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最終章 暴走する悪役令嬢を止める禁句とは
8話 首吊りがあった部屋
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旅の疲れも出ていた。
執事室の椅子に座り、背もたれに寄りかかる。
「・・・・・・」
慣れ親しんだ机との椅子だ。
やけにしっくり来てくつろいでいると・・・・・・ドアが開く音と共にやかましい声が聞こえてきた。
「あー! イーモンの兄貴! そこ、今は俺の机なんだぞ」
やんちゃな村人に無理やり執事服を着せたような少年、ブルーノだ。
改めて、若干十八の少年がこのヘザー家別館の今の執事か。
よほどの人材不足か。
「悪かったよ。今どける」
私はそう告げて渋々と立ち上がる。
そして疑問がわいた。
「ん? 私はこの館の滞在中はどこで落ち着けばいいんだ? 夜は村の借家に帰るとして」
語りながらも、館の近くの村に借りている長屋の一部屋を思い出す。
そういえば半年ほどほったらかしだ。
「なーに言ってんだよ」
私の発言を聞いてブルーノは呆れた表情を返してきた。
「元ケイト様のお母様の部屋で休むもよし、ベアトリクス様の部屋で一緒に休むでもいいだろ?」
「元クルック伯爵夫人の部屋? どうしてだ? あそこは開かずの間だろうに」
「あんたは今はベアトリクス様の婚約者なんだぜ。一部屋くらい使えるだろ」
「うーん」
ブルーノの発言はもっともらしく聞こえる。
しかし私は二つの意味で悩んでしまう。
一つは男爵令嬢の婚約者とはいえ、今の私はヘザー家の使用人にすぎない。
そしてもう一つは・・・・・・さすがに人が首を吊った部屋でくつろぐのは抵抗がある。
何しろその部屋は、ケイトの父親であるクルック伯爵が投獄されたときに夫人が自殺した部屋なのだ
†††††
また執事室の部屋のドアがバタンと開く。
今度はベアトリクス様が立っていた。
「どうした? ベアトリクス」
私が声をかけると、ツカツカと部屋に入ってきた。
・・・・・・見ると彼女は薄手のドレスから着替えていた。
まるで狩人のような動き安そうな服装だ。
そう、まるでかつてのケイトのような。
「まずはそのケイトのお母様の部屋から探索しましょう」
話を聞いていたのか。
ベアトリクス様はそう語る。
「地下室じゃなくてか?」
「ええ。地下室も気になりますけど、そこも気になりますわ。何しろ長い間誰も入ってない部屋ですし」
「そうだな。私も気になってきた。あの時、伯爵夫人はなぜ唐突に自殺したのか」
「兄貴、なんか面白そうな話してるな」
「ん?」
私たちの会話にブルーノが割って入ってきた。
目を輝かせている。
「兄貴? あのあなたは?」
「酷いですよ、ベアトリクス様。先ほど大広間で出迎えたじゃないですか。新しい執事のブルーノ・ロビンズです。そもそも名乗ったでしょう?」
「そうだったかしら?」
「・・・・・・」
絶対に覚えてる。
本当にこの子は基本的に人にそういう態度を取ってしまう。
「ふふっ」
何となく吹き出した。
私が初めてベアトリクス様に会ったときも似たような素っ気ない態度を取られた。
それが今は婚約者か。
「それよりもブルーノ。あなたたしかマリンの弟なんですよね?」
「え?」
ベアトリクス様が突然ブルーノの素性を詳しく詮索してきた。
おそらく今私の顔は苦笑いだろう。
「俺の事知ってるんじゃないですか」
「ええ、マリンに手のかかる弟がいると聞いてたので」
「ああ、そうですかそうですか」
「・・・・・・」
「ん?」
ベアトリクス様の顔つきが真顔になる。
ふざけているだけでもなさそうだ。
何か聞きたい事でもあるのか。
「それでブルーノ。あなたこの館の近くの村の村人なんですよね? 何かケイト・カミラ・クルックについて知ってる事はありませんか?」
そう来たか。
たしかにいろんな視点から見たケイトの情報は欲しい。
「亡くなったケイト様の?」
「ええ。大人の視点ではなく、村の子供の視点で」
「うーん。というか、子供って。俺、あなたやケイト様より年上ですよ」
「いいから。答えてください」
質問にブルーノは悩む。
私はしばらく様子を見守ることにした。
「申し訳ありませんが、ケイト様については何も知りませんね」
「そう、意外ですわ。ケイト、あの子の事ですから、身分の差など関係なく村の悪ガキと遊んでそうなものと思っていたのですが・・・」
その言葉を聞いて、ブルーノは目を丸くする。
「なんで俺が伯爵令嬢と? 遊ぶ? あり得ないでしょう」
「・・・・・・へえ」
その発言には私も興味を持った。
生前はこの館でやんちゃを繰り返したケイト。
館を抜け出しては村の悪ガキどもを従えて悪さをしていたような気がする。
「綺麗な方でしたよね。でもケイト様は遠目でしか見たことがありません」
「・・・・・・それで? お前から見たケイトってのはどんな存在だった?」
「どんな存在って、そりゃあ不気味で近寄りがたかったよ。まあ結局、後に怪人を従えて殺人を繰り返したり、兄貴をさらったりした人なわけだし」
「・・・・・・」
ベアトリクス様と顔を見合わせた。
私たちの知るケイトのイメージとかけ離れた情報が入ってきた。
使用人たちに妹のように可愛がられ、ベアトリクス様と意地の張り合いをする微笑ましい美少女。
そんなイメージが少しずつ変わっていく。
「きっとケイトは世の中を憎んでいたんですわ。悪をね」
「・・・・・・?」
唐突にベアトリクス様がわけのわからない事を言い出した。
・・・・・・恍惚の表情で。
ケイトが悪を憎んでいた?
私の印象では、生前の彼女は自分の湧き上がる衝動を抑えられなくて苦しむ哀れな存在なのだが。
しかし、なんだこの胸騒ぎは。
ここ数カ月恋人として過ごしたベアトリクス様がなんだか一瞬見知らぬ人間に見えた。
まるで先ほどブルーノが語った生前のケイトの印象のような・・・・・・。
執事室の椅子に座り、背もたれに寄りかかる。
「・・・・・・」
慣れ親しんだ机との椅子だ。
やけにしっくり来てくつろいでいると・・・・・・ドアが開く音と共にやかましい声が聞こえてきた。
「あー! イーモンの兄貴! そこ、今は俺の机なんだぞ」
やんちゃな村人に無理やり執事服を着せたような少年、ブルーノだ。
改めて、若干十八の少年がこのヘザー家別館の今の執事か。
よほどの人材不足か。
「悪かったよ。今どける」
私はそう告げて渋々と立ち上がる。
そして疑問がわいた。
「ん? 私はこの館の滞在中はどこで落ち着けばいいんだ? 夜は村の借家に帰るとして」
語りながらも、館の近くの村に借りている長屋の一部屋を思い出す。
そういえば半年ほどほったらかしだ。
「なーに言ってんだよ」
私の発言を聞いてブルーノは呆れた表情を返してきた。
「元ケイト様のお母様の部屋で休むもよし、ベアトリクス様の部屋で一緒に休むでもいいだろ?」
「元クルック伯爵夫人の部屋? どうしてだ? あそこは開かずの間だろうに」
「あんたは今はベアトリクス様の婚約者なんだぜ。一部屋くらい使えるだろ」
「うーん」
ブルーノの発言はもっともらしく聞こえる。
しかし私は二つの意味で悩んでしまう。
一つは男爵令嬢の婚約者とはいえ、今の私はヘザー家の使用人にすぎない。
そしてもう一つは・・・・・・さすがに人が首を吊った部屋でくつろぐのは抵抗がある。
何しろその部屋は、ケイトの父親であるクルック伯爵が投獄されたときに夫人が自殺した部屋なのだ
†††††
また執事室の部屋のドアがバタンと開く。
今度はベアトリクス様が立っていた。
「どうした? ベアトリクス」
私が声をかけると、ツカツカと部屋に入ってきた。
・・・・・・見ると彼女は薄手のドレスから着替えていた。
まるで狩人のような動き安そうな服装だ。
そう、まるでかつてのケイトのような。
「まずはそのケイトのお母様の部屋から探索しましょう」
話を聞いていたのか。
ベアトリクス様はそう語る。
「地下室じゃなくてか?」
「ええ。地下室も気になりますけど、そこも気になりますわ。何しろ長い間誰も入ってない部屋ですし」
「そうだな。私も気になってきた。あの時、伯爵夫人はなぜ唐突に自殺したのか」
「兄貴、なんか面白そうな話してるな」
「ん?」
私たちの会話にブルーノが割って入ってきた。
目を輝かせている。
「兄貴? あのあなたは?」
「酷いですよ、ベアトリクス様。先ほど大広間で出迎えたじゃないですか。新しい執事のブルーノ・ロビンズです。そもそも名乗ったでしょう?」
「そうだったかしら?」
「・・・・・・」
絶対に覚えてる。
本当にこの子は基本的に人にそういう態度を取ってしまう。
「ふふっ」
何となく吹き出した。
私が初めてベアトリクス様に会ったときも似たような素っ気ない態度を取られた。
それが今は婚約者か。
「それよりもブルーノ。あなたたしかマリンの弟なんですよね?」
「え?」
ベアトリクス様が突然ブルーノの素性を詳しく詮索してきた。
おそらく今私の顔は苦笑いだろう。
「俺の事知ってるんじゃないですか」
「ええ、マリンに手のかかる弟がいると聞いてたので」
「ああ、そうですかそうですか」
「・・・・・・」
「ん?」
ベアトリクス様の顔つきが真顔になる。
ふざけているだけでもなさそうだ。
何か聞きたい事でもあるのか。
「それでブルーノ。あなたこの館の近くの村の村人なんですよね? 何かケイト・カミラ・クルックについて知ってる事はありませんか?」
そう来たか。
たしかにいろんな視点から見たケイトの情報は欲しい。
「亡くなったケイト様の?」
「ええ。大人の視点ではなく、村の子供の視点で」
「うーん。というか、子供って。俺、あなたやケイト様より年上ですよ」
「いいから。答えてください」
質問にブルーノは悩む。
私はしばらく様子を見守ることにした。
「申し訳ありませんが、ケイト様については何も知りませんね」
「そう、意外ですわ。ケイト、あの子の事ですから、身分の差など関係なく村の悪ガキと遊んでそうなものと思っていたのですが・・・」
その言葉を聞いて、ブルーノは目を丸くする。
「なんで俺が伯爵令嬢と? 遊ぶ? あり得ないでしょう」
「・・・・・・へえ」
その発言には私も興味を持った。
生前はこの館でやんちゃを繰り返したケイト。
館を抜け出しては村の悪ガキどもを従えて悪さをしていたような気がする。
「綺麗な方でしたよね。でもケイト様は遠目でしか見たことがありません」
「・・・・・・それで? お前から見たケイトってのはどんな存在だった?」
「どんな存在って、そりゃあ不気味で近寄りがたかったよ。まあ結局、後に怪人を従えて殺人を繰り返したり、兄貴をさらったりした人なわけだし」
「・・・・・・」
ベアトリクス様と顔を見合わせた。
私たちの知るケイトのイメージとかけ離れた情報が入ってきた。
使用人たちに妹のように可愛がられ、ベアトリクス様と意地の張り合いをする微笑ましい美少女。
そんなイメージが少しずつ変わっていく。
「きっとケイトは世の中を憎んでいたんですわ。悪をね」
「・・・・・・?」
唐突にベアトリクス様がわけのわからない事を言い出した。
・・・・・・恍惚の表情で。
ケイトが悪を憎んでいた?
私の印象では、生前の彼女は自分の湧き上がる衝動を抑えられなくて苦しむ哀れな存在なのだが。
しかし、なんだこの胸騒ぎは。
ここ数カ月恋人として過ごしたベアトリクス様がなんだか一瞬見知らぬ人間に見えた。
まるで先ほどブルーノが語った生前のケイトの印象のような・・・・・・。
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