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第三章 SM少女と予告された事件

第二話 ファミレスのアルバイト

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 オレと遠野さんは、鏡野真梨の紹介でアルバイトをする事になった。
もちろん部費に当てるため給料はない。
警察から金一封をもらったが、四人分の旅行費には全然足りないという。
生徒の分の旅行費はともかく、顧問先生の旅行費まで稼ぐはめになるとは……。
オレ達は放課後の五時頃に、アルバイトをするファミレスに集まる。

ファミレス『ドライアド』。
ここでアルバイトをするのだ。
オレ達の他にも、A組(アメミット組)の天草夏美も一緒にアルバイトするという。
A組のS級美少女『success(サクセス:成功)を表す』、将来性が期待されている成績優秀の少女だ。

兄の家計を支えるためにお金が必要という健気な理由で、アルバイトをするという。
さすがに、A組の女子だけあって、B組やC組の様な個性はない。
両親がいないという薄倖性まで持っている恐るべき少女だ。
超有名な孤児院出身であり、優秀な経営者候補になっているという。
アルバイトをするにあたり、各々自己紹介をする。

「幻住高校一年A組(アメミット組)天草夏美です。
趣味は、生活面も兼ねて料理です。
得意料理はイタリアン。
ここでも、料理ができたら良いなと思い、志望しました」

うん、普通だ。
今まで幻住高校の美少女達に出会ったが、ここまで普通そうな子は初めてだ。
普通過ぎて、キャラを作っている感がある。
オレはそう思って見ていた。

 鏡野真梨はここで働いているが、折角の機会なので自己紹介するという。
働き者という事で、オッちゃんに大人気らしい。
尻を触られたりするという。
命知らずな客もいるものだ。
あんまり興味はないが、聞いておくか……。

「ウチもするんか? 分かったわ。
幻住高校一年B組(バックべアー組)鏡野真梨や。
学校生活を支えるため、生活費を稼いでいる。
趣味は、カラオケかな……。
バイトばっかりしているから、趣味が最近分からんくなったわ……」

さすがはB組、アルバイトが趣味とは恐れ入る。
折角体格が良いんだから、スポーツ関係を言っても良いと思うのだが、彼らにとってスポーツとは趣味ではなく、生活の一部なのだ。
だから趣味とは答えない。

 ようやく遠野さんの番だ。
他の二人が自己紹介したから、あんまり緊張はしてないと思うけど大丈夫だろうか? 
オレは心配しながら見守る。
舌を噛んだりすると、恥ずかしさが増すぞ。

「幻住高校一年C組(カプリコーン組)遠野えるふです。
アルバイト志望動機は、学校の部活をするために部費が必要だからです。
まだ設立して間もないので、部費が出ません。
なので、活動資金を貯めないといけないんです。
趣味は、読書とカラオケです。絵も描く事ができます。
よろしくお願いします!」

「へ―、遠野さんはカラオケに行くんだ。どんな歌を歌うの?」

店長さんが遠野さんに興味を持ったのか、こう尋ねてくる。
オレも意外に思った。
以前に、貞先生とともにカラオケへ行った事はあるが、あの時はあんまり歌わなかったから分からなかった。
店長さんも遠野さんの性格が大人しいタイプだと思っていたから気になったようだ。

「私の自分で作った曲で良ければ歌います。聴きますか?」

「すごい、作曲まで……」

遠野さんは携帯電話で曲を選択し歌い始める。

「曲名は、『私とカプリコーン』。
私が苦しい時に、このカプリコーンを知って励まされました。
その時に作った曲です。聴いてください!」

なんかライブみたいになっているけど、彼女はそういう経験があるのだろうか?

「誰だって、逃げ出したくなる時はあるよ。
怖くって、恐ろしくって、その場に踏み留まれない。
そう思って逃げ出したいのに、また失敗ばかり……。
みんなが私を見て笑っている。
焦って、脅えて、未完成。
だけど、なぜか分かってしまうの、あなたの気持ち。
ホントはみんな逃げ出したんだ。
笑う事も、恥じる事も、全部ないよ。
君はいつも全力じゃないか。
そう、友達を助けようと努力しただろう。
そう、勇気を出して立ち向かっただろう。
いつか、大きな星になって、空を輝かすよ。
たとえどんなに小さな光だとしても……」

遠野さんの歌は終わった。
また、彼女の意外な一面を見てしまった気がする。
辛い経験や喜びが、人間の才能を開花させる事もあるのだ。
まあ、オリジナルソングじゃあ、曲が無いからカラオケでは歌えないだろうけど。
オレは最後になり、自己紹介をしようとする。

「オレは……」

「あ、ヤローいいわ。私は可愛い女の子だけ知りたかったから……」

(うん、男女差別って悲しいね。
やりきれない思いを感じるよ……)

オレは、ひっそりと涙を流していた。
これ以上の日数は、店長が雇わない事が確定しているし、名前さえも覚えてもらえないけど、せめて流れに乗って自己紹介したかった。
たとえ数日限りでクビ確定だとしても、露骨な差別はやめてもらいたい。

 オレ達は仕事をし始める。
鏡野真梨とオレが厨房を担当し、天草さんと遠野さんがウェイトレスを務める。
うまく作業できれば良いが、うまくいくのだろうか? 
店長さんはウェイトレスの二人にこう言う。

「二人はとりあえずこの服を着てね。
後、髪の毛は縛ってまとめてくれると嬉しいんだけど……」

差し出された服は普通のウェイトレスの衣装だった。
そちらは問題ないが、遠野さんは髪を縛ると幻獣化してしまう。
どうするのだろうか? 
ポニーテールやツインテールなら大した変化はないが、それでもどうなるか分からない。
オレが心配して遠野さんに近付くと、遠野さんはこう言う。

「大丈夫です。ハンカチを使って髪の毛を纏めれば、幻獣化は起こりません。
料理をした経験があるので、それくらいは試しています」

遠野さんが髪の毛をハンカチでまとめようとすると、店長が言う。

「厨房じゃないから、そこまでしなくて良いよ。
とりあえず、ポニーテールにでもしてくれる?」

「そ、そんな……」

遠野さんはどうするのだろうか? 
遠野さんは店長に言われた通りポニーテールにした。
幻獣化し、エルフモードになる。
人間に近いが、髪の色と眼の色が赤く、耳が違うが大丈夫だろうか?

「どうしたの、その髪……」

「コスプレです。駄目ですか?」

「まあ、そういう趣味があるなら仕方ないね。
お客にそう訊かれたら、歌でも歌って誤魔化して!」

何か良く分からないが許可された。
後はエルフモードの持続時間が問題だ。
バイトが終わるまで精神力が持つのだろうか? 
オレが心配してそう訊くと、こう返って来る。

「仕方ありません。
エルフモード継続時間持続するためにも、訓練だと思って頑張ります」

かなりヤバい状況のようだ。
途中で爆睡しないように注意して欲しい。
オレは心配しつつも厨房に行く。
定期的に遠野さんを見守りつつ、限界が近いと感じた時は休憩させることにした。
カフェオレを飲むと回復するらしいから、緊急のために用意もしておく。
アルバイトの時間は何事も無く過ぎて行った。
オレも警戒してたかいがあり、遠野さんも大事になるほど問題は出なかった。
むしろ、エルフモードのために、仕事をスムーズにこなす。

A組(アメミット組)の才女・天草夏美ともそん色がないほどの有用な仕事をした。
オレの方がうまくいかず、鏡野からいろいろ注意される。
皿を割るようなミスをしたら、容赦のないツッコミが来るのだ。
受け身が取れなければ、生命の危険があるほどの危険な作業だ。

「ぷっはははは、何ギャグみたいな失敗しとんねん!
バナナの皮で滑るとか、初めて見たわ!
しかも、皿まで粉々やで。
狙ってやっとんのかい!」

「グッボ!
ね、狙ってなんかない……。
お前がバナナの皮を投げ捨てたせいじゃ……」

「おいおい、こんなツッコミ程度でボロボロって、どんだけ弱いねん。
こりゃあ、数日しか保たへんな。
まあ、約束の期日までは頑張って気張れや!」

厨房は戦場だった。
鏡野真梨の容赦ないツッコミが鳴り響いていた。
手刀並みのチョップと足蹴り、容赦のないコンボが続く。
本人に悪気はないのだろうが、もう少しセーブして欲しい。
鏡野真梨の攻撃に耐えつつ、くたくたに疲れたが、何とか一日が終わったのだ。

アルバイト時間が終了した時には、遠野さんは疲れて眠っていた。
やはり無理をしているのだろう。しばらく経っても起きない。
カフェオレを飲ませて回復させるという選択肢もあるが、オレは遠野さんをそのまま連れて帰る事にする。

遠野さんの髪を解き、ロングヘアーに戻して背負う。
遠野さん自身は軽いのだが、カバンが一緒だと背負うのは困難だった。
すると、天草夏美がカバンを持ってくれると言う。
家は近所なのだろうか? 
オレがそう尋ねるとこう答える。

「アパートは遠いんだけどね。
知り合いの家が近くなんだよ。
遠野さんが仕事に慣れるまでくらいなら、一緒に帰っても良いよ!」

さすがは、A組の才女といったところか。
人間としての完成度が違う。
鏡野真梨など、遠野さんが疲れている事にも気が付かずにさっさと次のバイト先へ向かって行った。
そっちはそっちですごいが、人間としては何かが間違っている気がする。

 オレは遠野さんを背負い、天草さんにカバンを持ってもらいながら帰る事になった。
この状況は男としては嬉しいだろう。
両手に花とは言わないが、前後に美女という感じだ。
折角の機会なので、天草さんと話してみる事にした。
お兄さんが家計を賄っているらしいが、どんな事をしているのだろうか? 
ちょっと気になる。

「天草さんのお兄さんはどんな事をして生計を立てているの? 
天草さんは会計も得意そうだったから、そういう事務の仕事かな?」

オレにそう訊かれ、天草さんは一瞬黙る。
五秒ほどして、こう返して来た。

「探偵のような仕事ですよ。
兄は真面目に頑張って、定期的に稼げるようになって来ました。
依頼さえしてくれれば木霊君を助ける事も出来ますけど、敵になった時は容赦なく潰しますよ。私もね……、ふふふ」

顔は笑っていたが、目は本気だった。
探偵か、刑事ドラマのように難事件を解決するなんて事、まずないんだろうな。
本当の探偵は、浮気現場の調査とか、企業の弱みを握るとか、そういう泥臭い仕事が多いのだろう。
そんな仕事で定期的に収入が入るという事は、相当の凄腕なのかもしれない。

天草夏美は、才女なのにミステリアスな感じのする少女だった。
学校の勉強についての話などを適当にして、オレ達は別れた。
遠野さんを家に送り、オレは帰宅する。
こんな生活が数日続いた。
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