AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

文字の大きさ
33 / 101

愚弟も時には考える

しおりを挟む
 背後から声をかけたものだから、男は小さく飛び上がったが、しばらくすると愛生《あい》を見つめた。腰のナイフを警戒しているのかと思ったが、男はすぐに視線を落とす。

「……なんでしょうか」

 この村に来て初めて聞く、陰気な声だった。

「聞きたいことがあるんですが」

 そんな暇はないと言いたげに、男はせっせと人形をかついでいる。なんとかここで知り合いになっておかなければ、と愛生の野生の勘が告げていた。

「少しでいいんで……その人形たちは、なぜ人間のように戦争をするんですか? 死体のように倒れるんですか?」
「そういう風に作ってあるからですよ」

 男はあっさり言った。取り付く島がない。愛生は言葉を選ぶ余裕もなくして、必死に食い下がった。

「そうじゃなくて……なんでこんなことをわざわざやってるのか、理由が聞きたいんだ。どういうことなのか、気になるんだよ」

 男は愛生の言葉を聞いて、わずかに背筋を伸ばした。

「失礼は詫びる。俺は愛生だが……あんた、名前はなんていう」
「帚木《ははきぎ》と申します」

 男は通り一遍の挨拶をした。今更敬語に戻す気にもならないので、愛生はそのままの口調でさらに聞く。

「帚木さんも、修理をしてて気にならないのか?」
「いいえ」

 ようやく口を開いて出たのが、やけにきっぱりしたこの言葉。愛生は眉間に深い皺を刻んだ。

「この二年、毎日繰り返していますが……仕事だからやっているだけのことです。気味悪がる人も多いですがね」

 帚木はそう言った。その顔に悲しみはない。

「これは人形師が作った、自動人形なんです。一定時間になれば、ああやって集まって戦をするようにできている。それ以外の時間は、そこらをうろうろすることしかしませんが」

 どういう仕組みか解説してほしい愛生だったが、今はそれどころではないと思い直した。

「その人形師ももう姿を消しています。実は、前の領主様の勘気をかいましてね。うまく隣の国へ逃げたと言う人も死んだと言う人もいますが、詳細はわかりません。ただ、この人形はその人の持ち物で、生死が分からない以上処分できないんですよ」
「あんたはそいつが戻ってくるまで、整備をしているだけだと?」
「そういうことです。なぜこんなものを作ったかは、その人でないと分かりません」

 愛生は軽く頭を振った。落ちていた鋭い剣を取り上げる。

「……それにしてもずいぶん荒っぽい戦をするもんだな。この剣は本物の人間だって切れるだろう」

 帚木はそれには答えず、今度は人形に疑似血液の補充をしている。愛生はその横顔を見つめた。

「あんたはその人形師とどう関係してるんだ?」
「別に、なにも。顔も知りません」

 帚木は沈んだ顔のまま言った。

「それなら、何も知らない俺が口出しすることじゃないか……」
「そうですよ。その人形師はとっくにいないんですから、関わり合うだけ無駄というものです。村の人だってほとんどここのことを知らない。見てしまった人はわずかにいますが」

 やや納得できない思いはある。帚木の妙に決めつけるような態度も気にくわなかったし、何か隠していそうだったからだ。しかし、それは心の中にしまった。

 まだ、自分は何も知らず、事態を収拾できるとは思えない。権力者とのつてもない。教えてくれと言ったところで、反感を買うだけだろう。──真実には、自分で辿り着くしかない。

「そうか。世話になったな」

 愛生がそう言う間も、帚木の細い手はひっきりなしに動いていた。



 愛生は動き回る。時刻はそろそろ夜になろうとしていた。とにかく今は、情報が欲しかった。

「さて、ちょっと急がないとな。そろそろ現れてくれよ」

 愛生が村をうろつき回っていると、ようやくネオンのともった休憩所を見つけた。やれやれ、と愛生はそこに向かう。

 立ち止まって扉をたたく。中からはことりとも音がしない。遠慮無く入ってみても、龍《りゅう》の痕跡はなかった。

 愛生はベッドサイドのランプをつけながら、ため息をついた。

「ここにもいないか……」

 危険な目に遭ってはいないだろうか。どこかで泣いていないだろうか。一人で心細く、ついそんなことを考える。寂しいのは龍でなくて自分なのだと、わかってはいた。

「兄ちゃん、ずっと龍さんのこと気にしてんのな」

 何か言いたげな表情をしていたのか、珍しく京《けい》の方から話しかけてきた。

「いいじゃん。何もないってことは、今のところは無事ってことだろ。良いことじゃないか」

 たまに弟は正しいことを言う。止まっている時計が、一日二回は正しい時刻をさすのと同じようなもので、長くは続かないものだ。それでも気遣ってくれたのは嬉しい。

「……そうだな」
「まあ、わかるけどさ。龍さん、キレイだもんなあ」
「お前、余計な悪さはするなよ。婚約指輪ももう贈ってあるんだからな」
「んなことしないよ、信用ないなあ」

 京はそう言う。確かにこいつに悪意とか悪念はないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...