27 / 29
第二楽章 信用と信頼
安藤未衣奈
しおりを挟む
「失礼しました」という声と共に、人影が姿を現す。
それを認めると、私はゆっくりと立ち上がった。
「ごめん、待たせちゃって」
私が問いかけるよりも前に、祐介くんは切り出した。
一瞬気遅れしたが、呑んだ言葉を今一度問い返す。
「……随分と長かったね、そんなに楽しかったの?」
「いや、そういうことじゃなくって……」
口篭もる彼を奇妙に感じながら、私は扉の閉まった病室に目をやる。
床に薄らと描写される光は儚くも存在感を醸し出すように映し出されている。
隙間から漏れる僅かな明かりが、一際眩しく感じられた。
「……あの人がもう平気だと分かっただけで十分。もう用は済んだでしょ? そろそろ帰らないと……私も、祐介くんも」
彼の返事は最初から求めていない。同意でも否定でもどちらでも構わなかった。
返事を待たず、私は彼の横を通り過ぎる。
靴が床を叩く音を響かせながら、出口に向かって私は歩き出した。
「……待てよ。まだ、やるべきことがあるだろ」
ぼそりと吐かれた声を私は無視した。気にせずにその場から離れようとした。
でも、身体が止まってしまう。
触れられた感触と伝わる体温が、私を踏み止まらせた。
「……離してほしいんだけど」
振り返らず、私は彼に告げた。
「少しだけ、待ってくれよ。まだ言いたいことがあるんだ」
「それなら……後でもいいでしょ? 電話なら何時でも出るから」
「いや、ここで言わないと駄目なんだよ」
それでも引き下がらない彼。
離さないように私の手首を掴む彼の右手は、繋がりを懇願するように差し出されていた。
「安藤がつらい状況に置かれてるのは理解してる。オーディションもそうだし、自身の経歴が偽りだって知って足元が崩れていく感覚に陥っているのも……それで声優を引退しようとまで思い詰めているのも……全部知ってる」
彼は寄り添う口調で続けた。
「安藤みたいな生き方をしたことはないけど、それでも今、安藤がどれほどの苦しみを抱えているのかは俺にも分かる」
「なら分かってよ。私の気持ちが分かるんでしょ?」
引き裂くよう力任せに振り解こうとしたが、手放してはくれない。
私の意に反して、右の手首には彼の感触が依然として存在していた。
「どうしてお姉さんを避けるんだよ……お前のたった一人の姉なんだぞ」
「……あの人の肩を持つつもり? あんたは飼い犬にでも成り下がったの? あんなに酷いことばかりしてきたあの人を、よりによってあんたが許すの?」
「違う。確かに新藤さんがやったことは許し難いけど、でもあの人はお前のために一生懸命だったんんだよ」
お前のため、その言葉を頭で咀嚼する。
噛み締める度にゆっくりと、あの時の記憶が鮮明になっていく。
「……私のためなら何してもいいの? 私のために私以外の人間が不幸な目になるなんて、そんなの横暴すぎるよ……それにあの人は結局自分自身の幸福のために私を利用したに過ぎない人なんだから、擁護なんて尚更できない」
「俺だってあの人を擁護できない。実際、あの人と二度と顔を合わせたくないと思ったくらいだから。でもそれだけだ。俺はもう気にしていない」
「それだけって……」
彼は芸能界とは無縁の、ただの高校生。初めの頃は私と関わるだけで動揺を見せていた。
それが次第に業界に踏み込み、闇に触れて、目を逸らしたい出来事にまで関わるようになってしまった。
なのに、彼はそれを受け入れて前を向いている。
「分からないことに恐怖を抱くのは間違ってないよ。自分一人で新藤さんのやることを理解したつもりでも、結局それは自分への慰めに過ぎないんだから。でも、あの人の言葉を聞いて、本当に安藤を想っているんだって知って、俺は怖いという感情が沸かなかった」
「……あんたを騙そうとしてるからだよ。同情を買って、あんたを誘導してるんだよ」
「それでも俺は新藤さんの本音を信じてる。あの人は本気の目をしてたから、俺はあの人の味方でいたいと思えたんだ……。それでも裏切られたら、俺には人を見る目がなかったんだって受け入れるよ」
最後に苦笑しながら、彼はそう言った。
笑みを浮かべ、それでも彼はあの人の言葉を疑うことをしなかった。
迷いのなき口調で、それほどまでにあの人を信頼しているのだ。
それに気がついた瞬間、私の中で湧き上がる何かがあった。
「……結局、あんたもあの人を認めるんだ。皆と同じようにあの人を称賛して、あの人を羨望して、誰も私を見てくれない……」
彼は何も言わない。
私の言葉に動揺して、何を言えないのだろう。
「どうしてあの人が信じられるの……! 私はあの人がしてきたことを許せない……、いつも馬鹿にするような口振りで私を見て、私の前に常に立ってて、いっつも私を束縛しようとして……!」
私達しかいない廊下に大きく反響する声。
静寂を強要される施設内で、私は禁忌を犯している。
「私はあの人が大嫌い……! もう二度と顔を見たくない……、あの人がいつまでも君臨してるならもう……声優なんて……」
それ以上の言葉を紡ぐことはできなかった。
溢れ出すものをせき止めることに必死で、立っているのがやっと。
窓はどこも開いていないのに、肌を擦切るような痛みを覚える。
この場から逃げ出してしまえばどんなに楽か。なのに手を掴まれて、この場に縛られている。
「だから……ね? 手、離してよ…………」
孤独に耐え忍ぶ私は小さく懇願した。
細々と、今にも崩れそうな程に弱弱しく、小さい声で。
もう十分だと思ったから。
「……いやだ」
でも、それでも、彼は離してくれなかった。
「なんで……? 私はもう望んでないのに、これ以上何をしろって言うの……?」
「違うよ……俺にはそんな風に見えない。自分を卑下しないで……もっと自分に正直になってほしい」
優しさの中に芯の籠る声で、彼は続けた。
「本当はお姉さんのことを誰よりも信じたいんじゃないのか……?」
「私のこと全然分かってない! 私はあの人を嫌いって言ってんの! それ以上でもそれ以下でもない、もう会いたくないの……!」
彼は何も言わなかった。
小さく息を吐き、掴んでいた手を離した。
遅れてそのことに気づくと、私は掴まれていた手首を確かめる。
少し赤くなっていたが、確かに自由になった。
それに安堵する。
けど次の瞬間、私の目の前には彼の顔があった。
解けたはずの右手を掴まれ、目を合わせる形になる。
突然のことに理解できずにいると、彼はゆっくりと口を動かした。
「……じゃあ、なんで泣いてんだよ」
「え…………?」
訳が分からず否定さえできなかった。
その間も、彼は目を逸らさずに言う。
「……まあ、こういう時に言うべきことじゃないのは分かってんだけどさ、安藤って感情的になるといつも泣いてるよね」
「―――ち、ちが……!」
ようやく状況を呑みこみ否定するが、彼は意に介さない。
「今まで何度も安藤を見てきたんだ……そのくらい分かる。無神経なところも、結構怖がりなところも、認められたいって思いが人一倍強いところも……俺は知ってる」
ほんのりと頬を赤らめながらも、彼は止まらなかった。
「分かるんだよ……、お前が嘘ついてるって。確かに証明はできない……けどさ、それでも伝わってくるんだよ……」
真っ直ぐと向けられる眼差し。
誰のためでもない、私一人のためだけに向けられる視線に触れ、私は顔を背ける。
「……違うよ、それはあんたの勘違いだから。私はあの人が嫌いで、もう二度と関わりたくないって本気で思ってるから、だからそれは間違ってる」
「だったらどうしてここにいるんだよ。会いたくない程に毛嫌いしてるなら、そもそも病院に赴く必要なんてない」
「それは……あんたの付き添いで来ただけ。血縁者がいないのは不自然だと思ったから……」
一歩後退るが、すぐに詰め寄られる。
「それこそ嘘だろ。最もな理由だけど俺には上辺の言葉にしか聞こえないし、何よりも安藤の顔を見れば本心からの言葉じゃないってすぐに分かる」
壁と板挟みになり退路がない私に歩み寄り、取り繕った仮面を引き裂こうとする。
私が望まなくとも、見透かしたように踏み込んでくる。
「……家族問題だから深くは追及しないけど、でも一つだけ部外者として言わせてほしい」
一度俯き、ゆっくり息を吐いてから、彼はまるで祈るように言葉を紡いだ。
「一度だけでいいから、お姉さんと話し合ってほしい。話し合わないと何も分からないまま終わっちゃうから……。そしたら、もう俺の知ってる安藤が悲しむと思うから……」
その言葉を聞いて、私は彼の目を見た。
月明りの届かない程に深く、頼りとなる川のせせらぎや動物の存在さえ掴めない森奥。
どこに行けば正しいのか、いつまで待てば助けが来るのか、そんな淡い期待に縋っては絶望してを繰り返し、変わらない現状に疲弊して、それでも私は暗闇の中を孤独に立っている。
それなのに、取り留めのない感情を秘めた瞳で私を慈悲深く見つめる彼は、まるで灯のようで。
「どうして、私を見てくれるの…………?」
私は聞き返していた。
「……まあ、言ったろ? 友達だからだってさ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
彼はそう言うと、顔を背けて病室の方を向いた。
距離を置き、壁際にまで後退する。
「……安藤が抱え込んでる気持ちを否定するわけじゃないけどさ、好き嫌いはそれを聞いてからでも遅くないよ。だから、最後に一度だけあの人の話を聞いてあげてほしい……、頼む」
それでも寄り添うように、彼は真っ直ぐに私を見ていた。
眼前で私を見つめる彼。それを見て、私は自分が分からなくなってしまった。
「……でも、私の気持ちは変わらない、と思う」
「それでもだよ。心残りがあったら、今日のことを後悔するかもしれないから」
「……一人じゃ受け止めきれないよ」
「ここで待ってるから。一緒に受け止めるよ」
最後にはそう言って、屈託のない笑顔をする彼は迷いのない表情を浮かべて私だけを見つめた。
分からないことばかりで不安に押し潰されそうになる私に、彼の笑顔は溶けるように沁みる。
道標のような彼の姿に絆され、次第に私は自身の知らない私を知りたいと思ってしまった。
「……聞くだけ、だから」
だから、私は了承した。
その言葉を聞いて安堵する彼。それを見て、私も同じ感情を覚える。その正体から目を逸らしながら。
ーーー
重く感じる扉を開くと、空気が変わる。
冷房がほのかに効いた居心地の良い空間のはずなのに、背中に下地が貼りついて不快感を覚える。
肌に纏わりついて、まるで誰かに掴まれているようだった。
「あ……」
病室のベッドで上体を起こし小説を読んでいた人間は私を見ると口からそう漏らした。
「……」
何も言わず、横に置かれた丸椅子に座る。
緊張感からか、膝に置いた両手が震えていた。悟られないように手を隠す。
一瞬だけ目の前の人に目を預けると、かの人は依然として小説に目を通している。私の動揺は悟られていなかったのだと安堵した。
でも、それと同時に湧き上がるものを感じ取る。
「……小説、好きなんだ」
「え……と、そう……」
私が呟くと、目も合わせずにかの人は答えるが、その間も小説の文字に目が釘付けになっていた。
それに気づき苛立ちを覚える反面、どうして気づいてしまったのだろうと後悔の念を抱く。
「……」
結局、この人は私を見てなどいない。
私に優しくする安藤日織という偶像が好きなだけで、私のことなんかまるで意に介していないのだ。
目の前に腰かけてようやく理解した。私の揺らぎは全くの無意味だったと。
「……もう大丈夫なんだね。だったら―――」
そう言いながら私は立ち上がり、この場を去ろうとした。
が、腕に手を触れられて、私は止まった。
「待ってよ……」
辛うじて聞き取れる程の大きさ。小さく力なく私を呼ぶ声に振り返る。
それと同時に、地面に音を立てて本が落ちた。
「……なにか、用でもあるの?」
拾った小説を返しながら、私はそう言った。
だが、渡したはずの小説はかの人の手中からあっさりと落ちてしまった。
かの人は拾う素振りを全く見せずに硬直している。
「どうしたの?」
私がそう言うと、「ごめん」と小さく言いながら小説を手に取った。
でも、その手は小刻みに震えているように見える。
「…………」
その姿を初めて見る。
いつもの見下すような態度とは別の、自信の欠片もない怯えた姿。
私と目を合わせようとせず、静かに目を逸らすお姉ちゃんを私は見たことがなかった。
「……ねえ」
気づくと、私は声をかけていた。
いつもなら決して自分から声を掛けようとしないのに、今だけはそうしていた。
今の彼女を見て哀れに思ったからか、それとも無様に思ったからか、私にも分からない。
でも、もうこの部屋から出ようとは考えなくなった。
「どうして私を見てくれないの……? なんで私のやること全部を認めてくれないの……?」
感情が溢れ出してしまう。
押し留めていた鬱憤に身を任せ、段々と心境を吐き出していく。
「昔の私ばかり追いかけて、今の私をこれっぽっちも気にかけてくれない……、私はただ前を向いていたいだけなのに、もっと先を見たいだけなのに……なのに、どうして私の邪魔をするの……?」
お姉ちゃんは何も言わない。
私の声などまるで耳に入っていないと言いたげな程に俯いてばかりだった。
それを目にするだけで、どうしても腹立たしくなってしまう。身を任せてしまう。
「最初はただ……お姉ちゃんみたいになりたかっただけなのに……」
目頭が熱くなる。
堪えようとしても、零れそうになる涙は止めどなく溢れてきて、それでも堪えようと必死になる。
もう何も見たくなかった。
「……ごめんなさい」
その声を耳にし、思わず顔を上げる。
沈黙を破り、謝罪の言葉を示すお姉ちゃんは儚くも両手を握りしめていた。
「……私は本気で未衣奈のためになると思ってた。未衣奈の夢を最優先に考えて、邪魔なものは全部排除すれば、未衣奈が喜ぶと思ってた」
偽善じゃない、本心の言葉だと理解できる。
「……でも、結局それは私の独りよがりな考え方で、未衣奈の言う通り善人を装ってるだけの駄目な大人だった。自分が正しいと思い込んで、未衣奈がどう思ってるかなんて二の次だと割り切って、しっかりと未衣奈に向き合うことから逃げてた」
本心からだと理解できるからこそ、私は困惑して何も言えなかった。
「最初から逃げずに向き合えたら、こんなことにならなかったかもしれない……だから、私のせいで未衣奈をつらい目に合わせてしまった」
口元を固く結び、堪えるような目で私を見つめるお姉ちゃん。
動揺を隠せないでいると、お姉ちゃんはゆっくりと頭を下げて止まった。
「本当に、ごめんなさい…………」
肩を震わせ、何かに怯えながらも、必死に耐えるように謝罪するお姉ちゃん。
私を見下していたお姉ちゃんの姿などどこにもない。
あるのは、小さく震えながらじっと私の言葉を待っている儚げな姿だけだった。
その姿を見て、私は満足したのか。
長年静かに恨んできた相手が、今まさに頭を下げている。
私の望んでいたもの全てを奪い、憎たらしいとさえ思っていた相手が、全ての非礼を詫びている。
それを見て、私は清々したのか、それとも笑みが零れそうになったのか。
「……そんなの、違うでしょ」
私の中には後悔しかなかった。
「私だって……勝手にお姉ちゃんが悪いと思い込んで、一度も向き合おうとしなかった。話し合っていたら変わっていたかもしれないのに、私はそれをしなかった。悪いのは私も同じだよ……」
頭を下げ続けるお姉ちゃんの手を取り、私は続けて言った。
「ごめんなさい……本当はあんな酷いこと言っちゃ駄目なのに、怒りに任せてお姉ちゃんを傷つけることしちゃった…………」
一度は堪えたものが止めどなく溢れ出す。
一線を描き、次から次へと涙が流れていく。
「最低だよ、私……っ、あんなに好きだったのに、大好きだったのに……っ、勝手に嫉妬して自分から拒絶して……っ、お姉ちゃんを困らせちゃったんだから……!」
想いを伝えようと、お姉ちゃんの手を強く握る。
冷たくも芯の籠った手。長年忘れていた感触を思い出し、余計に感情が溢れ出す。
私は嫌いだ。
お姉ちゃんが嫌いなのだと思い込んでいた自分自身が、憎たらしいと思える程。
自分の保身のために、悪くないお姉ちゃんを敵に見据えて、心の安寧を保っていた。
私は人のことなんて言えない。お姉ちゃんを否定して余韻に浸っていた愚か者だ。
相手を利用して正義を振りかざしていた、偽善者だ。
「未衣奈……」
「ごめんなさい……っ、お姉ちゃんに、酷いこと言って……っ、謝る、から……っ、だから嫌いにならないでぇ……!」
そんな私でも、親しい人間には嫌われたくないという感情を持ち合わせている。
どこまでも強情で、強欲で、身の程知らずだ。
認められたい、見てほしい、嫌わないでほしい、そんな承認欲求を抱えて。
私利私欲に塗れた、本当に最低な人間と思う。
「…………うん、いいよ」
それでも、私の手を握ってくれる人がいる。
重ね合わせ伝わってくる愛情に、安心感を覚えてしまう。
それを知って、再び涙が押し寄せる。
「私も酷いことをしたから、これでお互い様……て訳にはいかないけど……、それでも私は許すから」
頭を撫でる感触が心まで伝わってくるようで、私は泣きじゃくりながらもお姉ちゃんの抱擁に身を委ねてしまう。
拠り所のない生き方を望んでいたのに、最後には求めてしまう。
「……なんだか、昔の未衣奈に戻ったみたい」
まだ小学生の頃、泣き虫だった私は事ある毎にお姉ちゃんの慰めを求めていた。
両親は家を留守にすることが多く、お姉ちゃんを頼ろうとするのは当然のことだった。
それが極端だった私は、よくお姉ちゃんを困らせていたと思う。
不器用ながらもいつも私に寄り添ってくれた人は、今でも私に寄り添ってくれる。
結局、袖を濡らすだけの私は未だに子供だ。
「―――あ! ち、違うの……! 今のは言葉の綾で……!」
「ううん……っ、別に良いっ」
失言に気づいたお姉ちゃんは慌てて取り消そうとするが、今の私にはその言葉がお似合いだ。
袖で涙を拭き取り、ゆっくりと自分を落ち着かせてから、続きを話す。
「結局背伸びしてただけで、私はまだ子供なんだから……」
「でも―――」
「いいの、自覚してるから……」
「それに」と付け加えて、私は言った。
「お姉ちゃんは許してくれるけど、私は自分のことが許せない……どんなに反省しても、いつか同じことをするかもしれない。そう思うだけで、私は自分が信じられなくなる……」
自分でさえ自分のことを信じられないのに、他人の期待なんて受け止めきれない。
期待を裏切れば、私の周りから人は去っていく。想像するだけで耐え難い。
「だから、ごめん……お姉ちゃんに許してもらう価値なんて、私にはない……」
この期に及んでもまだ、私は保身に走っている。
許してもらわなければ、期待を受け取らずに済む。初めから受け取らなければ、余計に傷つかなくて済むから。そんな自己保身。
だから私は自分のことが嫌いなんだ。
自分さえ信じることができないから、他人の重圧に縛られたくない。そんな悪循環の連続を繰り返して再び自分を嫌いになる。
―――ああ、嫌だな……
こんな劣等感に溺れた人間なのに、好きになるなんてどうかしてる。
「……これは、人から貰い受けた言葉を勝手に解釈したものなんだけどね」
「……え」
顔を上げると、お姉ちゃんは何処かを見つめながら思い出すように告げた。
「誰も信じられなくなったら、自分を信じてくれる人を探しなさい。自分の良い所も悪い所も全部受け入れてくれる、そんな人間をね」
「お姉ちゃん……」
「皆に好かれる必要はないの。たった一人でも良いから、自分を知ってもらいたいと思える人に出会えれば」
優しい口調で私を包み込んでくれるお姉ちゃんの言葉。
「……でも、一番自分を知っている私が自分を信じられないのに……なのにどうして赤の他人が私を信じてくれるの……? そんなの……ある訳ないのに」
その事実が只々苦しくて、逃げたくなる。
声優なんて肩書がなければ、私を守る砦は何もない。
あるのは、自分勝手でどうしようもない程に卑屈な私という厄介者。
「無理だよ……そんなの」
こんな私をいったい誰が信じてくれるのか。
「いるじゃない、未衣奈にも。いつも信頼してくれる人が」
違う。あいつじゃない。一度傷つけてしまったのに、私を信じてくれるはずがない。
「……お姉ちゃん、だけだよ」
「とぼけない。私はずっと未衣奈を裏切って来たんだから……違うわよ……」
違う、そう何度も考えても、頭に浮かんでくるのはお姉ちゃんじゃなかった。
「こんな面倒くさい女、一緒にいるだけで損だよ……」
「……それでも信じてくれる人がいるなら、あなたもその人を信じればいい。単純でしょ?」
「そんな単純な話じゃ―――」
「結局、人間関係なんてそんなもんなのよ。相手を知って自分を知ってもらう。それを良しとするか否かで関係が変わっていくだけ。未衣奈にだって、自分を知ってもらいたい人がいるはず」
「…………」
自分を知ってもらいたい、そんな自己中心的なことが許されても良いのか。
でも、心のどこかでそれを許してほしいと願っている。
いつも私を第一に考えてくれて、傷つけてしまっても、心配かけてしまっても、私から目を背けないでいてくれて、ずっと私を受け入れてくれる、そんな人を私は望んでいる。
もしかしたら私を受け入れてくれるかもしれない、そんな淡い期待をしてしまう。
「分かんないよ、どうしてあいつが助けてくれるのかなんて。良いことなんて一つもないのに」
お姉ちゃんが口を動かそうとしたが、結局何も言わずに私の話を聞いてくれる。もしかしたら私の知らない答えを知っているのかもしれない。
いや、それは違う。私だって答えを知っている。私だから分かる。
声優ではない本当の私を知っても、不本意なことに連れ回しても、私のせいでつらい出来事に遭遇しても、自分勝手な行動で心配をかけても、いつも私を見てくれていた。
声優という肩書を失ってもきっと私を見てくれている、そう信じてしまう。
「ほんとに、良いのかな……」
何度も何度も確かめてしまう。
でもそんな私に見透かすように、お姉ちゃんが手に握ってくれる。
「良いのよ。未衣奈が望むなら、あの子もきっと応えてくれるわ」
「お姉ちゃん……」
「大丈夫。きっと犬みたいに可愛がってくれるわよ」
「犬って……、私はそんな寂しがり屋じゃない……」
冗談めいたことを言いながら笑みを浮かべるお姉ちゃんに釣られて、思わず私も頬が緩んでしまう。
強張りも解け、少しだけ楽になれた気がした。
「……お姉ちゃん、ありがとう」
私がそう言うと、お姉ちゃんは何も言わず手を握り返した。
「お姉ちゃんの手、冷たいよ」
「未衣奈が温かいから、そう感じるだけ。それに、手が冷たいってことはつまり心が温かいって意味らしいの」
「それは……そうかもね…………」
「―――あ、えっと……! 未衣奈の心が冷たいって意味じゃなくって、その……」
「……ふふっ、ごめん。嘘だよ」
私がそう言いながら笑うと、お姉ちゃんが胸を撫で下ろしながら息を吐いていた。
こんなやり取りも長年忘れていたのに、当たり前な出来事のように胸が躍ってしまう。
もしあの時逃げてしまったらこの現実もやって来なかったと思うと、私は彼に感謝しないといけない。
また、彼に助けられてしまったのだ。
「……お姉ちゃん。一つだけ我儘言っても良い?」
緩んでいた空気が変化したと感じ取ったのか、お姉ちゃんは私を見て何も言わずに待っていた。
真剣な顔つきで私の言葉を待ってくれる。
だから私も、包み隠さず正直に言った。
「この前のオーディションの結果聞いたの。私とお姉ちゃんの二人が最終的に残ったから、もう一度どちらを主役に据えるか審査したいって。決選投票をしたいって電話が来たの」
「……うん」
「最初は断ろうとした。初めから勝負が決まってるのに、これ以上惨めな思いをしたくないから」
身体が今にも震え出しそうになる。
ここで言ってしまえばもう戻れない、そう思うと一歩踏み出せない。
「大丈夫だから、私を信じて?」
それでも、お姉ちゃんは手を離さないでいてくれた。
「うん……」
早くなる心音を落ち着かせようと深呼吸をする。
ゆっくり息を吸い、吐いて、そうして段々と平常心を取り戻していき、私は決心して言った。
「私、お姉ちゃんに勝ちたい。勝って少しでも、自分のことを好きだと思えるようになりたい。だから……受けようと思う」
「……未衣奈が決めたことなら、私は尊重したい。でも未衣奈が分かってるように今回の選考は私贔屓な審査になると思う。それでも……未衣奈は前を向ける?」
非情な現実に絶望しないのか、そう問われていると感じた。
「……正直怖い。駄目だったら二度と立ち直れないかもしれない。だって今の私にとって声優は自分の全てだから。生きがいが否定されたら。私には生きる価値がないって言われたも同然だから……」
そのための努力も、情熱も、全てが無駄だったと知りたくない。
「でも、自分がしてきた努力が全て無駄だったなんて、誰にも証明してほしくない……。私がやってきたことは私が一番よく知っているから……だから私が自分で証明したい」
努力を否定すること自体、私は認めたくない。
そして、そう思っているのは私だけではない。一緒の思いを抱える人がいる。
「……その言葉をくれた人がそれを証明しようとしてるの。あいつは私のためだって言うけど、私はあいつ自身のために頑張ってほしいとおもってるから。だから私は見届けてあげたい」
私もあいつを信じてみようと思う。
一方的な関係に甘えたくない。私も信頼という言葉を受け入れたい。そう思えたから。
「努力……確かに自分にしか証明できないものね」
お姉ちゃんはそう言うと、苦笑交じりに言葉を続けた。
「でも、未衣奈がそんな青二才なことを言うなんてね……ちょっと驚いた」
「止めてよ……言われると恥ずかしいから…………」
私を揶揄うような調子に羞恥していると、少し寂しそうな表情で窓の向こうに視線をやるお姉ちゃん。
不思議に思った私が声をかけると、振り返ることなく言葉を紡いだ。
「もう子供じゃないんだな…………」
その横顔を見て、私は何も言えなかった。
「こんなこと言ったら怒るよね。反省」
「いや……そういう訳じゃないけど、でも、お姉ちゃんみたいな大人になれたらって……思う」
「……そっか、嬉しいなぁ」
私の言葉に満足したのか、お姉ちゃんは笑みを漏らす。
笑顔だけど、どこか苦しそうにお姉ちゃんは笑っている。
その苦しみは私にはわからない。でも、大人になれば、 自ずと理解できるのだろうか。
大人になれば、お姉ちゃんの気持ちに寄り添えるのだろうか。
窓の外に広がる暗闇には何も答えは描かれていない。それでも、お姉ちゃんの瞳は色濃く見透かしたように、真っ直ぐ暗闇を覗いていた。
それを認めると、私はゆっくりと立ち上がった。
「ごめん、待たせちゃって」
私が問いかけるよりも前に、祐介くんは切り出した。
一瞬気遅れしたが、呑んだ言葉を今一度問い返す。
「……随分と長かったね、そんなに楽しかったの?」
「いや、そういうことじゃなくって……」
口篭もる彼を奇妙に感じながら、私は扉の閉まった病室に目をやる。
床に薄らと描写される光は儚くも存在感を醸し出すように映し出されている。
隙間から漏れる僅かな明かりが、一際眩しく感じられた。
「……あの人がもう平気だと分かっただけで十分。もう用は済んだでしょ? そろそろ帰らないと……私も、祐介くんも」
彼の返事は最初から求めていない。同意でも否定でもどちらでも構わなかった。
返事を待たず、私は彼の横を通り過ぎる。
靴が床を叩く音を響かせながら、出口に向かって私は歩き出した。
「……待てよ。まだ、やるべきことがあるだろ」
ぼそりと吐かれた声を私は無視した。気にせずにその場から離れようとした。
でも、身体が止まってしまう。
触れられた感触と伝わる体温が、私を踏み止まらせた。
「……離してほしいんだけど」
振り返らず、私は彼に告げた。
「少しだけ、待ってくれよ。まだ言いたいことがあるんだ」
「それなら……後でもいいでしょ? 電話なら何時でも出るから」
「いや、ここで言わないと駄目なんだよ」
それでも引き下がらない彼。
離さないように私の手首を掴む彼の右手は、繋がりを懇願するように差し出されていた。
「安藤がつらい状況に置かれてるのは理解してる。オーディションもそうだし、自身の経歴が偽りだって知って足元が崩れていく感覚に陥っているのも……それで声優を引退しようとまで思い詰めているのも……全部知ってる」
彼は寄り添う口調で続けた。
「安藤みたいな生き方をしたことはないけど、それでも今、安藤がどれほどの苦しみを抱えているのかは俺にも分かる」
「なら分かってよ。私の気持ちが分かるんでしょ?」
引き裂くよう力任せに振り解こうとしたが、手放してはくれない。
私の意に反して、右の手首には彼の感触が依然として存在していた。
「どうしてお姉さんを避けるんだよ……お前のたった一人の姉なんだぞ」
「……あの人の肩を持つつもり? あんたは飼い犬にでも成り下がったの? あんなに酷いことばかりしてきたあの人を、よりによってあんたが許すの?」
「違う。確かに新藤さんがやったことは許し難いけど、でもあの人はお前のために一生懸命だったんんだよ」
お前のため、その言葉を頭で咀嚼する。
噛み締める度にゆっくりと、あの時の記憶が鮮明になっていく。
「……私のためなら何してもいいの? 私のために私以外の人間が不幸な目になるなんて、そんなの横暴すぎるよ……それにあの人は結局自分自身の幸福のために私を利用したに過ぎない人なんだから、擁護なんて尚更できない」
「俺だってあの人を擁護できない。実際、あの人と二度と顔を合わせたくないと思ったくらいだから。でもそれだけだ。俺はもう気にしていない」
「それだけって……」
彼は芸能界とは無縁の、ただの高校生。初めの頃は私と関わるだけで動揺を見せていた。
それが次第に業界に踏み込み、闇に触れて、目を逸らしたい出来事にまで関わるようになってしまった。
なのに、彼はそれを受け入れて前を向いている。
「分からないことに恐怖を抱くのは間違ってないよ。自分一人で新藤さんのやることを理解したつもりでも、結局それは自分への慰めに過ぎないんだから。でも、あの人の言葉を聞いて、本当に安藤を想っているんだって知って、俺は怖いという感情が沸かなかった」
「……あんたを騙そうとしてるからだよ。同情を買って、あんたを誘導してるんだよ」
「それでも俺は新藤さんの本音を信じてる。あの人は本気の目をしてたから、俺はあの人の味方でいたいと思えたんだ……。それでも裏切られたら、俺には人を見る目がなかったんだって受け入れるよ」
最後に苦笑しながら、彼はそう言った。
笑みを浮かべ、それでも彼はあの人の言葉を疑うことをしなかった。
迷いのなき口調で、それほどまでにあの人を信頼しているのだ。
それに気がついた瞬間、私の中で湧き上がる何かがあった。
「……結局、あんたもあの人を認めるんだ。皆と同じようにあの人を称賛して、あの人を羨望して、誰も私を見てくれない……」
彼は何も言わない。
私の言葉に動揺して、何を言えないのだろう。
「どうしてあの人が信じられるの……! 私はあの人がしてきたことを許せない……、いつも馬鹿にするような口振りで私を見て、私の前に常に立ってて、いっつも私を束縛しようとして……!」
私達しかいない廊下に大きく反響する声。
静寂を強要される施設内で、私は禁忌を犯している。
「私はあの人が大嫌い……! もう二度と顔を見たくない……、あの人がいつまでも君臨してるならもう……声優なんて……」
それ以上の言葉を紡ぐことはできなかった。
溢れ出すものをせき止めることに必死で、立っているのがやっと。
窓はどこも開いていないのに、肌を擦切るような痛みを覚える。
この場から逃げ出してしまえばどんなに楽か。なのに手を掴まれて、この場に縛られている。
「だから……ね? 手、離してよ…………」
孤独に耐え忍ぶ私は小さく懇願した。
細々と、今にも崩れそうな程に弱弱しく、小さい声で。
もう十分だと思ったから。
「……いやだ」
でも、それでも、彼は離してくれなかった。
「なんで……? 私はもう望んでないのに、これ以上何をしろって言うの……?」
「違うよ……俺にはそんな風に見えない。自分を卑下しないで……もっと自分に正直になってほしい」
優しさの中に芯の籠る声で、彼は続けた。
「本当はお姉さんのことを誰よりも信じたいんじゃないのか……?」
「私のこと全然分かってない! 私はあの人を嫌いって言ってんの! それ以上でもそれ以下でもない、もう会いたくないの……!」
彼は何も言わなかった。
小さく息を吐き、掴んでいた手を離した。
遅れてそのことに気づくと、私は掴まれていた手首を確かめる。
少し赤くなっていたが、確かに自由になった。
それに安堵する。
けど次の瞬間、私の目の前には彼の顔があった。
解けたはずの右手を掴まれ、目を合わせる形になる。
突然のことに理解できずにいると、彼はゆっくりと口を動かした。
「……じゃあ、なんで泣いてんだよ」
「え…………?」
訳が分からず否定さえできなかった。
その間も、彼は目を逸らさずに言う。
「……まあ、こういう時に言うべきことじゃないのは分かってんだけどさ、安藤って感情的になるといつも泣いてるよね」
「―――ち、ちが……!」
ようやく状況を呑みこみ否定するが、彼は意に介さない。
「今まで何度も安藤を見てきたんだ……そのくらい分かる。無神経なところも、結構怖がりなところも、認められたいって思いが人一倍強いところも……俺は知ってる」
ほんのりと頬を赤らめながらも、彼は止まらなかった。
「分かるんだよ……、お前が嘘ついてるって。確かに証明はできない……けどさ、それでも伝わってくるんだよ……」
真っ直ぐと向けられる眼差し。
誰のためでもない、私一人のためだけに向けられる視線に触れ、私は顔を背ける。
「……違うよ、それはあんたの勘違いだから。私はあの人が嫌いで、もう二度と関わりたくないって本気で思ってるから、だからそれは間違ってる」
「だったらどうしてここにいるんだよ。会いたくない程に毛嫌いしてるなら、そもそも病院に赴く必要なんてない」
「それは……あんたの付き添いで来ただけ。血縁者がいないのは不自然だと思ったから……」
一歩後退るが、すぐに詰め寄られる。
「それこそ嘘だろ。最もな理由だけど俺には上辺の言葉にしか聞こえないし、何よりも安藤の顔を見れば本心からの言葉じゃないってすぐに分かる」
壁と板挟みになり退路がない私に歩み寄り、取り繕った仮面を引き裂こうとする。
私が望まなくとも、見透かしたように踏み込んでくる。
「……家族問題だから深くは追及しないけど、でも一つだけ部外者として言わせてほしい」
一度俯き、ゆっくり息を吐いてから、彼はまるで祈るように言葉を紡いだ。
「一度だけでいいから、お姉さんと話し合ってほしい。話し合わないと何も分からないまま終わっちゃうから……。そしたら、もう俺の知ってる安藤が悲しむと思うから……」
その言葉を聞いて、私は彼の目を見た。
月明りの届かない程に深く、頼りとなる川のせせらぎや動物の存在さえ掴めない森奥。
どこに行けば正しいのか、いつまで待てば助けが来るのか、そんな淡い期待に縋っては絶望してを繰り返し、変わらない現状に疲弊して、それでも私は暗闇の中を孤独に立っている。
それなのに、取り留めのない感情を秘めた瞳で私を慈悲深く見つめる彼は、まるで灯のようで。
「どうして、私を見てくれるの…………?」
私は聞き返していた。
「……まあ、言ったろ? 友達だからだってさ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
彼はそう言うと、顔を背けて病室の方を向いた。
距離を置き、壁際にまで後退する。
「……安藤が抱え込んでる気持ちを否定するわけじゃないけどさ、好き嫌いはそれを聞いてからでも遅くないよ。だから、最後に一度だけあの人の話を聞いてあげてほしい……、頼む」
それでも寄り添うように、彼は真っ直ぐに私を見ていた。
眼前で私を見つめる彼。それを見て、私は自分が分からなくなってしまった。
「……でも、私の気持ちは変わらない、と思う」
「それでもだよ。心残りがあったら、今日のことを後悔するかもしれないから」
「……一人じゃ受け止めきれないよ」
「ここで待ってるから。一緒に受け止めるよ」
最後にはそう言って、屈託のない笑顔をする彼は迷いのない表情を浮かべて私だけを見つめた。
分からないことばかりで不安に押し潰されそうになる私に、彼の笑顔は溶けるように沁みる。
道標のような彼の姿に絆され、次第に私は自身の知らない私を知りたいと思ってしまった。
「……聞くだけ、だから」
だから、私は了承した。
その言葉を聞いて安堵する彼。それを見て、私も同じ感情を覚える。その正体から目を逸らしながら。
ーーー
重く感じる扉を開くと、空気が変わる。
冷房がほのかに効いた居心地の良い空間のはずなのに、背中に下地が貼りついて不快感を覚える。
肌に纏わりついて、まるで誰かに掴まれているようだった。
「あ……」
病室のベッドで上体を起こし小説を読んでいた人間は私を見ると口からそう漏らした。
「……」
何も言わず、横に置かれた丸椅子に座る。
緊張感からか、膝に置いた両手が震えていた。悟られないように手を隠す。
一瞬だけ目の前の人に目を預けると、かの人は依然として小説に目を通している。私の動揺は悟られていなかったのだと安堵した。
でも、それと同時に湧き上がるものを感じ取る。
「……小説、好きなんだ」
「え……と、そう……」
私が呟くと、目も合わせずにかの人は答えるが、その間も小説の文字に目が釘付けになっていた。
それに気づき苛立ちを覚える反面、どうして気づいてしまったのだろうと後悔の念を抱く。
「……」
結局、この人は私を見てなどいない。
私に優しくする安藤日織という偶像が好きなだけで、私のことなんかまるで意に介していないのだ。
目の前に腰かけてようやく理解した。私の揺らぎは全くの無意味だったと。
「……もう大丈夫なんだね。だったら―――」
そう言いながら私は立ち上がり、この場を去ろうとした。
が、腕に手を触れられて、私は止まった。
「待ってよ……」
辛うじて聞き取れる程の大きさ。小さく力なく私を呼ぶ声に振り返る。
それと同時に、地面に音を立てて本が落ちた。
「……なにか、用でもあるの?」
拾った小説を返しながら、私はそう言った。
だが、渡したはずの小説はかの人の手中からあっさりと落ちてしまった。
かの人は拾う素振りを全く見せずに硬直している。
「どうしたの?」
私がそう言うと、「ごめん」と小さく言いながら小説を手に取った。
でも、その手は小刻みに震えているように見える。
「…………」
その姿を初めて見る。
いつもの見下すような態度とは別の、自信の欠片もない怯えた姿。
私と目を合わせようとせず、静かに目を逸らすお姉ちゃんを私は見たことがなかった。
「……ねえ」
気づくと、私は声をかけていた。
いつもなら決して自分から声を掛けようとしないのに、今だけはそうしていた。
今の彼女を見て哀れに思ったからか、それとも無様に思ったからか、私にも分からない。
でも、もうこの部屋から出ようとは考えなくなった。
「どうして私を見てくれないの……? なんで私のやること全部を認めてくれないの……?」
感情が溢れ出してしまう。
押し留めていた鬱憤に身を任せ、段々と心境を吐き出していく。
「昔の私ばかり追いかけて、今の私をこれっぽっちも気にかけてくれない……、私はただ前を向いていたいだけなのに、もっと先を見たいだけなのに……なのに、どうして私の邪魔をするの……?」
お姉ちゃんは何も言わない。
私の声などまるで耳に入っていないと言いたげな程に俯いてばかりだった。
それを目にするだけで、どうしても腹立たしくなってしまう。身を任せてしまう。
「最初はただ……お姉ちゃんみたいになりたかっただけなのに……」
目頭が熱くなる。
堪えようとしても、零れそうになる涙は止めどなく溢れてきて、それでも堪えようと必死になる。
もう何も見たくなかった。
「……ごめんなさい」
その声を耳にし、思わず顔を上げる。
沈黙を破り、謝罪の言葉を示すお姉ちゃんは儚くも両手を握りしめていた。
「……私は本気で未衣奈のためになると思ってた。未衣奈の夢を最優先に考えて、邪魔なものは全部排除すれば、未衣奈が喜ぶと思ってた」
偽善じゃない、本心の言葉だと理解できる。
「……でも、結局それは私の独りよがりな考え方で、未衣奈の言う通り善人を装ってるだけの駄目な大人だった。自分が正しいと思い込んで、未衣奈がどう思ってるかなんて二の次だと割り切って、しっかりと未衣奈に向き合うことから逃げてた」
本心からだと理解できるからこそ、私は困惑して何も言えなかった。
「最初から逃げずに向き合えたら、こんなことにならなかったかもしれない……だから、私のせいで未衣奈をつらい目に合わせてしまった」
口元を固く結び、堪えるような目で私を見つめるお姉ちゃん。
動揺を隠せないでいると、お姉ちゃんはゆっくりと頭を下げて止まった。
「本当に、ごめんなさい…………」
肩を震わせ、何かに怯えながらも、必死に耐えるように謝罪するお姉ちゃん。
私を見下していたお姉ちゃんの姿などどこにもない。
あるのは、小さく震えながらじっと私の言葉を待っている儚げな姿だけだった。
その姿を見て、私は満足したのか。
長年静かに恨んできた相手が、今まさに頭を下げている。
私の望んでいたもの全てを奪い、憎たらしいとさえ思っていた相手が、全ての非礼を詫びている。
それを見て、私は清々したのか、それとも笑みが零れそうになったのか。
「……そんなの、違うでしょ」
私の中には後悔しかなかった。
「私だって……勝手にお姉ちゃんが悪いと思い込んで、一度も向き合おうとしなかった。話し合っていたら変わっていたかもしれないのに、私はそれをしなかった。悪いのは私も同じだよ……」
頭を下げ続けるお姉ちゃんの手を取り、私は続けて言った。
「ごめんなさい……本当はあんな酷いこと言っちゃ駄目なのに、怒りに任せてお姉ちゃんを傷つけることしちゃった…………」
一度は堪えたものが止めどなく溢れ出す。
一線を描き、次から次へと涙が流れていく。
「最低だよ、私……っ、あんなに好きだったのに、大好きだったのに……っ、勝手に嫉妬して自分から拒絶して……っ、お姉ちゃんを困らせちゃったんだから……!」
想いを伝えようと、お姉ちゃんの手を強く握る。
冷たくも芯の籠った手。長年忘れていた感触を思い出し、余計に感情が溢れ出す。
私は嫌いだ。
お姉ちゃんが嫌いなのだと思い込んでいた自分自身が、憎たらしいと思える程。
自分の保身のために、悪くないお姉ちゃんを敵に見据えて、心の安寧を保っていた。
私は人のことなんて言えない。お姉ちゃんを否定して余韻に浸っていた愚か者だ。
相手を利用して正義を振りかざしていた、偽善者だ。
「未衣奈……」
「ごめんなさい……っ、お姉ちゃんに、酷いこと言って……っ、謝る、から……っ、だから嫌いにならないでぇ……!」
そんな私でも、親しい人間には嫌われたくないという感情を持ち合わせている。
どこまでも強情で、強欲で、身の程知らずだ。
認められたい、見てほしい、嫌わないでほしい、そんな承認欲求を抱えて。
私利私欲に塗れた、本当に最低な人間と思う。
「…………うん、いいよ」
それでも、私の手を握ってくれる人がいる。
重ね合わせ伝わってくる愛情に、安心感を覚えてしまう。
それを知って、再び涙が押し寄せる。
「私も酷いことをしたから、これでお互い様……て訳にはいかないけど……、それでも私は許すから」
頭を撫でる感触が心まで伝わってくるようで、私は泣きじゃくりながらもお姉ちゃんの抱擁に身を委ねてしまう。
拠り所のない生き方を望んでいたのに、最後には求めてしまう。
「……なんだか、昔の未衣奈に戻ったみたい」
まだ小学生の頃、泣き虫だった私は事ある毎にお姉ちゃんの慰めを求めていた。
両親は家を留守にすることが多く、お姉ちゃんを頼ろうとするのは当然のことだった。
それが極端だった私は、よくお姉ちゃんを困らせていたと思う。
不器用ながらもいつも私に寄り添ってくれた人は、今でも私に寄り添ってくれる。
結局、袖を濡らすだけの私は未だに子供だ。
「―――あ! ち、違うの……! 今のは言葉の綾で……!」
「ううん……っ、別に良いっ」
失言に気づいたお姉ちゃんは慌てて取り消そうとするが、今の私にはその言葉がお似合いだ。
袖で涙を拭き取り、ゆっくりと自分を落ち着かせてから、続きを話す。
「結局背伸びしてただけで、私はまだ子供なんだから……」
「でも―――」
「いいの、自覚してるから……」
「それに」と付け加えて、私は言った。
「お姉ちゃんは許してくれるけど、私は自分のことが許せない……どんなに反省しても、いつか同じことをするかもしれない。そう思うだけで、私は自分が信じられなくなる……」
自分でさえ自分のことを信じられないのに、他人の期待なんて受け止めきれない。
期待を裏切れば、私の周りから人は去っていく。想像するだけで耐え難い。
「だから、ごめん……お姉ちゃんに許してもらう価値なんて、私にはない……」
この期に及んでもまだ、私は保身に走っている。
許してもらわなければ、期待を受け取らずに済む。初めから受け取らなければ、余計に傷つかなくて済むから。そんな自己保身。
だから私は自分のことが嫌いなんだ。
自分さえ信じることができないから、他人の重圧に縛られたくない。そんな悪循環の連続を繰り返して再び自分を嫌いになる。
―――ああ、嫌だな……
こんな劣等感に溺れた人間なのに、好きになるなんてどうかしてる。
「……これは、人から貰い受けた言葉を勝手に解釈したものなんだけどね」
「……え」
顔を上げると、お姉ちゃんは何処かを見つめながら思い出すように告げた。
「誰も信じられなくなったら、自分を信じてくれる人を探しなさい。自分の良い所も悪い所も全部受け入れてくれる、そんな人間をね」
「お姉ちゃん……」
「皆に好かれる必要はないの。たった一人でも良いから、自分を知ってもらいたいと思える人に出会えれば」
優しい口調で私を包み込んでくれるお姉ちゃんの言葉。
「……でも、一番自分を知っている私が自分を信じられないのに……なのにどうして赤の他人が私を信じてくれるの……? そんなの……ある訳ないのに」
その事実が只々苦しくて、逃げたくなる。
声優なんて肩書がなければ、私を守る砦は何もない。
あるのは、自分勝手でどうしようもない程に卑屈な私という厄介者。
「無理だよ……そんなの」
こんな私をいったい誰が信じてくれるのか。
「いるじゃない、未衣奈にも。いつも信頼してくれる人が」
違う。あいつじゃない。一度傷つけてしまったのに、私を信じてくれるはずがない。
「……お姉ちゃん、だけだよ」
「とぼけない。私はずっと未衣奈を裏切って来たんだから……違うわよ……」
違う、そう何度も考えても、頭に浮かんでくるのはお姉ちゃんじゃなかった。
「こんな面倒くさい女、一緒にいるだけで損だよ……」
「……それでも信じてくれる人がいるなら、あなたもその人を信じればいい。単純でしょ?」
「そんな単純な話じゃ―――」
「結局、人間関係なんてそんなもんなのよ。相手を知って自分を知ってもらう。それを良しとするか否かで関係が変わっていくだけ。未衣奈にだって、自分を知ってもらいたい人がいるはず」
「…………」
自分を知ってもらいたい、そんな自己中心的なことが許されても良いのか。
でも、心のどこかでそれを許してほしいと願っている。
いつも私を第一に考えてくれて、傷つけてしまっても、心配かけてしまっても、私から目を背けないでいてくれて、ずっと私を受け入れてくれる、そんな人を私は望んでいる。
もしかしたら私を受け入れてくれるかもしれない、そんな淡い期待をしてしまう。
「分かんないよ、どうしてあいつが助けてくれるのかなんて。良いことなんて一つもないのに」
お姉ちゃんが口を動かそうとしたが、結局何も言わずに私の話を聞いてくれる。もしかしたら私の知らない答えを知っているのかもしれない。
いや、それは違う。私だって答えを知っている。私だから分かる。
声優ではない本当の私を知っても、不本意なことに連れ回しても、私のせいでつらい出来事に遭遇しても、自分勝手な行動で心配をかけても、いつも私を見てくれていた。
声優という肩書を失ってもきっと私を見てくれている、そう信じてしまう。
「ほんとに、良いのかな……」
何度も何度も確かめてしまう。
でもそんな私に見透かすように、お姉ちゃんが手に握ってくれる。
「良いのよ。未衣奈が望むなら、あの子もきっと応えてくれるわ」
「お姉ちゃん……」
「大丈夫。きっと犬みたいに可愛がってくれるわよ」
「犬って……、私はそんな寂しがり屋じゃない……」
冗談めいたことを言いながら笑みを浮かべるお姉ちゃんに釣られて、思わず私も頬が緩んでしまう。
強張りも解け、少しだけ楽になれた気がした。
「……お姉ちゃん、ありがとう」
私がそう言うと、お姉ちゃんは何も言わず手を握り返した。
「お姉ちゃんの手、冷たいよ」
「未衣奈が温かいから、そう感じるだけ。それに、手が冷たいってことはつまり心が温かいって意味らしいの」
「それは……そうかもね…………」
「―――あ、えっと……! 未衣奈の心が冷たいって意味じゃなくって、その……」
「……ふふっ、ごめん。嘘だよ」
私がそう言いながら笑うと、お姉ちゃんが胸を撫で下ろしながら息を吐いていた。
こんなやり取りも長年忘れていたのに、当たり前な出来事のように胸が躍ってしまう。
もしあの時逃げてしまったらこの現実もやって来なかったと思うと、私は彼に感謝しないといけない。
また、彼に助けられてしまったのだ。
「……お姉ちゃん。一つだけ我儘言っても良い?」
緩んでいた空気が変化したと感じ取ったのか、お姉ちゃんは私を見て何も言わずに待っていた。
真剣な顔つきで私の言葉を待ってくれる。
だから私も、包み隠さず正直に言った。
「この前のオーディションの結果聞いたの。私とお姉ちゃんの二人が最終的に残ったから、もう一度どちらを主役に据えるか審査したいって。決選投票をしたいって電話が来たの」
「……うん」
「最初は断ろうとした。初めから勝負が決まってるのに、これ以上惨めな思いをしたくないから」
身体が今にも震え出しそうになる。
ここで言ってしまえばもう戻れない、そう思うと一歩踏み出せない。
「大丈夫だから、私を信じて?」
それでも、お姉ちゃんは手を離さないでいてくれた。
「うん……」
早くなる心音を落ち着かせようと深呼吸をする。
ゆっくり息を吸い、吐いて、そうして段々と平常心を取り戻していき、私は決心して言った。
「私、お姉ちゃんに勝ちたい。勝って少しでも、自分のことを好きだと思えるようになりたい。だから……受けようと思う」
「……未衣奈が決めたことなら、私は尊重したい。でも未衣奈が分かってるように今回の選考は私贔屓な審査になると思う。それでも……未衣奈は前を向ける?」
非情な現実に絶望しないのか、そう問われていると感じた。
「……正直怖い。駄目だったら二度と立ち直れないかもしれない。だって今の私にとって声優は自分の全てだから。生きがいが否定されたら。私には生きる価値がないって言われたも同然だから……」
そのための努力も、情熱も、全てが無駄だったと知りたくない。
「でも、自分がしてきた努力が全て無駄だったなんて、誰にも証明してほしくない……。私がやってきたことは私が一番よく知っているから……だから私が自分で証明したい」
努力を否定すること自体、私は認めたくない。
そして、そう思っているのは私だけではない。一緒の思いを抱える人がいる。
「……その言葉をくれた人がそれを証明しようとしてるの。あいつは私のためだって言うけど、私はあいつ自身のために頑張ってほしいとおもってるから。だから私は見届けてあげたい」
私もあいつを信じてみようと思う。
一方的な関係に甘えたくない。私も信頼という言葉を受け入れたい。そう思えたから。
「努力……確かに自分にしか証明できないものね」
お姉ちゃんはそう言うと、苦笑交じりに言葉を続けた。
「でも、未衣奈がそんな青二才なことを言うなんてね……ちょっと驚いた」
「止めてよ……言われると恥ずかしいから…………」
私を揶揄うような調子に羞恥していると、少し寂しそうな表情で窓の向こうに視線をやるお姉ちゃん。
不思議に思った私が声をかけると、振り返ることなく言葉を紡いだ。
「もう子供じゃないんだな…………」
その横顔を見て、私は何も言えなかった。
「こんなこと言ったら怒るよね。反省」
「いや……そういう訳じゃないけど、でも、お姉ちゃんみたいな大人になれたらって……思う」
「……そっか、嬉しいなぁ」
私の言葉に満足したのか、お姉ちゃんは笑みを漏らす。
笑顔だけど、どこか苦しそうにお姉ちゃんは笑っている。
その苦しみは私にはわからない。でも、大人になれば、 自ずと理解できるのだろうか。
大人になれば、お姉ちゃんの気持ちに寄り添えるのだろうか。
窓の外に広がる暗闇には何も答えは描かれていない。それでも、お姉ちゃんの瞳は色濃く見透かしたように、真っ直ぐ暗闇を覗いていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる