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第一章 カプリコーンと魔術師(マジシャン)の卵

第七話 犯人はカプリコーン?

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刑事が出ていくと、遠野えるふは真面目な顔をして語り出す。
どうやら犯人の目星がつき始めているようだ。
おそらく殺人トリックを粗方理解できたのだろう。
しかし、暗号化していて、オレには理解できなかった。

「この事件の犯人は、カプリコーンですね」

彼女の言っている言葉が理解できず、オレは黙っている。
すると、貞先生は適当に相槌を打つ。
この意味を理解できたのだろうか?
そう思って注意して耳をそばだてた。

「そうね……。
帰りに、もう一つケーキでも食べて帰りましょう。
喫茶店で、紅茶と一緒にを飲むでもいいわ。
遠野さん、奢ってね!」

その良く分からない会話に、オレは突っ込む。

「あの、何の話をしているんですか? 
二人の会話が全く理解できないんですけど……」

オレがそう言うと、貞先生から自分の考えを話してくれた。
オレにはどうでもいい内容だったけど……。

「ああ、私は、ケーキのやけ食いよ。
彼氏にも振られ、元生徒が入学前に殺人事件を起こしたのよ。
ケーキでも食べなきゃ、やってられないわ!」

貞先生は、失恋した乙女のようにそう言った。
そういう経緯を辿りながら、女性は段々太っていくのだろう。
甘い物のやけ食いもほどほどにしておいて欲しい。
美人だからこそ、性格に難があっても許せるのだ。
太ってイライラしている教師では、ムカつく以外の感情が湧いて来ない。

「オレは、殺人事件の犯人じゃないですって。
貞先生、信じてくださいよ!」

「私、もう男の人が信じられないの。
裏切られるくらいなら、もう信用しない方が良いわ!」

「変な所で悟り出すなよ! 
せめて今日だけは、オレを信用してくださいよ……」

「もう男性にそう言われるのは、疲れたのよ。
そう言われて、また裏切られるのは……」

オレは、らちが明かないと思い、遠野さんに話しかける。
事件を解決してくれるのなら何でも良い。
何か、推理小説やどこかの場所で起こった事件だろうか。
同じ様な事件が起こっているのなら、犯人逮捕に繋がるかもしれない。

「さっきのカプリコーンって何? 
今回の事件と何か関係があるの?」

遠野えるふはオレを見つめると、ポニーテールを解いてしまった。
ぱっらと広がった黒髪ロングから、シャンプーの良い香りが漂って来た。
匂いはしないが、汗をかいているらしい。
息が少し荒くなっている。

どうやらエルフモードは、相当の精神力を消費する様だ。
その為に、少し休憩する必要があるらしい。
眼の瞳の色は黒に変わり、耳も普通の丸っぽい形になる。
しかし、その瞳の目は、エルフモードより輝いていた。

「カプリコーンとは、変身のできる幻獣で、今回の事件は、犯人が変装していると思い、そう名付けました。あの、カプリコーンの説明も聞きたいですか?」

「いや、事件と関係が無いなら別に……」

オレがそう言って断ると、貞先生が遠野さんを初めてフォローした。
普通の教師のように彼女の好みを知っており、オレに聞くように勧める。
近所のお姉さんとして優しかったと言う遠野さんの話は本当のようだ。

「木霊君、聞いておきなさい。
遠野さんの通常時は、勉強もそこそこで、グズでノロマだけど、幻獣の事については相当調べているのよ。
幻獣博士と言っても過言ではないわ。
ただし、幻獣が大好きでいろいろ調べているけど、幻獣説明を聞いてくれる人はいないのよ。
大好きな幻獣説明を挟む事により、精神力を回復しているらしいわ。

幻獣説明をせず、やる気がなくなれば、もうあなたを助けてはくれないのよ!
私個人としては木霊君がブタ箱に入ろうがどうでもいい。
だけど、やっぱり入学早々生徒がいなくなるのは、私の評価が下がる可能性があるから助けてもらいなさい!
分かったわね?」

「そうなんだ。今、オレの味方が減るのは困る。
じゃあ、遠野さん、カプリコーンの幻獣説明をお願いします!」

オレにそう言われ、遠野えるふは笑顔になって説明を始める。
その笑顔を見ていると、オレも癒されているようだ。

「じゃあ、説明します。
カプリコーンとは、上半身が山羊で下半身が魚という奇怪な姿をした幻獣です。
もともとは山羊の頭と脚、人間の胴体を持つ牧神パンでしたが、最強の怪物であるテュポーンから逃げる時に慌てて変身したため、きちんと魚に変身できず不完全なカプリコーンになったといわれています。
十二宮の星座の一つである山羊座は、このカプリコーンである。説明終わり!」

遠野えるふの幻獣説明は終わった。
有名な幻獣らしいが、素人だと皆無に等しい。
つまり、カプリコーンとは、変身できる幻獣の代表格だ。
その為に、彼女は犯人をカプリコーンと言っていたらしい。
そういえば、オレ達のクラスが『カプリコーン組』だった事を思い出す。
まさか、彼女もオレが犯人だと思っているのか?

「うーん、クラスの名前を言っていたのか。
なら、事件にあまり関係はなさそうだな!」

オレがそう言うと、貞先生がまたおかしな推理をし出す。
おそらく遠野さんの幻獣説明で思い付いたようだ。
迷惑極まりない迷推理だろう。
オレの回復した精神力を、一気に持って行く気か?

「分かったわ、遠野さん。
つまり、木霊君は最初に女性とぶつかった時は、男子高校生の姿をしていた。
そして、ターゲットとなる被害者女性ではなかったため、殺さず逃走した。
その五分後、木霊君は女性に変装してターゲットの家の付近をうろつく。
そして、ターゲットが帰って来た所を見計らい刺殺した。
これが事件の真相ということね!」

貞先生は、あくまでオレを犯人にしようとする。
彼女の彼氏ができるか、事件が解決するまで、このしつこい攻撃は続くのだ。
しかし、オレには犠牲となる男性の知り合いが思い付かず、貞先生の暴走を止める事はできない。
ただ自分が犯人じゃないと言い張る事だけしかできないのだ。

「違いますよ。オレが犯人じゃありません。そうだよね、遠野さん?」

オレがそう尋ねると、遠野さんが言い返す。

「木霊君が落とした光る物って、何ですか?」

オレはしばらく黙っていたが、決心して言い出す。
落とした物がナイフっぽいから今まで言い出し難かったのだ。

「う、手品に使う仕掛けの付いたナイフだよ。
ただ、玩具みたいなナイフだから、見た目は本物のナイフみたいだけど、人を殺すことなんてできないよ。信じてくれ!」

オレは、決死の思いでそう言った。
しかし、案の定貞先生は言う。

「いいえ、信じられないわ! 
仮に、落としたナイフがそういうナイフだとしても、もう一本殺せるナイフを持っていれば、犯行は可能よ! 
警察を誤魔化すために、いろいろ変装や小細工を使ったんでしょうけど、私達の目は誤魔化せないわよ!」

貞先生は、目をキラリと光らせていた。
オレが彼女を殺さなくても、いずれ誰かに刺されそうだ。
そう思わせるに十分なほどの憎たらしい表情をしている。
多少彼女の将来を心配したが、放っておく事にした。
ある意味、絶対に殺されない人物かもしれない。

オレ達がそう話をしていると、刑事さんが帰って来た。
どうやら、公園の時計の確認が取れたらしい。
これで、オレの殺人容疑はなくなったはずだ。
ホッとして胸をなで下ろす。

「どうやら、本当に公園の時計は、五分ほど遅れていた。
なので、魚崎さんが犯行を目撃した時刻は、九時五分ということらしい。
なので、木霊君が犯人ではなく、真犯人が他にいそうだよ。
ん、どうしたのかね?」

刑事がオレ達にそう報告すると、貞先生がオレの犯行可能だった事を語る。
妹分をオレに取られたような気分で、機嫌が悪いのだろうか。
遠野さんと仲良くするには、貞先生の許可がいるのだ。
貞先生に彼氏ができない以上、邪魔される可能性は高い。
それなら、貞先生の怒りも仕方のない事だ。
刑事さんは、貞先生の推理を聞き、反論する。

「まあ、確かに、まだ木霊君の可能性も零ではない。
一応、事件捜査に参加してもらうよ。
それに、犯人が女装していた可能性も見逃せない点だね。
そうなると、怪しいのは、木霊君にぶつかったという女性だが……」

刑事さんがそう言うと、遠野さんが提案する。
遠野さんは刑事さんが生徒指導室に入って来た時に、髪型をポニーテールにして、エルフモードになっていた。
入れ違いのように廊下に出て、ひっそりと変身している。
彼女の方が、逃げ遅れたカプリコーンのようで、オレ達が見ているところで変身していた。

しかし、変身に多少の時間がかかり、ワンテンポ遅れて事件の話に介入し始める。
廊下にあるガラス窓を使い、ポニーテールをしっかりせっとしていた。
精神力が回復したため、事件の核心を突く発言ができるようになったようだ。
オレはその話にも付いて行くのがやっとの状態だったのだが……。

「あの、目撃者達は、轟木霊(とどろきこだま)の身長や犯人の身長を覚えていました。
そこから、犯人は割り出せませんかね? 
一人目の目撃者は、木霊君とぶつかった女性が、同じ身長だと言っていました。
二人目の目撃者は、刺した女性の方が、被害者よりかなり大きかったと言っています。
そこから、犯人を絞れるのではないでしょうか?」

「なるほど! 実は、警察の方で動機がありそうな人物は、数人に絞れてきているんだ。
後は、犯人を特定できる証拠が欲しいんだけど……。
身長を比較したら、犯人がより絞れるかもしれないね」

こうして、オレ達は、被害者女性の身長と動機のありそうな人物の身長を調べる事にした。




貞麗子

職業:高校教師   年齢:26歳

称号:美人なのになんか怖い、きっと来ない貞子等

身長175センチ 体重55キロ

スタイル:B88・W58・H89

付き合っている男性から、君は一人でも生きていけると言われて振られる。
結婚願望は強いため、いろいろ努力しているが、結果は付いて来ない。
高校当時は、鏡野真梨と似たような感じで、腕っ節が強く不良から絡まれていた。
元幻住高校のB組。
不良から特攻服をもらった事があるが、いじめられている少女(遠野えるふ)に譲渡した。
それ以来、その少女と交友がある。
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