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第五章
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テイラー伯爵令嬢を尋問してから一週間が経ち、私達の目の前では変わり果てた姿になったテイラー伯爵令嬢が居た。
……………かなりの回数で魅了魔法を使っていたみたいだから、何となく予想は出来ていたけど、これは酷いわね。
テイラー伯爵令嬢はミイラみたいになった姿で亡くなっていた。
看守が朝の見回りをした時には、すでに彼女は亡くなっていたらしい。
「これが魅了魔法の恐ろしさなんですね。兄上はこの事をどうするつもりですか?」
「残酷ではあるが、今回のことを公表して、この者の亡骸を皆が見える場所に1か月間保管する。この姿を見たら、誰も同じようなことはしないだろう。最後までこの者は真実を話そうとしなかったからな」
そうなのよね。
残念なことに彼女は亡くなるまで何も真実を話さなかった。
話すことと言えば、自分は悪くない。
自分は神に選ばれた人間だとか、そんな話しかしなかったのよね。
協力者が居たのか、魅了は魔法を使ったのか、それとも魔導具を使ったのか最後まで話さなかった。
「陛下はテイラー伯爵令嬢に協力者が居たと思ってるんですか?」
「それは分からない。でももしものことを考える必要がある。魅了魔法のことを知らせなくても、いずれまた使えるものが出てくる可能性はあると思っている」
確かにもう2度と現れないとは言えないわね。
魔法なのか魔導具なのか分からないけど、もしも使えるようになったとしても、その恐ろしさを知ったら使おうとは思わないはず
「風化させてはいけないですね。でも記録として残したとして、この記録を見れるものは限られてしまうので、一部のもの以外には忘れられてしまうでしょうね」
ユーリ様は悔しそうに呟く
私に出来ることはないかしら?
「陛下にお願いがあります」
「何かな?」
「今回のことの当事者として本に残したいと思います。完成したものを陛下に確認してもらい。許可が下りたら販売をしたいと思っております」
2年間は学園生活が残ってますし、王太子妃教育もほぼ終わってるようなもの。
本を書く時間ならいくらでもあるわ。
本を販売したら魅了魔法の被害者と公表して、今回の事件の事実を次期王太子妃が書いたって宣伝したら、買ってくれるものが沢山居るはず。
貴族はミーハーが多いですからね。
「それは有り難いが本当に良いのかい?知られたくないこともあるんじゃないか?テイラー伯爵令嬢が親戚だったことを知らないものも多いはずだ。本を出したらそれを知られてしまうぞ?」
「正直に言うとちょっと怖いです。でもこのことを忘れられてしまうことのほうが私は怖いですわ。もう2度とこのようなことは起きてほしくないですから」
私は私の出来ることを頑張りたい。
私が本を書くことで興味を持ってくれる人が一人でも増えたら嬉しい。
本を読んでくれたことで、魅了って魔法がどんなに恐ろしいことなのか知ってほしい。
陛下はテイラー伯爵令嬢の遺体を全員が見れるように公開すると言ってるけど、どれだけの人が見てくれるのか分からない。
それに今は小さい子供などは親が見せるわけがない。
小さい子供やこれから生まれてくる人が、本を読んでくれたことで何かを感じてくれるかもしれない。
その可能性があるなら、私は少しの希望だとしてもやってみたい。
テイラー伯爵令嬢の遺体を見る人はいずれは亡くなってしまう。
そしたらこのことを覚えてる人は居なくなってしまうはず、こんな重たい話をわざわざ自分の子供や孫に、進んで話したい人なんて居ないでしょうからね。
それにこの子は忘れられてはいけない。
忘れられてしまったら、また同じようなことが起きるかもしれない。
私が王太子妃になるってことは、私の子供が将来は王位を継ぐことになる。
そしたらまた魅了魔法を使うものが現れた時に、私の子孫が被害者になる可能性は高い。
そうならないように、この出来事を風化させてはいけない。
「イリーナ嬢………ありがとう。期待している」
「はい!!」
これは次期王太子妃として、初めての大事な仕事になる。
皆が最後まで読んでもらえるように、つまらない話では絶対にいけない。
だけど現実味がなさすぎる話では、今回のことを信じて貰えなくなってしまう。
加減を気を付けないといけないわね。
「兄上!!イリーナ嬢にプレッシャーを与えないでくれ。イリーナ嬢も無理する必要はないから」
「心配してくれてありがとうございます。でも私のちょっとした行動で未来が変わるかもしれないなら、最後まで頑張りたいです」
「そっか………、じゃあ、私もイリーナ嬢を応援してるよ」
今までの私は漠然とした夢しかなかった。
国のために役立つことをしたいってことしか決まってなくて、将来のビジョンがハッキリしてなかったけど、やっと自分がやりたいことが見えた気がする。
後悔のないようにやり遂げてみせるわ。
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