないように歩いてる。
「……」
たまにその辺の少年少女が、すれ違うベアトリクス様に見とれているのが確認できた。
やはり絶世の美しさということか。
「イーモン。お返ししますわ」
急にくるりと振り向く。
何だろう。
きめ細やかな白い肌の頬を少し赤く染めてる。
「はい」
ゴシップ誌を受け取った。
その際に少し手が触れる。
若いからか、体温は向こうのほうが上のようだ。
その白い指の感触は少し熱いくらいに感じた。
……何だかベアトリクス様は怒ってないように見える。
怪人襲撃の際に怒鳴った事を今謝ってしまうべきか?
「……」
ちょうど立ち止まってこちらを見ている。
言ってしまおうとした。
「イーモン、そういえば言い忘れていましたわ」
「……はい」
先に話しかけられる。
「昨日の怪人の襲撃の際、あなたは身を挺して私を守ってくれましたわ」
「……」
「ありがとうございます」
……意外だ。
例の件で向こうから礼をのべてきた。
ここで謝るべきか。
「ああ、その際にベアトリクス様に罵声を浴びせてしまいました。使用人にあるまじき行為、申し訳ありません」
「……? ああ、そうでしたっけ? でもあれはモタモタしていた私が悪いですわ」
良かった。
ベアトリクス様、全然その件を怒ってない。
†††††
そのあとは通常の貴族のお嬢さまと執事のような雰囲気になった。
今後の予定、学習について、明日の新学期の登校の準備。
そのような会話が続く。
そしてあっという間にヘザー男爵家の本館に着いた。
「この匂い……シチューですわ」
何だか機嫌が良い。
もしかしてこの少女……ケイト様が近くにいないと性格が悪くないのだろうか。
「今扉をお開けします」
玄関前に早足で移動し、ベアトリクス様を迎える。
確かにシチューの良い匂いが漂ってきた。
「着がえてきますわ」
「はい」
……よく考えたらこの館にマリンのようなメイドはいない。
身だしなみを整えたりの自分の世話は自分でやるのか。
「ん? ベアトリクス様にイーモン殿か。三十分ほど経ったらテーブルに着いてくれ、まだ出来てない」
またエプロン姿のフィオナが顔を出す。
「はい、お姉さま」
「フィオナさん。手伝います」
「イーモン殿、言ったろう。あなたはベアトリクス様を留年させないことに全神経を注いでくれ」
「は、はい」
そういう事で、一度地下室に戻る事にした。
地下への階段の入り口にかけてあったランプに火を灯す。
「ふう」
ベッドに仰向けに寝転ぶ。
三十分か。
何をするにも手持ち無沙汰だ。
「おっと、これがあったな」
テーブルの上の大きめのランプに火を灯す。
そして明るくなったテーブルで先ほどのゴシップ誌をめくり始めた。
「第三王女、靴磨きの平民と禁断の恋……意外だねえ」
やはり目玉はその記事だ。
しかしそんなことが現実に起きたのか。
それなら男爵家の令嬢と執事の恋など余裕でありそうだ。
「……ん?」
メインの記事を読んでしばらくページをめくっていると、気になる文字が目に入った。
「横領容疑で拘束中のK伯爵の地方の館。その周りに悪魔が出没していた……ね」
思わず吹き出してしまった。
読めば読むほどその場所は私が本来の職場のあの森の中の館だった。
もちろん、二十歳からあの館で働いていて、森で悪魔など見たことがない。
「何々……身を引き裂くような叫び声が深夜響く。通行人は血に染まった木々を見た……ねえ」
やはりゴシップ誌はゴシップ誌だ。
根も葉もない嘘の記事。
「行くか」
三十分経っていた。
ゴシップ誌をクズカゴに放りこむ。
おそらく来週購買することはないだろう。
そのまま立ち上がり、大広間に向かう事にした。
†††††
階段を上りながら考え事をする。
ベアトリクス様を本当に落とせないだろうか?
あの美しい顔、健康的な体、たまに見せる無垢な笑顔。
そのうちどこかの上流貴族の青年が、彼女にひと目ぼれでもして求婚するだろう。
それほどベアトリクス様は美しい。
そうなる前に……後腐れなく遊べたら……。
あの体を最初に堪能する事ができたら。
そんな妄想が頭をよぎる。
「まあ、無理だろうな」
独り言をつぶやく。
妄想は妄想だ。
さっさと家庭教師の仕事を完遂し、あの館に帰って村娘にでもちょっかいをかけてみよう。
頭の中でそんな結論に至る。
「だいたいベアトリクス様がかけて欲しい言葉の検討はついたが……禁句はわからないままだ」
また独り言を口にした。
そうなのだ。
私の自分の中のルール。
禁句がわからない女は攻略の対象にしない。
なぜならその女に飽きたとき、徐々に好感度を下げる方法がなければ、後腐れなく別れる事ができなくなるから。
大広間に着いた。
「あ、イーモン。席に着いてくださいな」
「はい。今水を注ぎ致します」
すでにベアトリクス様はテーブルに着席していた。
……いつもより薄着の白いドレスを着ている。
胸のラインや細い腰回りがハッキリとわかる。
攻略を諦めている相手にそんな姿を見せられるのは蛇の生殺しだ。
「あ、イーモン。ここでは食事の挨拶をしたら適当に皿に料理を盛って、各自自由に食べる習慣ですわ」
「え?」
「男爵家なんてどこもそんなものですわよ。マナーとしてコース料理の食事の仕方を学びはしますがね」
「は、はあ」
「だからあなたも執事の立場とか忘れて食事をしてください」
そういうものだろうか?
まあ……森で自給自足してたケイト様に比べれば普通な事か。
「ではいただきます。せっかくお姉さまが作ってくださったのです。冷めないうちに食べてしまいましょう」
ベアトリクス様はテーブルの真ん中の大鍋から自分の皿にシチューを盛り始めた。
本当に私は何もしなくて良いのだろうか?
執事なのだが。
「あのベアトリクス様」
「何かしら」
気になる事があるので尋ねた。
パンをちぎりながら、ベアトリクス様はこちらを見る。
「フィオナさんはどこに行かれたのでしょうか」
「自宅に帰りましたわよ」
「え?」
驚いた。
ヘザー男爵様は今は仕事で主張中と聞いた。
夫人は当然お亡くなりになっている。
もしかして、この館で今夜はベアトリクス様と二人で過ごす事になるのか。
私は執事の身だ。
三歩ほどベアトリクス様の後方につく。
「ふーん」
器用な方だ。
ゴシップ誌を熟読しながら、人々や障害物にぶつからないように歩いてる。
「……」
たまにその辺の少年少女が、すれ違うベアトリクス様に見とれているのが確認できた。
やはり絶世の美しさということか。
「イーモン。お返ししますわ」
急にくるりと振り向く。
何だろう。
きめ細やかな白い肌の頬を少し赤く染めてる。
「はい」
ゴシップ誌を受け取った。
その際に少し手が触れる。
若いからか、体温は向こうのほうが上のようだ。
その白い指の感触は少し熱いくらいに感じた。
……何だかベアトリクス様は怒ってないように見える。
怪人襲撃の際に怒鳴った事を今謝ってしまうべきか?
「……」
ちょうど立ち止まってこちらを見ている。
言ってしまおうとした。
「イーモン、そういえば言い忘れていましたわ」
「……はい」
先に話しかけられる。
「昨日の怪人の襲撃の際、あなたは身を挺して私を守ってくれましたわ」
「……」
「ありがとうございます」
……意外だ。
例の件で向こうから礼をのべてきた。
ここで謝るべきか。
「ああ、その際にベアトリクス様に罵声を浴びせてしまいました。使用人にあるまじき行為、申し訳ありません」
「……? ああ、そうでしたっけ? でもあれはモタモタしていた私が悪いですわ」
良かった。
ベアトリクス様、全然その件を怒ってない。
†††††
そのあとは通常の貴族のお嬢さまと執事のような雰囲気になった。
今後の予定、学習について、明日の新学期の登校の準備。
そのような会話が続く。
そしてあっという間にヘザー男爵家の本館に着いた。
「この匂い……シチューですわ」
何だか機嫌が良い。
もしかしてこの少女……ケイト様が近くにいないと性格が悪くないのだろうか。
「今扉をお開けします」
玄関前に早足で移動し、ベアトリクス様を迎える。
確かにシチューの良い匂いが漂ってきた。
「着がえてきますわ」
「はい」
……よく考えたらこの館にマリンのようなメイドはいない。
身だしなみを整えたりの自分の世話は自分でやるのか。
「ん? ベアトリクス様にイーモン殿か。三十分ほど経ったらテーブルに着いてくれ、まだ出来てない」
またエプロン姿のフィオナが顔を出す。
「はい、お姉さま」
「フィオナさん。手伝います」
「イーモン殿、言ったろう。あなたはベアトリクス様を留年させないことに全神経を注いでくれ」
「は、はい」
そういう事で、一度地下室に戻る事にした。
地下への階段の入り口にかけてあったランプに火を灯す。
「ふう」
ベッドに仰向けに寝転ぶ。
三十分か。
何をするにも手持ち無沙汰だ。
「おっと、これがあったな」
テーブルの上の大きめのランプに火を灯す。
そして明るくなったテーブルで先ほどのゴシップ誌をめくり始めた。
「第三王女、靴磨きの平民と禁断の恋……意外だねえ」
やはり目玉はその記事だ。
しかしそんなことが現実に起きたのか。
それなら男爵家の令嬢と執事の恋など余裕でありそうだ。
「……ん?」
メインの記事を読んでしばらくページをめくっていると、気になる文字が目に入った。
「横領容疑で拘束中のK伯爵の地方の館。その周りに悪魔が出没していた……ね」
思わず吹き出してしまった。
読めば読むほどその場所は私が本来の職場のあの森の中の館だった。
もちろん、二十歳からあの館で働いていて、森で悪魔など見たことがない。
「何々……身を引き裂くような叫び声が深夜響く。通行人は血に染まった木々を見た……ねえ」
やはりゴシップ誌はゴシップ誌だ。
根も葉もない嘘の記事。
「行くか」
三十分経っていた。
ゴシップ誌をクズカゴに放りこむ。
おそらく来週購買することはないだろう。
そのまま立ち上がり、大広間に向かう事にした。
†††††
階段を上りながら考え事をする。
ベアトリクス様を本当に落とせないだろうか?
あの美しい顔、健康的な体、たまに見せる無垢な笑顔。
そのうちどこかの上流貴族の青年が、彼女にひと目ぼれでもして求婚するだろう。
それほどベアトリクス様は美しい。
そうなる前に……後腐れなく遊べたら……。
あの体を最初に堪能する事ができたら。
そんな妄想が頭をよぎる。
「まあ、無理だろうな」
独り言をつぶやく。
妄想は妄想だ。
さっさと家庭教師の仕事を完遂し、あの館に帰って村娘にでもちょっかいをかけてみよう。
頭の中でそんな結論に至る。
「だいたいベアトリクス様がかけて欲しい言葉の検討はついたが……禁句はわからないままだ」
また独り言を口にした。
そうなのだ。
私の自分の中のルール。
禁句がわからない女は攻略の対象にしない。
なぜならその女に飽きたとき、徐々に好感度を下げる方法がなければ、後腐れなく別れる事ができなくなるから。
大広間に着いた。
「あ、イーモン。席に着いてくださいな」
「はい。今水を注ぎ致します」
すでにベアトリクス様はテーブルに着席していた。
……いつもより薄着の白いドレスを着ている。
胸のラインや細い腰回りがハッキリとわかる。
攻略を諦めている相手にそんな姿を見せられるのは蛇の生殺しだ。
「あ、イーモン。ここでは食事の挨拶をしたら適当に皿に料理を盛って、各自自由に食べる習慣ですわ」
「え?」
「男爵家なんてどこもそんなものですわよ。マナーとしてコース料理の食事の仕方を学びはしますがね」
「は、はあ」
「だからあなたも執事の立場とか忘れて食事をしてください」
そういうものだろうか?
まあ……森で自給自足してたケイト様に比べれば普通な事か。
「ではいただきます。せっかくお姉さまが作ってくださったのです。冷めないうちに食べてしまいましょう」
ベアトリクス様はテーブルの真ん中の大鍋から自分の皿にシチューを盛り始めた。
本当に私は何もしなくて良いのだろうか?
執事なのだが。
「あのベアトリクス様」
「何かしら」
気になる事があるので尋ねた。
パンをちぎりながら、ベアトリクス様はこちらを見る。
「フィオナさんはどこに行かれたのでしょうか」
「自宅に帰りましたわよ」
「え?」
驚いた。
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