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第四章 ハルピュイアと悲劇の少女
第十二話 木霊の能力
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オレと遠野さんは、一緒に帰る事になった。
歩きながら話をする。
「本当に、黒沢さんという人がオレと同じ身体なのか?
実際、オレの意志ではもう制御できないほど、暴走し始めている。
制服に隠れているだけで、筋肉とかは変化している時がある。
医者にも見せられないし、母さんに聞く事も出来ない。
どうすればいいか分からなかったんだ……」
「私もはっきりと見たわけではないので、何とも言えませんが……。
本人がそう言っていました。
木霊君のお母さんが幻獣化するようになったのも、元々は黒沢さんが原因らしいです。
ただ、あまり怒らない様にしてください。
木霊君の事を心配していましたから……」
遠野さんは冷静にそう言った。
オレとしては、もう何が何だか分からず、怒りさえもない。
今はただ、身体の変化を止めたいと考えていた。
最初は、本当に遠野さんを避けていたのだが、いつしか自分の身体を見せたくないという理由で避け始めていたのだ。
「ごめん、遠野さん。酷い事をいろいろ言ってしまって……」
「幻獣捜しを男漁りだって言った事ですか?
それは本当に男漁りだったのかもしれません。
現に、木霊君がいてからは、もう幻獣を捜していませんから……。
幻獣を探すなら、木霊君と一緒が良いです!
今は、木霊君の事で頭が一杯です!」
遠野さんはそう言って笑う。
オレは、また遠野さんと一緒に部活をしたいと思っていた。
オレと遠野さんは家に辿り着き、黒沢さんを捜す。
オレ達が名前を呼ぶと、黒沢さんが出現した。
本人が言っていたように、耳はとても良いようだ。
「そろそろ来る頃だと思っていました。
遠野さんと喧嘩をして、三週間。
木霊君の身体は、心の影響を受けて不安定。
遠野さんを避けようとすればするほど、身体は変化しているはずです。
上半身で良いので、身体を見せてみなさい」
黒沢さんはオレにそう言い、制服のボタンを外す。
年齢は年寄りらしいが、若い見た目と同じように、男心をくすぐる良い匂いが漂って来て、オレは少し緊張していた。
黒沢さんの見た目は、二十代後半といった感じで、オレから見るとお姉さんといったところだ。
熟女と言えるか分からないが、遠野さんや同級生とは違った魅力を感じる。
「ふーむ、思ったとおりですね。
身体の制御がきかず、筋肉が鉄に変化しているようです。
身体を動かすのも、ちょっときつかったのではないですか?
一人で考え込むのは良くない事です。
まあ、医者には見せられないし、親には心配をかけたくないのでしょうが……。
遠野さんがいてくれて良かったですね。
この状況なら、私の説明一つで回復しますよ!」
「え? そんな簡単に治るんですか?」
オレは拍子抜けといった感じで訊く。
「はい。心の変化一つで、身体を制御できるかどうかが決まりますから。
遠野さんがいれば、木霊君の身体問題は解決しますよ」
遠野さんは間髪いれずにこう尋ねる。
「木霊君の将来についてはどうでしょうか?
魔術師(マジシャン)になれるのでしょうか?」
「それも含めて、今から説明してあげますよ。
木霊君の身体の変化は、不老長寿の薬の副作用による物です。
なので、使い方をマスターすれば、木霊君も長寿になります。
これは、本来戦闘用に開発されていた物が、偶然に長寿の薬になる事も出来たという物なのです。
しかし、戦闘用には使えない事が判明したため、不老長寿の薬として私が保管していました。
木霊君のお母さんを不老長寿にしたのは、私の勝手な判断です。
しかし、まさか私と同じように、木霊君に遺伝してしまうとは考えていませんでした。
本当に申し訳ありません」
黒沢さんはすまなそうに謝る。
本当に、アクシデントだったようだ。
それでは仕方ない事だが、オレは一応訊いてみた。
「その薬を打ち消す解毒薬は無いんですか?」
「本来はあったようですが、今はもうありません。
コツさえ掴めば、日常生活に支障はありませんから……」
「そうですか。分かりました」
黒沢さんは、オレを見ながら言う。
「この薬は訓練次第で、様々な事ができるようになります。
現に、木霊君のお母さんも、この能力によって人助けをする事ができましたからね。
ステップとしてはこうです。
ステップ一:恋人と両想いになって、精神を安定させる。
ステップ二:身体を水や火、風、土に変化させてみる。(元々、どれかに変化し易い傾向があるため、その変化を訓練するのが近道)
ステップ三:包丁などの道具をイメージして、自分の身体の様に扱う。(個人差はありますが、両腕が変化するくらいが限界)
ステップ四:子供姿になったり、異性に変化してみる。(生体に無理をしているため、一時的にしか変化しないが、慣れる事で持続は可能。ただし、身体が変わるだけで、男性の場合は、子供を産む事などは出来ない。女性の場合は、精子を作ったり、不妊の人が子供を産む事は出来ない。本来の生体にできない事は、変化しても出来ない)
ステップ五:なるべく長く変化を続けるように努力する。
ステップ六:私も分からないが、個人が思い付いた使い方をする。(私の場合は、風を使って周囲の音を聞き取る事など……)
まあ、こんな所です。
ステップ二くらいなら、今日中にもある程度は出来ると思いますよ」
「ステップ一で、すでにかなりの難易度なんですけど……。両想いって……」
「遠野さんがいるから良いじゃないですか。
なるべくその条件にクリアできるような女の子を選んだつもりでしたから……」
「それで、オレが魔術師(マジシャン)になるにはどうしたらいいんですか?
どの道、身体が変化できる事がバレると、職業生命は終わりですよね?」
黒沢さんは考えるような仕草をする。
「うーん、逆転の発想はどうでしょうか?
魔術師(マジシャン)として生計を立てていても、ライバルの誰かが密告すれば終わりですよね。
なら、木霊君が変化できる事を知っていても、みんなが納得した上で公演をすれば良いんです。
ちょっと難しいかもしれませんが、絶対にできないという事は無いですよね?」
「それは、不可能なんじゃ……。
見せ物小屋なら可能かもしれませんが……」
オレが消極的な意見を言うと、遠野さんは確信を込めてこう言う。
「できます!
木霊君がその能力を用いて、警察や地域の人を守り抜く事ができれば、感謝と敬意から魔術師(マジシャン)として認められます。
もちろん、木霊君が思っているような公演ではないのでしょうけど……」
オレは意味が分からずに、遠野さんに尋ねる。
「え? どういう事?」
「つまり、私と一緒に不思議な事件を解決していけば、警察にも地域の人にも一目置かれ、ある程度の支持は受けられるはずです。
その後は、木霊君の辿り着いた魔術師(マジシャン)としてのスタイルを確立すれば、競争は出来なくても、仕事はできるはずです」
黒沢さんも遠野さんの意見に同意する。
「そうね。最終的にどんな形に落ち着くかは分からないけど、魔術師(マジシャン)になる事は出来るわ。
難易度はより高くなってしまうかもしれないけど……」
オレはこう結論する。
「要は、オレが諦めず、遠野さんと一緒に事件を解決していけば、もしかしたら魔術師(マジシャン)になれるかもしれないって事か」
「はい。私も協力します! 一緒に多くの不思議な事件を解決しましょう!」
遠野さんはすごくやる気になっている。
オレも、このまま引き籠りでいたくは無い。
「まあ、オレが絶対に魔術師(マジシャン)になるって保障は、元々なかったからな……」
こうして、オレと遠野さんの不思議な事件を解決する旅が始まった。
その前に、遠野さんのケーキ対決に決着を付けなければならない。
オレが味方になった以上、遠野さんが有利の勝負なのだが……。
それに、遠野さんがオレのために込めたメッセージとは何なのだろうか?
歩きながら話をする。
「本当に、黒沢さんという人がオレと同じ身体なのか?
実際、オレの意志ではもう制御できないほど、暴走し始めている。
制服に隠れているだけで、筋肉とかは変化している時がある。
医者にも見せられないし、母さんに聞く事も出来ない。
どうすればいいか分からなかったんだ……」
「私もはっきりと見たわけではないので、何とも言えませんが……。
本人がそう言っていました。
木霊君のお母さんが幻獣化するようになったのも、元々は黒沢さんが原因らしいです。
ただ、あまり怒らない様にしてください。
木霊君の事を心配していましたから……」
遠野さんは冷静にそう言った。
オレとしては、もう何が何だか分からず、怒りさえもない。
今はただ、身体の変化を止めたいと考えていた。
最初は、本当に遠野さんを避けていたのだが、いつしか自分の身体を見せたくないという理由で避け始めていたのだ。
「ごめん、遠野さん。酷い事をいろいろ言ってしまって……」
「幻獣捜しを男漁りだって言った事ですか?
それは本当に男漁りだったのかもしれません。
現に、木霊君がいてからは、もう幻獣を捜していませんから……。
幻獣を探すなら、木霊君と一緒が良いです!
今は、木霊君の事で頭が一杯です!」
遠野さんはそう言って笑う。
オレは、また遠野さんと一緒に部活をしたいと思っていた。
オレと遠野さんは家に辿り着き、黒沢さんを捜す。
オレ達が名前を呼ぶと、黒沢さんが出現した。
本人が言っていたように、耳はとても良いようだ。
「そろそろ来る頃だと思っていました。
遠野さんと喧嘩をして、三週間。
木霊君の身体は、心の影響を受けて不安定。
遠野さんを避けようとすればするほど、身体は変化しているはずです。
上半身で良いので、身体を見せてみなさい」
黒沢さんはオレにそう言い、制服のボタンを外す。
年齢は年寄りらしいが、若い見た目と同じように、男心をくすぐる良い匂いが漂って来て、オレは少し緊張していた。
黒沢さんの見た目は、二十代後半といった感じで、オレから見るとお姉さんといったところだ。
熟女と言えるか分からないが、遠野さんや同級生とは違った魅力を感じる。
「ふーむ、思ったとおりですね。
身体の制御がきかず、筋肉が鉄に変化しているようです。
身体を動かすのも、ちょっときつかったのではないですか?
一人で考え込むのは良くない事です。
まあ、医者には見せられないし、親には心配をかけたくないのでしょうが……。
遠野さんがいてくれて良かったですね。
この状況なら、私の説明一つで回復しますよ!」
「え? そんな簡単に治るんですか?」
オレは拍子抜けといった感じで訊く。
「はい。心の変化一つで、身体を制御できるかどうかが決まりますから。
遠野さんがいれば、木霊君の身体問題は解決しますよ」
遠野さんは間髪いれずにこう尋ねる。
「木霊君の将来についてはどうでしょうか?
魔術師(マジシャン)になれるのでしょうか?」
「それも含めて、今から説明してあげますよ。
木霊君の身体の変化は、不老長寿の薬の副作用による物です。
なので、使い方をマスターすれば、木霊君も長寿になります。
これは、本来戦闘用に開発されていた物が、偶然に長寿の薬になる事も出来たという物なのです。
しかし、戦闘用には使えない事が判明したため、不老長寿の薬として私が保管していました。
木霊君のお母さんを不老長寿にしたのは、私の勝手な判断です。
しかし、まさか私と同じように、木霊君に遺伝してしまうとは考えていませんでした。
本当に申し訳ありません」
黒沢さんはすまなそうに謝る。
本当に、アクシデントだったようだ。
それでは仕方ない事だが、オレは一応訊いてみた。
「その薬を打ち消す解毒薬は無いんですか?」
「本来はあったようですが、今はもうありません。
コツさえ掴めば、日常生活に支障はありませんから……」
「そうですか。分かりました」
黒沢さんは、オレを見ながら言う。
「この薬は訓練次第で、様々な事ができるようになります。
現に、木霊君のお母さんも、この能力によって人助けをする事ができましたからね。
ステップとしてはこうです。
ステップ一:恋人と両想いになって、精神を安定させる。
ステップ二:身体を水や火、風、土に変化させてみる。(元々、どれかに変化し易い傾向があるため、その変化を訓練するのが近道)
ステップ三:包丁などの道具をイメージして、自分の身体の様に扱う。(個人差はありますが、両腕が変化するくらいが限界)
ステップ四:子供姿になったり、異性に変化してみる。(生体に無理をしているため、一時的にしか変化しないが、慣れる事で持続は可能。ただし、身体が変わるだけで、男性の場合は、子供を産む事などは出来ない。女性の場合は、精子を作ったり、不妊の人が子供を産む事は出来ない。本来の生体にできない事は、変化しても出来ない)
ステップ五:なるべく長く変化を続けるように努力する。
ステップ六:私も分からないが、個人が思い付いた使い方をする。(私の場合は、風を使って周囲の音を聞き取る事など……)
まあ、こんな所です。
ステップ二くらいなら、今日中にもある程度は出来ると思いますよ」
「ステップ一で、すでにかなりの難易度なんですけど……。両想いって……」
「遠野さんがいるから良いじゃないですか。
なるべくその条件にクリアできるような女の子を選んだつもりでしたから……」
「それで、オレが魔術師(マジシャン)になるにはどうしたらいいんですか?
どの道、身体が変化できる事がバレると、職業生命は終わりですよね?」
黒沢さんは考えるような仕草をする。
「うーん、逆転の発想はどうでしょうか?
魔術師(マジシャン)として生計を立てていても、ライバルの誰かが密告すれば終わりですよね。
なら、木霊君が変化できる事を知っていても、みんなが納得した上で公演をすれば良いんです。
ちょっと難しいかもしれませんが、絶対にできないという事は無いですよね?」
「それは、不可能なんじゃ……。
見せ物小屋なら可能かもしれませんが……」
オレが消極的な意見を言うと、遠野さんは確信を込めてこう言う。
「できます!
木霊君がその能力を用いて、警察や地域の人を守り抜く事ができれば、感謝と敬意から魔術師(マジシャン)として認められます。
もちろん、木霊君が思っているような公演ではないのでしょうけど……」
オレは意味が分からずに、遠野さんに尋ねる。
「え? どういう事?」
「つまり、私と一緒に不思議な事件を解決していけば、警察にも地域の人にも一目置かれ、ある程度の支持は受けられるはずです。
その後は、木霊君の辿り着いた魔術師(マジシャン)としてのスタイルを確立すれば、競争は出来なくても、仕事はできるはずです」
黒沢さんも遠野さんの意見に同意する。
「そうね。最終的にどんな形に落ち着くかは分からないけど、魔術師(マジシャン)になる事は出来るわ。
難易度はより高くなってしまうかもしれないけど……」
オレはこう結論する。
「要は、オレが諦めず、遠野さんと一緒に事件を解決していけば、もしかしたら魔術師(マジシャン)になれるかもしれないって事か」
「はい。私も協力します! 一緒に多くの不思議な事件を解決しましょう!」
遠野さんはすごくやる気になっている。
オレも、このまま引き籠りでいたくは無い。
「まあ、オレが絶対に魔術師(マジシャン)になるって保障は、元々なかったからな……」
こうして、オレと遠野さんの不思議な事件を解決する旅が始まった。
その前に、遠野さんのケーキ対決に決着を付けなければならない。
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