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第一章 カプリコーンと魔術師(マジシャン)の卵

第四話 暴走が加速する!

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 遠野さんと恋人になると約束した。
本当に突然な事で、まだ実感は湧かない。
恋人になるという目的もほとんどオレを監視するのが目的だ。
殺人事件の容疑者になっているオレを助けてくれるそうだが、遠野さんは必要な物があると言い放ち、学校の近くにあるコンビニに行こうとする。

いったい何が必要なのだろうか? 
今は、オレの取り調べの真最中、少しでも学校から出るのは危険だ。
あらぬ疑いをかけられている上に、逃走したとなってはオレの疑いが増す。
とりあえず、遠野さんにその事を伝えた。

「今、学校から出て行くのは危険じゃないか? 
逃走したと思われたら、刑事さんも本気で疑い出すと思うぞ!」

「大丈夫! メールで貞先生にケーキを買って来るって言ったから。
コーヒーとケーキを人数分買ってくれば、不問にするって……」

「で、必要な物って何だよ? そんなに必要な物なのか?」

「ゴムだよ! とっても重要! ないと困る!」

ゴムだと……。
恋人になると言って必要な物『ゴム』。
この単語から導き出される答えは一つだ。
『コンドーム』という言葉が頭をよぎった。

(いやいや、いくらなんでも無い! 
展開が速過ぎる。それに今は必要性を感じない。
そりゃあ、将来的には必要かもしれないけど。
しかし、今急いで買って来る必要はないはずだ!)

オレは必要性を感じず、生徒指導室に戻る事を提案する。
そういう物は、事件が解決した後に買いに行けば良いだろう。
何ヶ月先になるかは分からないけど……。
場合と状況によっては、数年使わない事だってあり得るのだ!

「今は必要ないんじゃないか?」

オレはそう言うと、遠野さんは強い口調でこう言う。

「今必要! 
無いと、木霊君がずっと私をサポートしないといけなくなる! 
困るでしょ?」

確かにそうだが、そういう行為をするというのは、ずっと一緒にいるという前提でする行為だ。
古い道徳感と思うかもしれないが、オレの父親はそういう教育に厳しい。
お母さんだって、そこまで行くからにはそれ相応の処置をしなければならないと考えている。
オレだって、女性を悲しませたくはないとそう思っている。

「いや、有っても無くてもそこまで行けば、ずっとサポートしようと思うけど……」

「でも、大変だよ! 
精神的な安定とかも関係するから、やっぱり絶対必要だよ!」

精神的な安定? 
仮に、そういう場面になっても大丈夫なようにという事か? 
確かに、これから監視されるという事は、会う時間が増える。
絶対に起こり得ないとは言えない。

オレもなるべく二人切りにならない様に努力するが、どこまで耐えられるかは不安だ……。
そういう事なら仕方ない。彼女を安心させるためにも買っておこう。
しかし、そこまで考えるとは、遠野さんは経験があるのだろうか?

金持ちや人格者の娘が経験済みなんて好く聞く話だしな。
妊娠を警戒しているだけ、まだマシといえるだろう。

「遠野さんは、そういうの付けた経験とかあるの?」

「うん。中学生の時に二、三回あるよ。
その時に大変な事になって、人付き合いを減らそうと思ったの……。
でも、今回は大丈夫だよ!」

中学生で二、三回あるのか。
その言葉を聞いた時、なぜか涙が出そうになった。
しかし、もう彼女と付き合うと決めたのだ。
過去の事も全部含めて彼女を愛そうと決意した。

「やっぱりいらないよ! 今は必要ないと思うんだ」

「確かに、今は必要ないけど、生徒指導室では絶対に必要だよ。
先生達は、二人の関係を知らないだろうし……」

「ええ! 生徒指導室で使うの? 先生達とかいるんだよ?」

「だから必要なんじゃない。
これなら、二人の関係も変に疑われないし……。
ほら、もうコンビニに着いたよ。
さっさと買って戻ろう!」

「か、買うだけだぞ……」

仕方ない。
きっと貞先生や刑事さんが彼女を説得してくれるはずだ。
こういう説得は、大人の方が説得力もあるだろう。
同い年の男の子がどれだけ言っても、真面目に受け取ってくれないかもしれないからな。
逆に、童貞という事でバカにされ、オレの心に致命的なダメージを与えられるかもしれない。
ドMではない為、同級生の女子からバカにされるのは、男子にとって辛い事なのだ。

オレと遠野さんはコンビニに入り、必要な物を物色し始める。
オレは、遠野さんが言っていた物を捜す。女の子じゃ買い難い物だしな……。
コンビニの雑誌が売っている所の反対側の棚、下の段にある事を知っている。
オレも一応男、興味があって見かけた時に記憶している。
それをさりげなく遠野さんに教える。

「あったよ、ゴム……」

「え、本当? どれどれ……」

オレの指した商品を見て、遠野さんはしばらく沈黙していた。
どれを指しているのか分からない様子だ。
そして、オレの指した物を理解し、慌てて言う。

「それ、違う! 
私が言っているのは、髪の毛を纏めるゴム! 
ほら、エルフモードになるには、髪を縛ってないといけないから……。
そのゴム(コンドーム)じゃない!」

オレはそう言われ固まる。
もう遠野さんの方を見ちゃいけない気がした。

「ごめん。ちゃんと商品を伝えなくて……」

遠野さんはそう言って、オレをフォローする。

「オレも勘違いしてごめん」

「もしかして、さっき私の髪を掴んだ時、そういう事考えていたの?」

遠野さんはオレから1メートルほど離れた。
これは仕方ない。勘違いしたオレも悪いのだ。

「いや、この『コンドーム』は、医療やマジックなどでは重宝する優れものだよ!
破れにくいし、保管もしやすい。
止血や液体の保存に最適なんだ。
決して、避妊だけが全ての商品ではない!」

「そうなんだ……」

また再び沈黙が訪れる。
オレの中では上手く誤魔化したつもりだが、彼女にとっては半信半疑のようだ。
オレは誤解を解くため、話さなければならないと感じる。

「遠野さんが中学生の時に二、三回って言うのは?」

遠野さんは慌てて言う。

「もちろん、髪止めを二、三回したって話だよ! 
これ『コンドーム』を使う事なんて一回もないよ!」

オレ達はお互いに見合って、互いの過ちを悟る。
恥ずかしさが頂点を超え、お互いに一気に冷静になった。

「じゃあ、早く髪止め用のゴムを買おうか?」

「うん、そうだね。貞先生も刑事さんも待っているし……」

オレ達は、遠野さんがエルフモードになるための髪止め用のゴムを捜す。

「これとかどうかな?」

「うーん、それは結構すぐ破けちゃうんだよね。
薄いゴムは耐久力が弱くて……」

「じゃあ、布の奴は?」

「うーん、あんまり好きじゃないかな。
やっぱり女の子が好きなのは、ゴムが厚くていろいろ付いている奴だよ。
ちぎれ難いし、ずっと長く使えるからね」

「このキャラクター物とか?」

「うん! そういう方が好きかな。
パッケージが可愛い方が、使っていて気分が良いよ!」

「じゃあ、買ってあげるよ。
オレの巻き込まれた事件解決のために、エルフモードになるんだし、これくらいはお金を出すよ!」

「ありがとう。じゃあ、これにする!」

エルフモードになった遠野さんも自信が有って好きだけど、普段の遠野さんも可愛いと感じてしまう。
子供っぽいかもしれないけど、笑顔が素敵だった。
今日、何度ドキドキしているんだろう。
そのうちの何回かは、墓穴を掘っているけど……。

髪止め用のゴムを買ったオレ達は、四人分のケーキとコーヒーを買って、学校の生徒指導室に戻った。
コンビニの女性店員が、何度か商品を入念に確認していたのが気になったが、オレ達はいかがわしい物など買っていない。
今度は、女性店員が『髪留め用のゴム』を、『コンドーム』と勘違いしているようだった。
かなり時間がかかってしまったように感じるけど、実際には二十分くらいなんだよね。
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