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第二章 妖星少女とギガ―ス

第四話 遠野えるふの急所突き!

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 オレと遠野さんは授業に参加する。
酒牧が意識不明という事を伝えると、遅刻した事は無しにしてくれた。
教師達の間では、犬神今日子の出来事は有名なのだろうか? 
犬山公子さんが何かしらの指示をしてくれたのかもしれない。
酒牧が倒れたことで動揺し、保健室に運ぶという事はできなかったようだが、それでも犬神今日子の右腕と呼ばれるだけの人材らしく、学校中に情報網を張り巡らしているようだ。

本来ならば、酒牧が美少女の情報や統計を集める前に止める事ができるらしいが、酒牧が入学後一週間以内に美少女の資料集めと統計を行ったという驚異的な処理能力を持っていたために阻止する事ができなかったらしい。
そう、酒牧も雑魚キャラとはいえ、素晴らしい才能の持ち主なのだ。
残りの授業も終わり、放課後になった。
今日は部活動も開始できないため、オレと遠野さんで酒牧を連れて帰る事になった。

放課後になっても症状は変わらず、意識不明の状態だ。
精神病院に連れて行くべきかもしれないが、彼の両親の判断に任せる事にし、とりあえず彼の自宅を目指す事にした。
オレが酒牧を背負い、疲れたら遠野さんに任せる事にした。
いくら気を失っている(廃人レベルになっている)と言っても、遠野さんにあまり触らせたくない。

かなり無理をして彼を運んだが、三分の二くらいの距離で力尽きてしまった。
さすがに、同級生を背負って、三十分以上はきつい。
次第に彼の脚を引き摺る様になったため、遠野さんに止められた。
仕方なく、遠野さんに任せることにする。

本当は、気に入った女の子を他の男に触らせるなんてしたくないが仕方ない。
オレが息を整えていると、遠野さんがオーガモードになる準備をした。
光る魔法陣のピクニックシートを道端に敷き、スマートフォンを操作して曲と光を選択する。

(良く有ったな、そんなアクセサリー……)

そう思いつつ見守っていた。
夕方のため、まだ周囲が薄暗くなり、神秘性は中々ある。
しかし、うまい具合に夕日に照らされていたため、音楽と夕日で何とか補っていた。
子供連れの親に見られ、子供が関心を持つ。

「あのお姉ちゃん、何やっているの?」

「しっ、見ちゃいけません! 指も差さないで!」

母親は子供を連れ、逃げるように家路を急ぐ。

(まあ、見られなくて良かったな。
今回の変化もあんまり変わんないけど……)

オレはそう思いながら、親子を見送った。

「古(いにしえ)に栄えし魔獣達よ、数万年の眠りを破り、今ここに甦れ! 
覚醒・オーガモード!」

曲が終わるとともに、遠野さんの変身も終わった。
かなり練習したのか、丁度良いタイミングだ。
こいつもオレの母さんと同じで、根が真面目なタイプだと思った。
遠野さんが酒牧を背負おうとする。
酒牧は未だに小声で「今日子お姉様♡ 今日子お姉様♡」と口ずさんでいる。
遠野さんは酒牧を地面に下ろし、鳩尾を的確に攻撃する。

「黙れ!」

オーガの力を込めた強烈な一撃が、酒牧の身体に突き刺さる。
折角助けようとしているのに、他の奴の名前を喋り続けていれば、誰でもイライラするはずだ。
更に、酒牧の口臭も臭かった。
これは攻撃されても仕方ない。
遠野さんは、オレが見ている事に気が付き、技名を解説してくれる。

「あ、これは『急所突き』と言って、相手の急所を的確に捉える事で、女子の力でも男性を気絶させる事ができる技です。
私が護身用に開発した技なので、別にオーガモードでなくても使えるのですが……」

遠野さんはオレが怖がらない様に、女子でも倒せるという所をアピールしているようだ。
これが遠野さんが危険な女の子の片鱗を見せた瞬間だったが、今までの美少女よりインパクトは少ない。
実際使ったのは鏡野真梨並みの怪力だが、オレは少しも恐れていなかった。
むしろ、オレが酒牧を背負う前に使うべきだったと心の中で思っていた。
遠野さんがオーガモードになってくれたおかげで、酒牧を無事、自宅に送り届ける事ができた。

(酒牧、目が覚めた時はまともに戻っていると良いな……)

オレはそう願いながら、遠野さんと一緒に帰って行った。
明日の朝は、鏡野真梨も含めて、三人で掃除のアルバイトらしい。
早めに寝て、アルバイトが終わった後は、遠野さんと二人でどこか行きたいと考え始めていた。
ちょっとデート気分を味わった後、家に来てもらおう。

鏡野真梨は、どう見ても女の子タイプじゃないと判断し、アルバイトが終わり次第解散させる事にする。
二人がこの後デートすると思わせれば、勝手に自分の家へ帰って行くだろう。
鏡野真梨を家に来させる気は毛頭なかった。
どう見ても男らしい感じにしか見えないからな。



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