悪役令嬢と薄幸の元伯爵令嬢のかけて欲しい言葉と聞きたくない言葉

なめ沢蟹

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元伯爵令嬢との逃避行

11話 隠し通路の謎

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  その後はいつも通りだった。
 いつも通りの男女の関係に発展。
 我ながら何をしているのかと呆れてしまう。
 しかし、今回は征服欲が満たされるなんて事はなかった。
 いつもと違う感覚。
 あの森の館にいたときから、美しい少女のケイトとこうなる事を望んでいたはずなのに。
 興奮が冷めると、なんだか虚しい気持ちが自分の中を満たす。
 やはり、私の中で何かが変わってしまった。
「はあ、こんなもんか……こういうの少しは興味あったんだよね」
 行為が終わり、毛布に包まりながらケイトはつぶやく。
 わりと余裕だ。
 ……ベアトリクス様と同じく初めてだったようだが。
「ほら、ここに潜伏してるとさ、さっきのカップルが毎晩来るし、少しは興味あったんだ」
「ああ、なるほど」
「それに……あなたとベアトリクス様の様子を覗いてたりもしてたしね。あそこにいるのは自分だったらどうなるのかなあっては想像してた」
「……はあ?」  
 上体を勢いよく起こす。
 私とベアトリクス様の行為を覗いていた?
 どういうことだ。
「何を言ってる? 私はベアトリクス様とはヘザー家の地下でしか……あっ」
 語っていて途中で気づいた。
「ヘザー家の地下の雰囲気ってここと似
てるでしょ?」
「ま、まさか」
「そう、あそこも私のテリトリーなんだよね。隠し通路は貴族街の地下を網の目状に張っている」
「……なんてこった」
「ごめん。たまに覗いてた」
 驚いた。
 そして大半の今までの不可思議だった事柄が、おぼろげながらも解決した。
「さっき私の背後に回りこんだのは?」
「もちろん隠し通路を使った。隠し通路の入り口はだいたい貴族街の各地下施設のトイレにある」
「……なるほど」
「チャーリーの遺体もその隠し通路に流れる地下水路に捨てた」
「もしかして怪人が神出鬼没だったのは……」
「隠し通路を利用してたからだね」
 いろんな疑問点が解決していく。
 しかし、さらなる疑問もわいた。
「王国ができて数百年。この王都ができてからも同じ年月が過ぎている」
「そうだね」
「今までその隠し通路に気づいた人間はいなかったとは思えないのだが?」
「どうして?」
「お前がどんな方法で各施設を出入りしてるか知らない。しかし仕掛けがあるなら、偶発的に解けて隠し通路の存在に気づく者もいたのでは?」
「あー、そういう事か」
「何しろ数百年だぞ? 一人くらいはいたはずだろ?」
 こういう事は気になってしまう。
 私の悪い癖だ。
「うーん。隠し通路の状態からするとね、少なくとも五十年は誰も立ち入ってない気がする」
「なぜそんな事がわかる」
「長くなるから、まずはお茶入れるよ」
「……」
 ここに来てから何度目だろう。
 ランタンの光の下、ケイトはまた例の簡易湯沸かし器に薪をくべる。
 その際にまた裸体の上半身を私の視界にさらす。
 やはり美しい。
「……」
 なんだろう。
 なんだか現状が面白くなってきた。
 奇しくも私は二人の美少女と肉体関係を持つ事になった。
 しかし事後征服感が冷めるとつまらなくなったベアトリクス様とのケースと違い、ケイトの場合は……攻略が終わった事が始まりでしかない気がする。

†††††
 
 寒い。
 いかに地下が外気の影響を受けにくいとは言っても、さすがに裸でいるにはきつい。
 私もケイトも自然に服を着込んでいた。
「えっと、何の話してたっけ?」
「……なぜこの地下通路が長く使われてなかったかと、お前がわかるのか」
「ああ、そうだったね」
 ずいぶんと緩い空気だ。
 先ほどまで私たちは一歩間違えば殺し合いをしていたのに……。
 ケイトは熱々のお茶を二人分のゴブレットに注ぐ
「あ、イーモン。そこに吊してあるプディング取ってくれる? あなたも好きなの食べていいよ」
「ああ」
「でも男女の営みってずいぶん体力使うんだね。頭がくらくらするし、すごく糖分が欲しくなってる」
「そ、そうか」
 やはりこの辺は普通の少女とリアクションが違う。
 少し思い出をたどる。
 ベアトリクス様も、マリンも、ショーナも、他の者も、初めての直後はこんなにサバサバしてなかったが。 
 とにかく私も紅茶とプディングをいただく事にした。
 保存性を高めたのか、ブランデーの香りと味がキツい。
 それでも絶妙なドライフルーツと生地ののバランス。
 生前のチャーリーの腕はさすがだと称えたい。
「隠し通路はどこもかしこもホコリがね、すごかったんだ」
「へえ」
 ケイトは話を再開する。
「それこそ歩いたら足跡がくっきり残るくらいね。まあ行動範囲の通路は全部チャーリーが掃除してくれたんだけど」
「……」
 生前のチャーリ-、どれだけケイトに尽くしてたんだ。
 私が彼女の初めてをもらったからには、彼はその手の恩恵は得られてなかったと思われるのだが……。 
「五年や十年人の立ち入りがないくらいじゃね、ああはならない」
「なるほど」
「発見当時のホコリの状態から、まあ五十年は王族の脱出ルートであるこの隠し通路は使われてないなかなあ? っていう単なる予測」 
 ある程度信憑性のある話だ。
 しかし解せない事も残る。
「私はここ四カ月ほどヘザー家の地下の部屋で暮らしていた」
「知ってるよ。さっきも言ったとおり、たまに覗いてたから」
「……とにかく、この王都と貴族街ができてから数百年、各屋敷の地下が王宮からの隠し通路に繋がってると気づいた者は一人もいなかったのかな?」
「うーん」 
 ケイトは可愛らしく首をかしげる。
「一人もいなかったと思う」
「根拠は?」
「下級貴族の屋敷の地下は網の目状に広がる隠し通路と繋がってると言っても、人が通れるわけじゃないんだ」
「……?」
「石壁に小さな穴が開けられていて、それが隠し通路と繋がってるだけ。仮に貴族街の館の地下からその穴を発見したとしても、その先は真っ暗な空間」
「誰もその穴が王族が使う隠し通路に繋がってるとなんて思わなかったと?」
「うん。私はそう思う」
 面白い話だ。
 しかしまた新たな疑問がわく。
「しかしなんだって数百年前のこの国の王はそんな仕掛けを作ったのか」 
「多分、王国の貴族たちの動向を秘密裏に探るため」
「へえ。かつての王族はこの隠し通路を逃走ルートとしてではなく、情報収集にも使ったと?」
「憶測でしかないけどね」
「フフフ……ハハハハハ」
「……?」 
 思わず笑い出してしまった。
 ケイトはそんな私を困惑した表情で見つめている。
「なあ、私もここ以外の隠し通路に侵入できるか?」
「問題ないと思うけどね。大柄のチャーリーが行き来できたんだし」 
「フフフ……なら私も使わせてくれよ。貴族街の貴族たちが見えない所でどんな生活をしてるか興味がある」 
「ええ……どうしようかなあ」
 ケイトは嫌そうな顔になる。
 当然か。
 覗きなんて言って、私がもし外界に助けを求めだしたら……彼女は一巻の終わりだ。
 即座に騎士団に捕まるだろう。
 しかし今の私はそんなことをする気はサラサラない。
 いつの間にかワクワクしている。
 殺人犯に監禁されているというこの状況でだ。
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