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第16話 赤い花
しおりを挟む翌日。
体が重く起きれなかった。
このまま、消えた無くなればいいとさえ思った。
(お母さんに会いたくない)
傷ついた手をじっと見て、ここから更に出血すれば永遠に眠っていられると思った。
(朝なんて嫌いだ)
扉が開く音がして布団の隙間から覗くと、起こしにきたのは母ではなく家政婦であった。憲貞は安心して布団から出た。
「おはようございます」
「おはようございます。谷中さん。えっと母は仕事ですか?」
「ええ、今日は朝一で会議だそうですよ」
谷中はしわくちゃな顔に更にシワを増やして笑った。
母が家にいないと知ると心が落ち着いた。
朝食は全て食べることができた。昨日、ほとんど食べていなかったからお腹が空いてるのもあった。
家を出るとき、谷中がお弁当をくれた。いつものおにぎりとおかずがビニールに入っていた。以前は弁当箱に入った物だったが、成績が下がるたびに“昼食に時間をかけるな”と言ってこの形になった。
憲貞にとって食事など、体に入ればなんでも良かった。
家政婦に礼を行って車に乗ると塾へ向かった。
塾に着くと、お気持ちを切り替えるとため階段を上がり踊り場の壁に背をついてしゃがみ込んだ。それからすぐに「のりちゃん」という明るい声が聞こえた。
その声を聞くと憲貞の気持ちが軽くなった。
「カズ」
頭を上げると和也が満面の笑みを浮かべて憲貞の横に座っていた。
「あー、また、傷増えてる」
和也は大きな声を出して、憲貞の腕を自分の前に持ってきた。
「いっ」
「あ、ごめん」
和也が手を強引に引っ張ったことで傷が開き血が出てきた。それに、彼は動揺して「え、あ、ど、どうしよう」と手を持ったままキョロキョロとあたりを見回した。
憲貞は傷口から流れる血をじっと見つめた。
どくどくの流れ血はポタリポタリと床に落ちた。それは真っ白の床に赤い花が咲いたようであった。
(綺麗だ)
憲貞はそれをうっとりと見つめた。
「何やってんの?」
突然大きな声が聞こえたと思うと、手がハンカチで覆われた。頭を上げると貴也が手の傷をグッと抑えていた。隣にいた和也は少し離れたところ不安そうな顔をしていた。
「おい、本当に何やってんだよ」
貴也の声には怒りが混じっていた。
グレーのハンカチの色が濃くなり貴也の手が赤く染まっていった。
(白い手が赤くなっていく。それも綺麗だ)
それを見ているうちにあたりがぼやけていった。貴也と和也の声が聞こえるが何を言ってるのかよく
わからなかった。
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