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第五章 ラミアへの呪い

第七話 子供殺しのラミア

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 オレと遠野さんが眠っている頃、プールでは事件が起きていた。
八束麻紀さんが水着に着替え、プールに飛び込む。自分の作った防水加工型スマートフォンカバーをプロモーションする為と、最終調整を兼ねたパフォーマンスだ。
ラミアさんが、用意されたスマートフォンを麻紀さんの首にかけて、麻紀さんが泳いで製品の性能をアピールする。

「はあ、本当なら私が特許をもらえる予定だったのに……」

「すいません、ラミア先輩……」

メアリーは、麻紀さんを指示する。

「しょうがないよ。これが発明家の宿命なんだ。
どんなに優秀でも結果が伴わなければ、ニートや無職と同じだからな。
特許の取得は、命がけの戦争なんだ。一秒でも早い方が勝つ格闘技なんだよ!」

「それはちょっと違う気もしますけど……」

「まあ、研究者の苦労はいろいろだからな。
偉大な人物と祭り上げられる事もあれば、ゴミ以下の扱いをされる人物もいる。

失敗は成功の母なんて言うけど、実際には、屍の上の成功が正しいからな。
何億という無能な科学者の上に、一人の成功者が誕生するんだ。
精子の争いに等しいよね!」

「嫌な表現ね……」

ラミアさんは嬉しそうに言う。

「じゃあ、何億の精子の内、その一つを受けた麻紀さんをエスコートして来るとしますか。糞つまんね―けど……」

「嫌な言い方された上に、そこまで嫌なら、エスコートしなくても良いんですけど……。他にも、メアリーちゃんとか、鏡野さんとかいますから……」

「うんニャ、麻紀さんのデカ乳を真近で見ていたいから、私がエスコートするよ。
後で揉ませてね!」

「嫌よ!」

メアリーも、麻紀さんのオッパイを物欲しそうに見て言う。

「良いな……。僕も揉み揉みしたいよ!」

「こりゃあ、Dカップはあると見たね。私も育てたかいがあるってもんだよ!」

「そんな所、育てられた覚えはないけど……」

ラミアさんと話していた麻紀さんだったが、時間が来たのでプールの方に移動する。
麻紀さんの首に、用意されていたスマートフォンが掛けられる。
そのスマートフォンは、防水加工がしてあり、麻紀さんが事前に用意していた物だ。
紐は長く調整されており、首にかけても腹の所まで届く。

「いやあ、やっぱり胸が大きいね。
私、ネックレスをしている女性の胸とか見ると興奮する質(たち)なんだ……」

「私を見て興奮しないでね」

ラミアさんがそれをかけて、麻紀さんが水に飛び込んだ。
順調に泳いでいるように見えたが、しばらくすると様子が変わった。
麻紀さんが苦しみ始め、泳ぐ事ができなくなっていた。
メアリーが最初に異変に気付く。

「ごっぼ、助け……、息が……」

「お、何か苦しそうだぞ? 
僕が人工呼吸と心臓マッサージとオッパイ揉み揉みをしてやらなければ!」

「確かに、変やな……。ウチが助けるわ! あんたは引っ込んどれ!」

鏡野真梨は、メアリーを蹴り飛ばし、プールへ飛び込んだ。
華麗な泳ぎにより、数秒で麻紀さんをプールの縁に運び出す事ができた。
プールの縁に寝かせ、メアリーに尋ねる。

「どうや? 助かりそうか?」

「こ、これは死んでいる?」

「変なノリはいい! 紐が首に締まって呼吸困難になっとるだけや。まだ助かる!」

「まあ、えるふと木霊の初デートで、知り合いが死ぬなんてトラウマモノだしな。
とりあえず、僕のメスで紐をチョッキンしよう」

メアリーの手により、麻紀さんを苦しめていた紐は切られた。
紐が無くなった事により、麻紀さんは息を吹き返し、命の危険は無くなった。

「ゴッホ……」

「ふう、何とか無事の様やな……。
せやけど、後数秒助けるのが遅れたら、麻紀さん死んでいたかもしれへんで……」

「ああ、怪物的な運動神経を持つ真梨と、いつもメスを持ち歩いている用意周到なメアリーちゃんがいたからこそ助かったが、それ以外の凡人共だけだったら確実に死んでいたな。三分して動かなくなってから騒ぎ出し、五分かけてプールから引き摺り出す。
これだけでもう手遅れだった……」

「メアリーのエロい妄想のおかげで助かったわけか。複雑やわ……」

「まあ、そう言う事だ。残念だったな、ラミア!」

メアリーに突然話を振られたラミアさんは驚く。

「へ? どういう事? 何で私?」

「麻紀が首に巻いていた紐は、リュウゼツランで作られた物だった。
これは、水に濡れると収縮する。
大方、麻紀を殺す準備をし、それを夢だと思い込んでしまったんだ。

デスマーチ
(プロジェクトにおいての過酷な労働状況を指す。二、三日寝ない等により、幻覚や異常行動をし出す状態。軽度で、寝ているのか、起きているのか分からない状態に陥る)
とかしていると、気が付かないからな。
数日前に仕掛けておいて、起こってから気付くというのも良くある事だから……」

「ええ! じゃあ、罪状はどうなるのかな?
麻紀さんが死んでないから傷害罪かな? 罰金? それとも禁固刑?」

「まあ、五十万以下の罰金か、五年以下の懲役だろうな。一応、事故の可能性もあるけど」

「うえええ、やだな。自分がやったかどうかも分からない事で罪になるのは……」

「でも、この紐の色・形は、麻紀が用意した物と真似しているぞ! 
麻紀が誤って、この紐を使用した場合以外に、事故の可能性は無いよ。
ラミアには動機もあるし、傷害方法も限定される。

麻紀の作っていた製品を知っていないと、この傷害事件を起こす事は出来ない。
そうなると、疑わしいのは数人だけに絞られる。
この二つを踏まえると、犯人は夢と現実の区別が付かなくなったラミア以外にいないんだ!」

「そんな……」

意識を取り戻した麻紀さんは言う。

「ごめんなさい、ラミア先輩。
実は、私の発明品は、ラミア先輩の研究資料を元に作った物なんです。
この研究所に来る前に、噂でラミア先輩の研究はすごいけど、管理は甘いから、研究内容を盗めば、すぐに科学者の仲間入りできると聞いていて……。

最初は、半信半疑だったんですけど、本当に管理が甘くて。
他人の研究を盗むなんて嫌だったんですけど、趣味で作ったと言うし、これなら良いかなと思って盗んじゃいました。すいません、殺され掛けて当然ですよね。私なんて……」

ラミアさんは、麻紀さんの話を聞き、明るく笑いだした。

「そうだったんだ……。
通りで、私の研究してた内容がことごとく世間に発表されるわけだよ。
おかしいと思っていたんだ。はっはっは……」

「おい、笑い事じゃないぞ! 
お前の他弟子も謎の死を遂げ続けているし、お前が無意識の内に殺している可能性が強まったぞ!」

メアリーに言われ、ラミアさんは抗議する。

「えええ? 今回の麻紀傷害事件は認めても良いけど、他の事件は事故死とか、病死とかでしょ? 私は関係ないよ!」

「おいおい、一応調べた方がいいんじゃないのか? 
警察とかは、事件が発覚してからじゃないと動かない様な奴らだけど、事件発覚前からでも不思議な事件を察知して動いてくれる奴はいるんだぞ。

えるふを叩き起こして、謎の怪死事件を探らせてみよう! 
僕の身にも危険が迫っているかもしれないからな!」

「なーる、あの人魚の子ですか。
そんな事言って、本当は身体を調べたい事が丸分かりですよ」

「へへへ、ばれたか。
人魚の肉は不老長寿の妙薬というし、どんな味か食べてみたいからね。
尻肉の一部分くらいなら問題ないだろう」

「うっひょー、好奇心が沸いてきますな!」

鏡野真梨は、二人の会話を聞き怒り出す。

「おい! 遠野さんは疲れて寝てるんやで!
いくらなんでも、無理に起こすのは許さへんで!」

「はいはい、じゃあ明日にでも頼みますよ」

メアリーは、鏡野を放置し、ラミアさんと今後について話し合う。

「ところで、今回の傷害事件はどうする?」

「まあ、麻紀さんが私に謝ったから、麻紀さんが私の紐を謝って付けちゃったという事故にしておくよ。
幸い死亡してないし、警察もそこまで追及して来ないでしょう。
二人で口裏を合わせれば、事故だったという事で納得してくれますよ!」

「そうだな。警察とか出て来るとややこしい事になるからな。ここは、隠蔽するか!」

こうしてメアリーとラミアさんの推理により、麻紀さんは自分で誤って縮む紐を使ってしまい死にかけたという事になった。
こんな事件が起こったが、麻紀さんの作った防水加工のスマートフォンケースは無事完成し、プール内で良く使われているという。

メアリーは、どこかへ電話をし始めた。
周りに警戒して、こう語る。

「はい、こちらは黒澤研究所。
ん、メアリーか、どうした?」

「ジジイ、お前は麻紀を事故に見せかけて殺そうとしたな?
大方、ラミアの実験を奪った彼女を殺害し、才能を浪費しているラミアを逮捕させる気だったんんだろうな。
イタズラ心でやったのだろうが、僕が見ている前だったのは不幸だったな。
首を締めていた紐を切って助けたけたので、事故として処理されたようだ。
今度からはもっとバレないようにしろよ。
まあ、犯行がバレても事故と言い張ったんだろうけどな」

「何のことだ?
おそらくラミアが間違えてワシの作ったなんちゃってメダルを持って行ったのだろう。
全くそそっかしい奴じゃわい。
物をもっと上手く管理していれば避けれた事故だったのにな……。
ワシのせいではないはずだぞ!」

「まあ、死者が出てないからそういう事にしておくよ。
次は助けないかもな!」

オレ達の近くに、恐るべき殺人鬼が彷徨いていた。
気を抜けばやられるだろう。
オレとメアリーの死闘は始まったばかりだ。
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