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第六章 ドライアド怒りの一撃!

第四話 ドライアド殺人事件

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 メアリーは、遺体の状況を調べる。
血の海と化しているらしいが、もしかしたらまだ助かるかもしれない。
オレも、遠野さんも遠くから見守っていた。

「駄目だ……。心臓を貫かれている。
心臓マッサージして蘇生させるとか、止血してショック死を避けるとかいうレベルじゃない。凶器は、この枝だな。太くて適度に尖っている。

血の渇き具合から、たった今やられたようだけど、鏡野が痴漢を撃退した時に、偶然枝が落ちてきて、蹴りをした時に貫いたとかじゃないよな? 

被害者は男性だし、痴漢をして来たとしてもおかしくない。
正直に言えば、事故死で片が付くんだぞ!」

「ちゃうねん! 
ウチはホンマに木霊だけをターゲットにしとって、痴漢も変態にも遭遇してへんねん!」

「うーん、証拠がない事には、鏡野が犯人の可能性が出て来たな。
今は、人を殺してしまったショックで自分の犯行を認めたがらないようだが、冷静に成れば事故死と認めるだろう。枝は、倒れた拍子に抜けたようだな。それがこれだ!」

メアリーは、オレ達の方に凶器の枝を投げ渡した。
遠野さんは枝を確認しようと近寄る。

「確かに、凶器はこの木の枝。ドライアドの犯行の可能性が出て来ましたね。
ちなみに、ドライアドとは、ギリシャ神話に登場するニンフの一種で、木に宿る物をドライアドと呼びます。

緑色の髪をしており、人間よりやや小柄であるとされています。
寿命は長く、外見的には決して年老いる事は無いですが、宿っている木が枯れたり切り倒されたりすると死んでしまいます。

ドライアドと木との間には特別な絆があり、自分の木から遠くに離れる事は出来ません。自らの生命にも関わる為、木を害する者には飢餓の呪いをかけたり、ミツバチを使って失明させたりするなどの容赦のない仕返しをする恐ろしい面があります。

似た幻獣にエントもいますが、そちらは他の種族と交流する事が少ないため、こんな都市部には現れません。なので、その可能性は除外しました。

大方、この木の近くでたばこを吸っていたのが原因でしょう。
タバコは人間にも害を与えますが、ドライアドにとっては死に直結する凶器ですから……」

「駄目だ……。今のえるふは、幻獣のことしか頭にない。
このままでは、夏祭りが終わってしまう。そうなったら、屋台が……」

メアリーは、遠野さんの髪型を無理矢理ポニーテールにし、知能の上がるエルフモードにした。
薄緑色だった髪の毛と瞳の色は赤色に変わり、耳が尖がる。

古代にいた賢い幻獣エルフが現代に甦ったのだ。
遠野さんは元気がなかったけど、今さっきの幻獣説明で、だいぶ体調が良くなったようだ。まあ、無駄な説明ではなかったという事だ。

血がベットリ付いているけど、遠野さんは凶器と思われる枝をハンカチで持って拾い上げる。
エルフモードだから、多少は大胆に成っているのだろうか? 
血をハンカチで拭い、凶器をマジマジと見ている。

現場維持しなくて大丈夫なのだろうか? 
オレがそんな事を考えていると、遠野さんが鏡野の証言を裏付ける。

「これは枝ですけど、先端が刺さり易いように、やすりで磨いた加工がされています。
これは、鏡野真梨が痴漢を撃退した時に偶然殺してしまったわけではない証拠です。
それと、残念ですけどドライアドの可能性も低いです。
やはり極悪な人間の手による犯行ですね……」

「せやから、そう言ってるやろ!」

「ちっ! 鏡野が事故死と認めれば、スピード解決だったのに……」

メアリーは、祭りを楽しみたくてそわそわしていた。
早く事件を解決し、屋台の方に戻りたいのだろう。
遠野さんはその事を良く知っているためか、小声でこう言った。

「優秀な刑事さんが着てくれれば、すぐにでも祭りを楽しめますよ。
当たりだと良いですけど……」

 オレ達が二分ほど待っていると、刑事さんらしき人物と、被害者の知り合いらしき人物が現れた。

「どいた、どいた。俺は警察の染井だ。さっき電話を受けて、急いでここまでやって来た。誰もその場から動くんじゃないぞ!」

現場に来たのは、オレ達のそれなりに知っている刑事さんだった。
しかし、優秀とは言い難い。即逮捕されてもおかしくない痴漢刑事だった。
遠野さんは冷ややかに言う。

「ハズレですね。夏祭りは諦めた方が良さそうです。
私達が犯人にされない様に、迂闊な行動はしないようにしないと……」

他の警察官は別の事件を担当しているため、この刑事さんしか空きが無かったようだ。
染井刑事は案の定オレ達に狙いを定める。

「むむ、見知った顔があるな! さては、今度こそお前らが犯人だな!」

「そうですね。
二回ほど遭遇して、二回とも刑事さんが痴漢の犯人として逮捕され掛けましたよね。
一回目は、電車の中。二回目は、犬神今日子に捕まって……」

遠野さんの言葉を聞き、染井刑事は開き直る。

「ふん! どちらも誤認逮捕だ! 決定的な証拠は出てきていない! 
オレは定年まで警察官でいるつもりだ!」

「まあ、良いですけど……。
でも、刑事さんは自分の立場を見直した方が良いですよ。
定年まで生きていたいのならね。

痴漢刑事のレッテルを貼られたままだと、出世する事のないきつい仕事を強要され、過労死が落ちでしょうね。

警察官の仕事って、地味な割にきつい仕事が多いから、そういう危険因子から過労死するようにできているんですよ。

そして、有能な部下だけを生かす。
好く出来ていますよね……」

「くっ、俺はどうすれば良い? 
実はこの所、張り込みの仕事ばっかりが続いているんだ。

今日も非番だったのに、どうせ暇だろという理由で、キャリア組の警察官と交代させられたんだ。
このままきつい仕事が続けば、俺は一年持つかどうか……。本当は不安だったんだ」

「ふふふ、よく話してくれました。正直なのは良い事ですよ。
私がこの事件を解決してあげますから、それで五年は伸びますよ。
まあ、捜査の邪魔をせず、大人しくしていたらの話ですけどね……」

「はい! 言われた通りにしております!」

遠野さんの説得により、染井刑事は従順な犬と化した。痴漢刑事というレッテルにより、相当酷い扱いを受けて来たようだ。反応を見るだけでそれが分かる。

染井刑事が邪魔な存在で無くなり、ようやく本格的に捜査する流れになって来た。
被害者は、心臓が枝に突き刺さって死んだようだが、犯人はどうやって殺したのであろうか? 

そして、染井刑事が連れて来た人物は誰だろうか? 
ついでに、染井刑事の寿命は延びるのだろうか?
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