ファンタジー世界なのに無双もできない微オタク転生女子ですが、どうやら悪役令嬢になったらしいのでそれなりに頑張ってみます。

らおぴん

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屋敷から出た事のなかった私にとって、同年輩かつ身分の近い令嬢との社交は、これが初めてだ。
ちなみに、さっきのセレニスタ孃との邂逅は、お粗末な内容からしてノーカウントとしても良いだろう。

しかしながら、いざとなると思うように言葉が出てこない。

しっかりと教育を受けては来たのだが、人格形成期の全てを引きこもって過ごしてきた、いわば純粋培養種の引きこもりである。
いざ実地、となるとなかなか思った通りには思考が働いてくてないものだ。
さっきまでの余裕はどこへやら、敵意を見せない相手という珍しい人種を目の前にして、私はすっかり固まってしまった。

コロコロと笑いながら、エスタレア様が手を差し出してくる。

「そう警戒なさらないで下さいな、私、あの女とは違いましてよ?」

後半は声を落として、いたずらっぽい笑顔を向けてくる。
ケール家の令嬢ともなれば、どんな政略でどこに嫁ぐにしても、その相手に臥してかしずく必要はない。

 「私、サンフレッチ殿下と同席させていただきましたの。ご理解頂けますわよね?」

「そうですね、あちらがアレですものね」

エスタレアは、ちらりと上座に視線を遣ると、扇の陰ながら、あからさまに鼻で笑った。
そこにはご満悦のアレッソ殿と、そのアレッソを舐め回さんばかりにベタつくセレニスタ。

「お似合いですこと」

全くだ。
その程度でやに下がる男なんて、こっちから願い下げである。
そう、うちの兄も含めてだ。

「私としては、ケール令嬢は大歓迎なんだけど」

やけに親しげに口を挟んで来たのは、王世子サンフレッチ殿下だ。

「もちろんハーン嬢もだけれど。 でも、あちらの女はいただけないかな。」

「アレッソ殿が引っ掛かってくださって良かったですわね。」

まったくもって、その通りだ。

「将軍家の正室は、代々、王家に属する貴族の姫君だったろう? どうしてアレッソ殿にはこんな選択肢を与えるんだろうな。」

そう、それは微妙な問題だった。
長年にわたる将軍家の台頭で、王家は、有名無実の存在と化しているのは周知の事実だ。
だが、国神の子孫として今も神事を執り行う王家への畏怖は、国民に根強い。
ゆえに将軍家では代々、形だけの正室を王家より娶り、王家の姻戚としての立場を維持してきたのだ。

「将軍家も、最近は後継者不足が続いておりますから、婚姻の在り方から見直そうという試みなのかもしれませんね」

この会話に、アフマディオ様も参入してきた。
先程から結構不穏な会話の流れではあるが、上座の連中が気に留める様子はないので、わりと遠慮ナシである。

「つまり、もうちょっと本能に寄った方向性で?」

「殿下、令嬢方の御前ですよ」

指摘され、崇高な王世子殿下は、盛大に鼻を鳴らした。
麗しい微笑は崩していないが、わりと素だ。

「なあに、支配階級の婚姻と後継者問題なんてほとんど、下世話なお節介と放埒を変に儀礼で飾っただけの悪習さ。 ただ、私としては、ああしたガツガツしたお嬢さんはごめん被りたいけどね」

「悪習ではございましても、殿下にお目にかかることができまして、わたくしは幸せでございますわ」

エスタレア様は強かった。
とことん政略結婚に特化した教育を受けて育ったに違いない。

そもそも将軍家の無能を補うべく、実質の政治を担う大老家の愛娘である。
聡明さにも秀でたエスタレア嬢には、将軍家の嫡子らが失いつつある何かが見えているのであろう。

実のところここ数世代に渡って、将軍家の嫡流子女は、出生こそ多いが生存率が非常に低い。
前世で化学的根拠というあれこれを見てきた者からすれば、それは過剰な庇護による諸々の偏りが積み重なった結果であろうと見当はつく。

形式と見栄えにこだわった栄養価無視の豪華な食事に、ビタミンなんて概念はない。

それ以前に、乳児にも礼を尽くすべく乳房まで化粧した乳母から、化粧品まみれの乳を飲まされる時点でいろいろアウトだ。
この時代、比較的身分の低い女性が用いる化粧品は有毒なのだ。

白粉は鉛。
鮮やかな紅色は水銀。

そんなモノを塗りたくった乳を含んで育ったやんごとなき乳児がどうなるかは……お察しだ。
だから傍流の子供であるほど、元気に育つ。
そして、ますます宗家は焦りを募らせるのだ。

皮肉なことに、王家の世子ではあるが将軍家からの牽制で、わりと虐げられて育ってきたサンフレッチ殿下や、傍流ゆえに軽視されてきたアフマディオ様は、見るからに健康だったりする。
対して、強くあるべき武家の頂点に君臨する宿命のアレッソ殿は、線の細さと感情の揺らぎが目立つ。

うん、アレはない。

改めてアフマディオ様を見やる。
際だった美しさはないが、健康かつ健全そのもの。
特に野望も無さそうだ。

将軍も、王も、その妃になるとなると色々面倒事が多そうだし。

私は取って置きの微笑を、アフマディオ様へと向けた


    
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