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第三章 SM少女と予告された事件

第五話 被害者が倒れた理由

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 警察官と名乗る男が痴漢であることが判明した。
遠野さんはその瞬間、急所突きを繰り出す。
脚を使った急所突きだったが、的確に相手の急所を狙い澄ます。
オーガの力ではなかったが、鋭い一撃が犯罪者に裁きの鉄槌を下した。
しゃがんでいる男性の玉目掛けて、後ろから思いっ切り蹴り上げた。

「ぐおおおお! 球が……」

警察官はメアリーと一緒に見ていたデジタルカメラを落とす。
もしも、オーガの力だったら、完全に致命傷だっただろう。
良い子のみんなは決して真似しないでね。
たとえ犯罪者だとしても、人権とか、市民権とかあるから、訴えられたら迷惑だからね。
遠野さんの一撃に耐え、何とか冷静さを取り戻した警察官が言う。

「ごっほ、違う、違う!
君達は何かを勘違いしている。
そう、こういう事をしていた犯罪者を逮捕した所だったんだ。
これは、その時の証拠品だよ。

警察所に置いて来るのを忘れてしまって、いやあ、失敗、失敗。
決して、俺の携帯電話などではないからね。
普通の人間が、用も無くこんなに大量の携帯電話やデジカメを持っているわけないだろう。
そう、全て犯罪の証拠品なのさ!」

「ほう、さよか……。
なら、最新のデーターを押さえれば、白黒はっきりするな。
この電車内で撮られた写真がなければ無罪、あれば有罪や!」

鏡野と遠野さんがデーターを調べ始めると、警察官が騒ぎ出す。
遠野さんが調べていたデジタルカメラを奪い取り、データーを消去する。
データーが完全に消去したのを確認した後、冷静さを取り戻しこう言う。
どうやら証拠品と思われる写真を消去できた様だ。

「どうやら君達が犯人ではないようだね。
俺は分かっていたさ。
じゃあ、また事件があった時はよろしく頼むぜ!」

去りゆく警察官を尻目に、遠野さんがつぶやく。
少し怒っているようだ。

「データーって、完全に消去したようでも、実は復元ソフトがあれば回復するんですよね」

警察官は焦った様に訊く。

「俺を脅すと言うのか?」

「まさか、犯罪じゃないですか。
でも、事件を解いたわけですし、部の活動記録には残しておきたいと思っただけですよ。
それに、いくら機械製品を近付けたといっても、それだけで誤作動するほど軟ではないはず……」

遠野さんは何かを思い出したようで、動きが固まる。
他のデジカメを弄り始めていたが、何らかの証拠品を見つけた様だ。
この電車内での画像はバッチリ残っていたらしい。
実は、これも遠野さんが仕掛けた事だった。

とりあえず事件発生当時に、警察官が持っていたと思われるデジカメに当たりをつけ、適当に弄っていたらしい。
メモリーカードを抜き取り、証拠品を押さえようとした様だ。
その後、まんまと騙された警察官が、データーの入って無いデジカメを触り、デジカメ内のデーターを消去したのだ。

他のデジカメにメモリーカードをセットすれば、まだ消えていないデーターを確認する事ができる。
警察官もデーターが全て消えたと思っていただけに、安心しきっていたようだ。
デジカメを弄っていると、遠野さんはオレに語り掛ける様に、つぶやき始める。

「もしも、私達の部活仲間が一つの原因なら、それを隠しておく事も出来ませんよね。
木霊君、さっき電車内で被害者が見て、心臓がおかしくなるような出来事ってありませんでしたかね? 
男性なら分かると思うんですけど……」

オレは車内での出来事を思い返す。
被害者の老人が電車を降りる時に、丁度メアリーが白衣の前を開けていた。
おそらく老人はそれを目撃してしまったのだろう。
そして、それを害虫の様に察知した警察官の様な痴漢が、オレ達に近付いてきた。

痴漢は鏡野真梨に反射的に触り、鏡野が痴漢を蹴り飛ばした。
痴漢は心臓の弱い老人を押し潰す様に倒し、結果ペースメーカーが誤作動するのと、速い動悸が重なり瀕死の重傷を負ったのだろう。
オレはそう推理する事は出来たが、言葉にする事ができなかった。

痴漢の過失が四割で、メアリーの過失が四割、鏡野の過失がせいぜい二割という所だろう。
遠野さんは真面目な為、メアリーと鏡野の過失を、自分の過失と思っているようだ。
とりあえず野村警部に連絡し、事の事実を電話で説明した。
野村警部は分かってくれたようで、不幸な事故として処理してくれた。

被害者の男性には、後日お詫びを言う事にして、この事件は処理された。
本当に、被害者が死んでなくて良かった。
みんなも公共の乗り物に乗る時は、露出と電気機器の取り扱いに注意しよう。
偶然が重なると、思いもよらない悲劇を生んでしまうかもしれないのだから……。

 痴漢をしていた警察官は、本当に警察官だった。
しかも、野村警部の部下だという。
本来の捜査目的は、痴漢の逮捕だったのだろうが、ミイラ取りがミイラになる様に、痴漢を逮捕する警察官が痴漢になっていたのだ。

いや、あの携帯電話とデジタルカメラの数からして、もはや魔が差したでは言い逃れができないほどの証拠が揃っている。
野放しにして、頃合いを見計らった時に逮捕する予定なのだろうか? 
あの警察官への疑いの目は尽きない。

「木霊君といったね。俺の名前は、染井亮。
これは俺の名刺だ。また何かあった時はよろしく頼むよ!」

警察官はオレに名刺を渡し去って行った。
またではなく、まだ警察官だった時に会う事になるのだろう。
オレはそう思いながら、名刺を握り潰した。
野村警部の連絡先さえあれば事足りるだろう。

オレと遠野さん、鏡野真梨とメアリーは、静岡に向かう電車に乗り、再び旅立って行く。まさか、二時間も道草してしまうとはな。
本来、朝の九時頃に着く予定だったが、実際に着いたのは午前十一時頃だった。
オレ達は、駅にある店で適当に食べ、目的の事件現場へ向かう。
遠野さんは、いったいどんな事件を見付け出したというのだろうか?




メアリー・ブラットソン

職業:高校生・医者兼科学者   年齢:16歳

特技:医者と同じように診察や手術ができる。動物の生態を観察し、様々な発明品を作る事ができる。事故や病死を装って、他人に危害を加える事ができる。

身長160センチ 体重40キロ

スタイル:B85・W55・H82

遠野さんの幼馴染だが、中学校をすべてさぼっていた。
気付いた時には高校生であり、そこから幻住高校に入学する。
ケーキが好きであり、ケーキがうまく作れる子と結婚したいらしい。
男女どちらでも良いらしく、他に家事ができる事が条件らしい。
遠野えるふが今の所、最有力候補であり、いろいろ迷惑をかけて来る。
彼氏の轟木霊をことごとく殺(や)ろうとする。
性格は我儘だが、意外な時に手助けしてくれる。
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