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二十九刑
しおりを挟む寮に到着したのは午後5時過ぎ。
行きは馬車で連れて仕方なかったものの、帰りもフランツと密室で二人きりという状況になりたくなかったので、「ついでに寄る所がある」と嘘をついて歩いて帰った。
馬車で30分ほどの距離を2時間近くかけて帰ってきた。ハイノの体力指導を受ける前の私なら、途中で倒れていたに違いない。
やっとの思いで帰宅し、あとは部屋に戻ってゆっくりできると安心したのも束の間のこと。
「随分遅いお帰りね」
寮門の前で怒りに満ちたリアが、私の帰りを待ち伏せていた。
(勘弁して……!)
「徒歩で帰ってきたので随分と時間がかかってしまいました」
「フランツ様とどこで何をしていたのよ!」
「ただ30分ほどお茶をしただけです」
「嘘! 本当は私に言えないような事もしていたんじゃないの?!」
こうも感情的に怒られては、もう今日のリアは手がつけられない。会話は成り立たず、宥めるにもただ自分の抑えられない感情を爆発させるだけで、他人の話など聞く耳を全く持たなくなる。私が帰ってくるまでに勝手に膨らんでいた自分の妄想に支配されて、こちらがいくら否定しても信じようとしない。
疲れた後にこうも面倒になる事が分かっていたら、我慢してでもフランツといっしょに帰れば良かった。彼ならリアの理不尽な怒りも上手く掌で転がせただろうに。
「フランツ様は私の婚約者よ! 奪らないでよ!」
「誤解です。フランツ様は私の正体には気づいていないのを貴女もご存知でしょう?」
「そんなの……自分から正体を明かせば知れた事じゃない」
「私が正体を明かしても公爵家にも私にもメリットが無いことは重々理解しておられるはずですが」
「……私には関係ないもん。貴女の事情も、家のメリットなんてリアは知らなくていい事だもの」
まあ確かに、自分の事すらまともに考える事が出来ないリアに、お家のことを考えろなんて無茶な話だ。
寧ろこの6年間、口が滑らなかっただけでも表彰ものだ。こればかりは利己的主義な公爵の性格に感謝だ。目的は違えど、私の秘密に関しては公爵が全面的にリアに協力させたから。普段、自分に怒りも強制もしない父親を怖がって、リアは従順に今まで静かでいてくれた。それだけでも万々歳だ。
「もしもラルフが私のフランツ様を捕ろうと企んでいるなら、その前に私がラルフの正体を学園中にバラしてやる」
「!」
「女である事も、侯爵令嬢である事も全部。そうなると、お姉様はこの学園に残れるかしら」
いつから脅し文句なんて使えるようになったのか。
まあこの子の脅しは別に怖くはないけれど、念には念を入れて、あとで公爵に手紙で上手いこと言ってリアを牽制してもらっておこう。
でも、さすがに今回は注意を怠らない方がいいわね。感情的になればリアは何をしでかすのか分からないわ。
「神に誓います。私からフランツ様に色眼鏡をかけることは決してありません」
「肝に銘じておきなさい!」
***
——三日後
「さぁ~て! 今日から楽しい楽しい授業が始まるわよ~ん!」
ついに今日から、少人数授業が始まる。
少人数授業はすべて各々の指導員の管轄内で行われ、授業内容はクラスごとで異なる。
今日も白のロリータコスで教室に登場したヴァージットは、早速私達を馬車に乗せ、外へと連れ出した。
「おい、どこに向かっているんだ?」
「はぁい! ちゅうもーく! これから皆さんには、助産院に行ってもらいます!」
「「「助産院?」」」
ヴァージットの授業は全く死刑執行人と関係がない授業と聞いてはいたが……、本当に全く関係ない場所だ。
いやでも待って!! 父様の下で働いていた彼だからこそ、見学授業同様、何か特別な考えがあるのかもしれない。
「ヴァージット指導員! 助産院に行く理由をお聞かせ願いたい!」
「えー? 理由? ……赤ちゃん見たいから?」
「「「……え?」」」
明らかに適当な回答だったけど、考え……あるんだ……よね?
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