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二十一刑
しおりを挟む「はぁ~~~! 飲んだわ~~久しぶりにこんなに飲んだわぁ~~!!!」
時刻は深夜11時前。
開店直後に入店し、閉店時間と共に店を出た。ヴァージットはアルコールが入って頗るご機嫌のご様子。馬車の駐車場まで終始スキップで移動していた。
「ご馳走して頂き感謝する!」
「いいのよ~ん! だってこれくらいしないと明日あたしが怒られちゃうもの」
……『怒られる』?
学園の規定で生徒の門限は深夜12時。12時になると寮の門が閉まり、朝まで中に入る事は出来ない。故に生徒はそれまでに寮に戻らなければならないのだが……さすがに学園の指導員が門限ギリギリの時間まで、それも授業見学の名目で生徒を連れ回していたと言うのは外聞が悪い。今回の食事の奢りは、その口止め料とでも言うのか?
「さて、じゃあ最後にみんなに聞きたいことがありま~す! 今日の見学の感想を聞かせてちょうだい!」
駐車場に到着すると、ヴァージットは急にそれらしい話を振ってきた。
しかし、見学といってもただ店で飲んで食べてどうでもいい事を話していただけ。見学らしいことは何一つした覚えがない為、私達は顔を合わせ、揃って困った顔をした。
「見学も何も、ただ飲んでいただけだろ?」
「意外に楽しかった! ヴァージット殿との親交を深められた気がする! 何よりも彼自身の事を知る事が出来た!」
「ラルちゃんは?」
「とても楽しい時間でした」
「はい、みんなありがとう~! 私も楽しかったわ!」
なんだろう……なんだか、変な感じがする。
ロイもハイノも何かを気にしている様子はない。ただの私の思い過ごしなのだろうけど……何故今このタイミングで、ヴァージットが急に指導員の顔をしたのかが気になる。
「これにて見学終了~!」
彼の何が変わったわけではないのに、何故か今この瞬間、彼と会話することに私は何故か緊張している。
今日の見学……ヴァージットは本当に、ただ酒を飲んでいただけだった……?
これはただの私の勘に過ぎないが、今、私達とヴァージットの会話にはとんでもないズレがあるような気がしてならない。
——そして、私のこの悪い予感は見事的中していた。
「じゃあ私はこのまま帰るわね」
「「「え?」」」
バタン!
馬車に素早く乗車するなり、ヴァージットは私達が乗ろうとする前に扉を閉め、鍵をかけた。
「ちょっと待て! どういうつもりだ!」
「どういうつもりって?」
「むむ!? 俺達も同じ馬車で来た事を忘れたか!」
「だからそれがどうしたって聞いてんねん、クソガキ」
「「「!!」」」
おカマが、野郎に戻った……。
明らかに、ヴァージットは私達の見学の感想を聞いて態度を豹変させた。先程まで裏声で話していたのに、素の男の声帯に戻っている。顔つきも仕草もロリータファッションに見合う振る舞いを心がけていたのに、今はロリータファッションをしたヤ●ザ者だ。
その豹変ぶりは、背筋が冷たくなる程に恐ろしい。
「無能共に無駄な時間を割いた挙句、金まで払ってやったんや。それだけでも恩恵やのに、まだ高るとかどれほど図々しいねん。性格悪いわぁ」
……完全にやられた。
この為にヴァージットはご飯代を負担したんだ。怒られるって言っていたのは、学園の上の教員からではなく、私達に反論させない為だったんだ。
今ここで彼に置いていかれると非常にマズイ。馬車のレンタルの受付はこの時間ではどこも終わっている。港町は馬車で移動して30分。徒歩は愚か全力で走って帰っても1時間では寮に到着しない。間違いなく明日の朝帰りは確定する挙句、規則を破った私達は相応の処罰が下される。何よりも一番マズイのは、保護者であるアルノルト公爵に連絡が行く事!
「悪評を聞いても見学に来る根性があるから、どんな生徒かと思ってたけど……とんだ期待ハズレだわ。貴方達のような学習能力がない人はこっちから願い下げよ」
『学習能力がない』……?
……そうか。ヴァージットは初めから、ちゃんと見学授業を行なっていたのか。
『別に授業って言ったって、こうしなさいって言うルールなんてないんだから良いじゃない!』
確かに、彼は最初にちゃんとそう言っていた。
私達が場の雰囲気に飲まれて、勝手に勘違いしていただけで、これが彼の授業の方針だったのだ。
それに……
『おい、聞いたか? グランの話』
あれは、決して偶然ではなかったんだ。
「ヴァージット先生」
「なぁに? ラルちゃんも文句言うの?」
「さっきの見学の感想を訂正させて下さい」
「は? ラルフ! お前この状況で何を意味の分からないことを言っている!!」
何がなんだか分かっていないロイから見てみれば、私の言動は腹が立ってしょうがないだろう。苛立ちがもう目に見えて口調に出てしまっているから、今ロイが私に対して何を思っているの手に取るように分かる。
「何よ、訂正って」
「大変勉強になりました」
「「は?」」
ヴァージットが反応するよりも先に、聞いていた二人の方が先に言葉を漏らした。分かりやすい反応だ。一見、あの見学には全く意味が無いように見えるから無理もないけれど。
「何が勉強になったの? 言ってみなさいよ」
私が思った通り、ヴァージットは質問で見学の感想を追及してきた。
笑うでも無い、嘘だと決めつけるわけでもなく、真剣に一指導員として。
「酒場の客から、とある死刑囚の話を聞きました」
「それで?」
「死刑囚の名前はグラン。心優しい、周囲の人間から人望ある人物だと聞いています」
彼のこの見学授業の本質に私が気づく事ができたのは、間違いなく「運と奇跡」だ。
私が父様の本を読んでいなければ、基、父様の娘に生まれていなければ、私もきっと二人のようにヴァージットに文句を言っていただけで終わっていた事だろう。
質問に答え続ける私をヴァージットは、暫くじっと見つめ続けた。何を見ていたのかは分からなかったけれど、怯むまじと私もヴァージットの目をじっと見つめ続けた。
するとふとした瞬間、ヴァージットは力んでいた顔の力を抜くように口角を軽く上げると、掛けたはずの馬車の鍵を外した。
「……及第点よ。乗りなさい」
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