13 / 30
十三刑
しおりを挟む「おい、どこに連れて行く気だ」
「それは着いてからのお楽しみという事で」
港町から馬車で移動して1時間。もうそろそろ着く頃だろう。
皇子には行き先を敢えて教えず、窓の外も見せないようにしている。ほぼ誘拐スレスレに入るのだろうけど、途中の景色で怖気付かれて引き返されると困るからなぁ。
「そろそろかな。ここからは歩くから私の後ろについて来てくれ」
「ゴミが俺に命令するのか」
「ではロイ皇子の不戦敗って事になるけど」
「ぐっ! 行けば良いのだろう? 行けば!!」
木立近くに馬車を止め、そこから先は歩いて木立の中を抜けていった。10分ほど歩けば、目的地はすぐそこに見えてきた。
「…………」
あれだけ不平を零していた皇子も、この目の前に広がる光景を見て段々と静かになった。
私がロイ皇子を連れて来たのは、とある小さな村だ。
カビや腐敗した木板を組み合わせただけのボロい家屋がずらりと並び、屋根は布を被せただけの即席。その家屋の前には、死体かどうなのか分からない汚れきった人間の体が3,4人単位で固まって転がっており、その周りにはハエが飛び回っていた。歩いている人の姿は見えず、道は人間ではなくゴキブリやトカゲしか歩いていない。
ここは貧困を極めた地域 アームート村だ。
「どう? 初めて見た感想は」
「な、なんだ!! こkング!?」
「声を落として」
大声を出さないよう、私は即座に皇子の口を塞いだ。
市民の住居=港町と固定概念がある皇子にとって、この光景に驚くのも無理はない。正直、連れてきた私も衝撃を受けている。
昔、何度かボランティアの一環で父様と母様達で何度か来たことがあるが、その時よりもさらに状況が悪化している。
「な、なんなんだ。この村は……」
「ここは国に隠された場所。国の景観を崩さない為に、村ごと奥地に追いやられたんだ。
ロイ皇子は、あの港町以外で市民を見たことがないだろ?」
「当たり前だ! 教師が市民はみんな港町に住んでいると言っていた」
当たり前のように話す皇子のこの発言に、私は悲しくなった。王室教師がまだそんな事を教えていたとは。ロイ皇子だけならば、彼は運が悪かったな。3番目の扱いと言ってしまえばそれまでだろう。
しかし、上二人の兄にも同じ教育を施しているとするならば、話は別だ。王としての教育的指導を行わないその教師は王室教師以前に、教育者ではない。ただの詐欺師だ。
「その教師が言った言葉の本当の意味、どういう意味か分かる?」
「『本当の意味』?」
「ここに住んでいる人達は、人間だと認識されていない奴隷なんだよ」
「どういう事だ? 彼らは人間じゃないのか?」
「人間だよ。人間であり、この国のれっきとした市民だ」
「なら一体、どういう意み」
「詳しい話は場所を移してからだ。こっち」
皇子の手を引いて、足早に再び木立の中に戻り馬車に向かった。皇子はまた、訳も分からず私に連れていかれるがままだったが、今度は不平の一つも零さずに黙ってついて来てくれた。
「何故また場所を移動したんだ」
「私も貴方も、あの場所に長居するには身なりが綺麗すぎたからだよ」
「身なりとあの場所の何が関係あるんだ」
「リンチに会うからだよ。あそこはその日暮らしで一日一日を凌いでいる人達の溜まり場だから」
「なんで?」
「奪う為。あの人達は、犯罪者になるか否かの瀬戸際まで来ている人達だ。私達がいるだけでも毒。葛藤している彼らを受刑者にしない為にも、あそこは長居する場所ではない」
0
あなたにおすすめの小説
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のない、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
9時から5時まで悪役令嬢
西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」
婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。
ならば私は願い通りに動くのをやめよう。
学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで
昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。
さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。
どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。
卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ?
なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか?
嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。
今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。
冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。
☆別サイトにも掲載しています。
※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。
これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。
「やはり鍛えることは、大切だな」
イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」
その日、一つのお見合いがあった。
ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。
クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。
そして互いに挨拶を交わすその場にて。
ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。
けれども……――。
「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる