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十三刑
しおりを挟む「おい、どこに連れて行く気だ」
「それは着いてからのお楽しみという事で」
港町から馬車で移動して1時間。もうそろそろ着く頃だろう。
皇子には行き先を敢えて教えず、窓の外も見せないようにしている。ほぼ誘拐スレスレに入るのだろうけど、途中の景色で怖気付かれて引き返されると困るからなぁ。
「そろそろかな。ここからは歩くから私の後ろについて来てくれ」
「ゴミが俺に命令するのか」
「ではロイ皇子の不戦敗って事になるけど」
「ぐっ! 行けば良いのだろう? 行けば!!」
木立近くに馬車を止め、そこから先は歩いて木立の中を抜けていった。10分ほど歩けば、目的地はすぐそこに見えてきた。
「…………」
あれだけ不平を零していた皇子も、この目の前に広がる光景を見て段々と静かになった。
私がロイ皇子を連れて来たのは、とある小さな村だ。
カビや腐敗した木板を組み合わせただけのボロい家屋がずらりと並び、屋根は布を被せただけの即席。その家屋の前には、死体かどうなのか分からない汚れきった人間の体が3,4人単位で固まって転がっており、その周りにはハエが飛び回っていた。歩いている人の姿は見えず、道は人間ではなくゴキブリやトカゲしか歩いていない。
ここは貧困を極めた地域 アームート村だ。
「どう? 初めて見た感想は」
「な、なんだ!! こkング!?」
「声を落として」
大声を出さないよう、私は即座に皇子の口を塞いだ。
市民の住居=港町と固定概念がある皇子にとって、この光景に驚くのも無理はない。正直、連れてきた私も衝撃を受けている。
昔、何度かボランティアの一環で父様と母様達で何度か来たことがあるが、その時よりもさらに状況が悪化している。
「な、なんなんだ。この村は……」
「ここは国に隠された場所。国の景観を崩さない為に、村ごと奥地に追いやられたんだ。
ロイ皇子は、あの港町以外で市民を見たことがないだろ?」
「当たり前だ! 教師が市民はみんな港町に住んでいると言っていた」
当たり前のように話す皇子のこの発言に、私は悲しくなった。王室教師がまだそんな事を教えていたとは。ロイ皇子だけならば、彼は運が悪かったな。3番目の扱いと言ってしまえばそれまでだろう。
しかし、上二人の兄にも同じ教育を施しているとするならば、話は別だ。王としての教育的指導を行わないその教師は王室教師以前に、教育者ではない。ただの詐欺師だ。
「その教師が言った言葉の本当の意味、どういう意味か分かる?」
「『本当の意味』?」
「ここに住んでいる人達は、人間だと認識されていない奴隷なんだよ」
「どういう事だ? 彼らは人間じゃないのか?」
「人間だよ。人間であり、この国のれっきとした市民だ」
「なら一体、どういう意み」
「詳しい話は場所を移してからだ。こっち」
皇子の手を引いて、足早に再び木立の中に戻り馬車に向かった。皇子はまた、訳も分からず私に連れていかれるがままだったが、今度は不平の一つも零さずに黙ってついて来てくれた。
「何故また場所を移動したんだ」
「私も貴方も、あの場所に長居するには身なりが綺麗すぎたからだよ」
「身なりとあの場所の何が関係あるんだ」
「リンチに会うからだよ。あそこはその日暮らしで一日一日を凌いでいる人達の溜まり場だから」
「なんで?」
「奪う為。あの人達は、犯罪者になるか否かの瀬戸際まで来ている人達だ。私達がいるだけでも毒。葛藤している彼らを受刑者にしない為にも、あそこは長居する場所ではない」
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