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第二章 妖星少女とギガ―ス

第五話 鏡野真梨の境遇

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 土曜日の朝になり、オレ達三人は、あるお寺の隣にある幻住墓地公園に辿り着いた。
そこは大きな墓地公園であり、昼間はそれほど怖い場所ではない。
墓地であるが、周りに住む人々に配慮してか、公園のような作りになっていた。
お墓も綺麗に整えられているし、人通りが多い時は夜でも安心して通る事ができる。
墓場が怖いと言うのは、実は良く整えられてなくて危険という事なのだろう。
整理されていれば、普通の公園と同じだ。
ちょっと照明が少ないようだが、昼間ならば全く怖くない。
しかし、今オレ達がいるのは、夜が明ける前の薄暗い時であり、雰囲気もどことなく怖くなっていた。

怖がるオレと遠野さんを尻目に、鏡野真梨は怖がる様子もなく、もくもくと作業を続けていく。
医者も最初は死体を怖がるというが、慣れてくれば手術も解剖もただの研究や仕事だ。
怖がる事はないと言う。
鏡野真梨もこういうバイトに慣れているために怖がらないのだろう。
鏡野の指示により、オレ達は作業を進めていく。



すると突然、何かの弾ける音がした。
そう思った瞬間、オレ達の前に何かの塊がドスンと降って来たのだ。
ミサイルが飛んで来たのかと思うほど、落ちて来た周囲は破壊されている。
何かの塊はオレ達の近くに落ちたが、幸いにもオレ達三人には当たらず、墓石を数個ほど破壊した。

 遠野さんは、何かが落ちて来たと分かった瞬間に、恐怖が絶頂を迎え、貧血気味の時のように倒れ込んだ。
近くのオレが倒れないように遠野さんを抱きかかえる。
音が派手なだけに、ビックリしたようだ。
固まるように倒れたので、何かの病気ではなく、恐怖で気絶した事が分かり切っていた。
オレが落ちて来た物を確認するよりも早く、鏡野がその落ちた物に駆け寄っていた。
すると鏡野真梨が大きい声でこう言ってくる。

「あっちゃ、あかんわ!
木霊、警察と救急車や! 
急いで連絡せえ! 
人が落ちて来たってな!」

鏡野真梨は、慣れているのかオレにそう報告して来た。
それにしては、慌てた様子も無く、なんかちょっと失敗しちゃったという感じだ。
オレでさえ、そんな大事じゃないと思わされていた。
携帯電話から警察と救急車に電話をしながら尋ねる。

「な、人が?」

「そうや。頭から血を出してんねん!
ちょっと助かるか分からへんけど、応急処置くらいはしとくわ。
お前は、近くに住んどる住職にも連絡せえ!」

オレは言われた通りに警察と救急車に連絡し、その後で近くに住む住職を呼んで来る。
その時に、気絶した遠野さんを住職の家で休ませてもらう事にした。
オレと住職は、遠野さんを横にならせた後、急いで現場に向かう。
住職と鏡野が応急処置をしていると、救急車と警察が到着した。

オレは、鏡野真梨に言われて、必要な物を用意する係だった。
素人に怪我人は見せないほうがいいという理由らしい。
それでも急いでいたので、遠目に怪我人を見てしまったのだけど……。
ホラー映画並みの頭から血を流している男性が倒れていた。
鏡野が救急車で付きそおうとすると、腕を掴まれ警察に止められる。

野村陸斗刑事だったら説明も楽だったが、落下事故という事で、一般のルートで警察を呼んだのだ。
事故の対応に慣れていない野村刑事より、緊急の刑事さんの方が対応が上手いと思っていたがそれが失敗だった。

「なんやねん! 今は急いどるところやで!」

「だからだよ。被害状況を正確に訊く必要がある。
住職とあなた達は残って、俺達の調査に手伝ってもらおう。
犯人の可能性もあるからね。
付添い人は、俺の部下が行く。
これは、普通の事件じゃないからな!」

オレ達は警察にそう言われ、指示に従う事にする。
確かに、物凄い力で叩き付けられたような感じだった。
これが事故なら、早めに事件を解決しないと、第二の事故が発生するかもしれない。
しかし、警察官は、オレ達を犯人だと疑っているようだ。
人気のいない朝方に、被害者と接触していたのだから疑われても仕方ない。
警察はまず、オレ達に事件のあった時の状況を訊いて来た。

「まず、あんたらは何だ? 
どうしてこんな時間に、この墓地公園に居たんだ? 
何をしていた? 
どういう状況で、この男が倒れているのを見付けたのかね?」

オレは一瞬黙る。
どう言っていいのかさえも分からない。
アルバイトで墓地に来ていたと言っても信じてもらえるのだろうか?
しかも、高校生の男一人に女子二人だ。
如何わしい目的を疑われる危険もあった。
この刑事さんでは、すんなり信じてはくれないだろう。
しばらく黙っていると、鏡野が話し始める。
疑われても真実を話すしかない状況だった。

「ウチらは、この寺で掃除のアルバイトで来たんよ。
ここで春祭りをする言うから、掃除してたんや。
朝の早い時間やないと、他の準備があるからできんしな。
友人の木霊と遠野さんに手伝ってもろうて、他の人の準備が始まる前に終わらそ思っとったら、突然に人が飛んできて、ここにダーン落ちて来たんよ」

「ほーう、早朝からご苦労な事で……。
このアルバイトの依頼主は?」

「さあ? この掃除会社に連絡したらわかるんと違うか。
ウチらは、会社から掃除するように頼まれているだけやから……。
依頼主らしき人物と細かい指示のメール連絡はしてたけど、この被害者みたいやな。
電話をかけたら、あんたの部下の刑事さんが出たわ!」

「なるほどね」

刑事さんは、次に住職に尋ねる。

「住職さんが掃除を依頼したのかね? 
朝のさっきまでのあなたの行動を教えてもらえますか?」

「はい、掃除を依頼したのは、弟の方だと思います。
なんでも、春祭りを計画したいとか言っていましたから……。
私では、詳しく分かりませんね。
それと朝の行動ですが、妻と一緒に寝ていたので、妻が証言してくれると思います。
でも、それだとアリバイになりませんよね、身内ですから……」

「まあ、そうですな。
でも、夜は普通、大半の人がそうですから気になさらずに……。
むしろ、アリバイがしっかりしている方が怪しいですよ」

「はあ、そうですか。
一応言っておくと、怪我をしていたのは弟の国治です。
さっき応急処置をして気付きました」

「ほう。では、弟さんの国治さんに最後に会ったのは?」

「昨日の晩です。
国治が付き合っている彼女とケンカしたと言って来て、私の家に泊めたんですけど、しばらくしたら彼女と仲直りしたらしく、車で一緒に帰ったようなので安心していたのですが……。
まさか、こんな事になるとは……」

「なるほど、国治さんが帰る所を確認したんですね?」

「いえ、しっかりとは確認していません。
いつも彼女とケンカした後は、彼女の方から車で迎えに来て、黙って帰っていくので。
昨日も同じようにして一緒に帰って行ったのだろうと思っていただけなんですが……」

「実際には、帰っておらず、ここに泊っていた。
そして、朝の散歩でもしていると、国治さんが襲われたというわけですね」

刑事さんはそう言うと、オレ達の方を見てこう言う。
笑顔などではなく、明らかにオレ達を警戒している感じだ。
ドラマで見る無能なタイプの刑事である事がはっきり分かる。
偉そうな癖に、肝心の犯人は捕まえる事がでいないタイプだ。

「どうやら、君達が国治さんを襲って怪我をさせた疑いがあるね。
ここは、高い建物も何もない場所だ。
飛んで落ちて来たなど、信用できん! 
君達が後ろから墓石などで殴りつけ、金を奪おうとしたのだろう。

だが、仲間の一人が罪の重さに耐えきれず、警察と救急車に連絡して来たという所だろうな。
あの殴り方は一人なら異常だが、三人が墓石などの重い物を使って殴ったとなれば、納得もいく。
どうかね? 今ならまだ罪は軽いぞ!」

どうやら、刑事さんはオレ達を疑っているようだ。
野村陸土刑事とは違い、出世するために事件をさっさと解決しようとしているのが分かる。オレ達の言い分など全く聞かず、オレ達を犯人と特定したようだ。
オレ達を疑っている刑事さんの言い分に、鏡野真梨は激しく抗議する。
オレが口を出す暇もない。

「何言うとんねん! 
ウチらは、アルバイトを頼まれて来ただけや。
ホンマに、人が飛んで来たんやで!」

「そうかな? 
会社の方から問い合わせたら、バイトに来る子は一人だけと言っていた。
しかし実際には、三人も来ている。
人気のいないここで、被害者を襲って金品を奪おうとしていたのだろう。

仲間割れしたのか知らないが、仲間の女の子を気絶させ、事件を事故に見せかけようとしているようだな。
早く自供した方が良いぞ! 
罪の意識という物は、徐々に強くなっていき、最後には夜も眠れなくなるというからな。ここで罪を告白して、楽になった方が良いというモノだ」

「ウチらは、やってへんねん。
時間と人数も依頼主から変更を申し込まれて、直接指示されたから会社の方は知らんくて当然や。
給料も三人分くれる言うとったし、時間も依頼主がこの時間って決めたんやで! 

会社を通すと混乱するから、細かい指示は直接取り扱っとんねん。
何なら、メール読むか? 
それと、遠野さんと木霊はウチを心配して助けてくれとんねん。
あいつらの事を悪く言わんといて!」

刑事さんと鏡野が語り合っていると、刑事さんの携帯電話が鳴り出す。
刑事さんは、鏡野を睨み付けるようにして、監視しながら電話に出る。

「こちら火山、どうした? 被害者に何かあったのか?」

「さっき病院に着きましたが、医師からの連絡がありまして、被害者は頭部損傷が激しく亡くなられたそうです」

「そうか。
なら、この事件を強盗殺人事件として、捜査する。
もう犯人の目星は付いている。
お前は、私の指示を待っていろ!」

「え? 本当ですか? 
さすがは、火山警部。
他の連中とは、一味違いますな!」

「ふん、おだてても何も出ないぞ!」

「では、被害者の死因が確認取れ次第、また連絡いたします」

「ああ、任せる」

こうして、火山警部は電話を切った。
そして、俺達を見て言う。

「どうやら、殺人事件となってしまったようだ。
君達三人を、強盗殺人の容疑で連行する。
学校側には、私達の方から言っておくので、君達は連絡する必要はないぞ! 
無駄な抵抗する事なく、早く真実を話してくれるのを願っているぞ!」

火山警部は、一方的にオレ達にそう言う。
嫌らしい笑顔を浮かべていた。
オレ達を犯人だと思っている以上、そうそう意見を変えない気だ。
オレと鏡野は、怒りと同時に不安も感じていた。

「あかん。新学期入って一週間以内に二件の事件に遭遇や。
このままでは、また一人ぼっちになってまうかもしれん……」

「大丈夫だろ。今回は、オレと遠野さんもいるし……」

「あんた、犯人扱い二度目やろ。さすがに、まずいかもしれへんで。
あんたに非は無くても、学校側やクラスのみんなは、あんたがやったって思うし、危険人物扱いもあり得るで。
噂をなめたらあかんよ。
些細な事でも誇張されて、社会的に抹殺なんてのも良くある話やから……。
冤罪で捕まっても、社会がそれを認めんければ、本物の犯罪者と同じ扱いやねん! 
就職活動や大学進学も難しくなるんやで、ホンマ……」

「そんなバカな……」

「嘘やない! 
警察の刑事があてにならへんのやったら、事件をウチらが解くしかないで……。
周りの人間が、犯人かもと疑う時間が、長ければ長いほど、友人や親族からの冷たい視線にさらされるんや。
ウチなんて、母親からも不審に思われる始末や!」

「でも、どうする? 
警察もオレ達を犯人と疑っている。
自由に捜査ができないんじゃ、自分の無実を証明するのも難しいぞ。
肝心の名探偵は、気絶したままだし……」

「うーん、あんた、警察に知り合いおらへんの? 
おったら、少しはウチらの事を考えてくれるんやけど……」

「あ、一人いる。
昨日あったばっかりだけど、さっきの刑事さんよりはオレ達の事を考えてくれるはずだ」

「後は、役職だけやな。
地位が低いと、捜査ですらさせてもらえず、ハブにされるで!」

「詳しいな、おい!」

オレは急いで野村刑事に連絡を取る。
朝早くのため、少し出るのに時間がかかったが、野村刑事が電話に出てくれた。
どの程度の階級かは知らないが、捜査に関係できるだけの地位がある事を願う。

「はい、野村です。朝早くからどうしましたか?
ん、知らない番号だな、どなたですか?」

野村刑事の眠そうな声が聞こえて来た。

「昨日お世話になった轟木霊ですけど、また事件に遭遇したので助けて欲しんですけど……。
朝早くに起こしてしまってすみません」

野村刑事は少ししてから、大きな声で喋り出した。
朝の眠気も吹っ飛んだようだ。
高血圧気味なのか、ハイテンションで助かる。

「えええええええ、この前の事件の話じゃないんだよね? 
また全く別の新しい事件に遭遇したってことかい?」

「はい、そうです」

「分かった、すぐに行く。場所はどこ?」

「もう警察の人がいるんですけど、その刑事さんが僕達が犯人じゃないかと疑っているんです。
ちょっと無理矢理犯人にされそうな勢いなので、野村刑事に電話したんですけど……」

「そうか、担当刑事さんは誰かな?」

オレは近くにいる刑事さんの名前を思い出し答える。

「えーと、火山さんとかいう刑事です。若い感じの……」

「彼か……。
少し強引な事件捜査をする刑事だが、拳銃検挙率一位を取ったとかで、若くして俺と同じ警部になった刑事さんだよ。
分かった。しばらくしたら現場に行くから、場所を教えてよ。
その刑事さんには、俺の名前を伝えて、しばらくしたら来ると言ってくれればいいから……」

「分かりました」

「それと今度からは、野村警部と呼ぶように」

「はい、分かりました」

オレはメールで事件現場を教えて、警部に言われた通りに火山警部に話す。
火山警部は不機嫌になり始めた。

「ちっ、さすがに警察として勤めているキャリアが違うか……。
まだ戦いたくない相手だ。
仕方ない、今回は野村警部の手腕を見守る事にしますか……。
俺は少し休憩して来る」

火山警部は部下に現場を任せ、朝食を食べに行った。
あらかたの調査は終わっているので、少し休憩を取る予定のようだ。
その休憩の間に、真犯人を見付けなければ、俺達が犯人にされかねない。
時間との勝負だった。
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