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第四章 ハルピュイアと悲劇の少女

第四話 ハルピュイアの痕跡

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 オレと遠野さんは別荘に帰り始める。
被害者が監禁され、餓死したという推理に行き着いた。
アリバイの謎とか、鍵の謎とかがまだ解決していないけど、被害者の爪がボロボロだったのはどこかに閉じ込められていた事を意味しているかもしれない。

富士山の風景を背景にする別荘を見ながら、オレは子供の頃に読んだ推理小説の言葉を思い出した。
都会よりも田舎の方が危険な犯罪が起こっているというような感じの言葉だ。
今回の事件は、田舎ならではの殺人事件かもしれない。

オレは緑あふれる森林を眺めながら、その間の木漏れ日に気持ち良さを感じると同時に、恐怖心も感じていた。
この静けさこそが、一人の少女の命を奪ってしまった凶器なのかもしれない。
何となく犯罪行為があった事を理解出来たオレだが、次にどのような作業をすればいいのかは分からない。

オレは別荘に辿り着き、惚けている。
すると、遠野さんが被害者の部屋を調査するようにアドバイスしてくれる。
さすがに、無断で部屋に侵入するのも忍びないので、被害者のお姉さんの許可をもらってから調査する事にする。
はたして、何かしらの手掛かりはあるのだろうか?

 オレと遠野さんは、被害者のつばめさんが使っていたと思われる部屋に入り、一ヶ月分の荷物が詰まったバックを捌くる。
女子高生が穿くには、年齢が合わない様なセクシーな下着が大量に入っていた。
黒や赤、色とりどりの男性を喜ばせるように設計された高級下着セクシーランジェリーだ。

オレは思わず手に取り、広げてみる。
オレがその下着を理解するのに数分かかる。
理解した後で、それを素早くバックに戻した。
男女二人切りの部屋に気不味い空気が流れる。
オレは気分を紛れさせるため、バックの他の荷物を確認する。

バックの中には、あまり証拠になるような物は見当たらなかった。
オレ達は、次に小さいタンスを見付けて探ってみる。
オレに馴染みのある男用の新品のシャツやトランクスが入っていた。
あのスーパーで購入した物だろう。
それを見付けたオレは、遠野さんに見せて言う。

「これは男性が一緒にいた可能性があるね」

「そうですね。
妹さんがこの別荘に泊まりたいと言ったのも、これが原因かもしれませんね。
そうなると、男性の方も合鍵を持っている可能性があります。
その人が犯人の可能性もありますね」

「お父さんの物という可能性はどうでしょうか?」

「紛れ込んだ可能性はあります。
しかし、娘専用の部屋で見付けましたからね。
彼女達両親の寝室は隣、男物の下着がこんなにあるのは不自然です。
これは両親に隠れて、男性と付き合っていた可能性が高いですね。
お姉さんか、妹さんか、どちらの彼氏かが特定できませんけど……。
何か、日付が特定できそうな物でもあればいいんですけど……」

遠野さんが男性用の下着をバックから掴みだすと、いつぞやのコンビニで見かけた製品が半分ほど使った状態で入っていた。
可愛らしいキャラクター物の包装をしているが、それは紛れも無くコンドームだった。
コンビニの袋に一緒に入っていたため、その時に買った日付も判明した。
丁度、二年前の夏休みの時の日付だった。
オレは冷静さを装い、遠野さんと話し続ける。

「箱が開いて、半分くらいの量になっているね……」

「そ、そうですね。数日間は一緒にいた可能性がありますね。
他にも犯人を特定する証拠が無いか調べてみましょう。
写真とか、連絡先とかが分かる物があればいいんですけど」

「分かった。探して見よう」

オレと遠野さんは冷静さを失わず、何とか男性が居た可能性を発見する事ができた。
オレ達はうまく対応したつもりだったが、他の人から見れば明らかに挙動不審だっただろう。
オレと遠野さんはお互いに少し距離を置きながら、犯人の特定に繋がる物品を捜し始める。パソコンやカメラなどの電子機器は無く、写真のアルバムや連絡先の書かれた手帳なども見当たらない。

オレはこの別荘にある電話の存在を思い出した。
山奥の別荘なので、携帯電話はすべて圏外になってしまう。
そのため、別荘に固定電話が取り付けられているのだ。
留守電の録音記録を聞けば、誰と連絡を取っていたかが分かるかもしれない。
オレはそう思い、録音記録を聞こうとするがテープは空になっていた。
その他にも、いろいろ手がかりになりそうな物を捜して見るが、何も見当たらなかった。

被害者が描いていたと思われるスケッチブックや絵画でさえに残っていない。
オレ達は、犯人が被害者を殺害した方法が何となく分かったにもかかわらず、それ以上の調査をする事ができなかった。
被害者のお姉さんにも伺ってみるが、彼女達が二年前の夏に来た時から、妹さんの部屋の中は全く変えていないと教えてくれる。
犯人の正体は分からないままだった。

オレ達は仕方なく、別の調査をしようと考え始める。
被害者が監禁されて殺されたのなら、脱出できないような場所がこの別荘にあるかもしれない。
かなり前に建てられた別荘だけに、その可能性は高かった。
今でこそ、二方向から逃げられる設計をするように義務付けられているが、この山奥の別荘が建てられた当時では、それが適用されていないかもしれない。

オレ達が夕方のまだ明るい時間帯に、別荘の各部屋を調査しようとしていると、被害者のお姉さんが近付いてきた。
どうやら夕食を準備しているが、少し協力して欲しいらしい。
遠野さんは、その指示に応え、夕食の準備に協力する。

オレは一人孤独に、別荘の各部屋の調査を始める。
リビング、ダイニング、トイレ、浴室、寝室、ベランダと見て回ったが、いずれも木製のドアで出来ていた。
たとえ閉じ込められても本気を出せば脱出できそうな感じだ。
唯一、壊せるか分からないと思ったドアは、玄関のドアくらいで、それは頑丈に作られていた。

オレは一通り各部屋を見て回ったが、閉じ込める事ができそうな部屋は見当たらなかった。仕方なく、オレは妹さんの部屋に入り、ベッドに寝転がる。
可愛いピンクのシーツが敷いてあるベッドは、良い香りがしていた。
遠野さんが近くにいる時は、こんな風に大胆な行動ができなかったが、一人になると疲れが出た事もあってベッドに寝転がりたい衝動に駆られたのだ。
ベッドに寝転がると、丁度枕の所に硬い物がある事に気が付いた。

男性ならば、ベッドの下にいろいろな物を隠すが、女性がそういうのを隠すとは思わなかった。
ドキドキしながら置いてある物を確認すると、それは高校の卒業アルバムだった。
妹さんは結局卒業する事は出来なかったのだが、お姉さんが記念に取り寄せたのだろう。妹さんの写真は少なかったが、同級生の写真などはしっかり残っていた。
被害者の数少ない写真からクラスが推理する事ができた。

オレはある男子生徒の顔に注目する。
どこかで会ったことのある顔だった。
とりあえず貴重な調査資料が見付かったので、遠野さんに見てもらおうと思い、ダイニングに向かう。
ダイニングで作業しているはずの遠野さんが見当たらず、居るのはお姉さんだけだった。
何か、問題が発生したのだろうか?
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