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最終章 暴走する悪役令嬢を止める禁句とは
1話 生還
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膝から血が出ていた。
ガレキが転がる暗い地下で何度も転び、怪我をした。
鈍い痛みが続く。
「ケイト! どこだ!」
そんなものに構わず、私は叫び続ける。
ランタンを掲げ、逃げ出したケイトを探し続けた。
「ここは……」
激しい滝の水音が聞こえる。
いつの間にか公園の地下に戻っていた。
「……」
偶然、野ざらしの怪人の仮面が視界に入る。
私をあざ笑っているかのように見えた。
「くそっ! バカか! 私はっ!」
走り回りながら、なぜ突然ケイトが私を拒絶したのか考えていた。
「私は……最後に……ケイトを異常な怪物と宣言してしまった」
立ち止まり、微かな日光が注ぐ天井を見上げながらつぶやく。
「信頼を得るつもりだった!」
周囲には誰もいない。
故に、叫んでしまう。
「ケイトがどんな人間であれっ! 私は本当に一生彼女を支えるつもりでいた! 先ほどから自分の人生に価値が感じられなくなっていたから! せめて……」
支離滅裂に言葉を並べてしまう。
走り回って体力は限界だった。
そのまま片膝をつく。
改めて考える。
私は……常に他人のかけて欲しい言葉と聞きたくない言葉を意識してきた。
ケイトのその二つはどうしてもわからなかった。
二年前初めて会ったとき……いたずらをしていた彼女を縛り上げて叱ったあの時から……。
「そうか……ケイトへの禁句は単純に……彼女を異常者とみなす言葉だったんだ」
うなだれながらつぶやき続けた。
「ケイトが夏にベアトリクス様に殴りかかったとき……二年前の射撃大会のときにトレイシーに殴りかかったとき……自分が異常者とばれそうになったから?」
そう考えるとつじつまが合う。
「なら私はさっき! ケイトを絶望のどん底に落としてしまった!」
お前が異常者でも怪物でもかまわない。
私はそう言ってしまった。
あの時、嘘でもお前は異常者なんかじゃないと宣言すべきだった。
「……」
涙が溢れてきた。
ケイトの結末が予測できてしまっているのだ。
ランタンも持たずに逃げ出したということは……。
「……」
泣き崩れていたとき、視界の端ににオレンジ色の揺らめく光が見えた。
「ケイト?」
チャーリーが死んだ今、この地下空間を知るのはケイトしかいない。
「……っ」
足が痛んだが、無理やり立ち上がった。
†††††
戻ってきてくれた。
今度は絶対にケイトを傷つけない。
嘘八百を並べても、私の人生など犠牲にしてもだ。
「ケイト!」
私は再度叫んだ。
しかし、無常にも、聞こえてきたのは……よく知った声だった。
「イーモン! イーモンか?」
「トレイシー?」
「イーモン! 本当に、本当に生きてたんだな。良かった」
「……」
走り寄ってきたのは、ガッチリした体格の鼻の高い黒髪の男だった。
友人のトレイシーだ。
……ケイトではない。
「お前、怪我をしてるじゃないか。ケイト・カミラ・クルックか怪人にやられたのか?」
トレイシーは私の心配をしてくれている。
こんなクズみたいな男のために、こんな地下まで探しに来てくれたのか。
「……」
しかし、私は事もあろうに、彼への感謝への気持ちより……なぜここがケイト以外の者に知られているかのほうが気になっていた。
「トレイシー。ケイトは? どこに行った」
「喋るな、今止血する。そこの水は汚そうだな、傷口を縛ったら一旦地上に出よう」
「トレイシー……ケイトは?」
「ケイト? 心配するな。あの怪物は地上で騎士団に討ち取られた」
「……!?」
「死ぬ直前にお前を監禁してるここへの入口を吐いたらしくてな、そのうち騎士団もここへ来る」
心配するな。
トレイシーはケイトが私に危害を加える存在だと勘違いして口にした言葉だろう。
しかし、その言葉は……。
その勘違いを私もしていた事を明確に思い出させる。
違う。
しかし、その事を目の前のトレイシーに説明しても意味がない。
どういう状況かまったくわからないが、彼の言葉からすると、ケイトはもう死んでるのだから。
「うわあああ」
「ど、どうした? とにかく怪人が生きてるかもしれん、ここから離れるぞ」
大の大人が泣き叫んでいた。
トレイシーはそんな私に構わず担ぎあげて移動を始める。
「待ってろ。出口はすぐ近くにある。ショーナに痛み止めを用意してもらおう」
「……」
「ベアトリクス様やフィオナ様もすぐに駆けつけるはずだ」
「……」
「お前は助かったんだ」
トレイシーは私を運びながらも、励まし続ける。
私が監禁されて、死の恐怖に精神が崩壊してるとでも勘違いしてるのか……。
その思いやってくれる気持ちが、今の私には苦しく感じる。
ケイトを絶望の感情に落とした私に、人に思いやられる価値などないのに。
ガレキが転がる暗い地下で何度も転び、怪我をした。
鈍い痛みが続く。
「ケイト! どこだ!」
そんなものに構わず、私は叫び続ける。
ランタンを掲げ、逃げ出したケイトを探し続けた。
「ここは……」
激しい滝の水音が聞こえる。
いつの間にか公園の地下に戻っていた。
「……」
偶然、野ざらしの怪人の仮面が視界に入る。
私をあざ笑っているかのように見えた。
「くそっ! バカか! 私はっ!」
走り回りながら、なぜ突然ケイトが私を拒絶したのか考えていた。
「私は……最後に……ケイトを異常な怪物と宣言してしまった」
立ち止まり、微かな日光が注ぐ天井を見上げながらつぶやく。
「信頼を得るつもりだった!」
周囲には誰もいない。
故に、叫んでしまう。
「ケイトがどんな人間であれっ! 私は本当に一生彼女を支えるつもりでいた! 先ほどから自分の人生に価値が感じられなくなっていたから! せめて……」
支離滅裂に言葉を並べてしまう。
走り回って体力は限界だった。
そのまま片膝をつく。
改めて考える。
私は……常に他人のかけて欲しい言葉と聞きたくない言葉を意識してきた。
ケイトのその二つはどうしてもわからなかった。
二年前初めて会ったとき……いたずらをしていた彼女を縛り上げて叱ったあの時から……。
「そうか……ケイトへの禁句は単純に……彼女を異常者とみなす言葉だったんだ」
うなだれながらつぶやき続けた。
「ケイトが夏にベアトリクス様に殴りかかったとき……二年前の射撃大会のときにトレイシーに殴りかかったとき……自分が異常者とばれそうになったから?」
そう考えるとつじつまが合う。
「なら私はさっき! ケイトを絶望のどん底に落としてしまった!」
お前が異常者でも怪物でもかまわない。
私はそう言ってしまった。
あの時、嘘でもお前は異常者なんかじゃないと宣言すべきだった。
「……」
涙が溢れてきた。
ケイトの結末が予測できてしまっているのだ。
ランタンも持たずに逃げ出したということは……。
「……」
泣き崩れていたとき、視界の端ににオレンジ色の揺らめく光が見えた。
「ケイト?」
チャーリーが死んだ今、この地下空間を知るのはケイトしかいない。
「……っ」
足が痛んだが、無理やり立ち上がった。
†††††
戻ってきてくれた。
今度は絶対にケイトを傷つけない。
嘘八百を並べても、私の人生など犠牲にしてもだ。
「ケイト!」
私は再度叫んだ。
しかし、無常にも、聞こえてきたのは……よく知った声だった。
「イーモン! イーモンか?」
「トレイシー?」
「イーモン! 本当に、本当に生きてたんだな。良かった」
「……」
走り寄ってきたのは、ガッチリした体格の鼻の高い黒髪の男だった。
友人のトレイシーだ。
……ケイトではない。
「お前、怪我をしてるじゃないか。ケイト・カミラ・クルックか怪人にやられたのか?」
トレイシーは私の心配をしてくれている。
こんなクズみたいな男のために、こんな地下まで探しに来てくれたのか。
「……」
しかし、私は事もあろうに、彼への感謝への気持ちより……なぜここがケイト以外の者に知られているかのほうが気になっていた。
「トレイシー。ケイトは? どこに行った」
「喋るな、今止血する。そこの水は汚そうだな、傷口を縛ったら一旦地上に出よう」
「トレイシー……ケイトは?」
「ケイト? 心配するな。あの怪物は地上で騎士団に討ち取られた」
「……!?」
「死ぬ直前にお前を監禁してるここへの入口を吐いたらしくてな、そのうち騎士団もここへ来る」
心配するな。
トレイシーはケイトが私に危害を加える存在だと勘違いして口にした言葉だろう。
しかし、その言葉は……。
その勘違いを私もしていた事を明確に思い出させる。
違う。
しかし、その事を目の前のトレイシーに説明しても意味がない。
どういう状況かまったくわからないが、彼の言葉からすると、ケイトはもう死んでるのだから。
「うわあああ」
「ど、どうした? とにかく怪人が生きてるかもしれん、ここから離れるぞ」
大の大人が泣き叫んでいた。
トレイシーはそんな私に構わず担ぎあげて移動を始める。
「待ってろ。出口はすぐ近くにある。ショーナに痛み止めを用意してもらおう」
「……」
「ベアトリクス様やフィオナ様もすぐに駆けつけるはずだ」
「……」
「お前は助かったんだ」
トレイシーは私を運びながらも、励まし続ける。
私が監禁されて、死の恐怖に精神が崩壊してるとでも勘違いしてるのか……。
その思いやってくれる気持ちが、今の私には苦しく感じる。
ケイトを絶望の感情に落とした私に、人に思いやられる価値などないのに。
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