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第三章 SM少女と予告された事件

第四話 心臓を打ち抜いた一撃

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 メアリーの応急処置が良いためか、どうやら一命は取り留める事が出来そうだ。
しかし、まだ油断する事は出来ない。
近くの駅で疑わしい人物を降ろし、被害者も病院に搬送する事になった。
通報が速くスムーズに行えたため、駅に着いてから三分とかからず救急車が到着する。

電車内から救急車を呼んだのは、遠野さんだった。
オレとどちらが連絡するか迷ったが、すぐに遠野さんに譲った。
メアリーがいるためか、それほど緊張せずに連絡で来たためか、遠野さんはうまく連絡し駅員や救急車も状況が把握し易かったらしい。
なんにしても大事にならなそうで良かった。

しかし、警察官の男性はそうは思っていない。
被害者の近くにいた人達を駅に留まらせ、犯人逮捕するようだ。
熱意はあるのかもしれないが、大変迷惑な話だ。
病気が悪化したと考えるのが普通だが、あくまでも犯人がいると言う。

容疑者はオレ達も含め五人。
メアリーが席を譲った太った男性も容疑者の様だ。
こうなったら、納得するまで捜査させるしかない。
一番疑わしい警察官の男性は推理し始めた。

「まず、この中で犯人の可能性がない者を先に告げておこう。
真面目に応急処置し、被害者の命を救ったメアリーさんと、警察官のこの俺だ。
それ以外の四人が、被害者を苦しめ殺そうとした疑いがある。
特に、そこの同じ携帯電話iPhoneを持ったバカップル! 
高校生の男女のラブラブなど、百害あって一利なし!」

「個人的恨みが入ってへんか?」

どうやら警察官はオレ達に疑いをかけているようだ。
オレと遠野さんが、メアリーの連絡先を登録させているところを見ていたらしい。
はっきり言って八つ当たり以外の何物でもないが、警察官に目を付けられた以上は、事件を解決しなければ解放してもらえそうにない。
オレと鏡野真梨と初めて意見が一致した。

「こうなったら仕方ありません。
さっさと事件を解決して、再び静岡に向かう電車に乗りましょう。
しかし、まずは幻獣の説明が先ですけどね!」

遠野さんは今回の事件に関係する幻獣を思い付いたようで、事件の名前を決める。
こうしないとモチベーションが上がらないらしい。

「今回の事件はピュートーン怪死未遂事件としましょう。
まだ事件と決まったわけじゃありませんからね」

「良いけど、ピュートーンって何?」

「ピュートーンとは、デルフォイにある神託所を任されていた大蛇です。
ピュートーンは、母親のガイアにより『次に生まれるゼウスの子供(アポロン)に殺される』と予言されていました。
しかし、生まれたばかりの子供アポロンにそんな事ができるわけないと油断していた所、アポロンの放った弓矢によって死んでしまいました。
この事件も予告されていたようですし、これでどうでしょうか?」

「予言されていたが、事件が起こってしまった。
あの刑事さんの言っている事を本気にしているんだね。
でも、悪くは無いけど、あの警察官の言い訳なんじゃ……」

オレは予告というより、痴漢を誤魔化すための言い訳にしか思えなかった。
しかし、遠野さんは笑顔になり、事件を解決する気になったようだ。
まあ、遠野さんがやる気になっただけでも良かった事にするか……。
オレはそう思い、警察官の虚言を流す事にした。

遠野さんはエルフモードになる準備をし始める。
今回も魔法陣を使って、演出を決める。
音楽と光に合わせて髪の毛を縛り、エルフモードになる。
体調は万全な様で、鮮やかな赤色に変化し始めていた。

「太古に栄えし、賢き幻獣よ、数万年の眠りを破り、今ここに目覚めよ。
覚醒・エルフモード!」

遠野さんが髪型をポニーテールにすると、髪の毛の色と眼の色が赤く変わり、耳が変化する。
そう、古代の賢い種族が甦ったのだ。
果たして、メアリーと警察官の反応はどうだろうか? 

 メアリーはそれほど大した反応をせず、遠野さんの変化を知っているようだった。
まあ、古い友達らしいし、オレより知っていて当然か……。
しかし、警察官の反応は違う。
遠野さんの髪の毛を掴み、激しく怒り出す。

「この不良娘め! 髪を赤く染めるとは、親が知ったら泣くぞ!」

この短時間に変化した事は問わず、髪の色だけで遠野さんを不良娘と認識したようだ。
ポニーテールを激しく掴み、怒りを顕わにする。

「痛い! 引っ張らないで!」

「うるさい、この不良娘! これこそ、お前が犯人である証拠。
精神がまともな奴なら、髪の色をこんなふうに染める事はないからな」

警察官は無茶苦茶な理由で、遠野さんを犯人に仕立て上げようとする。
さすがに、同じ女として鏡野真梨が黙っていない。
遠野さんを援護し、警察官をボコボコにする。
かなり痛い膝蹴りが直撃していた。

「警察官を殴った! お前ら、さてはグルだな!」

「うるさいわ! 女の子を傷付ける男は、その場で病院送り決定なんやで! 
日本の法律ではなく、全世界共通の法律や!」

とりあえず警察官が抵抗しなくなるまで蹴り飛ばした。
二、三発で大人しくなり、話ができるようになる。

「はあ、はあ、まず話くらいは聞こうじゃないか。
俺の対応も悪かったと思う。
しかし、暴力はダメじゃないかね?
人間には、言葉という道具があるのだ。
文明人らしく、言葉で語り合おう!」

「ウチは、暴力でも構わへんで!
お前、どうせ刑務所行きやし!
痴漢の疑いは、晴れてへんのやで!」

「ひいいいい、君の事が好きです!
特に、君の太ももとお尻が大好きです!」

「キモいわ!」

刑事さんは、鏡野真梨の機嫌を取ろうとしてそう言った。
自白に等しい告白だが、ワンパンチでツッコミは終わる。
珍しく告白された為、鏡野真梨の機嫌が少し良くなった様だ。
しかし、遠野さんはやはり少し怖くなったのか、髪型をロングヘアーに戻し、オレにこう言う。

「今回は木霊君が事件を解いてください。
被害者も死んではいないし、気楽にやって大丈夫だからね。
焦らず一つ一つ状況を把握して行けば、必ず事件を解決する事ができるから……」

遠野さんはオレにそう言ってほほ笑んだ。
できれば期待に応えたいが、果たしてうまくいくのだろうか?
オレは遠野さんにアドバイスされ、まずはメアリーに被害者の状態を訊いてみる事にした。
今、このメンバーで一番被害者の倒れた症状が分かるのは、メアリーだけだからだ。
メアリーは答える。

「ああ、ペースメーカーが壊れたんだろう。
被害者は老人だったからな。
どんなに精密な機械でも、機械は機械だ。
電波による影響で壊れる事や不具合はある。
それが故意に起こされたのかは分からないが、何らかの原因によって起きた可能性が高いな」

メアリーのその説明を聞き、警察官が得意になる。
鏡野真梨にやられていたのに、回復の速い事だ。

「ふははは、やはり俺の睨んだ通り、そのバカップルが犯人で間違いないようだな! 
一台一台は大したこと無くても、二台が同時に揃えば、か弱いお年寄りを殺害する危険さえある凶器と化す。
お前達は存在自体が危険なのだ。
これからはラブラブを自粛し、健全でつつしむある行動を心がけるように! 
まあ、過失傷害罪という事で逮捕しておこう!」

警察官はオレ達をその容疑で逮捕しようとする。
すでにオレの手に冷んやりとした手錠がはめられていた。
手錠の現実的重さを知り、かなり焦り始める。
オレは納得できず、メアリーに詳しいアドバイスを求める。

「メアリー、電気製品を持っていただけじゃあ、犯人にはならないだろ。
どうすれば、ペースメーカーを誤作動させることができるんだ?」

「まあ、絶対とは言えないが、携帯電話などの機器から二十センチ以内に近付けて使用すると危ない。
更に、そういう機器を二台以上近付ける事で効果を倍増させることは可能だ」

警察官はすかさず言い切った。

「やはりバカップルが犯人だろう。
席を譲るふりをして近づき、故意にペースメーカーを破壊したのだ! 
携帯電話が二台あり、被害者にも近付く事ができるこの方法なら、偶然を装って殺す事ができる!」

「無理だな! 
被害者が倒れたのは、こいつらが近付いてから何十分も経っている。
席を譲る時に壊したのなら、被害者は席から立ち上がる事さえできなくなっていただろう。犯人はこいつらじゃないよ!」

メアリーがオレ達をかばってくれた。
警察官は次の標的を鏡野に移したようだ。

「ならば、犯人はこいつか? 
俺を蹴ったと思わせて、本来の狙いは被害者だった。
蹴りで直接被害者のペースメーカーを破壊し、被害者を殺害しようとしたのかもしれない。恐ろしい少女だ!」

警察官の言葉に、鏡野真梨は怒りを表す。

「ああん! ケンカ売っとんのか!」

鏡野真梨の怒りはもっともだが、その怒りはお前を疑わせるのに十分だぞ! 
手を出すのは危険過ぎる。
メアリーはそれにも弁護してくれる。

「いや、それも無い。
直接蹴ったのなら、被害者の胸に足跡が付いているはずだが、被害者にそんな跡は無かった。
それに、間に警察官を名乗る痴漢がいたから、それも不可能だろう」

オレはそれを聞き、鏡野真梨と被害者との間に警察官を名乗る痴漢がいた事を思い出す。
もしも、そいつが二台以上の携帯電話を持っていたら、犯人と断定できる。
少なくとも、事件に関与した疑いは出て来る。
オレは警察官にこう尋ねる。

「警察官の所持品をチェックさせてくださいませんか? 
まずは、あなたが携帯電話を二台持っていないか確認した後じゃないと、事件の捜査もうまくいきませんから……」

鏡野真梨もオレの意見に同意し、警察官を拘束する。
警察官は、犯人の様に抵抗し始めた。

「止めろ! 俺に触るんじゃない!」

鏡野が押さえてくれたおかげで、オレは警察官のポケットから携帯電話数台とデジタルカメラ数台を見付ける事ができた。
その中には、大量の女子高生のパンツ写真や危険な写真が保存されていた。
メアリーはその画像を見て警察官を誉める。
黒いレースのパンティーを着用している様で、素人目にも超高級品という事が判断できる。
オレでさえ、目の前に置かれていたら思わず触ってしまうほどの一品だった。

「うおおお、こんなセクシーなパンツを穿いて登校している生徒がいるんだな。
こんなパンツ、いくらぐらいするか分からないぞ!」

「そうだろう。写真だけでもかなりの価値があるんだぞ! 
この制服からすると、幻住高校の生徒であることは間違いない! 
誰だか分かるかな?
もちろんオレは、全てを記録している。

ちなみに、これがこの高校のトップクラスの美女達だ。
天草夏美は、白色とオレンジ色のストライプ下着の上に、青いスカートという格好をしていたようだ。
なかなか良い光景だろう。

更に、これは犬神今日子の下着だ。
金髪のハーフ美人だが、下着はそれとコラボするように黒だった。
その上に黄色のスカートを穿いているんだ。
まさに黒を引き立てる配色だろう!」

「なるほど、見事だな! それで今度は、鏡野真梨と遠野えるふを狙ったというわけか?」

「ふひひ、その通りだ。
まあ、予想以上に手強いから、手を引こうか考えている。
鏡野真梨はピンクのパンツに、緑のスカートで配色がなって無い事が判明したからな。
それに、遠野えるふの子供っぽいキャラパンの下着姿より、君の方がなかなかナイスバディだから撮り応えがあるし……」

メアリーにつられ、警察官は自分が犯罪者である事を自供した。
もう、疑う余地も無く痴漢だった。
怒りに満ちた遠野さんと鏡野真梨が彼の背後に立っていた。
殺意に満ちた目から、次に起こる光景が簡単に推測できる。
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