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趣向

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「まず、事実確認をしようか」

 ルイは席に姿勢を正して座るとテーブルの上で手を組んだ。おじさんは口を滑らせたことを反省しているのだろう。眉を下げて、私に向かって頭を下げた。
 別におじさんのせいでルイに責められているわけだはない。アーサーが知っている事実だから遅かれ早かれルイの耳には入っただろう。

「さっきオリビア嬢が言っていたトーマス騎士団長が重体でそれを助けるために敵向かったというのは事実かい」

 ルイの言う事に頷くと頭に手をあてて首をふりため息をついた。やっぱり誰が聞いてもマズイ事実なのだ。王族は民の為にあるものだからトーマス騎士団長も民ということで良しとならないかと思う。
 おじさんはハラハラして私とルイを交互に見た。

「まずは、僕個人の思いなんだけど戦わないで逃げてほしかった。ルカが危険な目にあうのは耐えることができない。しかし、トーマス騎士団長は騎士団長であるが民のだ。ルカの民を守りたいと言う気持ちも分かる。彼は非常に優秀な騎士であり信頼も厚いため亡くすのは痛い。だから騎士団長を守った」

 そこまで話すとひと息ついた。
 私はただ、推しメンを助けたかったたけだがルイは勝手に私を素晴らしい人間にしている事に困惑した。彼は私にきっと夢を見ている。だから彼が私を好きというのも理想の私を見ているからだと思った。
 ルイは一呼吸おいてからまた話始めた。

「少し前になら、そう思っていた。オリビア嬢の話やルカの行動を見ているとただ“まんが”とやらの“好きなきゃら”とやらに生きていてほしいだけの後先考えていない行動のような気がした。これは憶測なのだがルカも“ふじょし”なのかい?」

 ルイから“腐女子”と言う言葉を聞いた瞬間、オリビア嬢の方を目だけ動かして見た。
 確かにこの漫画は女の子が主人公で一見少女漫画のようだが内容は普通の少女漫画と異なり、BL要素が含まれている。
 だからBL要素を目当てで読む人多いのだ。私もその一人である。おじさんも同類のようでありそこから私の趣向を推測してルイに話したのか。

「あ、いや……」

 私に睨まれていたおじさんはどもる。腐女子というのはあまり公にしたくない趣味だ。
 おじさんは眉を下げて私を見ている。想像とはいえ、口にしてしまったことの後ろめたさがあるのだろう。

「オリビア嬢は関係ないよ。僕の話を聞いて。ルカはトーマス騎士団長と誰が仲良くなるのを見ているのが楽しいのかい?」

 ルイは私がおじさんを睨んでいる事にきづくと注意された。するとおじさんは安心したような顔した。それがまた苛つく。

「そう……だよ」

 全てを知られているようなので覚悟を決めた。別にこれでルイに軽蔑されても構わない。ルイの気持ちはその程度だったということだ。
 ルイが離れていくのは寂しいけど……。

「トーマス騎士団長とルカ自身が仲良くならなくてもいいのかい。男同士がいいなら、ルカは今、男だよ」

 ルイのその質問に首を振った。私に夢属性はない。あくまでも第三者でいるのが楽しいのである。
 ルイは安心したように笑って「そうか」と言っていた。

 なにが心配であったのだろうか。

「それで、トーマス騎士団長の助けた件はアーサーもしているよ」

 ハリー・ナイトを撃退して王族私室塔でアンドレーにあったあの日、アンドレーが私にハリー・ナイトの血がついている事にすぐ気づき、アンドレーは激怒した。その理由をアーサーに確認されたことを二人に話した。

 おじさんはルイ曰く秘密保持契約書を交わしているらしいので何を話しても大丈夫だろうと思った。

「それじゃ、この件はアーサーと相談した方がいいね」

 ルイの言葉に頷いたが、私はアーサーや上層部に動きを待つつもりはなかった。この後、トーマス騎士団長に会いに騎士館へ行くつもりだ。ルイに言ったら絶対に止められると思ったから口に出さなかった。

「じゃ、国王陛下の魔法について検証した本日は解散かな」

「そうだね。その前にオリビア嬢と契約について話すね。彼女としたのは秘密保持契約。王族との会話内容を外部に話すことはできない。そして僕にウソをつくことができないというものだ」

「え? ルイが脅して契約させたの? 」

「まさか。ちゃんと承諾はえているよ」

 そういいながらルイはおじさんの方を見た。するとおじさんは笑顔で頷いていた。

「国王陛下の魔法の話をしますね」

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