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生きて
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「やあ。初めまして。」
相変わらずの顔で軽く手を振っている。
「いや2回目。」
現実ではここでの記憶が希薄だったけど、今では鮮明に昨日の夢を覚えている。
「ありゃ、そうだっけ。どうも2回目ですね、新見咲希さん。」
「覚えてるじゃん。」
「私は何でも知ってるんだよ。ほんとほんと。だからあなたについても。」
ドヤ顔っぽい顔でこちらを見てくる。でも、目の色とにやけ顔が相まって普通に怖い。そしてニヒは急に手を叩いた。
「そんなことはどうでもいいんだよ。ね?これからのことを考えよう。まあ考える脳は無いんだけど。」
私はふと辺りを見回した。今日は昨日のような砂漠らしき場所ではない。あたり1面黄色い花が咲いている。えっとなんて言ったっけ。そう、マリーゴールド。それが私が見える範囲全ての場所にぎっしりと。空は真っ黒で何も見えない。夜とかの比じゃないくらい暗い。空に黒ペンキを塗りたくったみたいだった。
「ねえ。こっちみてよ。」
振り返るとニヒが消えていた。いや、足首に違和感を感じて下を向くと私の足首を掴んだ状態で地べたにうつ伏せになっているニヒがいた。
「なにやってんの。」
「だってアキがこっち向いてくんないしー。ひまひまなんだけどー。」
一瞬アキが誰なのか分からなかったけど、私のことを言っているのだと思った。
「もしかしてアキって私の事?」
「そうだよ!新見咲希、略してアキ!いいでしょ~。」
ツッコミどころ満載だけど一々言わないようにした。じっとニヒを観察しているとバッと立ち上がって、そのまま歩いていった。
「行こ。」
色々と予想外で理解が追いついていかない。
「ちょっと待って。どこ行くの。」
ニヒは踵を返して、いつもの表情で答える。
「うえだよ。」
「うえ?」
「そう。離れないでついてきてね。はぐれたら死んじゃうから。多分。」
それを聞いて私は走ってニヒの傍に寄った。地面にはマリーゴールドの花が咲いていたけど、構わず踏んだ。踏まれた花は全て枯れて、私の足跡をくっきりと残した。まるで綺麗に積もった雪の上を歩いているようだった。これは所詮夢だけど、夢の中で死ぬと現実世界に戻れなくなるとどこかで聞いたことがある。それを見たニヒは楽しそうに私を見た。
「死にたくないんだ。そうなんだ。死にたくないんだね。」
「それはそうだよ。大体の人は死にたくないでしょ。」
「そんなものかなぁ。そんなことないと思うけどなー。」
私はニヒの歩幅に合わせて歩いた。数分は無言で歩いた。その間ニヒは鼻歌を口ずさんでいた。どう考えても人間が出せる音じゃない狂った音階のハーモーニー。聞いているこっちが不安になってくるような音だった。歩いている間も視界が変わることは殆ど無かった。見えるのは視界一面のマリーゴールドと黒ペンキ色の空のみ。少し変わったことといえば、灰色に見える花がちょくちょく見えるようになったということだった。近くにそれを発見した時に気付いたけど、それは花の形をした文字だった。漢字や数字や英語やヘブライ語のような文字の集合体。その言葉は意味をなさないと分かるくらいには不規則に並んでいた。それに、その文字列はバグったように不規則に動く。不気味以外の何物でもない。
本当に到着するのか不安になってきた頃、ニヒは呟いた。
「着いた。」
「え?」
「着いたよ。うえに。」
「何言ってるの?さっきの場所と何も変わらないじゃん。」
そう言って周りを見回すと、景色が全くの別物に変わっていた。
一面のマリーゴールドは消え、高級ホテルにありそうな大理石の床になっていた。真隣には川が流れている。この川は普通の川のように見えた。空は晴れ渡り、快晴そのものだ。しかし、違和感が強かったのは太陽に顔がついていてこちらを眺めているように見えるということだった。
「ここは、どこ?」
「だからうえだってば。」
「うえってなんなの?」
いくら夢とはいえ、あまりにも不可解すぎる。
「えーと。旅行の入口?的な?うーん…まあそんな感じ。」
全く要領を得ない説明をされた。怪訝そうにニヒを見ると、初めてニヒは眉毛を下げた。口許はにやけてるけど。
「もしかして行きたくない?楽しいよこの先は。多分。さっきの場所よりずっと。」
「いや、行くよ。ここで置いていかれても困るし。」
自分としても何故こんなにも前向きなのかは分からないけど、彼女と共に行くことに抵抗は無かった。
「やったね。ここからが醍醐味なんだから今終わっちゃったら勿体ないよ。じゃあねまた会おうね。」
目をゆっくりと開けた。窓から射す採光が眩しい。目覚ましが鳴る少し前に起きたようだ。今日も学校。学校に行く準備をする間、さっきのことを思い出そうとした。この間に比べると少しは夢の内容を覚えていた。変な空間で変な子とずっと歩いてたってことと、この前の夢と繋がっていたこと。夢と夢が続いているなんて初めてのことだった。まあ、そんなこともたまにはあるだろうと自分を納得させ、日常へと回帰させた。
相変わらずの顔で軽く手を振っている。
「いや2回目。」
現実ではここでの記憶が希薄だったけど、今では鮮明に昨日の夢を覚えている。
「ありゃ、そうだっけ。どうも2回目ですね、新見咲希さん。」
「覚えてるじゃん。」
「私は何でも知ってるんだよ。ほんとほんと。だからあなたについても。」
ドヤ顔っぽい顔でこちらを見てくる。でも、目の色とにやけ顔が相まって普通に怖い。そしてニヒは急に手を叩いた。
「そんなことはどうでもいいんだよ。ね?これからのことを考えよう。まあ考える脳は無いんだけど。」
私はふと辺りを見回した。今日は昨日のような砂漠らしき場所ではない。あたり1面黄色い花が咲いている。えっとなんて言ったっけ。そう、マリーゴールド。それが私が見える範囲全ての場所にぎっしりと。空は真っ黒で何も見えない。夜とかの比じゃないくらい暗い。空に黒ペンキを塗りたくったみたいだった。
「ねえ。こっちみてよ。」
振り返るとニヒが消えていた。いや、足首に違和感を感じて下を向くと私の足首を掴んだ状態で地べたにうつ伏せになっているニヒがいた。
「なにやってんの。」
「だってアキがこっち向いてくんないしー。ひまひまなんだけどー。」
一瞬アキが誰なのか分からなかったけど、私のことを言っているのだと思った。
「もしかしてアキって私の事?」
「そうだよ!新見咲希、略してアキ!いいでしょ~。」
ツッコミどころ満載だけど一々言わないようにした。じっとニヒを観察しているとバッと立ち上がって、そのまま歩いていった。
「行こ。」
色々と予想外で理解が追いついていかない。
「ちょっと待って。どこ行くの。」
ニヒは踵を返して、いつもの表情で答える。
「うえだよ。」
「うえ?」
「そう。離れないでついてきてね。はぐれたら死んじゃうから。多分。」
それを聞いて私は走ってニヒの傍に寄った。地面にはマリーゴールドの花が咲いていたけど、構わず踏んだ。踏まれた花は全て枯れて、私の足跡をくっきりと残した。まるで綺麗に積もった雪の上を歩いているようだった。これは所詮夢だけど、夢の中で死ぬと現実世界に戻れなくなるとどこかで聞いたことがある。それを見たニヒは楽しそうに私を見た。
「死にたくないんだ。そうなんだ。死にたくないんだね。」
「それはそうだよ。大体の人は死にたくないでしょ。」
「そんなものかなぁ。そんなことないと思うけどなー。」
私はニヒの歩幅に合わせて歩いた。数分は無言で歩いた。その間ニヒは鼻歌を口ずさんでいた。どう考えても人間が出せる音じゃない狂った音階のハーモーニー。聞いているこっちが不安になってくるような音だった。歩いている間も視界が変わることは殆ど無かった。見えるのは視界一面のマリーゴールドと黒ペンキ色の空のみ。少し変わったことといえば、灰色に見える花がちょくちょく見えるようになったということだった。近くにそれを発見した時に気付いたけど、それは花の形をした文字だった。漢字や数字や英語やヘブライ語のような文字の集合体。その言葉は意味をなさないと分かるくらいには不規則に並んでいた。それに、その文字列はバグったように不規則に動く。不気味以外の何物でもない。
本当に到着するのか不安になってきた頃、ニヒは呟いた。
「着いた。」
「え?」
「着いたよ。うえに。」
「何言ってるの?さっきの場所と何も変わらないじゃん。」
そう言って周りを見回すと、景色が全くの別物に変わっていた。
一面のマリーゴールドは消え、高級ホテルにありそうな大理石の床になっていた。真隣には川が流れている。この川は普通の川のように見えた。空は晴れ渡り、快晴そのものだ。しかし、違和感が強かったのは太陽に顔がついていてこちらを眺めているように見えるということだった。
「ここは、どこ?」
「だからうえだってば。」
「うえってなんなの?」
いくら夢とはいえ、あまりにも不可解すぎる。
「えーと。旅行の入口?的な?うーん…まあそんな感じ。」
全く要領を得ない説明をされた。怪訝そうにニヒを見ると、初めてニヒは眉毛を下げた。口許はにやけてるけど。
「もしかして行きたくない?楽しいよこの先は。多分。さっきの場所よりずっと。」
「いや、行くよ。ここで置いていかれても困るし。」
自分としても何故こんなにも前向きなのかは分からないけど、彼女と共に行くことに抵抗は無かった。
「やったね。ここからが醍醐味なんだから今終わっちゃったら勿体ないよ。じゃあねまた会おうね。」
目をゆっくりと開けた。窓から射す採光が眩しい。目覚ましが鳴る少し前に起きたようだ。今日も学校。学校に行く準備をする間、さっきのことを思い出そうとした。この間に比べると少しは夢の内容を覚えていた。変な空間で変な子とずっと歩いてたってことと、この前の夢と繋がっていたこと。夢と夢が続いているなんて初めてのことだった。まあ、そんなこともたまにはあるだろうと自分を納得させ、日常へと回帰させた。
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