AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

文字の大きさ
34 / 101

領主一族の秘密

しおりを挟む
 屋根と壁、それに近代的な家具に包まれていると、ささくれ立っていた気分が落ち着いていく。珈琲とサンドイッチを胃に詰め込んで、渇きと空腹を癒やした。

 それから愛生《あい》は辛抱強く、全ての資料に目を通していった。

 何もかも、というわけにはいかないが、本棚をよく探してみると、この地方に関する簡単な説明と、領主一族の家系図があった。地形や産業に対する説明は、弥助《やすけ》たちの話以上のものはない。愛生は早々にそちらは放り投げて、家系図に目をやった。

「最初は吉政《よしまさ》と千代《ちよ》の夫婦から始まったわけか」

 始祖とされるひと組の夫婦を頂点にして、まずは子供が九人。そのうち四人は幼い頃に亡くなり、二人は結婚したものの子供ができなかった。残りの三人は結婚し、合計八人の子を残している。さらにその子たちのうち半分が結婚し、十五人の子が生まれた。

 つまり、最初の夫婦は九人の子、八人の孫、十五人のひ孫を持ったことになる。ここまではいい。気になるのは、家系図の何人かの名前に、薄墨が塗ってあることだ。下の名前が見えないほど濃くはないが、なんだか薄気味悪い。

「千代、千朝《ちさ》、千冬《ちふゆ》、千菊《ちぎく》、千駒《ちこま》、千彩《ちあや》、千雲《ちぐも》……」

 薄墨が塗ってあるのは、最初の夫婦の妻のほう、子供のうちの女児二人、孫の女児四人。ひ孫の代には一人もいない。

 愛生はここまで見て、目を見開く。

 そしてさらに、家系図には気味の悪い書き込みがあった。名前が、墨で塗りつぶされている場所があるのだ。子供の代に一人、孫の代に三人、そしてひ孫にはなんと八人も。

「おい、これってまさか──」

 愛生はその家系図が示す事実に気づき、小さく驚きの声をあげた。

 潰されている名前は知りようがないが、ヒントはすでにあった。しかしこれが何を意味するというのか。手探りなことには変わりが無い。

「もう少し、歩いてみるしかないか。……それにしてもこの情報、どこかに隠しておかないと」

 愛生は机を動かしながら、しばし考えた。



 食料も水も、それを入れるリュックもエイドステーション内にあった。愛生は物資を満載にして、村へ降りていく。

 今まで村人から得た情報、昨日京《けい》から最大限聞き出した情報から作った地図を見ながら、自分でも細かく書き足していく。かがみこんでしばらく書いていると、腰が痛くなってきた。

「そういえば……」

 まだ、大事なものを地図におさめていなかった。愛生は踵を返し、自らが辿ってきた道を戻っていく。考え、思い出しながら進むと、間もなく八つの石が見えてきた。最初に見た時、そのままの姿だ。

 放置された岩の数々。その表面には、名前が刻まれていた。ほとんど苔の奥に埋もれていたが、なんとか読み取ることができる。その死因までは書かれていなかったが、そこは確かに墓だった。だが、京の言うこととは違って、墓は七つしかない。数も数えられないのか、あいつは。

 とりあえず、八つの墓の村でなくてほっとした。愛生はその全ての名前を読み取ろうと試みた。そしてそれを、地図の端にメモしていく。途中から愛生の手は止まらなくなっていった。

「照政《てるまさ》、明政《あきまさ》……って、──おいおい、待てよ」

 書き留めた名前と、今までに得た情報をつなぎ合わせるのはたやすかった。愛生は目を丸くして、墓を見つめる。

「そういうことか……」

 この墓の数。そして家系図で、墨で塗りつぶされた名前の数。意味深な薄墨の意味。その全てが、愛生の中でつながった。

「だとしたら、ゲームマスターはなんであの家系図をあそこに置いた?」

 繰り返し示される手がかり。領主一族に注目しろ、ということだろうか。そこで事件が起きるのか。どちらにしろ、進むべき道は見えてきた。愛生はやる気を取り戻す。

 その勢いのまま、河原へと向かった。

 今日も開戦を告げる増えが高らかに鳴っていた。愛生は用心しながら、河原の下へ降りていった。確実に人形たちは気づいたはずだが、一体の人形が弱々しく笑っただけだった。

 しかし秩序があったのはそこまで、切り捨てられ頭を破砕され、また血液に似た液体が飛び散る。同じ事の繰り返しだ。

 愛生は死体そのもののような人形を見て、ため息をついた。この前と変わらずのひどい有様で、見るに値しない。それでも、通り過ぎる気になれないのは、見捨てたような気持ちになるからだった。

 荷物を運ぶわけでもない、橋をかけるわけでもない、船を作るわけでもない。ただ無駄な動きをさせられている人形が情けなくて、かつ哀れだった。

「この人形と、領主一族がもっと深い繋がりがあればいいんだが……」

 愛生は低くつぶやく。その答えを知っていそうなのは、一人しかいない。

 数時間経つと、静かになった。空が紫色になり、陽光の残滓が山の向こうへ消えていく。それを見ながら待てど暮らせど、誰かが回収に来る様子はなかった。今日は帚木は、近くにいないのだろうか。

 愛生はとうとう苛々してきて、大地を蹴って歩き出す。倒れている人形たちのすぐ側まで寄っていった。

 腐心しつつ触ってみると人形の体はひんやり冷たい。さっきまで動いていたのに、表面まで熱は伝わっていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...