4 / 30
四刑
しおりを挟む婚約パーティーから、6年の月日が経ち、私は16歳になった。
パブリックスクール生活初日。
私は起き上がり、部屋の窓のカーテンを開けた。窓から差す眩しい朝日を浴びたのは、いつぶりだったっけ?
一昨日、私はリアと共にスクールの寮に入った。リアは貴族寮、私は一般生徒が入る一般寮に入る事となった。貴族寮のリアには、公爵邸から何人か連れてきた召使いがこれから2年間彼女の身の回りの世話をする事になる。
一方で私は、贅沢なことにこの6畳ほどの小部屋を一人で使う。誰もいない生活なんて、生まれて初めて。公爵邸にいた頃のビクビクした生活に比べて、まさに夢心地だわ。
誰の声も聞こえてこない空間を、私はふと見渡した。埃一つない部屋の片隅には、まだ開けていない段ボールが二つと、お古のキャリー。机の上の届いたばかりである新しい教科書とスクールの制服を見て、私は改めて実感した。
——ついに始まったのだと。
起きて私がまず第一にしなければならないのは、晒しを巻く事。
私の名前は、今日からラルフ。女の名前であるラウラを捨て、男の名前で入学届を書いた。確実に死刑執行人になる為には、時が来るまで決して女だと悟られてはならない。技術を見られる事なく、性別で見くびられるのは絶対にゴメンだわ。
でも、晒しを巻いたからといって決して気は抜けない。私が専攻する教育コースは、死刑執行人になるための英才教育に特化したコースで、もちろん女子生徒は私以外にいない。それも講義は実技が8割で、男性でも身体つきがいい男が大半を占めている。
私も多少なりとも筋肉を鍛えようと独自の鍛錬を頑張って来たものの、食事バランスと時間が限られていた為、一般男性程度の筋肉も鍛える事が出来なかった。女性にしては逞しく、男性にしては細身の体な為、講義では間違いなく浮いてしまう事だろう。だが、こればかりは間に合わなかったのだから、今更悔やんだところで仕方がない。
***
「ラルフ! 見て! 可愛いでしょ?」
遅れて待ち合わせ場所の校門前にやって来たリアは、謝罪を寄越すでもなく、真っ先に制服姿を見せつけて来た。
「似合ってる」
純潔さを際立たせるリアの紺色の制服姿は、確かに可愛い。
「やっぱり? リアが一番似合っているんじゃないかしら!」
しかしだからと言って勘違いして欲しくない点は、リアがこの学園で1番可愛いというわけではないという点。
親バカな公爵に育てられたお陰で、リアはすっかりおめでたい思考回路しか持てない人間になってしまった。
もちろん、リアは不細工では無いものの、とびきりな美人というわけではない。リアよりも美人な令嬢なんて、校門を通って行く人を見るだけでもすでに50人は見つけた。
しかし、誰一人としてリアのように自分が一番可愛いなどとひけらかしていない。
「行くよ」
これ以上この子を野放しておくと公爵家の恥、延いては私の恥を晒すことになる。
リアと私は別校舎。さっさとリアを送り届けてこの子から離れねば。
「待ってよ、ラルフ。まだフランツ様がいらしてないわ」
(げっ……)
フランツ・シャイト
第二皇子の名だ。
「あ、噂をすればよ! フランツ様~~!!」
目敏くフランツ皇子が乗っている馬車を見つけると、リアは大きな声で手を振った。
「聞こえていないのかしら?」
皇子から何も反応が帰っこない事に、リアは少し拗ねた態度を見せた。逆にどうしてまだ豆粒にしか見えないほど距離があるというに聞こえると思ったの?
それに今ここであなたが手を振った所で、馬術者しか見えないということが何故この子は分からないのだろうか。まさか自分が手を振れば、皇子が窓から顔を出して振り返してくれるとでも期待したのかしら?
物理の法則が成り立つこの世界で、少女マンガの世界は具現化しないという事にいい加減目を覚ましてほしいわ。
それに……あの第二皇子が、貴女にそんなことを本気でする訳ないじゃない。
0
あなたにおすすめの小説
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
9時から5時まで悪役令嬢
西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」
婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。
ならば私は願い通りに動くのをやめよう。
学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで
昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。
さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。
どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。
卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ?
なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか?
嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。
今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。
冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。
☆別サイトにも掲載しています。
※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。
これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。
「やはり鍛えることは、大切だな」
イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」
その日、一つのお見合いがあった。
ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。
クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。
そして互いに挨拶を交わすその場にて。
ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。
けれども……――。
「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる