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道化の真意
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「ことの真相は分かりませんよ。でも、あそこには何かある。確かめに行った兵士たちが、青い顔をして帰ってくるくらい危険な土地、それだけは確かです」
龍《りゅう》は珍しく、ベルトランの話に没入していた。ふと気付くと、おかみさんが何かに取り憑かれたような切羽詰まった顔をしている。
「そうなんですか。では、そこに行くのは一旦やめておきます」
ここでこのまま話を進めるのは良くないと判断して、龍は話を打ち切った。
「街の偵察に行きましょう。きっとあなたなら、何か見つけてくれるでしょうから」
龍はうなずき、この場は成り行きに従うことにした。
「この店は昔から人気のあるアクセサリーを作っています。もともとその由来は……」
ベルトランは街に出てからも長広舌をふるっている。その声を聞きつけて雑用の子供が近寄ってくるので、龍は苦笑しながら小さなイヤリングを買った。
龍は一帯を見渡した。街はとても綺麗だ。しかし、辛うじて繁華街と言える程度の人出はあるが、混み合っているとはとても言えない。着いたときは町並みをざっと見るだけだったが、よく観察してみると奇妙だ。
「無関係な私が言うのもなんですが……ちょっと寂れた雰囲気ですね」
龍が指摘すると、ベルトランははっとした顔になった。
「店の方も、なんとかして客を呼び込もうとする熱意のようなものがありませんし、用心棒のような方が立っているところもありますね……一体、ここで何が起きたんですか?」
「……強盗団が、この街の富を貪っているのです」
絶対に他言無用、と言い置いてベルトランは小声でささやき出した。
「奴らは街の事情に詳しい。前の事件を見れば、よくわかります。地味な店構えの方がため込んでるということを知っていた。この前も、そこの通りの店が二・三軒、まとめてごっそりやられました」
おっかなびっくり、という様子でベルトランは街の一角を指さす。
「……じゃあ、たまに街に来る連中の仕業ではないと」
「ええ」
それでは、内部で疑心暗鬼が生じる。街の治安の傾きは、想像以上だろう。
「綺麗に見えるんですが……そんなに治安が悪いなんて」
「数年前まで、そんなことはなかったんですよ。なんだか最近、近くで戦があったみたいでね。それに負けた兵隊くずれを、誰かが手引きしてるっていう噂です」
町の出入りの締め付けを厳しくしたとはいえ、客に化けられたらどうしようもない。ベルトランはそう言った。
「細々事件は起こっていますが、正確な件数は把握できていません」
「はい? 今なんて?」
龍は目を丸くした。おろおろしながらベルトランがした説明によると、こうだ。
警察は特に悪質な集団の検挙に血道をあげており、金品が取られただけならなかなか真剣に取り合ってくれないのだそうだ。涙をのんで忘れることにした店も多いという。
「悪質って……一体どんな。死人が出たということですか?」
「その家にいた者を、皆殺しにする集団がいるんですよ。それこそ子供や老人関係なく、飼っていた動物まで。殺された方は、恨みを買うような人じゃなかったんですが……」
龍は呆然とした。そんな血なまぐさい犯罪は、なかなかお目にかかれない。ゲームのためにマスターが用意したのだろうが……一桁ではきかなそうな被害者の数を考えると、気が重くなってきた。
「犯人の手がかりは?」
「知恵の回る連中で、まだ警察は尻尾もつかめていません。どこに潜んでいるのか、色々な憶測は飛んでるんですがね」
感心するくらいなにも出来ていない。これでは治安は悪化する一方だろう。
治安の悪化は街にとって致命傷だ。特にここは周囲から隔絶されていて、何かあってから逃げようにも時間がかかってしまう。血塗られた街になってしまうのなら、住民がとる行動は一つだ。諦めること。命だけ持って逃げること。
「これから何人死ぬかも分からないので、家を売って引っ越す者も後を絶ちません。今のところギリギリ、有志での警備隊と警察を編制できてますが、これ以上人口が減ってしまうと、官民の取り締まりすら不可能になります。望みが完全に尽きる前に、なんとかしなければ」
「とは言っても、あなた一人で奮闘したところでどうにもならないでしょう? うんざりしたりしませんか?」
「いいえ。単なる街ではない、僕が生まれた街のためですから」
ベルトランはきっぱりと言い放つ。龍はそれを聞いて、唐突に笑い出した。
「……だから私を連れてきたんですね? 真相をつきとめてもらいたくて」
「はい。事件を解決した手腕、お見事でした。状況を説明しても良かったのですが、危険だともう一人の彼に反対されそうで……お一人で歩いているのを見かけた時は、天恵だと思いました」
「それであんな勢いで食いついてきたんですね」
死にゆく街を救いたいと一心に思う、良い人だったのだ。人を見た目で判断してはいけない、と龍は反省した。そして必死に作戦を考えたベルトランに感心する。
龍《りゅう》は珍しく、ベルトランの話に没入していた。ふと気付くと、おかみさんが何かに取り憑かれたような切羽詰まった顔をしている。
「そうなんですか。では、そこに行くのは一旦やめておきます」
ここでこのまま話を進めるのは良くないと判断して、龍は話を打ち切った。
「街の偵察に行きましょう。きっとあなたなら、何か見つけてくれるでしょうから」
龍はうなずき、この場は成り行きに従うことにした。
「この店は昔から人気のあるアクセサリーを作っています。もともとその由来は……」
ベルトランは街に出てからも長広舌をふるっている。その声を聞きつけて雑用の子供が近寄ってくるので、龍は苦笑しながら小さなイヤリングを買った。
龍は一帯を見渡した。街はとても綺麗だ。しかし、辛うじて繁華街と言える程度の人出はあるが、混み合っているとはとても言えない。着いたときは町並みをざっと見るだけだったが、よく観察してみると奇妙だ。
「無関係な私が言うのもなんですが……ちょっと寂れた雰囲気ですね」
龍が指摘すると、ベルトランははっとした顔になった。
「店の方も、なんとかして客を呼び込もうとする熱意のようなものがありませんし、用心棒のような方が立っているところもありますね……一体、ここで何が起きたんですか?」
「……強盗団が、この街の富を貪っているのです」
絶対に他言無用、と言い置いてベルトランは小声でささやき出した。
「奴らは街の事情に詳しい。前の事件を見れば、よくわかります。地味な店構えの方がため込んでるということを知っていた。この前も、そこの通りの店が二・三軒、まとめてごっそりやられました」
おっかなびっくり、という様子でベルトランは街の一角を指さす。
「……じゃあ、たまに街に来る連中の仕業ではないと」
「ええ」
それでは、内部で疑心暗鬼が生じる。街の治安の傾きは、想像以上だろう。
「綺麗に見えるんですが……そんなに治安が悪いなんて」
「数年前まで、そんなことはなかったんですよ。なんだか最近、近くで戦があったみたいでね。それに負けた兵隊くずれを、誰かが手引きしてるっていう噂です」
町の出入りの締め付けを厳しくしたとはいえ、客に化けられたらどうしようもない。ベルトランはそう言った。
「細々事件は起こっていますが、正確な件数は把握できていません」
「はい? 今なんて?」
龍は目を丸くした。おろおろしながらベルトランがした説明によると、こうだ。
警察は特に悪質な集団の検挙に血道をあげており、金品が取られただけならなかなか真剣に取り合ってくれないのだそうだ。涙をのんで忘れることにした店も多いという。
「悪質って……一体どんな。死人が出たということですか?」
「その家にいた者を、皆殺しにする集団がいるんですよ。それこそ子供や老人関係なく、飼っていた動物まで。殺された方は、恨みを買うような人じゃなかったんですが……」
龍は呆然とした。そんな血なまぐさい犯罪は、なかなかお目にかかれない。ゲームのためにマスターが用意したのだろうが……一桁ではきかなそうな被害者の数を考えると、気が重くなってきた。
「犯人の手がかりは?」
「知恵の回る連中で、まだ警察は尻尾もつかめていません。どこに潜んでいるのか、色々な憶測は飛んでるんですがね」
感心するくらいなにも出来ていない。これでは治安は悪化する一方だろう。
治安の悪化は街にとって致命傷だ。特にここは周囲から隔絶されていて、何かあってから逃げようにも時間がかかってしまう。血塗られた街になってしまうのなら、住民がとる行動は一つだ。諦めること。命だけ持って逃げること。
「これから何人死ぬかも分からないので、家を売って引っ越す者も後を絶ちません。今のところギリギリ、有志での警備隊と警察を編制できてますが、これ以上人口が減ってしまうと、官民の取り締まりすら不可能になります。望みが完全に尽きる前に、なんとかしなければ」
「とは言っても、あなた一人で奮闘したところでどうにもならないでしょう? うんざりしたりしませんか?」
「いいえ。単なる街ではない、僕が生まれた街のためですから」
ベルトランはきっぱりと言い放つ。龍はそれを聞いて、唐突に笑い出した。
「……だから私を連れてきたんですね? 真相をつきとめてもらいたくて」
「はい。事件を解決した手腕、お見事でした。状況を説明しても良かったのですが、危険だともう一人の彼に反対されそうで……お一人で歩いているのを見かけた時は、天恵だと思いました」
「それであんな勢いで食いついてきたんですね」
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