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トウが思い出したように「そういや、なんで村の人から暴行受けてやり返さなかったの?」と聞いてきた。
「……」
「そんな弱くないでしょ」
「……」
勝てなくはないと思うが、村の人の手を上げようと思った事はなかった。ある程度の攻撃を受ければ彼らは飽きてどこかへ行った。
「その足もやられたんでしょ」
「……」
骨を折られたり血だらけになったりする事は良くあったが、仕返しをする気持ちにはなれなかった。
「……村に住まわせてもらってるし」
「村はずれの家にいたたけでしょ。何か世話をやいてくれたの?」
「いや……」
両親が生きていた頃はあったのかもしれないが記憶になかった。
「……なんでか、わかんねぇ」
「そっか。まぁ過去の事だしいいか」
トウはにこりと笑った。彼の笑顔を見ると安心した。
「家みつけたからいこう」
そう言って、トウにかつがれた。彼は小柄なわけではないが、彼より自分の方が体格が良い。それなのにこうも軽々抱き上げられると妙な気持ちになる。
トウは更に反対の手で落ちていた熊を拾った。首を落した子熊ではなく、大きな母親の方だ。
やはり、草むらにいたのだ。
子熊は母の血の臭いがトウからする事に気づき襲ったのだろう。
母の死への復讐……。
トウの顔をもいると彼はにこりと笑い「熊鍋だね」と言った。
食料……。
間違ってはいない。しかし、なんだかモヤモヤしたものが胸の中に湧いた。
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